AI生成らしさ:20%(推定)
戦闘描写の反復や説明的な地の文、薔薇十字側の会話における規則的な応答には、AI生成文章と共通する特徴が見られる。一方、梟の独特な連想思考や自己正当化、計画の失敗から生じる認識のすれ違い、ギゼラによる善意の誤解、結末の皮肉には作者固有の創作的特徴が強く認められる。
東京近郊某所 梟アジト
シャワーから上がった梟が頭を拭きながら乱暴にソファーへ座る。
あ〜。頭痛いわ。飲み過ぎた。ヤケ酒したからミスったわ。
まぁ、良いアイデアを思いついたし悪いことばかりでもなかったけどね。
しかし、ワインは最初飲んだ時はビックリするな。
ぶどうジュースを連想して飲んだらヤバいくらいに酸っぱ渋いんだから。
糖がアルコールに変わるから当たり前っちゃ当たり前なんだけどね。
コツッ
ん?なんだっけ?これ?………あ〜10億以上入ってるとか言ってたな。報酬だったわ。
PC刺してウイルスとか怖いしプロに投げとくか?
いや。アイデアの方だ。そう。新庄静香!お前は俺に4億の支払いが残っているよな!
前回はしてやられたが取り立てついでにぶっとい釘でも刺しに行くとしようか。
あ〜。やっぱ午後からにしよう。頭イテーわ。
探索者協会 東京支部
「今回の件、ご苦労だったな。新庄君」
支部長は手元の書類に目を落としながら言った。
「山本君の容体はどうだ?」
「おかげさまで。アンチステータスドラッグさえ抜ければ魔法で回復出来ましたから」
「それは何よりだ。君たちには随分と危険な仕事をさせてしまったな」
「いえ。私たちが引き受けた仕事ですから」
「そう言ってもらえると助かる。さて、報酬の件だが」
支部長は書類を一枚めくった。
「討伐報酬が2億円。それに協会からの特別報奨金が1億円。合計3億円となる」
「……1億円、ですか?」
静香は思わず聞き返した。
「何か?」
「いえ、当初発表されていた報奨金は2000万でしたが?」
「ああ。今回の報奨金には、過去の探索者狩り事件の分も含まれている」
「……過去の?」
「あの男による被害は今回だけではないからな。長年にわたって探索者を殺害してきた凶悪犯だ。協会としても相応の評価をしなければならん」
「…………」
静香は支部長を見つめた。
過去の探索者狩り。
その犯人が今回の男ではないことを、静香は知っている。
協会にも報告した。
にもかかわらず、協会は過去の事件も今回の男による犯行として発表している。
そして今、その過去の事件の解決分まで含めた報奨金を、薔薇十字に支払おうとしている。
(……待って)
(それを私たちが受け取ったら……)
協会の発表では、探索者狩りを討伐したのは薔薇十字だ。
過去の事件も含めて解決した功績に対し、協会が報奨金を支払う。
そして薔薇十字が、それを受け取る。
(……私たちも、過去の事件を今回の犯人が起こしたと認めたことにされる?)
静香の背筋に冷たいものが走った。
もちろん、報奨金を受け取ったからといって、それだけで協会の発表を認めたことにはならない。
けれど、私たちが真相を明かしたら?
過去の事件は別人の犯行だったと訴えたら?
その時、薔薇十字はどう見られるだろう。
(知っていたのに、過去の事件の解決に対する報奨金を受け取ったのか……と)
(……協会は口止めなんて甘い手は使わないか………)
黙っていることを約束させる必要などない。
金を受け取らせてしまえば、こちらも無関係ではいられなくなる。
(……私たちまで、共犯にするつもり?)
「新庄君?」
「……はい」
「どうかしたかね?」
「いえ……少し、驚いてしまって」
支部長は静香を見ていた。
その表情からは、何も読み取れない。
「そうか。まあ、君たちの働きに対する正当な評価だ。遠慮する必要はない」
「……ありがとうございます」
静香は小さく頭を下げた。
拒否するべきだろうか。
しかし、報奨金を断ったところで、協会が発表を撤回するとは思えない。
協会に目をつけられるのも避けるべきだろう。
それに……。
「支部長。ちなみに、お支払いはいつ頃になりますか?」
「事務手続きがあるのでな。二週間後を予定している」
「二週間後……」
静香は頭の中で計算した。
薔薇十字のプール金は現在、約2億円。
梟に支払わなければならない報酬は、探索者狩りの討伐に3億円。真凜の搬送に1億円。
合計4億円だ。
協会からの報酬と報奨金が3億円入れば、十分に支払える。
今回の仕事は大赤字だ。
薔薇十字では、仕事の収入から必要経費を差し引き、残った利益の半分をプール金に、もう半分を五人で均等に分配している。
赤字の場合はプール金から補填するため、今回は誰にも分配できない。
それでも、報奨金を含めて3億円が入れば、支払いを終えた後も多少の資金は残せる。
逆に、報奨金の1億円を断れば、プール金と討伐報酬を全額つぎ込んで、ようやく梟への支払いと同額だ。
今後の活動資金も、ほかの経費も残らない。
自分の貯蓄を使うこともできるが、それだけでは到底足りない。
父に頼るという手段もある。
けれど、それだけは避けたかった。
父は以前、私を助けるために梟へ20億円も支払っている。
また父に頼るなんて……。
……卑怯ですね
静香は膝の上で手を握った。
協会が薔薇十字の資金事情を知っているかは分からない。
ただ、受け取る側にとって、この1億円がどれほど大きいか。
それは確かだった。
「……承知しました。お手続きをお願いいたします」
「ああ。二週間後には振り込まれるはずだ」
「ありがとうございます」
静香はもう一度、頭を下げた。
これで梟への支払いの目処は立った。
あとは、二週間待ってもらえるかどうか。
あの人との契約に、支払期限を明確に定めていなかったことが、今になって悔やまれる。
とはいえ、支払う意思も資金の見込みもある。
きちんと事情を説明すれば、理解してもらえるかもしれない。
(……まずは連絡して、お願いしないと)
「報酬の受け取りに参りました」
「ひゃっ!?」
突然、背後から声がした。
静香は飛び上がるように振り返った。
そこには、梟が立っていた。
「ふっ、梟さん……!?」
「はい」
いつからいたのだろう。
扉が開く音など、聞こえなかった。
静香の心臓が嫌な音を立てる。
「……あっ………はい。お支払いの件について相談、いえ、お願いがあります」
「どうぞ」
「お支払いは必ずしますが、今手元に半分しかなく……二週間後に協会から報酬と報奨金が入りますので、待って頂けないかと………」
「報奨金………」
梟が小さく呟いた。
「……はい」
しばしの沈黙。
そして、梟は静かに口を開いた。
「お支払いいただけないと?」
「いえ。お支払いは必ず!あっ。内金として2億であれば、銀行にお付き合いいただけるならすぐにお支払いします。」
「つまり………お支払いいただけないと?」
「あっ………いえ………すみません………」
「ふぅ。私は依頼を受けました」
「………はい」
「達成して依頼物もお渡ししました」
「………はい。いただきました」
「東京支部までお送りしました」
「その節は本当にありがとうございます………」
「では、貴方は?」
「………………………………………すみません」
「本当に、すみません。私に出来ることならなんでもしますから!2週間っ!お願いします!」
「ん?ぃま……………」
「ん~~。まぁ私も貴方の事情は理解しました。しかし、契約は絶対です。無い袖は振れないのはわかりました。それなら、簡単なお使いをして頂けませんか?」
「おっ…お使いですか………いえ!違法な取引に加担するわけには!」
「違法な取引?ふふっ。まるで私が犯罪者のように聞こえますよ。冗談がお上手ですね」
「いえ………ようにって………いえ………すみません」
「まぁ、内容がわからないなら返事も出来ませんよね。本当に簡単なお使いですよ。千葉、南房総ダンジョンにいるドラゴンの逆鱗が次の仕事で必要でしてね。2週間、ただ待たせるのも気が悪いでしょう?新鮮な物を取って来て頂けませんか?ああ。薔薇十字は公開攻略を行っていましたね。貴方を疑うわけではありませんが、逆鱗の採取は公開攻略でやって頂けませんか?」
「みっ! 南房総のドラゴンはSランク認定のアンタッチャブルですょ………」
「………2週間ですか?………」
「はぃ。すみません。一度パーティーで相談しなければ返事は出来ません」
「わかりました。連絡手段は渡していませんでしたね。こちらの番号に。今月なら繋がりますので」
……………梟Side
「報酬の受け取りに参りました」
さて、ぶっとい釘を刺しておくか。
「お支払いは必ずしますが、今手元に半分しかなく……二週間後に協会から報酬と報奨金wが入りますのでw、待っていただけないかと………」
「報奨金………」
舐めやがってっ!俺の手柄で金まで稼ぐかっ!
金がない?新庄さんの娘だろう?っ!お前に払う金は後回しってことかっ!
どこまで俺を………!
「ふぅ。私は依頼を受けました」
「………はい」
「達成して依頼物もお渡ししました」
「………はい。いただきました」
「東京支部までお送りしました」
「その節は本当にありがとうございます………」
「では、貴方は?」
「………………………………………すみません」
「本当に、すみません。私に出来ることならなんでもしますから!2週間っ!お願いします!」
「ん?ぃま……………」
ん?今なんでもって言ったよね?
よね?
俺の利益になり強敵静香に格を教育してやる方法なぁ〜!行けるか?いや!行けるっ!
「まぁ、内容がわからないなら返事も出来ませんよね。本当に簡単なお使いですよ。千葉、南房総ダンジョンにいるドラゴンの逆鱗が次の仕事で必要でしてね。2週間、ただ待たせるのも気が悪いでしょう?新鮮な物を取って来て頂けませんか?ああ。薔薇十字は公開攻略を行っていましたね。貴方を疑うわけではありませんが、逆鱗の採取は公開攻略でやって頂けませんか?」
あそこのドラゴンは薔薇十字ならギリ勝てるかどうかって所だろう。
カメラがある前で強敵静香がドラゴンの階層に向かう。
爆炎石かなんかで派手な演出をして砂煙の中からドラゴンの首を持ち現れる謎の男!
「やれやれ。簡単なお使いも出来ないのですか?」
薔薇十字を顎で使う正体不明の男!
【あの男は?】
【富士樹海の謎の男じゃないか?】
【薔薇十字を使ってるぞっ!】
【ドラゴンが一撃で!】
完璧だっ!格付けが決まるな強敵静香よ。
カメラの前でお前が下になるんだ!
「わかりました。連絡手段は渡していませんでしたね。こちらの番号に。今月なら繋がりますので」
薔薇十字 セーフハウス
「……というわけで、梟さんから南房総ダンジョンのドラゴンの逆鱗を取ってくるように言われました」
ソファーの上で正座した静香は四人の顔を見回した。
しばしの沈黙。
「……は?」
最初に声を上げたのは亜紀だった。
「いやいやいや。南房総って、あの南房総? Sランクのアンタッチャブルがいる?」
「……うん」
「無茶言うなぁ、あの人……」
「しかも公開攻略で、だよね?」
明美の確認に、静香は小さく頷いた。
「はい。逆鱗の採取を公開攻略で行ってほしいそうです」
「なんでわざわざ公開なのよ」
「……採取したことを確認したい、ということだと思います」
「信用されてないってこと?」
「そういうわけではないと、おっしゃっていましたけど……」
「いや、それ信用してない人の言い方じゃない?」
亜紀が顔をしかめる。
静香は反論できなかった。
「それで、断ったらどうなるんですか?」
真凜がおずおずと尋ねた。
「……二週間、待っていただけるか分かりません」
「うっ……」
真凜が肩を縮めた。
「私の搬送費もありますもんね……」
「真凜。それは違うわ」
静香はすぐに首を振った。
「あの状況では、あれが最善だった。チームの決定よ」
「……はい」
「それに、私が支払いの条件をきちんと決めていなかったことにも問題があります。だからといって、皆さんに危険な仕事を押しつけるつもりはありません」
「静香、そういう話じゃないでしょ。そろそろ敬語止めてね。足も崩して」
亜紀が腕を組んだ。
「四億払わなきゃいけないのは、もう決まってるんだからさ。問題は、そのドラゴンをどうするかでしょ?」
「……そうなんだけど」
「ふむ……南房総ですか」
それまで黙っていたギゼラが口を開いた。
「以前、アンタッチャブルの攻略について話したことがありましたわね」
「ああ、あったね」
明美が頷く。
「もし私たちが挑戦するとしたら、可能性があるのは南房総じゃないかって」
「はい。あのダンジョンは海に突き出した地形にあります。周辺の魔素も魔力も水属性に大きく偏っていますから」
「ギゼラの得意分野だもんね」
「ええ。少なくとも、ほかのアンタッチャブルよりは相性が良いでしょう」
ギゼラは静かに微笑んだ。
「それに、今は南房総ダンジョンの魔素が停滞期に入っています。普段よりモンスターの活性も落ちているはずです」
「……それでもSランクよ?」
静香が言うと、ギゼラは頷いた。
「もちろんです。勝てると断言するつもりはありません。ですが、挑戦するのであれば、悪い時期ではありませんわね」
「うーん……」
亜紀が天井を見上げる。
「確かに、いつか挑戦するなら南房総って話はしたけどさ。だからって、いきなり行く?」
「もう一つ、考えておきたいことがあります」
ギゼラが指を一本立てた。
「南房総のドラゴンの討伐報酬は、確か三億円でしたね」
「……そうね」
「素材の価値も相当なものです。状態にもよりますが、合わせれば五億円は超えるでしょう」
「五億……」
真凜が目を丸くした。
「それなら、梟さんへの支払いを終えても……」
「ええ。今回の仕事で減った資金を、かなり取り戻せます」
「でも、逆鱗は梟さんに渡すんでしょう?」
明美が尋ねる。
「えぇ。けど、指定されたのは逆鱗だけ。討伐報酬やほかの素材については、何も言ってなかったわ」
静香が答えると、ギゼラは少し考え込んだ。
「……なるほど」
「ギゼラ?」
「いえ。少し気になりまして」
ギゼラは指を折りながら続けた。
「私たちが以前から攻略の可能性を考えていた南房総。私の得意な水属性。そして魔素の停滞期。討伐に成功すれば、資金面でも大きな助けになります」
「……そうね」
「しかも、梟さんが求めているのは逆鱗だけ」
「……えぇ」
「ふふっ」
ギゼラが微笑んだ。
「彼なりの優しさなのかもしれませんわね」
「…………え?」
静香は思わず聞き返した。
「私たちが支払いに困っていることを知って、ただ待つのではなく、資金を取り戻す機会を与えてくださったのではないでしょうか」
「……梟さんが?」
「ええ。もちろん、私の考えすぎかもしれませんけれど」
「いや、考えすぎじゃない?」
亜紀が即座に言った。
「だってあの人、ドラゴンを簡単なお使いって言ったんでしょ?」
「ふふっ。彼にとっては、実際に簡単なのでしょうね」
「それはそうかもしれないけどさぁ……」
亜紀は納得のいかない顔をした。
「でも、公開攻略まで指定してきたのは?」
明美が尋ねる。
「採取の確認という理由もあるのでしょう。ですが、公開攻略であれば、討伐に成功したことを協会にも視聴者にも示せます」
「……あ」
静香は小さく声を漏らした。
「アンタッチャブルの討伐実績……」
「ええ。私たちにとって、今後の活動にも大きな意味を持つでしょう」
ギゼラは穏やかに続けた。
「もちろん、すべてが彼の計算だとは限りません。ただ、私たちに不利な条件ばかりではないということです」
「……そう………よね」
静香は考え込んだ。
確かに、条件だけを見れば悪い話ではない。
南房総は以前から攻略の候補に挙がっていた。
時期も、相性も、ほかのアンタッチャブルに比べれば恵まれている。
成功すれば、報酬も実績も手に入る。
けれど。
「……私は、梟さんがそこまで考えてくれてるとは……」
「思えませんか?」
「……うん」
静香は正直に答えた。
ギゼラは気を悪くした様子もなく、微笑んだ。
「ふふっ。では、そういう可能性もある、という程度にしておきましょう」
「ま、どっちでもいいんじゃない?」
亜紀が口を挟んだ。
「結局、やるかやらないかでしょ。ギゼラ、勝算は?」
「準備を十分に整え、全員が万全の状態で臨むなら、可能性はあります。ただし、危険な相手であることに変わりはありません」
「真凜は?」
「私は……もう大丈夫です。皆さんが行くなら、私も行きたいです」
「無理はしないでね」
「はい!」
「明美はどう思う?」
静香が尋ねる。
「私は、挑戦する価値はあると思う。でも、公開攻略は少し気になるかな。撤退することになっても、途中で配信を切るわけにはいかないでしょうし」
「そうね……」
「だから、撤退の基準は先に決めておきたい。勝てそうにないなら、報酬がどうとか考えずに引く。それが条件」
「賛成」
亜紀が頷いた。
「私も。死んだら五億どころじゃないし」
「ふふっ。その通りですね」
ギゼラも頷く。
静香は四人を見渡した。
誰も、簡単に勝てるとは思っていない。
それでも、全員が挑戦することを考えている。
「……分かったわ」
静香はゆっくりと息を吐いた。
「では、南房総ダンジョンの攻略を目指します。ただし、撤退の判断は私がします。無理だと判断したら、必ず従うこと!」
「了解!」
「はい」
「任せて」
「承知しました」
四人の返事を聞いて、静香はようやく少しだけ肩の力を抜いた。
「じゃあ、梟さんに連絡するわね」
渡された番号を取り出す。
今月なら繋がる。
そう言っていた。
(……今月が終わったら、どうなるんだろ?)
少し気になったが、今は考えないことにした。
静香は番号を入力し、通話ボタンを押した。
南房総ダンジョン 入口
海から吹きつける風が、五人の髪を揺らしていた。
海に突き出した岬の先端に位置するこのダンジョンは、周囲を海に囲まれた特殊な地形の影響で、内部の魔素と魔力が水属性に大きく偏っている。
そして、その最奥にはSランク認定のアンタッチャブル。水龍が生息している。
「みんな、準備はいい?」
静香が振り返ると、四人がそれぞれ頷いた。
「問題なし!」
「機材も大丈夫。配信、始めるね」
明美が小型の撮影機材を起動させる。
「三、二、一……はい、配信開始」
画面に薔薇十字の五人が映し出された。
「皆さん、こんにちは。薔薇十字の新庄静香です」
静香はカメラに向かって微笑んだ。
「本日は千葉県、南房総ダンジョンの公開攻略を行います」
コメント欄が勢いよく流れ始める。
【薔薇十字きた!】
【待ってた!】
【久しぶりの配信だ!】
【探索者狩り討伐おめでとう!】
【あの事件解決してくれてありがとう】
【真凜ちゃん大丈夫?】
【五人揃っててよかった】
【南房総!?】
【え、あそこアンタッチャブルいるだろ】
【マジで攻略するの?】
「はい。今回は最奥のドラゴンの討伐を目標にしています。ただし、安全を最優先とし、状況によっては撤退します」
【ドラゴン!?!?】
【Sランクだぞ】
【ついに薔薇十字がアンタッチャブル挑戦か】
【無理だけはしないでくれ】
「それでは、行ってきます」
五人はダンジョンへと足を踏み入れた。
南房総ダンジョン 浅層
洞窟の内部は湿り気を帯び、岩肌には青白く発光する苔が広がっていた。
天井から滴る水が、小さな水たまりを作っている。
「おっ、早速お出まし!」
亜紀が前方を指さした。
通路の奥から、青黒い甲殻に覆われた大型の蟹が三匹、横歩きで迫ってくる。
「シェルクラブ三体。亜紀、お願い」
「はいよっ!」
亜紀が地面を蹴った。
次の瞬間には、先頭の蟹の懐に飛び込んでいた。
「せいっ!」
振り抜かれた一撃が分厚い甲殻を砕く。
そのまま身体をひねり、二匹目を蹴り飛ばす。
壁に叩きつけられた蟹が動かなくなったときには、三匹目もすでに地面に沈んでいた。
「はい、おしまい!」
【はっや】
【今何した?】
【三匹いたよな?】
【亜紀ちゃん今日も絶好調】
「まだ浅層だからね。こんなもんでしょ」
亜紀は軽く肩を回して戻ってきた。
「では、進みましょう」
静香を先頭に、五人はさらに奥へ向かう。
次に現れたのは、水たまりから飛び出してきた巨大な蛇だった。
「真凜!」
「はいっ!」
真凜が剣を構える。
蛇が口を開いた瞬間、胴体を刺し、壁に押し込む。
巨体が壁に張り付けになった。
「明美さん!」
「任せて」
明美の放ったダガーが、蛇の開いた口へ吸い込まれた。
巨体が崩れ落ちる。
【連携うっま】
【拘束からの一撃】
【これがトップパーティーか】
【真凜ちゃん元気そうでよかった】
「真凜、調子はどう?」
「大丈夫です! もうすっかり元気ですよ!」
「それならよかった」
静香は微笑み、再び歩き始めた。
南房総ダンジョン 中層
「……あれ?」
亜紀が足を止めた。
「どうしたの?」
「いや、なんかさ。少なくない?」
「何が?」
「モンスター」
亜紀は周囲を見回した。
「浅層はともかく、もう中層でしょ? ここまで来たのに、ほとんど戦ってない気がする」
「停滞期ですからね」
ギゼラが答えた。
「魔素の流れが弱まり、モンスターの活動も鈍くなっています。遭遇数が減ること自体は不思議ではありません」
「それにしたって、少なくない?」
「……そうですね」
ギゼラは足元に視線を落とした。
「想定よりは、少ないかもしれません」
「まあ、楽なのはいいことじゃない?」
静香が笑う。
「油断は禁物ですけれどね」
「分かってるって」
亜紀は軽く手を振った。
そのとき。
「静香、ちょっと待って」
明美が声をかけた。
「どうしたの?」
「……あそこ」
明美が指さした先には、岩壁に黒っぽい染みが広がっていた。
「血?」
「たぶん」
明美は近づき、染みを観察する。
「まだ乾ききってない」
「ほかの探索者が戦ったんじゃない?」
亜紀が言う。
「その可能性はあるけど……」
明美は周囲を見渡した。
「魔物の死体がないんだよね」
「逃げたとか?」
「かもしれない」
明美は少し考え、静香に目を向けた。
静香は一瞬だけ視線を返し、頷いた。
「……確認しておくわ」
静香は配信用カメラに向き直った。
「ここから先は少し地形が複雑になりますので、足元に注意しながら進みますね」
【血痕あった?】
【別のパーティーかな】
【ダンジョンなら珍しくないだろ】
【今日は敵少なめだね】
五人は再び歩き出した。
少し進んだところで、亜紀が静香の隣に並ぶ。
「……ねえ」
配信には拾われないほどの小声だった。
「さっきの血、変じゃなかった?」
「……どういう意味?」
「壁に飛び散ってたでしょ。でも周りに争った跡がないんだよね」
「……うん」
「一発でやられたみたいな」
静香は答えなかった。
その後ろから、ギゼラが静かに口を開いた。
「私も気になっています」
「ギゼラも?」
「ええ。魔力の残滓が、ほとんどありません」
「……魔法を使わずに倒したってこと?」
「断定はできません。ですが、少なくとも大規模な魔法戦闘があったようには見えませんね」
明美も二人に近づいた。
「血痕の位置も高かった。かなり大型の魔物だったと思う」
「……それが一撃?」
亜紀が呟いた。
「可能性はあります」
ギゼラは静かに答えた。
「ただ、今は情報が足りません」
「……分かった」
静香は小さく頷いた。
「周囲の警戒を強めましょう。何か見つけても、配信中に憶測は話さないで」
四人が頷く。
カメラの向こうでは、視聴者たちが何も知らずに盛り上がっていた。
南房総ダンジョン 深層
水音が大きくなっていた。
天井から流れ落ちる水が、洞窟の奥で滝を作っている。
その滝壺から、巨大な影がゆっくりと姿を現した。
「来た!」
亜紀が武器を構える。
全身を青い鱗で覆われた、四本腕の巨人。
「タイダルジャイアントです」
ギゼラが告げた。
「水属性の上位種ですね」
巨人が咆哮し、四本の腕を振り上げる。
周囲の水が一斉に浮かび上がった。
無数の水槍が形成され、五人へ向けられる。
「ギゼラ!」
「お任せを」
ギゼラが一歩前に出た。
水槍が放たれる。
しかし。
「――無駄ですわ」
ギゼラが指先を動かした瞬間、飛来した水槍が鉄塊に当たり飛散する。
次の瞬間、鉄塊が無数の針状に変わり殺到する。
巨人が目を見開いた。
無数の鉄針がその巨体に突き刺さる。
「亜紀!」
「おっけー!」
亜紀が跳躍した。
巨人の肩を足場に、さらに高く跳ぶ。
「おらぁっ!」
振り下ろした一撃が巨人の頭部を叩き割った。
巨体が水しぶきを上げて倒れる。
【!?】
【今の水槍全部潰した?】
【ギゼラさんやば】
【相手の魔法全部防いだ?】
【亜紀の火力もおかしい】
【アンタッチャブル以外なら余裕じゃん】
「ふふっ。ここは私の得意分野ですから」
ギゼラは涼しい顔で答えた。
「さすが!」
真凜が嬉しそうに笑う。
静香も頷いた。
「いい連携だったわ。みんな、その調子で」
だが。
「……静香」
明美が、また足を止めた。
「今度は何?」
「こっち」
滝の裏側。
そこに続く細い通路の岩壁が、大きくえぐれていた。
まるで、スプーンでくり抜いたように滑らかな断面で。
その下には、まだ新しい血痕が残っている。
「……また?」
亜紀が眉をひそめる。
明美は周囲を確かめた。
「さっきより、ずっと大きい」
「この階層のモンスターでしょうか」
真凜が小声で尋ねる。
「おそらくね」
ギゼラは壁に手をかざした。
「……妙ですね」
「何が?」
「魔力の残滓がほとんどありません。これほどの断面を生じさせるには、相当な魔力が必要なはずですが……」
「物理でえぐったってこと?」
亜紀が言った。
「そう考えるのが自然なのでしょうが………」
「……誰が?」
その問いに、誰も答えなかった。
遠くで水が滴る音だけが響く。
ギゼラは少しの間、岩壁を見つめていた。
「……静香」
「うん」
「先ほどの血痕も、これも。偶然とは思えません」
「……私もそう思う」
「ですが、今はまだ推測の域を出ません。もう少し先まで進めば、何か分かるかもしれませんね」
「イレギュラーや変異種の可能性を視野に入れて。危険だと判断したら撤退も選択するわ」
静香はカメラに向かって微笑んだ。
「皆さん、深層まで来ました。ここからはさらに慎重に進んでいきます」
【深層到達!】
【まだ余裕ありそう】
【さすが薔薇十字】
【ドラゴンまで行くのか】
【頑張れ!】
五人は歩き始めた。
最奥へと続く、暗い通路に向かって。
水龍の眠る戦いの場へ。
南房総ダンジョン 最奥
最奥へ続く通路の先に、巨大な空間が広がっていた。
岩壁を伝う水が幾筋もの滝となって流れ落ち、床には薄く水が張っている。天井は高く、奥まった場所は薄暗い。
そして、その暗がりに巨大な影があった。
「……いたわ」
静香が声を潜める。
青みを帯びた鱗。岩のように太い四肢。長い尾。
水龍。
南房総ダンジョンの最奥に君臨する、Sランクのアンタッチャブル。
その巨体は、奥の岩場に身を横たえていた。
「動いてないね」
亜紀が囁く。
「眠っているのでしょうか」
「呼吸までは確認できないわね」
明美が目を細める。
水龍までの距離はまだある。暗がりに沈んだ頭部も、岩の陰に隠れてよく見えなかった。
ただ、あれほどの巨体が動き出せば、すぐに気づくだろう。
静香は背後を振り返った。
配信カメラは明美の操作で少し離れた位置に留められている。
ここから先は、些細な判断ミスが全滅につながりかねない。
「みんな、聞いて」
静香の声に、四人の視線が集まった。
「奇襲を仕掛けます。ギゼラの最大火力を初手に。その発動に合わせて、私たちも一気に距離を詰める」
「いきなり切り札?」
亜紀が口元を緩める。
「相手は水龍よ。出し惜しみする理由はないわ」
「賛成ですわ」
ギゼラが静かに頷いた。
「相手が動いていない今なら、十分な時間をいただけますもの」
「ギゼラ、いける?」
「ええ。問題ありませんわ」
静香は真凜に目を向ける。
「真凜、無理はしないでね」
「大丈夫です! いつでもいけます!」
力強い返事に、静香は小さく頷いた。
「明美、カメラは少し下げて。水龍のブレスが来る可能性もあるから」
「了解」
明美がカメラの位置を調整する。
コメント欄には、すでに水龍の姿に気づいた視聴者たちの声が流れていた。
【いた!?】
【あれが水龍?】
【でっっっか】
【動いてなくない?】
【寝てるのか?】
【頼むから無茶しないでくれ】
静香はカメラに向き直る。
「最奥の水龍を確認しました。これより討伐を開始します。危険と判断した場合は、即座に撤退しますので」
そう告げて、仲間たちへ視線を戻した。
「ギゼラ、お願い」
「承知しましたわ」
ギゼラが一歩前へ出る。
両手を胸の前に掲げ、静かに息を吸った。
足元の水面が、微かに震える。
魔力が集まっていた。
膨大な量だった。
ギゼラの周囲に漂っていた魔力が一点へと収束し、やがて空間そのものが重みを帯びたかのように感じられる。
亜紀が小声で笑う。
「相変わらず、とんでもないね」
「これでも、まだ準備段階ですわ」
ギゼラは水龍を見据えたまま答えた。
タウゼント・キルシュブリューテン。
ギゼラ・モールの最大火力にして、薔薇十字が幾度となく強敵を打ち破ってきた必殺の魔法。
発動までに長い時間を要する。
消費する魔力も膨大。
そして、動き回る敵にはその真価を発揮しにくい。
だが、条件さえ整えば。
全方位から放たれる無数の棘を、防ぎ切れる敵はそういない。
静香は水龍を見つめる。
動かない。
こちらに気づいた様子もない。
好機だった。
「……準備、整いましたわ」
ギゼラの声が響いた。
静香が剣を構える。
「全員、突撃準備」
亜紀が腰を落とす。
真凜が剣を握り直し、明美は投擲用の短剣を指の間に挟んだ。
「ギゼラ」
「ええ」
ギゼラが両手を広げた。
「――タウゼント・キルシュブリューテン」
轟音。
床が裂けた。
岩盤を突き破り、無数の鋭い鉄の棘が立ち上がる。
一本、二本などという数ではない。
数百、数千。
床から。
壁から。
天井から。
魔力を帯びた硬質な棘が次々と生まれ、巨大な空間を埋め尽くしていく。
それはまるで、巨大な捕食者の口内に放り込まれたかのような光景だった。
「行くわよ!」
静香の号令と同時に、四人が駆け出した。
ギゼラも後方から魔法の制御を続けながら前進する。
第一段階は成功。
あとは棘を射出し、水龍の全身を貫く。
その時だった。
――ドンッ!
「えっ?」
ギゼラが目を見開いた。
水龍の手前。
無数の棘が伸びた一角から、突然、炎が噴き上がった。
次の瞬間。
――――ズガァァァァンッ!!
凄まじい爆発が空間を揺るがした。
「全員、止まって!」
静香が叫ぶ。
爆風が押し寄せた。
亜紀が腕で顔を庇い、真凜が剣を地面に突き立てる。
「なっ、何!?」
「水龍の攻撃!?」
「わかりませんわ!」
ギゼラの声が爆音にかき消されかける。
炎が一瞬で広がり、巻き上げられた砂塵が視界を覆った。
静香は咄嗟に身を低くする。
水龍の攻撃か。
それとも、何らかのイレギュラーが発生したのか。
原因はわからない。
だが、ここで攻撃を止めれば、相手に立て直す時間を与えてしまう。
「ギゼラ! やって!」
「承知しました!」
ギゼラが両手を握り込んだ。
展開された無数の棘が、一斉に震える。
「――穿ちなさい!」
轟音が重なった。
床から、壁から、天井から。
魔力を帯びた無数の鉄棘が、水龍の巨体を目掛けて射出される。
砂煙の向こうで、硬いものを貫く音が連続した。
鈍い衝撃が足元まで伝わってくる。
「全弾命中ですわ!」
「油断しないで!」
静香は剣を構えたまま、砂煙の向こうを睨んだ。
水龍の咆哮は聞こえない。
水流が押し寄せてくる気配もない。
ただ、崩れ落ちる岩の音だけが続いていた。
「……どうなったの?」
亜紀が小声で呟く。
「まだわからないわ。全員、警戒を維持して」
爆発で奇襲の突撃は中断された。
魔法が命中したとしても、相手はSランクの水龍。
これで終わったとは限らない。
やがて、砂煙が少しずつ薄れていく。
まず、床に突き立った無数の棘が姿を現した。
その向こうに、巨大な青い鱗。
水龍の巨体だった。
「……いた。動いてない」
真凜が呟く。
水龍は動いていなかった。
胴体には無数の鉄棘が突き刺さり、太い四肢も岩場に縫い留められている。
その姿は、まさしく串刺しだった。
「……やった?」
亜紀が声を漏らす。
「まだよ」
静香は慎重に答えた。
さらに煙が流れる。
水龍の頭部があるはずの場所が見えてきた。
「…………え?」
真凜が目を見開く。
そこには、首から上がなかった。
岩場には大量の血と砕けた鱗が飛び散り、無数の棘が突き刺さっている。
まるで、首から上が最初から無かったかのように。
「……頭、なくなってない?」
亜紀が呟いた。
「……ええ」
静香は答えた。
ギゼラの魔法は確かに命中した。
水龍の胴体には、幾多の棘が無造作に突き刺さり、魔法の威力を物語っている。
だが、あの視界の悪さで、頭部だけに魔法を集中させることはギゼラでも難しいだろう。
「ギゼラ、あれは……」
「……わかりませんわ」
ギゼラは眉を寄せた。
「棘は確かに命中しました。けれど、わたくしの魔法でこの損傷はありえません」
「爆発で頭が吹き飛んだのかな?」
亜紀が首を傾げる。
「その可能性はありますわ。ですが……」
ギゼラは言葉を濁した。
あの爆発が何だったのか。
水龍の攻撃だったのか。
現時点では判断できなかった。
「……動かないわね」
明美が呟く。
静香は剣を構えたまま、一歩踏み出した。
反応はない。
もう一歩。
それでも、水龍は動かなかった。
真凜が静香の隣に並び、亜紀もいつでも飛びかかれる姿勢を取る。
静香は水龍の胴体を見上げた。
無数の鉄棘が深々と突き刺さっている。
頭部は破片すら確認できない。
これで生きているとは考えにくかった。
「……討伐を確認」
静香が静かに告げた。
その瞬間。
少し離れた場所で、配信カメラが回っていた。
画面の奥には、無数の棘に貫かれ、頭部を失った水龍。
その手前には、武器を構えたまま立つ薔薇十字の五人。
コメント欄が、凄まじい勢いで流れ始めた。
【は?????】
【えっ】
【倒した!?】
【一撃でっ!?!?】
【待って何が起きた】
【タウゼント・キルシュブリューテンやべえええ】
【水龍の頭なくなってるんだけど!?】
【Sランクを瞬殺!?】
【薔薇十字つっよ!!!!】
【歴史的瞬間じゃねこれ】
【討伐成功おめでとう!!!!】
静香はコメント欄を見て、言葉を失った。
画面の中では、祝福が溢れている。
「……ギゼラ」
「ええ」
ギゼラは静かに頷いた。
「討伐はできたようですわね」
その声に、いつもの余裕はなかった。
「……まだ、警戒を解かないで」
静香は剣を握り直した。
水龍は倒した。
それだけは間違いない。
けれど、この場所で何が起きていたのか。
それは、まだわからなかった。
水龍は動かない。
無数の鉄棘に貫かれた巨体からは、すでに生命の気配が失われていた。
「……本当に、倒しちゃった?」
亜紀が呟く。
「そう、みたいですね……」
真凜も、どこか実感のない声で答えた。
静香はしばらく水龍を見つめていたが、やがて剣を下ろした。
「明美、カメラをお願い」
「うん」
明美が配信カメラを手元へ寄せる。
画面には、首を失い、無数の棘に貫かれた水龍の巨体と、その手前に立つ薔薇十字の五人が収まっていた。
コメント欄は、まだ凄まじい勢いで流れている。
【討伐成功!?】
【マジで倒したんか!】
【Sランク瞬殺ってなんだよ】
【ギゼラさんの魔法えぐすぎる】
【あの爆発なんだったんだ?】
【薔薇十字最強!!】
【おめでとう!!!!】
静香はカメラに向き直った。
「皆さん、ご視聴ありがとうございました。ご覧のとおり、南房総ダンジョン最奥の水龍は討伐できました」
少し間を置く。
「ただ、戦闘中に予想外の爆発が発生しています。原因については、これから確認する必要があります」
【あれ水龍の攻撃じゃないの?】
【ギゼラの魔法じゃなかったんだ】
【とにかく無事でよかった】
【お疲れ様!】
「皆さんもご心配をおかけしました。私たちは全員無事です」
静香は仲間たちを振り返る。
亜紀が笑って手を振り、真凜も元気よく頭を下げた。
ギゼラは優雅に一礼し、明美も小さく手を上げる。
「この後は安全を確認し、素材の回収を行います。今回の配信はここまでとさせていただきます」
静香は微笑んだ。
「それでは皆さん、ありがとうございました」
【お疲れ様でした!】
【最高の配信だった】
【薔薇十字おめでとう!】
【真凜ちゃん元気そうで安心した】
【次の配信も待ってる!】
明美が操作すると、配信終了の表示が現れた。
カメラの光が消える。
途端に、亜紀が大きく息を吐いた。
「……いや、何あれ」
「本当にね」
明美が頷く。
「私、途中から何が起きてるのかわからなかった」
「わたくしもですわ」
ギゼラは水龍の死体を見つめた。
「最初の爆発。あれは、わたくしの魔法によるものではありませんわ」
「水龍の攻撃だった可能性は?」
静香が尋ねる。
「爆発自体は火属性です。水龍の攻撃ではありませんわ。南房総では火炎石、爆炎石も取れません。魔力による誘爆も考え難いですわ……」
「じゃあ、イレギュラー?」
亜紀が周囲を見回す。
「それも考えられますわね」
ギゼラは頷いた。
「ですが、あれほどの爆発を起こしておきながら、姿を見せないというのも妙ですわ」
「それにさ」
亜紀が水龍を指さす。
「いくら何でも、簡単すぎない?」
誰もすぐには答えなかった。
Sランク。
アンタッチャブル。
事前に集めた情報では、薔薇十字の総力を挙げて、ようやく勝機が見える相手だった。
ギゼラの必殺魔法が命中したとはいえ、相手は一度も抵抗していない。
咆哮も。
水流による反撃も。
巨体を動かすことさえなかった。
「……確かに、妙ね」
静香が呟く。
「眠っていたにしても、あの爆発で目を覚まさないなんて」
「それ以前から、ずっと動いていませんでしたものね」
ギゼラが言う。
明美は水龍の巨体を見上げた。
「道中も変だったよね。モンスターが少なくて、血痕だけ残ってて」
「岩壁も抉れていましたわ」
「……誰かが先に来て水龍を倒してた?」
真凜の言葉に、静香は眉を寄せた。
「可能性はあるわね。でも、なぜ倒したの?素材を回収しないなら、討伐証明も出来ないわ」
静香は周囲を見渡す。
水龍の死体以外に、動くものは見当たらない。
「まずは回収できるものを確認しましょう。長居はしたくないけれど、手ぶらで帰るわけにもいかないし」
「あ、そうだ。逆鱗!」
亜紀が声を上げた。
「梟さんに持っていくんだったよね?」
「ええ」
静香が頷く。
「それが今回の条件だから」
五人は水龍の死体へ近づいた。
胴体には無数の棘が突き刺さり、青い鱗のあちこちが砕けている。
そして頭部があったはずの場所は、血と岩の破片に覆われていた。
「……これ、どこを探せばいいの?」
亜紀が顔をしかめる。
「逆鱗は、通常なら首の付け根付近にありますわ」
ギゼラが答える。
「首の……」
真凜が言葉を止めた。
全員の視線が、水龍の首元へ集まる。
そこには、頭部どころか、首そのものが見当たらなかった。
「……ないわね」
静香が呟く。
「ええ。ありませんわ」
ギゼラが周囲を見回した。
砕けた鱗や岩の破片は散乱している。
しかし、巨大な水龍の首に相当するものは、どこにも見当たらない。
「爆発で吹き飛んだ……にしては、見つからないね」
明美が言った。
「粉々になったとか?」
「それなら、もっと大きな破片が残っていてもよさそうですわ」
ギゼラは考え込んだ。
静香も水龍の死体を見つめる。
爆発。
動かなかった水龍。
消えた首。
そして、道中に残されていた不可解な痕跡。
何かが引っかかる。
だが、それが何なのかはわからなかった。
「……困ったわね」
静香が小さく息を吐く。
「逆鱗を持ち帰れなかったら、約束を果たせない」
「でも、討伐自体は成功したんだよね?」
亜紀が尋ねる。
「ええ。それは間違いないわ」
「だったら、お金の方は何とかなるんじゃない?」
明美が水龍の巨体を見上げた。
「討伐報酬が三億。素材も相当な額になるはず」
「そうですわね。損傷は激しいですけれど、この大きさですもの。回収できる素材だけでも、かなりの価値がありますわ」
「……そうね」
静香は頷いた。
討伐報酬と素材の売却益を合わせれば、梟への支払いに必要な四億円は確保できる見込みだった。
少なくとも、借金の問題は解決できる。
しかし。
「梟さんは次の仕事で逆鱗が必要だとおっしゃっていたわ。それをお金を払うから逆鱗は渡しません、なんて言えないでしょう?」
静香が言った。
「……怒るかな?」
真凜が心配そうに尋ねる。
「………わからないわ」
静香は正直に答えた。
あの男が何を考えているのか。
今でも、静香にはほとんど理解できていない。
ただ、約束を果たせなかったことは、きちんと説明しなければならない。
「とにかく、もう少し周囲を探して――」
その時だった。
――ずる。
静香が言葉を止めた。
奥の暗がりから、何かを引きずるような音がした。
――ずる、ずる。
「……誰?」
明美が短剣を構える。
亜紀が身を低くし、真凜も剣を抜いた。
静香は仲間たちを制しながら、音のする方を見据える。
岩陰の向こう。
暗がりから、一人の男が姿を現した。
黒い服。
見覚えのある立ち姿。
そして、その片手には。
巨大な、青い鱗に覆われた何かが握られていた。
男が一歩進むたび、それが地面を擦る。
――ずる。
――ずる。
岩場に血の筋を残しながら引きずられていたのは、水龍の首だった。
「…………え?」
静香の口から、掠れた声が漏れた。
男はゆっくりと顔を上げた。
梟だった。
梟Side
ふ〜んふふふっふ〜ん。
梟は上機嫌に水龍の前に立ち、両手の指で四角い枠を作って通路を覗いていた。
もうちょい手前の方が映えるか?
爆炎石を拾い、通路の手前に置き直す。
近くで梟が歩き回っているというのに、水龍は僅かにも動かない。
当たり前だ。水龍には首から上がなく、既に息絶えているのだから。
ヨシ! 画角バッチシだ!
通路を歩いてくる強敵静香とオマケ! トカゲを見て戦闘態勢に入ったところで謎の爆発! そして水煙から現れる謎の男!
ん? 待てよ?
梟は通路側へ小走りで向かい、水龍の姿を確認する。
ん~~。首ないのバレないよね? こう………丸まって寝てる感じにしとこうか。
水龍の巨体を動かし、首のない部分が通路から見えにくいように整える。
………ヨシ! これで完璧だわ。
さて、どこで待機するか? 画角的に………あの滝の裏がベストかな? こっから見える?
………ヨシ! 行けるっ!
梟は水龍の首を片手に、滝の裏へと移動した。
※ ※ ※
………………………………………暇だな。
このダンジョン湿気高いし、もう来たくねーわ。初めてだったから歩いて来なきゃだったし。モンスターもジメジメしてるのばっかりだし。
……………。
モンスター………。
トカゲが最強みたいな風潮があるけど、コイツら魔素が濃いところ以外では生きていけないから、生物としては貧弱なんだよね。卵もそんな産まないしさ。
……………。
卵………。
両面焼きのセンスのなさは凄いね。目玉焼きの良さを全部殺してるわ。半熟が至高だよ。
………まだ? 暇だな。
おっ! 今チラッと陽キャが見えたわ!
通路の中ほどまで来たら起動して………ふふっ。さぁ、始めようか!
………………。
………遅くね? 何やってんっ――
梟の足元、壁、天井から、鋭い鉄の棘が突き出してきた。
っっっっっっぶねぇ!!!
なんだよっ棘っ! 怖っ! おまっ! 殺す気かっ!
いや、殺す気だわ。
梟は反射的に視界の端へ転移した。
ギゼラの魔法発動圏外。ダンジョン最奥、そのさらに奥へ。
――――ズガァァァァンッ!!
鉄棘に巻き込まれた爆炎石が爆発する。
っっっ! あっ………。
えっ? ………待っ!
今から間に合う? 無理くね?
いや! 走れば行けるっ!
………走るの? 首持って? 謎の強キャラが?
いやダメでしょ?
ゲートならっ!
………ダメだっ! 視界が悪い。安全が保証できない。
―――ダッダッダッダッダッダッダッ!
無数の鉄棘が水龍の胴体へと殺到する。
あー棘っ! 煩いわっ!
もうゆっくり歩いていくか?
いや、見切れてる! それに砂まみれで登場するのもダサくないか?
爆炎石、盛りすぎたか?
………いや、棘が悪い!
予定では綺麗な水煙になるはずだったのに!
やがて砂塵が晴れ、梟の視界に薔薇十字の姿が戻ってきた。
その中に、ドローンを抱える明美がいた。
………抱える?
おそらく撮影は終わっているだろう。
………………。
えーと。どうすんのさ、これ? この空気?
ゲートで帰るか?
いや、強敵静香は逆鱗を取りに来たんよな? まぁ、俺が頼んだんだし。
………逆鱗、首についてるよな?
このまま帰って「お使いも満足にできないのですか」って煽るか?
公衆の面前でなくとも上下は示せる?
………いや、待て。
ここに来るまで隠滅作業をしてない。
戦闘痕で俺だってバレて、ヤラセやってるなんて噂が立ったらどうする?
ダメだっ!
ならどうする?
首………逆鱗………お使い………。
………詰んでね?
いやっ! 行けるっ!
………か?
予定より早く必要になったから、自分で取りに来ました。
仕事で二週間ほど連絡が取れないので、支払いは後日取りに行きます。
これで有耶無耶に………。
………できるか?
できたら良いな………。
梟は水龍の首を引きずりながら、薔薇十字のいる方へと歩き始めた。
――ずる。
――ずる。
わかってるよね。
俺は仕事で使う逆鱗が早く必要になったから取りに来ただけ。
強敵静香とか意識してねーし。
あくまで逆鱗を取りに来ただけ。
まぁ、お使いを頼んだのに自分で取りに来ちゃったんだし、マナーとして一声かけて、さっと帰る感じで………。
………行けるな!
――ずる。
――ずる。
「えっ?」
「梟………さん?」
「………なぜここに?首を…えっ?ご自分で?えっ?」
「………仕事で………仕事が巻きになりまして、えぇ。自分で………えぇ。薔薇十字には一声かけておこうかと」
「………はい。ありがとうございます。あっ………討伐報酬や素材の回収は、お手伝いしましょうか?」
「いえ。逆鱗だけあれば良いので後の処理はお任せします」
「処理って。あの!せめて討伐報酬はお受け取り………」
「静香っ!」
突然、ギゼラが鋭い声を上げた。
「ギゼラ。なによ。今は梟さんと」
静香が振り返ると、ギゼラは小さく首を横に振った。
その表情は真剣だった。
まるで、それ以上は言ってはいけないと告げるように。
「梟さん。わかりました。後のことはすべて薔薇十字が処理しておきますわ」
「ええ。お願いします」
梟が頷くと、ギゼラは優雅に一礼した。
「ふふっ。ありがとうございますわ」
………銀髪…オッドアイ…ギゼラならドイツ系か?…ですわ口調…軍服っぽい服装………役満だなっ!
14才の病を患って………いやっ!天然物かっ!マジかっ!強い!本物かっ!
えっ?……………まさかっ!
新庄静香っ!狂っているっ!
作ったか?まさか養殖したのかっ!
いや、ただの推測だ。決めつけるのは早い。装備を見るに、マジックキャスターか?あの棘を出したやつだな。
「失礼。あの魔法は?」
「タウゼント・キルシュブリューテンのことですか?えぇ。私の魔法ですわ」
作りやがったなっ!新庄静香っっ!
日本語に訳しても千本桜!どう足掻いても逃げられねえっ!
「ギゼラ………ギゼラ・モール。覚えておきます。では、私はこれで失礼します」
天然…いや養殖物、彼女も新庄静香の犠牲者か………。
梟は首から逆鱗を剥がし去って行った。
薔薇十字は静かにその背中を見送っていた。
薔薇十字Side
「………………」
梟が姿を消した後も、五人はしばらく動けずにいた。
目の前には、首を失った水龍の巨体。
その首も、少し離れた場所に転がっている。
梟が持っていったのは、首から剥がした逆鱗だけだった。
「………何なのよ、もう」
静香が額を押さえる。
「水龍を倒して、逆鱗だけ持って帰るって………」
「討伐報酬も素材も、全部こっちに残してくれたんだよね?」
亜紀が水龍を見上げた。
「そういうことになるわね」
「これ、相当な金額になるんじゃない?」
「ええ。四億円の返済にも十分な額になると思うわ」
静香はため息をついた。
「だからこそ、報酬くらい受け取ってもらおうとしたのに………」
「ええ。ですから、お止めしましたの」
ギゼラが穏やかに答えた。
「………ギゼラ。あんた、どうして止めたの?」
「梟さんが受け取るおつもりなら、最初からそうおっしゃっていたでしょう?」
「いや、そうだけど………」
「わざわざ私たちに残してくださったものを、無理にお返しするのも失礼ですわ」
「………………」
静香はギゼラを見つめた。
「………あんた、もしかして、梟さんが私たちのためにやったと思ってる?」
「その可能性はあると思いますわ」
「ない!」
即答だった。
「絶対にない!」
「どうしてですの?」
「どうしてって………相手は!あの梟さんよ!?」
「ええ。存じていますわ」
「富士樹海のこと、忘れたわけじゃないでしょうね!?」
静香の声が強くなった。
「私が帰らないと言ったら、あの人、どうしたと思う? 説得も何もなしに、いきなり気絶させたのよ!」
「………あれは怖かったね」
亜紀が小さく呟いた。
「こっちが何を言っても、依頼を達成することしか考えてなかったみたいだったし」
「そう。あの人にとって、私の意思なんて関係なかったのよ。依頼されたから連れ帰る。ただそれだけ」
「ええ。その点については、私も同じ認識ですわ」
ギゼラはあっさり頷いた。
静香が眉を寄せる。
「………じゃあ、わかるでしょう?」
「何がですの?」
「親切心でこんなことする人じゃないってことよ!」
「それは、まだわかりませんわ」
「なんでよ!」
「富士樹海では、お仕事だったのでしょう?」
「………………」
「依頼を遂行するために、必要な手段を選んだ。そこに私情を挟まないプロだということは理解していますわ」
「必要なら何でもするってことでしょうが!」
「ええ。恐ろしいことですわね」
まったく動じないギゼラに、静香は言葉を失った。
「………ギゼラ」
今度は真凜が口を開いた。
「探索者狩りの件もあります。私たちは、あの人が関与している可能性を本気で警戒していたんですよ」
「覚えていますわ」
「もし梟さんが犯人なら、私たちでは対処できない。そう判断して、直接の接触まで避けようとしていました」
「ええ。私も賛成しましたもの」
「なら、どうしてそんなに平然としていられるんですか?」
「平然としているつもりはありませんわ」
ギゼラは真凜を見た。
「仕事で敵対することになれば、私も恐ろしいと思います。あの方が本気で私たちを排除しようとすれば、どうなるか………想像したくもありませんもの」
「………だったら」
「ですが、今回は敵対しておりませんわ」
「………………」
「それどころか、梟さんは水龍を討伐し、その報酬を私たちに残してくださいました」
「だから、それが親切とは限らないでしょう!」
明美が口を挟んだ。
「何を考えてるかわからない人なんだよ? 探索者狩りのときだって、あの人が関わってるかもしれないってだけで、どれだけ警戒したと思ってるの」
「ええ。私も警戒しておりましたわ」
「それに、今回の四億円だってそう。支払いを待ってほしいって頼んだら、水龍の逆鱗を取ってこいなんて言い出すんだから」
「そうですわね」
「下手したら全員死んでたかもしれないんだよ?」
「ええ」
「………ギゼラ、ちゃんと聞いてる?」
「もちろんですわ」
ギゼラは微笑んだ。
「皆さんのおっしゃることは、どれも間違ってはいないと思います」
「………………」
「梟さんは危険な方です。冷徹で、契約には厳格で、仕事を完遂するためなら容赦もしない。私も、そのように認識していますわ」
静香たちは顔を見合わせた。
「………じゃあ、なんで」
「ですが」
ギゼラは静かに続けた。
「そういう方だからこそ、今回のことが少し意外でしたの」
「………意外?」
「逆鱗だけを受け取り、討伐報酬も素材も残していかれた。私たちに恩を着せるようなことも、おっしゃらなかったでしょう?」
「………それは、そうだけど」
「それに、私の魔法についても尋ねてくださいましたわ」
「………魔法?」
「ええ。名前まで覚えてくださるそうですわ」
「………それ、何か関係ある?」
亜紀が首を傾げる。
「さあ。どうでしょう?」
ギゼラは楽しそうに笑った。
「ただ、仕事中の印象とは少し違う方なのかもしれないと思いましたの」
「………ギゼラ」
静香が疲れた声を出した。
「まさか、梟さんをいい人だと思ってるんじゃないでしょうね?」
「いいえ?」
即答だった。
「………………え?」
「いい人かどうかは、まだわかりませんわ」
「じゃあ、何なのよ………」
「少なくとも、私たちが知っている姿だけが、あの方のすべてではないのでしょう」
「………………」
誰も反論しなかった。
いや、反論する気力がなくなっていた。
「………もういいわ」
静香は深いため息をついた。
「とにかく、討伐報酬と素材の売却代金が入ったら、すぐに梟さんへ連絡するわよ。四億円は一刻も早く返す。いいわね?」
「賛成。あの人との契約なんて、早く終わらせたいし」
明美が頷く。
「私も異論はありません」
「うん。さっさと返しちゃおう」
真凜と亜紀も同意した。
「ええ。もちろんですわ」
ギゼラも頷いた。
契約は契約。
それを軽んじるつもりはない。
ただ、彼女はもう一度、水龍の亡骸を見つめた。
仕事では、あれほど冷徹な人。
目的のためなら手段を選ばず、相手の事情にも頓着しない。
それなのに、今回のことはどうだろう。
水龍を倒し、報酬を残し、何事もなかったように去っていった。
その理由を尋ねる暇さえ与えずに。
ギゼラは小さく微笑んだ。
「………ふふっ。不器用な方ですわね」
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
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