プらぽレいしょン   作:リュウ@立月己田

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1-5.序章 その5


1-5

 

 先生のことはひとまず置いておき、とりあえず手紙を最後まで読むことにした。交流会の開催する流れは分かったので、次は内容である。手紙のちょうど真ん中くらいから、開催場所や日時、定員数などが詳しく書かれていた。

 

「ふむふむ、3校から3人までの参加者で、最高9人で行うかー。まぁ、文化系の交流会だとこんなものなのかな?」

 

「そう……ですね。とは言っても、交流会に参加したことが無いですし、聞いたこともほとんど無いから分からないですけど……」

 

「人数は3人までと書かれているから、それ以下という可能性もあり得るのではないかな、竜。我が校のミステリー研究部員は3人だから、全員が参加するとしたらちょうど定員数に達するが、他の高校の部員の数までは分からないからな」

 

「そうだねー。スケジュール的に合わない人とかもいるだろうし、参加したがらない可能性もあるだろうし」

 

「簑河先生がテストケースって言っていましたから、その辺りも開催してみて様子を見るってことじゃないでしょうか?」

 

「なるほどねー。で、どうする?」

 

「どうするも何も、日時と場所に関して読んだのかな、竜」

 

「あ、まだ読んでなかった」

 

「そ、それでは決められないですよ……佐井村君……」

 

「あはは、だよねー」

 

 呆れかえっている2人の視線を受けながら、僕は頭をポリポリと掻いた。もちろんM体質ではないとさっきも言ったので、2人の視線で興奮することはない。

 

「場所は、愛宕山の澤野谷口迎賓館って書いているけど……どこなんだろ、ここ?」

 

 愛宕山という名前は聞いたことがあるのだけれど、場所がどこにあるのかは全く分からなかった。もちろん、名前を知っている理由は例のゲームの影響である。

 

「ふむ、先ほどの海の話から知っているとは思ったが……」と言いながら、斗馬はキーボードを叩いて検索サイトを表示させ、モニターを僕の方へ向けた。画面には地図が表示されていて、愛宕山の場所とすぐ西側のポイントに赤い矢印が置かれていた。

 

「中心付近にある赤い矢印が愛宕山、そして、すぐ左側の海沿いにあるのが海上自衛隊だよ、竜」

 

 斗馬の言葉を聞いた僕は、にんまりと笑みを浮かべた。この交流会に参加すれば、帰りに護衛艦を見に行くことができる。海に泳ぎにいくという案もあったけれど、交流会となれば立派な部活動の一環。学校へのアピールにもなるし、一石二鳥というやつである。

 

「あー、ちなみにだなー」と、顔にタオルを被せてパイプ椅子にもたれ掛かりながら眠っていた先生が、口を挟んできた。「テストケースって話だから、交通費や宿泊費などもろもろは学校が負担するってよー。せいぜい夏休みを満喫しやがれクソガキどもー……」

 

 その言葉に、僕たち3人は顔を見合わせて驚きながら先生の方を見た。ぴくりとも動かないので「ま、マジですか、先生?」と声をかけてみたけれど、返事は無く「……すぅー……すぅ……」と、小さないびきがとクーラーの音が聞こえてきた。

 

 姫園さんは、ちょっぴり不安そうな表情を浮かべながら「ね、寝ているんでしょうか……?」と、僕らの顔を見た。斗馬は呆れた顔で「起こさない方が身の為だと思う……」と、答えたので、僕も「うんうん」と頷いた。君子危うきに近寄らず。先生の機嫌を損ねるような真似は、死を意味するというのは入室時の会話から分かる通りである。

 

「とりあえず、起こさないように大きな声は出さないようにしとこう」

 

「ですね……」

 

「うむ、賢明な判断だよ、竜」

 

 3人が同じように頷きながら、方々に手紙やモニターに視線を向けた。

 

「とにかく、先生の言う通りなら金銭面でも言うことはないよね」

 

「そうですよね。それに、手紙の下に書かれている内容も、佐井村君にピッタリですよね」

 

「ん、下?」

 

「あ、まだ読んでなかったですか?」

 

「う、うん。すぐ読んでみるね」

 

 姫園さんのピッタリという言葉を聞いて、更に期待が膨れ上がりそうになりながら、僕は手紙の下部分へと視線を落とす。

 

「えっと……交流会におきまして、ミステリー研究部の名にふさわしいイベントとして、澤野谷口迎賓館にある『首吊りの間』において、推理合戦を行いたいと思います。参加校ごとに事件を想定したトリックを用意し、順番に披露して推理します。トリックの出来や面白さ、推理の内容などを考慮した上、一番良かったと思われる参加校の方には景品が送られます……って、何このパラダイスギャラクシーは!?」

 

 書かれていた内容にビックリして、思わず大きい声を上げてしまった僕をたしなめるように、斗馬と姫園さんは口の前に人差し指を立てた。僕は慌てて両手で口を塞ぎながら先生の方へと視線を向けると、小さな寝息を立てながら身動き一つしない先生の姿を見て、ほっとため息をつきながら2人に「ごめんごめん……」と、右手を立てて謝った。

 

「しかし、ホントに姫園さんが言う通りだねー」

 

「佐井村君の期待にピッタリ過ぎて、私もちょっと驚いてしまいました……」

 

「うむ。確かに偶然とは思えないのだが、気になることがあるのだよ、竜」

 

 斗馬は少し考え込む表情を浮かべて、僕の顔を見る。

 

「……ん、何かな斗馬?」

 

 僕も、さっき思いつきで発言した事件が起こればいいのにという言葉を思い出す。小説を読んだ余韻とはいえ、あまりにも現実離れした内容に、疑似的とはいえ事件を想定したトリックと推理合戦のイベントである。この偶然というよりかは必然が絡んできそうな出来事に、思わず僕は何かの陰謀が関係してくるのではないかと、またまた厨二思考を沸き立たせながら、生唾を飲み込んで斗馬の言葉を待った。

 

 斗馬は「うむ、先ほどの言葉なのだが……」と、少し視線を僕から逸らして、何故か申し訳なさそうな表情を浮かべ、一度瞬きをし、僕の眼をしっかりと見つめ直して「パラダイスギャラクシーとは、いったい何なのだろう?」と、言った。

 

「あ、あー……」

 

 どうやら僕の厨二思考はまったくの思い違いで、斗馬は突発的に思いついて発言した言葉が何なのかと、気になっていたようだった。

 

「何というか、ただの思いつきなんだけど……」

 

「う、うむ。そうだったのか、竜」

 

「いや、何というか、その、ごめん……」

 

「謝る必要はない、竜。むしろ、内容がだな……素晴らしい」

 

「……はい?」

 

「楽園銀河。良いではないだろうか。そんな場所があれば、是非行ってみたいと思うよ、竜」

 

 斗馬は窓の外に視線を向け、青い空を遠い目で眺めながら呟いた。親友である斗馬の思いも寄らなかった一面を見て、僕は変な汗を額に浮かばせながら「そ、そう……だね……は、ハハハ……」と、ぎこちない笑みを浮かべると、姫園さんが小声で「それって……その、昔のアイドルの……歌とか……です?」と、聞いてきた。言われて思いだしたけれど、たしかにそんな歌があったような気がするが、今更訂正するのもややこしくなりそうな気がしたので「そうだったかな?」と、苦笑を浮かべながら首を傾けて紛らわしておいた。

 

「むにゃ……ローラースケート……」

 

 そんな僕の気持ちを余所に、タオル越しにで呟く先生の声がピンポイント過ぎて、思わず咳き込みそうになる。間違いなくタオルの下の先生の表情は、ニヤニヤと笑みを浮かべているに違いないと思えた。

 

「と、とりあえずさ、こんなに条件の良い交流会イベントを逃すなんて、考えられないよね」

 

 誤魔化すように僕は2人に向かって同意を得られるように問いかける。

 

「うむ、その通りだな、竜」

 

「ですよね」

 

 2人とも先生の言葉に感づかなかったようで、ほっと胸をなで下ろしながら話を続ける。

 

「うんうん、それじゃあ参加ってことでOKかな?」

 

「んー、でも、日時はまだ話していませんよ?」

 

「あっ、そうだったっけ……」

 

 再び手紙に視線を落として日時を確認すると、交流会の開催日は8月1日の12時に現地である澤野谷口迎賓館に集合と書かれていた。交流会は3日間行われるようで、移動の時間を考えると、1日の朝から3日の夜までのスケジュールが大丈夫かどうかを確認しなければならない。

 

「この日時だと、どうだったかな……」

 

 僕は携帯電話を取り出してスケジュール表を表示させた。青い塗装が所々剥げて画面が傷だらけのガラケーと呼ばれる機種は、指の操作に少し戸惑うようなぎこちない動きで画像や文字を切り替えていく。8月のカレンダーが画面に映ると、初旬の予定は綺麗に空っぽで問題なく参加できるようだった。

 

 姫園さんの様子を見てみると、スマートフォンを操作しながら確認していた。僕の視線に気づくと、ニッコリと微笑んだので、どうやら大丈夫らしかった。

 

「うむ、僕の方も問題はなさそうだよ、竜」

 

 斗馬は黒い革張りのメモ帳を閉じて僕にそう答える。これで3人とも交流会には参加できそうだ。僕の胸は期待でいっぱいに膨らみ、早速トリックのことを考え出した。

 

「……あれ?」

 

 ふと、疑問が頭をよぎった。手紙を読み直してみるが、その疑問に答えられる文章は書かれていない。

 

「どうしたんですか、佐井村君?」

 

「いや、肝心のトリックを考えようとしたんだけど……」

 

「首吊りの間のことが書かれていない。そうだな、竜」

 

「う、うん。その通りだよ」

 

 斗馬の指摘の通り、手紙には『首吊りの間』の文字があるだけで、その内容は一切書かれていなかった。名前だけしか分からない部屋でどんなトリックを考えればいいのか。それは、ほとんど不可能と言っても差し支えのない、無茶振りである。

 

 うーん……と、腕を組んで唸る僕の隣で、姫園さんも不安そうな表情を浮かべていた。斗馬はもう一度手紙に目を通していたが、しばらくすると両手を向けてお手上げのポーズを取った。

 

「くはー、よく寝たぜー」

 

 そんな僕たちに気にすることなく、タオルを顔から叩き落として背伸びをした先生は、首をゴキゴキと鳴らして立ち上がった。

 

「ん、なんだ? そんな神妙な面してっと、嫁なんかにゃ行けねーぞコラァ!」

 

 姫園さんは兎も角として、男2人にそれはどうなんだと思ったけれど、いつものことなので聞かなかったことにした。けれど、何故か姫園さんは悲しそうな表情で先生の方を見て、何かを言いたそうにしていた。

 

 が、そんな視線に気にすることなく、先生はづかづかと僕に近づいて頭を右手で鷲掴みにし、万力のような力で締めつけた。

 

「い、いだだだだだっ! な、何するんですか簑河先生!?」

 

「はっはっはー、それくらい元気出せれば問題ない!」

 

 頭を締め付ける右手が離れ、痛みから解放されて安心した瞬間、先生の左手が僕の左腕を掴んで無理矢理引っ張りあげた。再び襲ってきた痛みに驚いたが、同時に左手に妙な感覚が走って視線を向ける。僕の手にはA4サイズの封筒が、いつの間にか握られていた。

 

「「「……え!?」」」

 

 先生を除く、僕たち3人の声が同時に発せられた。一様に目を見開き、僕の手に握られた封筒に視線が集中する。

 

「参加するってことは決まったんだろ? それじゃあ後は好きに相談してな」

 

 先生はそう言いながら、僕たちに背を向けて右手を振り上げ、扉に向かっていった。「ぐはっ、マジ暑いぞこの野郎!」と、大きな声を上げながら部屋から出て行くのを見て、僕は大きくため息をつきながら封筒の中身に手を入れた。

 

 中にはA4用紙が3枚と、写真が4枚入っていた。僕は斗馬にA4用紙を渡して、写真を見やすいように机の上に並べた。

 

「ふむ、どうやらこれが首吊りの間の資料のようだな、竜」

 

 用紙の方は斗馬に任せて、机の写真を見比べていく。僕の隣で、姫園さんは感心するように「それにしても、凄い部屋ですよね……」と呟いた。僕も同じ考えで、4枚の写真に映る部屋はどれを見ても「ゴージャス!」と叫んでしまいそうな光景だった。「これを見ながらだと分かりやすいだろう、竜」と、斗馬が1枚の用紙を僕に手渡してくれたので目を通してみると、モノクロの線と文字で作られた平面図が描かれていた。パソコンで印刷され、分かりやすいように写真を撮った位置と向きまで印が入っている。

 

 僕は写真と平面図を見比べながら、部屋の状況を立体的に想像してみることにした。床には真っ赤な絨毯が敷き詰められ、部屋の中心辺りに豪華なソファーやテーブルが配置されている。四方は真っ白な壁が覆いつくし、南側の中心に重厚な扉があって、ここから部屋に出入りするのだろう。南東の隅にはアンティーク調の木製棚が置かれており、対角線である北西の隅には、天蓋付きの映画にでてきそうなダブルサイズのベッド。そして、北東の隅だけ直角ではなく塔のような丸みを帯びており、この部屋で唯一の窓がある空間になっていた。

 

「この部屋で推理合戦か……凄く面白そうだよね」

 

 僕は小説の登場人物になった気分で、首吊りの間を歩き回るのを想像する。犯人としての僕は、完全犯罪を行うトリックを考え、探偵としての僕は、ここで行われる犯罪を打ち破るべく謎を探し、解き明かす。疑似的にとはいえ、予定通りの参加者が集まれば、犯人として1つの犯罪を、探偵側として事件の推理を2つ体験できるのだ。小説やマンガだと先を読めば物語が進み、謎解きは終結へと向かう。だけど、今現在分かっているのは『首吊りの間』の見取り図と写真だけで、自ら作り上げる犯罪の思考と、別の犯罪者が使ってくるトリックを予想することしかできない。

 

 考えれば考えるほど思考は複雑に絡みつき、胸の高まりはどんどん加速していきそうだった。しかしそれでは冷静さを欠いてしまうと、心を落ち着かせるために大きく息を吸ってゆっくりと吐く。数回深呼吸を繰り返し、頭を冷やしてから斗馬と姫園さんの顔を見た。

 

「………………」

 

「………………」

 

 2人とも無言で写真や見取り図、書類を一心不乱に見続けている。僕だけじゃなく、斗馬や姫園さんも今回の交流会に期待しているのだと、聞かなくてもすぐに分かるくらいだった。こんなに楽しいことを考えた発案者に礼を言いたい。だけど、その礼は言葉ではなく、僕たちの知識を最大限に生かしたトリックと推理でお返しする。心に強く決心をした僕は2人に声をかけ、この部屋にふさわしいトリックを作り出すべく、白熱した発案会議を開始した。

 

 

 

 あまりに白熱しすぎたせいか、下校時刻のチャイムが鳴ったことにも気づかなかった僕たちは、空が真っ暗になっても会議は止まることがなく続き、部室の鍵が返されていないことに気づいた簑河先生がブチ切れながら「さっさと帰れよクソ餓鬼どもぉっ!」と怒鳴りこんできて、僕だけがハイキックを食らって昏倒し、斗馬に担がれて家に帰ったらしい。

 ホント、無茶苦茶な顧問である……。

 




ひとまずここまでです。
続きは気が向いたら……で。
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