濾過しきれなかった記憶情報の集合体がアンゲルスである。
では、もし仮に、濾過する方法が残っているのならば――取り返しはつくのではないか。
地球からもたらされた情報。その内容をトキハは整理し、ムァンとは別のアプローチを行うことを考えていた。
「……そうか」
戦闘に精いっぱいで考えもしなかった希望。ムァンは素直に頷く。
「手遅れかもしれないのは、試してみてからにしましょう」
力強い声と微笑み。ムァンは、何も言うことはない。
「というわけでお爺ちゃん! アタシが出張してる間は島のお留守番お願いね」
『待て待て待て!』
「はい反論は聞こえませ~ん、決定事項で~す、指令室のみんなから許可もらってま~す」
通信機からはグソウ博士のため息が漏れてくる。
『まったく……やるならちゃんと成果は見せるのだぞ。ワシがハイロウ・ウイングを作ったようにな』
「もちろんよ」
トキハはそう言い切る。
まだ、成果が出た訳ではない。次にとる行動も、他人に聞くという答えが出るかもわからないものだ。
だが、不思議と彼女の言葉には、信じさせる力があった。
だからだろう、地母神もすぐに答えた。
コクピット内に虹入りの光が広がる。それは、地球へ行く際に受け取った虹色の遺志から発せられたものだった。
『そこまで行く必要はありませんよ』
優しい声が聞こえてくる。
「あ、案外近くにいたのね」
『ええ、我は常に皆を見守っています』
そして、すぐに本題に入った。
『まず最初に……皆様がアンゲルスという記憶粒子の状態は、本来の形を失い、つぶれた状態です。それを粉々に砕くことによって、世界に戻しています。そこに元の形は残っていません』
「う~ん、つまり、濾過をしようが無駄だといいたいの?」
既に完全に壊れており、元素だけを回収している。そう受け取った。
『いえ、それですが……』
だが、地母神の声はわずかに言いよどむ。
『稀に高濃度の集合体――特異体と呼ばれる存在の核であれば、形は残っています。その形が顕現する際に影響されるのです』
「海蛇や巨人……それは、元の形に影響を受けたものなのですね」
ムァンの捕捉に地母神も、ええ、と小さく答えた。
「わかった。ならなおさら聞きたいわ。濾過は可能なの?」
『結論から言えば、可能でしょう……ただ』
「もったいぶらないで言いなさいよ」
すると、地母神は声の色を変える。
神らしい、落ち着いた声であった。
『最後にもう一仕事、してもらいます』
トキハも、ムァンも黙って頷いた。
『我が姉妹の残滓には、まだ皆様がアンゲルスと呼ぶ存在がこびりついています』
特異体の残った情報は形を保っている。だが、その形に対して悪性情報が寄生したままになっている。
『それを祓うには、記憶そのものに触れる必要があります……その記憶は、死の瞬間です。つまり、生命の危機が脅かされた情報を受け止めることになるのです』
死に最も近い情報。それを受け取った時に、人が耐えられるか――
『濾過を行うにはその記憶に触れる必要があります……その覚悟は――』
――問う必要はなかった。
ムァンも、トキハも、その瞳に迷いはないのだから。
『愚問でしたね』
虹色の光があふれだす。
その是非を待つ必要はない。
ただ戦士たちは、為すべきことのために、次の戦場へと向かう。
神は、それを送り届けるだけだ。