ゼンノロブロイが一緒に走りたいって言うから…… 作:Lagavulin
「新しい世代の中心として、期待する声も大きいですが」
質問が終わる前に、リーフは膝の上のメモを見た。
今日は学園の面談室で、競走雑誌の取材を受けている。写真と会話を合わせて30分。質問の大枠は先に届いており、榎本も隣にいる。
それでも、期待という言葉を聞くと、用意した返事の順番が怪しくなる。
「あの。まだ2回なので」
「2戦2勝、それも大きな差での勝利です」
「はい。ありがとうございます」
終わってしまった。
何か足した方がいいのだろうか。隣の榎本を見る前に、記者が次の質問へ移った。リーフは紙の端から指を離した。
取材は、榎本から押しつけられたものではない。何件か来ていた依頼から、リーフがこの1件を選んだ。競走の話を中心に文章で載せてもらえるし、普段の過ごし方も自分の言葉で伝えられる。
これで他の依頼が来なくなるわけではない。それでも、知らないところで「無口で近寄り難い」とだけ書かれるより、好きなものくらいは載っていてもいい。
「休日は、何をされていますか?」
「本を読んだり、ゲームをしたりです」
「どんなゲームがお好きですか?」
「工場を作るものとか。街を作るものも、最近は」
「私も、少しだけやったことがあります。発電所が止まってしまって、それきりですが」
リーフは顔を上げた。
「燃料、同じ線で運んでました?」
「たぶん。全部つないでいたと思います」
「途中で別の設備に使われると、発電所へ届かなくなるので。発電が止まると運ぶ設備も止まって、電気がないから燃料が来なくて」
記者が頷きながらメモを取った。その動きで、リーフはようやく口を閉じた。
今、何の取材だっただろう。
「……すみません」
「いえ。続きが気になります。どうやって直すんですか?」
榎本も笑っていた。まだ時間はある、と時計を見せてくれる。リーフは、最初に少しだけ自分で燃料を運ぶところから説明した。
取材が終わる頃には、用意したメモをほとんど見ていなかった。ただし、レースの質問への答えより、工場の話の方が長い。帰り際に記者へ尋ねると、競走の記事なのでそちらは短くまとめます、と笑われた。
それはそうだ。
*
誌面に使う写真を見せてもらった翌日、トランセンドが食堂で声をかけてきた。
「取材、どうだった?」
「ゲームの説明をした」
「え。そっちの雑誌だったっけ」
リーフは首を振り、席を詰めた。トランセンドは向かいに座らず、隣の椅子へ自分の盆を置いた。
「普段もあのくらい話してるって、分かるといいんだけど」
「あのくらい、って?」
「ゲームのときくらい」
「それを普段の基準にすると、初対面の人がびっくりすると思うなー」
たしかに困る。リーフが考え込むと、トランセンドは笑って汁物を飲んだ。
「好きな話なら話す、でよくない? あたしだって、全部に同じ熱量じゃないし」
「そう書いてもらった」
「じゃ、いいじゃん」
トランセンドはスマホを出し、先日の自分のレースを見せた。ダートの走路で、前を走る相手のすぐ後ろについている。
「このあと、外へ出るのが遅れたんだよね。あたしの話も聞いてほしいわけ」
リーフは画面へ顔を近づけた。食事中なので音は消したまま、位置が変わるところを2回見る。普段は自分の映像を見てもらうことが多い。トランセンドの走りについて意見を求められるのは、少し意外だった。
「ここで空くと思った?」
「そう。で、空かなかった」
「私も、思うかも」
「だよねー。でも前の子、ちゃんと後ろ見てるんだよ。後で気づいた」
指されたところまで戻すと、本当に視線が動いていた。リーフが頷いたところで、空いた向かいの席へロブロイが来た。
「あ、3人目。ロブロイちゃんはどう思う?」
画面を向けられたロブロイは、いったん鞄を置き、どの場面についてかを聞いた。食事が終わるまでに、同じ映像をさらに3回見ることになった。
*
週末、榎本は年内の出走について、最後の確認をした。
葉牡丹賞を勝ったことで、ホープフルステークスも候補にはなる。年末のG1に出るなら、今の時期に準備を進める必要があった。
「今回は、見送ります」
リーフは、前もって考えてきた返事をした。
「身体は、戻ってると思います。でも、次のライブとか取材とかを、すぐまた始めると、冬休みまでそればっかりになるので」
「そうね。出るなら、休む予定は組み直す」
「そこまでは、まだしたくないです」
勝てないからやめるわけではない。どんな相手が出るのかは気になるし、レース自体も走れば楽しそうだ。けれど、家へ帰って、課題を片づけて、途中になっているゲームを進めたい。
榎本は年末の候補に線を引いた。代わりに、2月の共同通信杯を示す。
「春に大きなレースを考えるなら、ここはどう? 今度は1800m。練習で確かめる時間も取れるし、東京なら移動の負担も小さい」
「重賞、ですよね」
「うん。今までより強い相手が来る」
リーフは日程を見た。今すぐ返事をする必要はなかったが、その週末に、ほかの用事を書き込むのはやめておいた。
部屋へ戻ると、ロブロイから次走の連絡が届いていた。
1月の京成杯を目指すという。初勝利から間隔を取り、長く速さを保つ練習が少しずつできるようになった。トレーナーと相談して、重賞へ進んでみたいと決めたらしい。
添えられた文章は、最後だけ少し短かった。
『出られたら、勝ちたいです』
リーフは、自分が見せてもらった2月の日程をもう一度開いた。ロブロイの方が先に挑む。走る場所が違っても、それは少し気になる。
『見に行く。私も次、重賞かもしれない』
送ってから、ゲームを起動した。返事が来るまでに燃料の経路を1本直すつもりだったのに、ロブロイからすぐに電話がかかってきた。