「……またですか、ニンリル様」
天を仰ぎ、深々とため息をつく僕――ムコーダこと向田剛志の視線の先では、脳内に直接響く高らかな言い訳が響き渡っていた。
『ち、違うのじゃぞムコーダ! ほんの少し、本当にほんの少しだけ次元の歪みに引っかかっただけで……っ!』
『「ほんの少し」で済むかバカ者があああぁぁぁっ!!』
直後、頭の上から雷鳴のような怒声が轟く。神界でニンリル様が創造神デミウルゴス様に激しくお叱りを受けている様子が、まるで手に取るように伝わってきた。どうやら今回も、甘味の献上を催促しようと焦ったニンリル様が術式をトチり、僕たちを妙な場所に飛ばしてしまったらしい。
『ひいぃぃっ! お許しくだされデミウルゴス様ぁぁ!』
『まったくお前というやつは……! すまんのうムコーダ、元の世界(というか異世界)へ戻す座標の再調整に、少々時間がかかりそうじゃ。それまでその土地で静かに待っておれ』
『どれくらいかかりますか……?』
『ふむ、こちらの時間でひと刻……そちらの感覚なら、数時間といったところじゃな』
デミウルゴス様の申し訳なさそうな声を聞き、僕は「はぁ……」と本日何度目かわからない溜息を吐き出した。まあ、いつものことと言えばいつものことだ。次元の狭間に落ちて消滅しなかっただけマシと思うべきだろう。
「おい、ムコーダ。ここはどこだ? 妙に空気が重く、嫌な気配が漂っておるぞ」
耳をぴんと立たせ、低い声で威嚇するように周囲を警戒しているのは、僕の従魔であり伝説の魔獣・フェンリルのフェルだ。その巨躯から放たれる威圧感は相変わらず凄まじいが、毛並みを逆立てているところを見るに、この見知らぬ土地の雰囲気に少なからず警戒しているらしい。
「あるじー? ここ、あたらしーまちー? お腹すいたのー!」
僕の鞄の中からぷるんと飛び出してきたのは、スライムのスイだ。ポヨンポヨンと跳ねながら無邪気にご飯をおねだりしてくる。
「おいおい、なんだか暗気くさい場所だな! でもまあ、フェルもいるしムコーダの飯が食えるならどこでもいいぜ!」
僕の肩のあたりを勢いよく飛び回るのは、ピクシードラゴンのドラちゃん。相変わらず気楽で頼もしいヤツだ。
周りを見渡してみる。荒涼とした岩場と、見たこともない黒い鉱石が地表に露出した枯れた大地。空はどんよりと重い雲に覆われ、どこか退廃的な空気が漂っていた。確かにいつものファンタジー世界とは雰囲気がまるで違う。だが、デミウルゴス様が座標を調整してくれるまでの数時間、ここでじっとしているしかないのは確定だ。
「よし、みんな。状況整理も兼ねて、とりあえず晩ごはんにしようか」
「「「おー!!」」」
ご飯の気配を察した途端、フェル、スイ、ドラちゃんのテンションが一気に跳ね上がる。警戒心はどこへ行ったんだと言いたいが、腹が減ってはなんとやらだ。僕自身、この妙な緊張感の中で空腹に耐えるのは御免だった。
「さて、何を作るかな……」
僕は固有スキル『ネットスーパー』を起動する。目の前に空中浮遊する見慣れた画面を開き、思考を巡らせた。
この肌寒い、どこか殺伐とした空気。こんな時に食べたくなるのは、芯から体が温まる濃い目の汁物だ。
(温かいもの……ラーメンか? いや、もっと具だくさんでガツンとくるやつがいいな……あ)
僕の脳裏に、前世の日本でよく通っていた「すき家」の期間限定メニューが閃いた。
そう、『豚汁味噌ラーメン』だ!
濃厚な豚汁の旨味と味噌スープが太麺に絡みつき、具だくさんの野菜と肉が満足感を引き立てる、あの悪魔的な一杯。
(よし、あれを再現しよう。さらに、こっちの超高級食材を使って最高アレンジだ!)
僕はネットスーパーの検索窓に文字を入力し、素早くカートに商品を入れていく。
・サッポロ一番 味噌ラーメン(袋麺)×複数パック
・豚汁用のカット野菜(ゴボウ、人参、大根、里芋などが入った便利パック)×数袋
・長ねぎ、ニンニク、生姜
・ごま油、味噌、醤油、みりん、味の素
「よし、注文!」
画面を操作して決済を済ませると、目の前にダンボール箱がポンッと出現する。相変わらず便利なスキルだ。
「ムコーダ、本日の肉は何だ? まさか野菜ばかりではないだろうな?」
フェルがジロリと鋭い視線を送ってくる。
「分かってるって。肉はたっぷり使うよ。それも、とっておきのやつをね」
僕がアイテムボックスから取り出したのは、以前ダンジョンで倒して解体しておいた「オークジェネラルの肉」だ。
オーク系の最高峰であるオークジェネラルの肉は、絶妙な脂の乗りと深いコク、そして噛むほどに溢れ出す旨味が特徴の極上肉。これで豚汁を作れば、とんでもない旨味のベースができるはずだ。
「スイ、お湯を沸かすお鍋と、炒め物用の大きな鍋を用意してくれるかい?」
「はーい! スイ、おなべ用意するー!」
スイが体内で生成した巨大な土鍋と鉄鍋をポンと出してくれる。
「よし、調理開始だ!」
### 第一章:異世界の極上豚汁味噌ラーメン
まずは下ごしらえだ。
オークジェネラルのバラ肉とロース肉を、食べやすい一口大の薄切りにしていく。包丁を入れるたびに、綺麗に入ったサシから脂の甘い香りが微かに漂う。
「ほう……オークジェネラルか。あれはなかなか味わい深い肉だったな」
「へへっ、あの肉美味いんだよな! 楽しみだぜ!」
フェルとドラちゃんが鼻をひくつかせながら覗き込んできた。
次に、大鍋にごま油をたっぷり引き、刻んだニンニクと生姜を投入する。じっくりと弱火で加熱すると、パチパチという心地よい音と共に、食欲を激しくそそる香ばしい香りが立ち上った。
「うおっ、いい匂い!」
「ふむ、この香りは食欲を刺激するな……」
ニンニクと生姜の香りが充分に立ち立ったところで、切り分けたオークジェネラルの肉を投入!
ジューッ!! という豪快な音と共に、肉が焼ける香ばしい煙が舞い上がる。肉の表面に香ばしい焼き色がつき、脂が染み出してきたところで、ネットスーパーで購入した「豚汁用のカット野菜」を豪快に投入する。
ゴボウ、人参、大根、里芋、こんにゃく。
これらを肉の旨味とごま油、ニンニク生姜のベースで一緒に炒めていく。野菜全体に肉の脂がコーティングされ、ツヤツヤと輝き出した。
「ここに、水を加えて煮込む!」
スイが調整してくれた綺麗な水を鍋に注ぎ入れ、強火で一気に沸騰させる。立ち上るアクを丁寧に取り除いていくと、鍋の中はオークジェネラルの極上出汁と野菜の旨味が溶け出した、黄金色のスープへと変化していった。
「さて、ここからがアレンジの本番だ」
本来の豚汁ならここで和風出汁と味噌を加えるところだが、今回は『豚汁味噌ラーメン』だ。
ベースの出汁に、豚骨醤油の要素と香辛料を少し足す。鶏ガラ粉末、チューブの練りごま、そして隠し味にほんの少しの醤油とみりん。
そして何よりの主役――『サッポロ一番 味噌ラーメン』付属の粉末スープを投入!
長年愛され続けたあの完成された味噌スープの粉末が、オークジェネラルの圧倒的な肉出汁と出会う。
さらに、仕上げに日本から寄せた赤味噌と白味噌をブレンドした特製味噌を溶かし入れる。
ぐつぐつと煮立つ大鍋から立ち上る湯気は、もはや犯罪的なまでの芳醇さを誇っていた。
オーク肉の芳醇な脂、香ばしいニンニク生姜、根菜の滋味深い香り、そしてサッポロ一番特有のあの食欲を狂わせる味噌の香気が一体となり、荒涼とした異世界の空気を一瞬で「日本の居酒屋の〆」のような幸福な空間へと塗り替えていく。
「くぅぅぅっ!! なんだこの匂いは!? たまらんぞムコーダ! 早くしろ!」
「あるじー! お腹と背中がくっつきそうだよー!」
「おいおいおい! 匂いだけで唾が溢れてくるぜ!」
三匹の催促が限界突破しそうだ。
「落ち着けって! 最後に麺を茹でるから!」
別の鍋でたっぷりのお湯を沸かし、『サッポロ一番』のモチモチしたフライ麺を茹で上げる。少し固めに茹で上がった麺をどんぶりに引き上げ、そこへ先ほど完成した「極上オークジェネラル豚汁味噌スープ」を、具だくさんの野菜と肉ごと豪快にぶち込む!
最後に刻んだ新鮮な長ねぎをたっぷりと散らし、サッポロ一番付属の「七味スパイス」をパッパッと振りかければ……。
「完成! 『オークジェネラルの特製豚汁味噌ラーメン』だ!」
「「「うおおおおおっ!!!」」」
フェルには洗面器のような巨大深皿、スイとドラちゃんにもそれぞれのサイズの器に盛り付けて差し出す。
「よし、食ってよし!」
僕の合図と同時に、三匹は勢いよくラーメンに飛びついた。
「ズルズルズルッ! ……ぬおおおおおっ!? なんというコク! なんという深みだ! この麺に濃厚な味噌と肉の脂が絡みつき、噛むたびに口の中で旨味が爆発するぞ!!」
フェルが大絶叫しながら、凄まじい勢いで麺と具材を貪り喰らう。
「んん〜〜っ! スイ、これだーい好き! お肉がやわらかくて、お汁がすごーくおいしいのー! ズルズル〜!」
スイは体をピンク色に染めながら、器ごと呑み込む勢いで味わっている。
「熱っ! でも美味い! このシャキシャキした根菜と、濃い目の味噌スープが麺に合いまくりだぜ! 七味のピリッとした辛さも最高だ!」
ドラちゃんも小さな体をいっぱいに使って、麺をハフハフと頬張っていた。
「ふぅ、僕も食べよう」
自分用のどんぶりに箸をつけ、まずはスープを一口。
(……うっま!!!)
思わず目が飛び出そうになった。
サッポロ一番の親しみやすい味噌味をベースにしつつも、オークジェネラルの圧倒的な肉の旨味とごま油・ニンニクの風味が加わることで、まるで有名ラーメン店の特製濃厚味噌ラーメンのような深みが出ている。さらに豚汁カット野菜のゴボウや大根がスープを吸って、噛むたびにジュワッと旨味が広がるのだ。
麺をズズッと啜る。スープがよく絡む。
(すき家の豚汁味噌ラーメンも美味かったけど、このオーク肉アレンジは完全に別次元だ……!)
僕が至福の味わいに酔いしれていた、その時だった。
### 第二章:遭遇、そして圧倒的「圧」
「……そこまでだ。動くな!」
カチリ、と硬質な金属音が周囲の静寂を切り裂いた。
「え?」
僕が麺を啜ったままフリーズすると、周囲の岩かげから突如として武装した集団が飛び出し、僕たちを完全に包囲していた。
その姿は、僕の知るファンタジー世界の冒険者や騎士とは明らかに異なっていた。
黒を基調とした機能的なジャケット、ハイテクそうなタクティカルギア、そして何より――全員が動物の耳や角、あるいは尻尾を持っていた。
(け、獣人……? いや、亜人? でもあの服や武器、なんだかSFっぽいような……!?)
「全員、武器を捨てて手を挙げろ! ……異様な高エネルギー反応と、謎の未確認生命体を感知して急行したが……何だ、この状況は?」
包囲網の中心から歩み出てきたのは、黒いコートを羽織った小柄な少女だった。
長いうさぎのような耳をピンと立たせ、クリッとした大きな瞳で僕たちを鋭く見つめている。背後には、巨大な盾を構えた重装甲の男(重装甲なのに頭に巨大な角がある)や、鋭い視線を向ける長い髪の女性剣士などが控えていた。
「アーミヤ代表、周囲に感染者の反応はありません。ですが……この空間の源と思われるエネルギー波形が、彼らを中心に発生しています」
隣の女性(ドーベルマンのような耳をした厳しい表情の人)が、手に持った端末を見ながら報告する。
「む……? 何だお前たちは。せっかくの食事が邪魔されるではないか」
フェルが不機嫌そうに低く唸り声を上げた。
ドオンッ!!
瞬間、フェルから放たれた伝説の魔獣たる圧迫感が、周囲の空気を一瞬で物理的な重圧に変える。地面の小石がバチバチと跳ね、周囲の兵士たちが「ぐっ……!」「な、なんだこの圧は!?」と青ざめて身構えた。
「フェル、やめろって! 刺激するな!」
「だ、誰だお前たちは! レム・ビリトンか? それともウルサスの秘密兵器か!?」
盾を持った大きな男(クロワッサンさん……? いや、違うな、力強い男性だ)が警戒を強める。
あわや一触即発の危機。フェルがひと息で全員を黒焦げにする未来が頭をよぎり、僕は冷や汗をダラダラと流しながら手を挙げた。
「た、タイム! タイムです! 落ち着いてください! 僕たちは怪しい者じゃありません! ただの通りすがりの旅人……というか、事故でここに飛ばされてきただけで……!」
「事故……? 空間転移の類ですか……?」
うさぎ耳の少女――アーミヤと呼ばれた少女は、フェルの凄まじい威嚇と威圧感を真っ正面から浴びながらも、**一切怯まなかった。**
それどころか、まっすぐな瞳で僕を見つめ、ゆっくりと歩み寄ってくる。
(す、すごい……フェルの威圧に怯まないなんて、この子、タダ者じゃない……!)
「待ってください、アーミヤ! 危険です!」
「大丈夫です、ドーベルマン教官。彼らから明確な『敵意』や『殺意』は感じられません。感じられるのは……」
アーミヤはそこで言葉を切り、すーっと深く息を吸い込んだ。
「……感じられるのは、信じられないほど香ばしく、食欲を強く刺激する……『最高の香り』です」
「……え?」
アーミヤの視線が、僕の手元にあるどんぶり、そしてフェルたちの前にある大鍋へと注がれた。
彼女のエメラルド色の瞳が、心なしかキラキラと輝いているように見えるのは気のせいだろうか。
「あの……それは……?」
「あ、これですか? これは……『豚汁味噌ラーメン』と言いまして……その、僕たちの晩ごはんです」
「とんじる……みそらーめん……」
ゴクリ、と。
アーミヤの喉が小さく鳴ったのを、僕は見逃さなかった。
よく見ると、彼女の後ろに控えている隊員たちや、厳格そうなドーベルマン教官までもが、マスク越しに鼻をひくつかせ、ゴクッと唾を飲み込んでいる。
この荒涼としたテラの大地(後で知ることになるのだが)において、オークジェネラルの脂とサッポロ一番のジャンクで芳醇な味噌の香りは、あまりにも毒性が強すぎたのだ。
「あの……もしよかったら、召し上がりますか? まだ麺も具材もストック(ネットスーパー)がありますし、すぐ作れますけど……」
僕がそう提案した瞬間。
「えっ!? い、いいんですか!?」
アーミヤの表情が一変した。先ほどまでの冷徹なリーダーの顔はどこへやら、年相応の……いや、それ以上に「美味しいものを前にした少女」の顔になり、パッと目を輝かせたのだ。
「アーミヤ! 敵性の可能性がある者からの食物の提供など……!」
「ドーベルマン教官。ドクターも言っていました。『食事を共にする者は、言葉を交わす以上の理解を得られる』と。それに……この香りに嘘はありません!」
力説するアーミヤ。本当はただめちゃくちゃ食べたいだけなのでは……という疑問が頭をよぎったが、口には出さないでおいた。
### 第三章:ロドス陣営、撃沈
「じゃあ、すぐに作りますね!」
僕は大急ぎでネットスーパーを開き、『サッポロ一番 味噌ラーメン』を追加で大量購入。カット野菜とオークジェネラルの肉を追加で投入し、鍋を増設してラーメンを次々と作っていく。
「スイ、お湯を追加で沸かしてくれ!」
「はーい! スイ、おいしいのいっぱい作るー!」
手際よく麺を茹で、濃厚な豚汁味噌スープを注ぎ、ネギと七味を添えてアーミヤたちに手渡す。
「どうぞ、熱いので気をつけてくださいね」
「あ、ありがとうございます……! いただきます!」
アーミヤは意を決したように箸を取り(この世界にも箸の文化はあるらしい)、ふーふーと息を吹きかけてから、スープを一口口に含んだ。
「っ…………!?!?」
アーミヤの身体がピクッと強張った。
長い耳がピンと垂直に立ち上がり、瞳が大きく見開かれる。
「ア、アーミヤ!? 毒か!?」
ドーベルマン教官が青ざめて武器を構えようとするが、アーミヤはそれを手で制した。
「ち、違います……ドーベルマン教官……これ……これ……ッ!!」
アーミヤは言葉にならない声を上げると、今度は勢いよく麺をズルズルッと啜った!
「んんんーーーっっっ!!! 美味しい……!! 何ですかこれ、美味しすぎます!!」
普段の彼女からは想像もつかないような、なりふり構わぬ勢い!
「濃厚な味噌のコクと、見たこともないお肉の芳醇な旨味が、モチモチした麺に完璧に絡みついています! お野菜も味が染み込んでいて、噛むたびにジュワッと……っ! 温かい……身体の芯から温かさが広がっていきます……!」
「なっ……あのアーミヤがそこまで……! む、私も……いただきます!」
ドーベルマン教官も恐る恐る器を受け取り、スープと麺を口に運ぶ。
「……!!」
次の瞬間、ドーベルマン教官の目からポロリと涙が零れ落ちた。
「な、なんだこの温もりは……。過酷な戦いと移動の日々で凍りついていた胃袋と心が、まるで包み込まれるようだ……。この肉の旨味は何だ……? 龍門(ロンメン)の高級料亭でもこんな味は食べたことがないぞ……!」
「おいおい、俺にも喰わせろよ!」
重装甲の男性隊員(Aceさんというらしい)も豪快にラーメンを啜る。
「う、うんめぇぇぇぇ!! なんだこれ! 疲れた体にこの濃い目の味噌とニンニクが効くぜぇ!! 活力(SP)が瞬時に全回復する感覚だ!!」
周囲のロドス製薬のオペレーターたちが、次々と豚汁味噌ラーメンの虜になっていく。
殺伐としていた包囲網は、あっという間に「大絶賛の麺類パーティ会場」へと変貌を遂げていた。
「ふん、まあまあの味だろう」
フェルはすでに5杯目を平らげ、満足そうに横になっている。
「ムコーダの飯は世界一なんだから、当たり前だぜ!」
ドラちゃんもドヤ顔だ。
みんなが笑顔でラーメンを食べているのを見て、僕はホッと胸を撫でおろした。
(良かった……とりあえず戦いにならなくて。あとはニンリル様たちが座標の調整を終えるのを待つだけだな)
そんなことを考えながら、僕がのんびりと残りのスープを飲んでいた時だった。
### 第四章:握力と圧力、そして拉致へ
「……ムコーダさん」
ふと声がかかり振り向くと、そこには二杯目のラーメンをキレイに完食し、空になったどんぶりを持ったアーミヤが立っていた。
「あ、アーミヤさん。お気に召しましたか? おかわりもありますよ?」
「……ムコーダさん。あなたは何者ですか?」
アーミヤの雰囲気が、一瞬で変わった。
先ほどまでの無邪気な少女の顔は消え去り、製薬会社『ロドス・アイランド』の最高管理者としての、恐ろしいほどの威厳と圧力が彼女の全身から立ち上っていた。
「え? いや、だから通りすがりの……」
「これほどの調理技術、そして何より……この短時間で、何もない荒野でこれだけの極上かつ高品質な食材を『どこからか取り出した』その能力。……ただの料理人ではありませんね?」
「ヒッ……!?」
アーミヤがすーっと一歩踏み込んでくる。
その手が、僕の肩にポンと置かれた。
(が、ガッ……!?)
激痛。
いや、激痛というよりは、「万力で肩を砕かれそうな圧倒的握力」だった。
華奢に見えるうさぎ耳の少女のどこにそんな筋力があるのか、僕の肩骨が悲鳴を上げている。逃げようにも、ガッチリと固定されて指一本動かせない!
「あ、アーミヤさん!? 肩! 肩が痛いです……!」
「ムコーダさん。現在、私たちの本艦『ロドス・アイランド』は、苛烈な戦いと過酷な環境により、オペレーターたちの精神的・肉体的疲労が限界に達しています。食堂の食事も、栄養価は高いものの……このような『心を救う味』には程遠いのが現状です」
アーミヤの瞳の奥に、暗く、しかし絶対の意志を秘めた「光」が宿っていた。
「あなたの料理には……テラの大地を救う力があります」
「えええええっ!? ラーメンですよ!? ただの豚汁味噌ラーメンですよ!?」
「いいえ! これはただのラーメンではありません! 鉱石病(オリパシー)に苦しみ、戦いに疲弊した私たちの心を救う、希望の光です!」
じわじわと強まる肩の握力。
そして、逃がさないという圧倒的な「圧力」。
「む……おい、小娘。ムコーダに何をする」
フェルが異変に気づき、立ち上がって低く唸る。
しかし、アーミヤはフェルの方へゆっくりと視線を向けると、一歩も引かずに宣言した。
「フェンリル様とおっしゃいましたね。あなた方の強大な力は尊重します。ですが……私たちは、ムコーダさんを『ロドス専属の最高料理顧問』としてお迎えしたいのです!」
「はぁぁぁぁぁっ!? 送迎じゃなくて拉致じゃんそれ!!」
「拉致ではありません、『手厚いご招待』です!」
アーミヤの笑顔が怖い! 笑顔なのに目が全く笑っていない!
「待ってください! 僕たち、もうすぐ元の場所に帰らなきゃいけないんです! 神様が座標を調整してくれていて……」
「神様……? 抽象的な存在の言葉より、目の前にある現実です。さあムコーダさん、ロドスの本艦へ参りましょう。ドクターもきっと、あなたのラーメンを食べれば目を覚ますはずです(※注:文字通りの意味で)」
「ちょっと待ってえぇぇぇ!! フェル! スイ! ドラちゃん! 助けてぇぇぇ!!」
「ぬぅ……ムコーダ、我は美味いものが食えればどこでも構わんぞ?」
「スイもー! 新しいおうち行くのー?」
「美味い飯が食えるなら、そのロドスってとこでもいいぜ!」
「裏切り者がああああぁぁぁぁっっっ!!!」
僕の悲鳴が荒涼とした大地に空しく響き渡る。
アーミヤの恐ろしい握力と圧倒的な圧力に逆らえず、僕は半ば強引に、巨大な移動城塞『ロドス・アイランド』の輸送艇へと引きずられていくのだった。
(神様ぁぁぁ! デミウルゴス様ぁぁぁ! ニンリル様ぁぁぁ! 早く座標調整を終えてくれぇぇぇ!! そうじゃないと、僕がロドスで永久機関シェフにされてしまううぅぅぅ!!)
こうして、とんでもスキルを持った異世界放浪パーティは、何故かロドス・アイランドのオペレーターたちの胃袋を掴み、さらなる大混乱(と絶品グルメの宴)へと巻き込まれていくのだった――!
「どこだ……ここは?」
巨大な鉄の扉が重々しく閉まる音と共に、僕――ムコーダは、金属の匂いとほのかな薬品の臭いが漂う見知らぬ大空間に足を踏み入れていた。
そこは、移動城塞『ロドス・アイランド』のメイン艦内。
荒涼とした地表の景色とは一変し、SF映画に出てくるような近代的な設備と無機質な通路がどこまでも続いている。
「ようこそ、ロドス・アイランドへ。ムコーダさん」
先ほどまでの圧倒的な強固さ(と、恐ろしいほどの握力)で僕をここまで連れてきたアーミヤが、ぴんと長いうさぎ耳を揺らしながら振り返る。その隣には、腕を組んで厳しい表情を崩さないドーベルマン教官、そして巨大な盾を背負ったAceさんが立っていた。
「ははは……凄まじい鉄の城ですね……って、感心してる場合じゃないですよ! アーミヤさん、本当に僕を元の場所に戻してくれないんですか!?」
「申し訳ありません。ですが、先ほども申し上げた通り、あなたの作るお料理には……この過酷なテラの大地で戦い続けるオペレーターたちの魂を癒やす、特別な『何か』があります。決して危害は加えません。どうか、私達のゲストとして……少しの間、腕を振るっていただけないでしょうか?」
丁寧な口調だが、その瞳には一切の妥協を許さない『圧力』が満ち満ちている。
一歩でも逃げ出そうものなら、あのうさぎ耳の少女の恐ろしい握力が再び僕の肩を噛み砕くことになるのは火を見るより明らかだった。
「むぅ……ムコーダよ、ここは妙に硬い壁ばかりで退屈だが、匂いだけは実に香ばしいぞ? 厨房とやらはまだか?」
「あるじー、ここすごーい! つるつるの地面なのー!」
「おいムコーダ! 早く次の飯を作ってくれよ! さっきのラーメンじゃ腹八分目にもならねえぜ!」
一方で、僕の従魔たちはまるで緊張感がない。
フェルは退屈そうにあくびを噛み殺し、スイは金属の床をポヨンポヨンと跳ね回り、ドラちゃんは天井近くを縦横無尽に飛び回っている。ロドスの警備兵たちがその異様な光景に目を丸くして身構えているが、当の三匹はまったく意に介していない。
「お前たち……少しは危機感を持てよ……」
僕は深々とため息をつき、途方に暮れながら頭を抱えた。
神界のデミウルゴス様とニンリル様がこちらの座標を再調整してくれるまで、数時間。
その間、このロドスという組織の者たちを料理で満足させ、かつ穏便に時間を稼がなければならない。
(とはいえ、いつものネットスーパーの品揃えだけじゃ、この大勢のオペレーターたちの胃袋を満足させられるか……? サッポロ一番や豚汁の材料はもう底をつきかけてるし……)
困り果てた僕は、すがるような思いで固有スキル『ネットスーパー』の画面を起動した。
空中に出現した透明なウィンドウ。すると、普段とは違う黄金色のグラデーションで彩られた【緊急更新通知】のポップアップが目に飛び込んできた。
『ピコン♪ 【ネットスーパー・特別提携ショップ新規開店のお知らせ】』
「え……?」
画面を凝視すると、そこには今まで見たこともない輝かしいロゴマークがズラリと並んでいた。
『お客様の日頃のご愛顧に感謝し、以下のセレクトショップおよび専門店が新たにオープンいたしました!』
・【カルディコーヒーファーム】:世界中の珍しい輸入食品、スパイス、ガチ中華調味料が充実!
・【成城石井】:ワンランク上の自家製スイーツ、こだわりドレッシング、上質なお惣菜をご用意!
・【オーケー(OK)】:高品質・Everyday Low Price! 京野菜や車海老、本格中華食材も驚きの品揃え!
・【角上魚類】:新潟・寺泊港から直送! 鮮度抜群の旬の魚介類がズラリ!
・【KURAND(クランド)】:全国のクラフト酒が集う! 唯一無二の極上リキュール&日本酒!
「な、なんだこの怒涛のハイエンドラインナップはぁぁぁぁぁっ!?」
思わず大声を上げてしまった。
カルディに成城石井にオーケー、さらには角上魚類にKURANDだと!?
普段の庶民派スーパーから一気に高級セレクトショップ&専門店の祭典へ進化している!
「どうしました、ムコーダさん? 空中に向かって叫んだりして……」
アーミヤが不思議そうに首をかしげる。
「い、いや! 何でもありません! よし……分かりました、アーミヤさん!」
僕は意を決して胸を張った。
「僕の料理でロドスの皆さんの疲れを癒やせばいいんですね!? ならば、僕の本気……いや、世界の至高の味を惜しみなく披露してみせます!」
「……! ありがとうございます、ムコーダさん! 厨房へご案内します!」
こうして僕は、ロドス・アイランドの大厨房へと足を踏み入れることになった。
目標はただ一つ。この豪華すぎるネットスーパーの新ラインナップをフル活用し、アーミヤたちをはじめとするロドスの面々を美食の虜にして完全に骨抜きにし、時間を稼いで無事に異世界へ脱出することだ!
### 第一章:開宴の衝撃――姫とうがらしと生ハムキャビア
ロドスの大厨房は、最新鋭の加熱調理器や大型冷蔵庫が立ち並ぶ、まさに「プラント」のような場所だった。
厨房の片隅では、ロドスの食堂を預かる料理人たちが「なんだこの異界の住人は……?」と警戒と好奇の目を向けている。
「よし、まずは挨拶代わりの食前酒と前菜から行こう!」
僕はネットスーパーの画面を素早く操作した。
まずは【KURAND】のコーナーから、ずっと気になっていたあのお酒を取り寄せる。
・【KURAND】『姫とうがらしと青梅で、ピリリと辛い梅酒できちゃいました。』
ポンっと現れた美しく澄んだ琥珀色のボトル。
これは岡山県産の青梅(古城梅)をじっくりと漬け込んだ濃厚な梅酒に、地元特産の「姫とうがらし」をアクセントとしてブレンドした唯一無二のクラフト梅酒だ。
これをクラッシュアイスを浮かべたガラスコップに注ぎ、アーミヤ、ドーベルマン教官、そして噂を聞きつけて厨房にやってきた医療部門のトップ・ケルシー先生に差し出した。
「まずは食前酒です。お酒が飲める方だけですが……『姫とうがらしと青梅のピリリと辛い梅酒』になります」
「梅の……お酒、ですか? テラには果実酒は多く存在しますが、唐辛子を合わせるなど聞いたことがありません」
ケルシーは冷徹な眼光でグラスを見つめ、静かに口をつける。
一口。
完熟した青梅の濃厚で甘酸っぱい芳醇な香りと蜜のようなとろみが口いっぱいに広がった直後――
「……っ!?」
ピリリッ! と、舌の奥を鮮烈な辛みの刺激が走り抜けた!
「な……なんだこれは!?」
ドーベルマン教官が思わず声を漏らす。
「最初に押し寄せるのは、フルーティで芳醇極まる甘みと爽やかな酸味……! だというのに、直後に走るこの刺激的なピリッとした辛み! 後味が驚くほどスッキリとしていて、胃袋が一瞬で活性化していくのが分かる……!」
「甘み、酸味、そしてピリリとした辛味の完璧な調和……。テラのいかなる醸造技術とも異なる、未知の刺激だ。……素晴らしい」
あの冷徹なケルシーが、微かに目を細めて感嘆の息を吐いた。
「うわぁ……! すごく綺麗な色! 甘くて、でもちょっとピリッとしていて……お腹がすいてきます!」
未成年のアーミヤにはノンアルコールの濃厚青梅ソーダを渡していたが、彼女も一口飲んで目を輝かせている。
「間髪入れずに前菜を行きます!」
続いて取り出したのは、
・【カルディ】イタリア産極上生ハムスライス
・【カルディ】ランプフィッシュキャビア
・【カルディ】ライムリーフドレッシング
しっとりと柔らかい生ハムをくるりと巻き、その上に黒く輝くランプフィッシュキャビアを贅沢にトッピング。仕上げに、爽やかな柑橘とハーブが香るライムリーフドレッシングをひと回しかける。
「どうぞ、『生ハムとランプフィッシュキャビアのライムリーフドレッシング和え』です」
ドーベルマン教官がフォークで生ハムとキャビアを掬い、口へと運ぶ。
「むむ……っ!? なんという塩気の塩梅……! 生ハムの濃厚な脂の旨味と、キャビアのプチプチとした食感、そして海の旨味が弾ける! そこへこの爽快なライムリーフの香味が加わることで、しつこさを完全に打ち消している……!」
ドーベルマン教官は激しく唸り、何度も頷いた。
「脱帽だ……。これほどの前菜、ウルサスやヴィクトリアの宮廷貴族でも味わったことがないぞ。この男、ただの料理人ではない……舌を巻かざるを得ん!」
### 第二章:激痛と歓喜――麻辣湯麺とサンマの塩焼き
「さて、次は温かいスープと魚料理だ!」
僕は【オーケー】と【角上魚類】の画面を開く。
・【オーケー】ぷりぷりの車海老、加賀野菜(加賀レンコン、金時草など)、麻辣湯(マーラータン)の素、もちもちの刀削麺
・【角上魚類】新潟・寺泊から届いた本場獲れたての極上秋サンマ、大根、ポン酢
「まずは一品目! 『車海老と加賀野菜のマーラータン・刀削麺入り』です!」
大きな中華鍋で山椒と唐辛子、八角などのスパイスを油で爆香させ、車海老の頭から出た濃厚な海老出汁スープを注ぐ。そこへ食感豊かな加賀野菜と、極太のもちもち刀削麺を投入!
グツグツと真っ赤なスープが煮立ち、痺れるような辛香が厨房中に充満する。
「うわっ……! か、辛そうな匂い……!」
アーミヤや、匂いにつられてやってきた子どもオペレーターたち(ロスモンティスやイフリータたち)が鼻を押さえる。
「これは辛いのが得意な大人向けですね。どうぞ!」
Aceさんや強面の重装オペレーターたちが一斉に食らいつく。
「ズルズルッ!! ……ぐはっ!! 辛ぇっ! だが……美味ぇぇぇぇ!!」
Aceさんが汗を吹き出しながら大叫ぶ。
「花椒のビリビリくる痺れと唐辛子の辛さの奥に、車海老の圧倒的な出汁と加賀レンコンのシャキシャキ感が爆発している! この極太の刀削麺の歯ごたえが溜まらん!!」
「どれ、私にも一口……」
好奇心でアーミヤがスープを一口啜ると――
「〜〜〜〜っっっ!!??!?」
アーミヤの顔が瞬時に真っ赤になり、目がウルウルと涙ぐんだ!
「ふ、ふぁいっ……! 辛すぎますムコーダさんっ! 舌が……舌が痺れて動かなくなりますぅぅぅ!」
「アーミヤ代表!? 大丈夫ですか! 水を!」
「だから子供向けじゃないって言ったのに……! すみません、アーミヤさん!」
悶絶するアーミヤたちを横目に、僕は次の魚料理を仕上げる。
網の上で香ばしく焼き上げられた秋サンマ。丸々と太り、脂がジュージューと落ちて炭火の上で煙を上げる。
焼き上がったサンマに、たっぷりの大根おろしを添え、柑橘の効いたポン酢を回しかける。
「『サンマの塩焼き・おろしポン酢添え』です!」
「魚の……丸焼きか? 骨ごと焼いてあるが……」
半信半疑で身をほぐし、大根おろしポン酢と共に口に運ぶオペレーターたち。
「……ッ!!?? 何だこれは!?」
ロドスの医療オペレーターが目を見開いた。
「パリッとした皮の香ばしさと、溢れ出す肥えたサンマの脂! そこに、この白い野菜(大根おろし)と酸味のあるタレ(ポン酢)が合わさることで、脂のくどさが瞬時に消え去り、旨味だけが舌に残る……!」
「魚の脂をこれほど爽やかに、かつ劇的に美味しく食べる方法があったとは……! テラの魚料理の常識が覆されたぞ!」
全員がサンマの骨だけを残して見事に完食。大根おろしポン酢という日本の知恵に、ロドスの面々は深く驚嘆していた。
### 第三章:再現不可能な領域――サラダとサーロインステーキ
「まだまだ行きますよ!」
今度は【カルディ】【オーケー】【成城石井】のコラボレーションだ。
・【カルディ】カリカリに炒めた香ばしいパンチェッタ
・【オーケー】シャキシャキの京野菜(水菜、九条ネギなど
・【成城石井】自家製特製シーザーサラダドレッシング
「『パンチェッタと京野菜のシーザーサラダ・成城石井ドレッシングがけ』です!」
瑞々しい京野菜の食感と、パンチェッタの塩気、そして成城石井の濃厚でコク深いチーズドレッシングが完璧なハーモニーを奏でる。
これには、厨房のロドス専属シェフたちが群がった。
「な……なんだこのドレッシングの深みは!?」
「チーズのコク、ニンニクの塩梅、レモンの爽やかさ……どうやったらこのバランスが再現できるんだ!?」
「京野菜という異界の野菜の水分量と、パンチェッタの旨味の引き出し方が完璧すぎる……! クソっ、レシピをメモしようにも、元となる調味料の構造が分からん!」
ロドスの料理人たちが頭を抱えて四苦八苦している。無理もない、日本の加工技術の粋を集めた成城石井のドレッシングを、ゼロから再現するなど不可能なのだ。
「そしてメインのお肉だ!」
ここで取り出すのは、アイテムボックスに保管されていた魔獣肉――**『ブラッディホーンブルの肉』**!
超高級な赤身と見事なサシが入った最高級ステーキ肉だ。
これを豪快に厚切りにし、仕上げに使うのは――
・【ネットスーパー】万能調味料『アウトドアスパイス ほりにし』!
熱した鉄板で炭火焼きにし、ほりにしを豪快に振りかける!
醤油ベースにガーリック、黒コショウ、陳皮、ミルポアパウダーなどが複雑に組み合わさった「ほりにし」の香りが、肉汁の焼ける音と共に爆発的に広がる!
「『ブラッディホーンブルの炭火焼きサーロインステーキ・ほりにし仕立て』だ!」
「「「うおおおおおおおっ!!!!」」」
フェルとドラちゃんが狂喜乱舞し、ロドスの重装部隊も生唾を飲む。
「ズルッ……がぶり!!」
一口食べたアーミヤたちの動きが止まった。
「な……何ですか、このスパイスは……!?」
アーミヤが震える声で呟く。
「お肉自体の柔らかさとジューシーさも異常ですが、この表面にかけられた粉末……! ガツンとくる旨味と香ばしさ、そして後から追いかけてくる和風の醤油とハーブの香りが、お肉の旨味を何百倍にも引き立てています……!」
「再現しようにも……このスパイス、一体何種類の調味料が調合されているんだ!?」
厨房のシェフが叫ぶ。
「ガーリックだけじゃない……何か柑橘系の爽やかさも混ざっている……! 未知の味だ! テラの調味料の歴史にない味覚覚醒だぞ!!」
### 第四章:ケルシーの苦悩――よだれ鶏と魯肉飯
「ふふん、まだまだ驚くのは早いですよ。中華の極上メニューです!」
続いて登場するのは、
・【アイテムボックス】コカトリスの肉(鶏肉以上の引き締まった旨味)
・【カルディ】ガチ中華シリーズ『よだれ鶏のたれ』
・【アイテムボックス】レッドボアの肉(極上の豚バラ肉)
・【ネットスーパー】特製甘辛香辛料と八角、煮卵
茹で上げたコカトリスのしっとり胸肉に、カルディの本格『よだれ鶏のたれ』をたっぷりとかける。花椒の痺れとラー油の辛味、黒酢のコクが効いた本格ガチ中華のタレだ。
さらに、レッドボアの肉を細の目切りにし、八角と甘辛い醤油ダレでじっくりトロトロになるまで煮込んだ『魯肉飯(ルーローハン)』を炊きたてのご飯の上に乗せ、タレの染み込んだ煮卵を添える。
「『コカトリスのよだれ鶏』と『レッドボアの魯肉飯』です!」
これに食いついたのは、他でもない最高幹部のケルシーだった。
「……ほう」
よだれ鶏を一口。
「蒸し鶏のしっとりとした水分量を保ちつつ、このタレ……ラー油の香ばしさと花椒の痺れ、そして黒酢の奥行き。一口食べただけで『よだれが出るほど美味しい』という名の通り、唾液腺が強烈に刺激される」
続いて魯肉飯を一口。
「……っ! この甘辛い豚肉の脂の溶け出し方、そしてオリエンタルな香辛料(八角)の華やかな香り。白米との相性が異常なまでに計算されている」
ケルシーは珍しく眉間に深いシワを寄せ、ブツブツと独り言を呟き始めた。
「待て……この『よだれ鶏のたれ』の油分と香辛料の抽出温度は何度だ? この黒酢の熟成期間は? 魯肉飯の肉の加水分解率と八角の配合比率はどうなっている? ……くっ、ロドスの最新分析装置をもってしても、この複雑な有機化合物の絶妙なブレンドバランスを再現するのは容易ではない……! なぜだ……なぜこれほどの味付けが、この男の手によって数分で生み出されるんだ……!?」
あの冷静沈着なケルシー先生が、再現の難しさに本気で頭を抱えて四苦八苦している!
ロドスの頭脳をも混乱させる、日本のネットスーパーとカルディのガチ中華の威力恐るべし!
### 第五章:狂喜乱舞のスイーツ、そして――
「さあ、宴の締めくくりです!」
僕が最後に満を持して取り出したのは、今回のネットスーパー新装開店における最大の目玉スイーツ。
・【成城石井】『自家製 プレミアムチーズケーキ』!!
クリームチーズをたっぷり使用した濃厚なチーズケーキベースに、レーズンとローストしたアーモンドがぎっしり詰まり、表面にはサクサクのシュトロイゼルが乗った、成城石井の金字塔だ。
これを切り分け、アーミヤをはじめとする女性オペレーター陣(ワルファリン、クロワッサン、テキサス、ソラなど続々と集まってきた)に差し出した。
「最後はデザートです。『成城石井の自家製プレミアムチーズケーキ』をどうぞ!」
一口食べた瞬間。
「「「「〜〜〜〜〜〜っっっっっっ!!!!♡♡♡」」」」
厨房内に、凄まじい歓声と黄色い悲鳴が響き渡った!
「な、な何ですかこれはぁぁぁぁぁっ!?」
アーミヤのうさぎ耳がビンビンに直立する!
「濃厚すぎるクリームチーズのコク! なのに全然しつこくない! 中に入っているレーズンの甘酸っぱさと、アーモンドの香ばしいカリカリ感、そして上のサクサクした生地……! 全ての食感と味が完璧なシンフォニーを奏でていますぅぅぅ!!」
「美味い……! 美味すぎるわこんなの!!」
クロワッサンが目をハートにして叫ぶ。
「うちの会社の給料全部払ってでも毎日食べたいわ!! ムコーダさん、うちの専属パティシエになっておくれやす!!」
「待ちなさい! このチーズケーキの成分分析が先よ!」
ワルファリン(吸血鬼の医療オペレーター)が狂乱しながら叫ぶ。
「このチーズの発酵具合、そしてこの生地の焼き加減……! 再現しようとしても、どうしてもこのしっとり感とサクサク感の同居ができないのよ! 一体どうやって作ってるの!? レシピを教えなさいムコーダ!!」
女性陣が完全に狂喜乱舞状態に突入!
あまりの美味しさに正気を失いかけた彼女たちが、レシピの解明と「ムコーダ確保」のために、目つきを変えて僕へとじりじりと詰め寄ってきた!
「あ……あの、皆さん……? 落ち着いて……」
「ムコーダさん……」
アーミヤが、先ほど以上の恐ろしい笑顔(と、青く輝くアーツの気配)を漂わせながら一歩踏み込んでくる。
「もう、絶対にあなたを逃がしません。ロドス・アイランドの最高料理長として、終身雇用契約を結んでいただきます……!」
「ひええええええええっ!? だから嫌だって言っただろぉぉぉぉぉっ!!」
「待てムコーダ! 我にもそのチーズケーキとやらを寄こせ!」
フェルが空になった皿を叩く!
「スイも甘いの食べるー!」
「俺も俺もー!」
「お前たちまで混乱に乗じるなっ!! 逃げるぞ!!」
### 最終章:帰還、そしていつもの日常へ
「逃がしませんよ、ムコーダさん!!」
「待ちなさい! そのスパイスとドレッシングの秘密を吐き出しなさい!!」
「ウチの厨房で永遠にステーキ焼き続けてぇぇぇ!!」
アーミヤを筆頭に、ドーベルマン教官、ワルファリン、クロワッサン、そしてロドスのシェフ軍団が、鬼の形相で僕を追いかけてくる!
巨大な移動城塞『ロドス・アイランド』の金属の通路を、僕は全力でダッシュした!
「助けてくれぇぇぇ! 追われてる! 完全な拉致&永劫拘束コースだぁぁぁ!」
『ムコーダよ! 聞こえるか、デミウルゴスじゃ!』
その時! 僕の脳内に、神々しくも救世主のような創造神デミウルゴス様のお声が響き渡った!
『デミウルゴス様ぁぁぁっ! 助けてください! 早くここから出してください!!』
『うむ、ニンリルのバカがやらかした座標の歪み、ようやく完全に修正できたぞ! 今すぐ元の異世界へ引き戻す! フェルたちを引き寄せよ!』
『ひいぃぃん! ムコーダぁぁ、お菓子……お菓子は持ち帰れたのじゃろうな……!?』
背後からニンリル様の泣きじゃくる声も聞こえるが、今はそれどころじゃない!
「フェル! スイ! ドラちゃん! 僕に捕まれ!!」
「ぬ? おう!」
フェルが巨躯躍り出させて僕を背中に乗せ、スイとドラちゃんが飛びついてくる!
前方から、アーミヤが凄まじい速度で手を伸ばしてきた。その握力が、僕の服の裾をかすめる!
「捕まえました……っ! ムコーダさ――」
「さようならぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
ゴオオオオオオオッ!!!!
次の瞬間、僕たちの周囲の空間が眩い黄金色の光に包まれた。
ロドスの無機質な廊下、追いかけてくるアーミヤたちの驚愕の表情、そして充満していた美味しそうな料理の香りが、一瞬にして遠のいていく。
「あ……ムコーダ、さん……!?」
アーミヤの叫び声が光の彼方へ消え去り――。
世界が反転した。
◇
「……ふはっ!?」
気がつくと、僕は見慣れた草むらの上にひっくり返っていた。
見上げれば、澄み渡る青空と、いつものファンタジー世界の心地よい風が吹き抜けている。
「はぁ……はぁ……生き残った……生きて戻れたぁぁぁぁ……っ!」
僕は地面に突っ伏し、歓喜の涙を流した。
あの恐ろしいアーミヤの握力と圧力、そしてロドスの面々の狂気じみた食欲から、ギリギリのところで生還できたのだ!
「むぅ……なんだ、もう戻ってしまったのか。あの黒い城の奴らは騒がしかったが、肉はなかなか美味かったぞ」
フェルが満足そうに腹を叩いている。
「スイ、あのおねえちゃんたちとお別れさびしいけど、あるじと一緒にいられればいいのー!」
スイがポヨンと僕の膝に乗ってくる。
「へっ! 色々あったけど、珍しい食材がいっぱい食えて最高だったぜ!」
ドラちゃんも満足そうだ。
『ふぅ……間一髪であったな、ムコーダよ』
脳内でデミウルゴス様があきれ顔で吐息をつくのが分かった。
『ニンリルには後でたっぷりと厳罰を与えるとして……無事に戻れて良かったのう』
『ううぅぅぅ……デミウルゴス様のお仕置きが怖いのじゃぁぁぁ! だがムコーダ! 苦労した私に、カルディと成城石井の甘いお菓子を寄こすのじゃぁぁぁ!』
相変わらず反省の色がないニンリル様の催促の声を聞き、僕は「はぁ……」と本日一番の大きな溜息を吐いた。
「分かってますよ、ニンリル様……。新しくオープンした成城石井のプレミアムチーズケーキ、ちゃんと神様へのお供え用に取っておきましたからね」
『おおおおおっ!? 本当かムコーダ! 愛しておるぞ!!』
画面を開き、成城石井のチーズケーキとカルディの輸入菓子を神界へ献上する。
やれやれ、とんでもない災難だったが……ネットスーパーにカルディや成城石井、OK、角上魚類、KURANDという強力すぎる新コーナーが加わったのは、間違いなく大収穫だ。
「よし、みんな! 気を取り直して、僕たちの異世界放浪の旅を続けようか!」
「「「おー!!」」」
僕たちは青空の下、再びいつもの賑やかな旅路へと歩み出すのだった。
(……どうか、あのロドスという場所の皆さんが、僕の料理のレシピ再現で倒れていませんように……!)と、心の中で静かに祈りながら。