ゼンノロブロイが一緒に走りたいって言うから…… 作:Lagavulin
学内選抜の出走者が揃うと、ロブロイは自分より背の高い先輩たちを見上げた。
今日は6人で1600m。公式戦の初出走とは別の、学内での模擬レースだ。それでも、練習着の上に番号を着けると、普段とは違う息苦しさがあった。
観客席には生徒のほか、指導者の姿もある。リーフを見つけようとして、人数が多かったのでやめた。
トレーナーが横へ来た。
「最初に前へ行くのは?」
「たぶん、黄色のヘアバンドの先輩です。最近の練習でも、早めに位置を取っていました」
「その後ろで、どこまで待つ?」
「直線まで待ちません。途中で前のペースが落ち着いたら、そこから動きます」
相手が得意な加速を始めてから追うと、追いつくまでに脚を使ってしまう。自分が余裕を残せているなら、先に前へ出て、追いかける側に回ってもらう。
トレーナーは頷いた。
「予定した場所に来たから動く、にはしないでね。流れが違ったら、自分で判断する」
「はい」
スタートしてすぐ、予想した先輩が前へ出た。ロブロイは争わず、その後ろの集団へ入る。隣の子が半歩前へ出たとき、つい脚を速めそうになった。
リーフと走るときの呼吸を思い出す。あの背中を追い抜かなくても、練習はちゃんと進んでいた。今も、まだ急ぐところではない。
最初の曲線を抜けた。前の先輩がわずかに速さを緩め、後ろとの差を確かめる。ロブロイの脚には余裕があった。
もっと近づいてから。いや、ここで待つと、外にいる相手に先を取られる。
外側の進路が空いていることを確かめ、ロブロイは前へ出た。並んだ先輩がこちらを見る。その肩を越えたところで、後ろの足音も速くなった。
追ってきた。怖い。早すぎたのかもしれない。けれど、もう自分が前にいる。あとは、練習してきた走りをここで使う。
直線へ向いた。観客の声が大きくなったが、言葉までは聞き取れなかった。背後から、足音が右へ移る。先輩が外を選んだ。視界の端に腕が入る。ロブロイは自分の進路を保ち、顔を上げた。
ここで後ろを見たくない。最後の標識を越え、地面を押す。先輩の肩が並びかけ、少しだけ下がった。呼吸が崩れたまま、それでも脚を動かし続けた。
ゴールを抜けた。間違いなく1着だ。
速度を落とすと、先輩も隣で大きく息をついた。
「早かったね、仕掛け」
「は、はい……」
「次は、こっちも先に行くから」
笑っているが、目は真剣だった。ロブロイは息を整えてから頭を下げた。
結果の掲示で、自分の番号が1番上に出た。
勝った。
トレーナーのところへ戻る途中、何度も振り返ってしまう。練習の記録がよかった日とは違う。前に出たい子がほかにもいて、その全員より先に着いた。
「動くところ、変えたね」
「はい。外にいた方が先に来そうで」
「よく見てた。最後まで保てるか、自分で決めたのもよかった」
ロブロイは頷こうとして、うまくできなかった。言葉が出なくなり、代わりに笑顔になった。
*
ロブロイが整理運動を終えると、リーフが観客席の下で待っていた。
「おめでとう」
「ありがとうございます」
「あの、あそこで行ったのって」
挨拶のあと、すぐに質問が続いた。
リーフは走路の曲線を指し、隣の相手が動いた位置を確かめた。どうして先に出たのか。あそこで追いつかれたらどうしたのか。最後まで待つと、なぜ不利になるのか。
ロブロイは、自分のノートを出した。
「前に見た練習では、先輩の方が短い加速は速かったんです。だから、同じところから競うのは避けたくて」
「速い人が、速くなる前に出るんだ」
「はい。うまくいかなければ、途中で抜かれてしまいますけど」
「それ、決めたとき怖くなかった?」
「怖かったです」
リーフがノートを見ながら、短く息を吐いた。
「私、見てるだけなのに、仕掛けるのが早すぎないかって思った」
「トレーナーさんにも、早めたと言われました」
「でも、勝った」
「……はい」
もう1度言われると、また嬉しくなった。
リーフはそのままノートを返さず、トレーナーが書いた図を眺めていた。ロブロイが好きな本について語るときと同じくらい、顔が近い。
「リーフさん?」
「あ、ごめん」
「いえ。そのページなら、あとで送れます」
「欲しい」
返事が速くて、ロブロイは笑った。
ロブロイが売店で飲み物を買って戻ると、リーフはもう、さっきの場面の映像を探していた。ロブロイが画面を指し、仕掛ける少し前まで戻す。2人で同じ場面を見ているうちに、トレーナーから、まず座って休みなさいと声をかけられた。