ゼンノロブロイが一緒に走りたいって言うから…… 作:Lagavulin
「その猫、違うと思います」
ロブロイの声で、リーフは画面の中のトランセンドを見た。抱えているのは茶色い猫だった。
「えー。ちゃんと連れて帰ってきたよ?」
「探しているのは、白い猫です」
「猫を連れてくる、しか読んでなかった」
リーフは手を止めて笑った。自分も色までは覚えていなかったので、何も言えない。
帰省して4日目の夜だった。リーフから声をかけ、3人で短い協力ゲームを始めていた。知らない村へ来た旅人になり、住人の頼み事を片づける。最初の仕事は、いなくなった猫を家へ連れて帰ることだ。
街を作るゲームの続きもできたが、今日は別のことをしたかった。トランセンドが前に送ってくれた紹介動画を見て、これなら3人で遊べると思ったのだ。
「じゃあ、白いの探してくる。ロブロイちゃん、ほかに条件あった?」
「尻尾の先だけ、黒いそうです」
「おっけー。今度は聞いた」
トランセンドが広場から走っていく。リーフも続こうとしたが、ロブロイは依頼人の前に残っていた。
「まだ話ある?」
「はい。この猫、前にご主人が拾ってきたそうです」
「猫を捕まえるのに関係ある?」
「たぶん、ありません。でも、最後まで聞きたくて」
リーフは移動を止めた。自分だけなら、次に何をすればいいか分かったところで会話を飛ばしている。
画面の中の女性は、猫が亡くなった夫の椅子で眠る話を続けていた。だから、家の外へ出ても、座れる場所を探しているかもしれないという。
「関係あった」
「ありましたね」
ロブロイが少し嬉しそうに答えた。
リーフは広場のベンチを見に行った。そこにはいなかったが、教会の入口で白い猫を見つけた。近づくと、今度はちゃんと目的の相手だと表示される。
「いた。椅子の上」
「うわ、こっちは屋根まで登っちゃったよ」
トランセンドの声がして、画面の上から別の猫が落ちてきた。本人もそのあとに降りてくる。
「また違うの連れてきた?」
「ついてきたんだって。あたしは悪くない」
ロブロイが笑った。リーフも、白い猫を連れたまま動けなくなる。最初にトランセンドが拾った茶色い猫も戻ってきて、帰り道だけが妙に賑やかだった。
依頼人の家で白い猫を返すと、短い礼の言葉と一緒に、古い椅子へ猫が乗る場面が流れた。
今度は、リーフも最後まで見た。
「これ、急いで終わらせるゲームじゃないね」
「だねえ。猫の見分けもついてなかったし」
「次も、会話を読んでいいですか?」
ロブロイに聞かれ、リーフは頷きかけてから、声に出した。
「うん。読むなら待つ」
「じゃ、あたしも今度は読む。勝手に捕まえない」
次の依頼へ行く途中、ロブロイが家の窓に置かれた本を見つけた。飾りだと思っていたが、調べると少しだけ文章が出るらしい。
「これも読めます」
「……今日は、どこまで行けるかな」
リーフが言うと、通話の向こうでトランセンドが笑った。
*
約束していた1時間で終えられたのは、頼み事2つだった。
リーフはゲームを保存した。思っていたより進まなかったが、何をしたのかはよく覚えている。1人で黙って片づけていたら、猫の名前も忘れていただろう。
「あたし、このあとトレちゃんと映像見るから抜けるね」
トランセンドが言った。明日の練習で、前のレースの動きをトレーナーと見直すらしい。
「また、集団から外へ出るところ?」
「そ。今度は開くの待ってるだけじゃなくて、自分で位置変える方。リーフちゃんも、戻ったら撮るの付き合ってよ」
「時間が合えば。あとで予定送って」
「ありがと。2人も、続き勝手に進めないでねー」
先へ進めるのがいちばん速そうな人から言われた。リーフが笑って返事をすると、トランセンドの通話が切れた。
静かになった画面には、自分とロブロイの名前が残っている。
「楽しかったですね」
「うん。あの猫、ずっとついてきてた」
ロブロイがまた笑った。聞いていると、リーフも画面の中の光景を思い出す。3人で村を歩き、誰かが余計なものを見つけるだけで、ずいぶん時間を使った。
「リーフさん、今日はもう寝ますか?」
「まだ。本の続き読む」
「そうですか」
そこで通話を切るつもりだったらしい。ロブロイがおやすみなさいと言いかけ、リーフが先に声を出した。
「その前に、ちょっと話さない?」
「はい」
思ったより早く返事が来た。リーフは本へ伸ばしかけた手を戻し、椅子へ座り直した。
「昼に送ってくれた感想。あれ、最後のところ、どういう意味?」
聞くと、ロブロイは少しだけ時間をくださいと言った。向こうで、本を探す音がする。
普段なら、図書室で隣から見せてもらえる。今は別々の家にいるので、自分の本も開き、同じページまで進めた。
「ここの台詞です。前は、相手を困らせたくなくて手紙を出さなかったのだと思っていました。でも、読み直すと、返事をもらうのが怖かったようにも見えるんです」
ロブロイの説明を聞き、リーフも自分の考えを返した。文章で読んだときには分からなかったところが、声で聞くとすぐ分かる。
「ああ、そっちか。分かった」
「よかったです。長く書きすぎたかと思って」
「長かったけど。読むのは楽しいよ」
ロブロイが黙ったので、リーフは本から顔を上げた。
「聞こえてる?」
「はい。……ありがとうございます」
お礼を言うほどのことだろうか。リーフは次のページを開いた。まだ気になるところがある。
「でも、戻ったら会って話そう。そっちの方が早い」
「いつ、戻られますか?」
日付を伝えると、ロブロイは自分もその2日後には戻ると答えた。
「じゃあ、本屋。その次の日とか」
「はい。空いています」
「予定、見なくていいの?」
「見ています」
いつの間に。
リーフはスマホの予定表を開いた。ロブロイと本屋、と短く入れる。そこまで済ませてから、本のどの話をしていたのか、2人で確かめ直した。