ゼンノロブロイが一緒に走りたいって言うから…… 作:Lagavulin
併走で前を走るロブロイが、リーフの思っていた場所より早く速さを上げた。
今日の併走では、後半のどこで上げるかを相手へ知らせない。上限と走り終える場所はトレーナー同士で決めてある。その範囲で、前を走る側が動く。
リーフは少し待った。今すぐ追わなくても、追いつける。ロブロイの背中が遠ざかるのを見ながら、あとで使う速さを考えた。
次の目印から踏み込む。
差は縮まった。けれど、思ったほど急には近づかない。前のロブロイも、上げた速さを保っている。リーフはもう少し力を使い、並んだところで練習区間を終えた。
走路を離れると、榎本が記録を見ていた。
「最後、予定より上げたね」
「はい。前が落ちなかったので」
「あの場所で並ぶには、どのくらい必要だった?」
リーフは、最後に上げた分を説明した。まだ走れるし、苦しくて姿勢が崩れたわけでもない。ただし、後ろで待ってから追いつくには、自分が初めに考えたより速く走る必要があった。
隣で話を聞いていたビワハヤヒデが、走路へ目を向けた。
「追いついてから先は、どうするつもりだった?」
「本番なら、もう一度上げます」
「できるだろうな。ただ、あの子が同じように続けていたら?」
リーフはロブロイを見た。少し離れたところでトレーナーと話しながら、さっきの記録へ指を置いている。
「……もう少し早く、追ってもよかったと思います」
「次はそれを試してみるといい。私も、後半に上げたあとの走りを確かめたい」
ハヤヒデは自分のトレーナーの方へ戻った。秋の出走に向けて、本人にも確かめたいことがある。このあとは、ロブロイに代わってハヤヒデがリーフと併走する予定だった。
リーフは水を飲み、日陰の椅子へ座った。ロブロイがこちらへ来る。
「速さ、大丈夫でしたか?」
「うん。思ってたより、長く続いた」
ロブロイは嬉しそうに頷いた。
「まだ、途中で余計に力が入っていると言われました。そこを直せれば、もう少し続くかもしれません」
「それ、私に言っていいの」
「今日見ていただいた分ですから」
リーフは少し笑った。ロブロイは、見せていない分もある、という顔をしていた。
*
十分に休んでから、ハヤヒデとの併走へ移った。
途中で相手の速さが変わると、リーフはさっきより早く脚を動かした。一気に抜こうとはせず、間隔が広がり始めたところで合わせる。相手の背中を近くに置いたまま、長い区間を走った。
後半へ入っても、脚はよく動いた。最後の目印から腕を振り、もう一段速くする。隣でハヤヒデも上げたので、終点まで気を抜けなかった。
「今の方が、走りやすかったです」
戻ってから伝えると、ハヤヒデは頷いた。
「今日は、そうだったね。本番で誰がどこから動くかは、まだ分からない」
「はい」
「君が動けば、相手も変える。そのつもりで見ておこう」
リーフはタオルで顔を拭いた。さっきロブロイを後ろから見ていた間には、あの子がどこまで続けるかを考えていた。自分がすぐ近くまで行けば、ロブロイもそのままではいないだろう。
それは、少し試してみたかった。
ハヤヒデは記録を持ってトレーナーへ向かい、リーフも榎本の隣へ戻った。
「まだ、脚は残ってます」
「うん。でも、今日はここまで。次に何を変えるかは、戻ってから話そう」
リーフは頷き、靴を履き替えた。できそうなことが増えると、続けて走りたくなる。人前に出る予定を増やすのとは、まるで違う。
*
面談室では、菊花賞までの日程を先に見た。
今度は京都まで行く。移動と現地での確認に時間が必要で、東京のレースと同じつもりではいられない。リーフは授業の課題を書いた手帳を出し、遠征と重なる週を見た。
「この提出、先に済ませたいです」
「学校とも確認しよう。練習を詰めて埋め合わせる形にはしない」
「あと、帰ってから」
「休む日も入れる。年末の話は、ここにまとめて入れない」
リーフは予定表の先まで目を通した。長い距離への準備も、普段より遠い場所へ行くことも、引き受けるなら見ておきたい。身体が動くから全部できる、とだけ言われなくて助かった。
「出るかは、もう少し考えます」
「うん。走りの方は、だいぶ分かってきたね」
リーフは頷いた。分かってきたからこそ、当日もやってみたいことがある。
部屋へ戻る途中で、ロブロイから連絡が来た。次のレースはセントライト記念に決めたという。日付のあとに、短い文章が続いている。
『今の走りで、勝ちに行きます』
リーフは立ち止まって予定を見た。その日は、まだ空けられる。
『見に行く。終わったら話せる?』