病んだ少女に、代償として血を求めるタイプの魔剣を与えてはならない   作:ねりぃ

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ーーより心労が増えてしまう。


病んだ姉の前に、不吉な魔剣を出してはならない

「ろ、ロット・スレイヴ?」

「うん。なんか、どこかの村で封印されてたらしくて。伝承によると、災厄をもたらす呪いの魔剣なんだって」

「えぇ…………」

 

 

 不穏なことを言いながら、ミルは持ち手も刀身も真っ黒な、禍々しい雰囲気を纏ったショートソードを、こともなげに素手で掴みこちらへ見せてくる。…………大丈夫? 掴んだ瞬間瘴気を噴き出して持ち手を呪い殺してもおかしくないような見た目と説明だけど……。

 

 ーーミルが大狼と戦い大怪我を負ってから一週間が経過した今日、ようやくミルの傷が癒えて早々に招集命令が出た。

 前回のことがトラウマになりつつあり、家で待っている間、何度か過呼吸になったり、恐怖のあまり叫び出しそうになったりもしていたものの、そんな不安は杞憂に終わったようで、ミルはほぼ無傷で帰ってきてくれたのだったーー新たな不安の種と共に。

 

 

「そんな、素手で掴んじゃって大丈夫なの?」

「うん。なんか、最初は前線でいろんな人が使ったらしいんだけど、誰が使っても何の能力も発揮しなかったんだって。中にはこの剣で自分の体を傷つけた人もいたらしいんだけど、それでも何も起きなかったみたい」

「ふーん……」

 

 

 これで自傷しようとは、肝の据わった人物もいたものだ。

 私なら絶対にそんなことはしない。好奇心は老爺をも殺すのだ。祖父が、封印されていた魔法書を興味本位で開き、本の中に取り込まれてしまったことを受けて、我が家ではこのことわざの登場人物が猫でなくなったのだった。

 

 

「何も起きないならいいんだけど……。というか、協会は何でそんな危険そうなものをハンターに使わせようとしてるんだか…………」

「なんか最近前線に特殊個体が現れたとかで、ベテランハンターが何人かやられちゃったみたい。多分、それで防衛ラインが崩れそうになって、即戦力が欲しかったのかも?」

 

 

 なるほど即戦力……こんな剣に頼らないといけないくらい、前線は切羽詰まってるの? 他の街からの増援が間に合ってないのかな……。よっぽどないとは思うけど、これをきっかけに前線の強い魔物がこっちまで流れてきたら、またミルに危険がーーっと、だめだめ。こういう万が一は想像したり口にしたら、本当になっちゃうんだから。確かこういうのを、フラグって言うんだって、父が言っていたような……。

 

 

「この魔剣、多分ヒトを選ぶタイプだってことで、普段からショートソードを使うハンターに回されてたみたいなんだけど、これまで誰も能力らしい能力を発動させられなくて……それでこっちまで流れてきて、私もダメ元で使ったら、なんか発動しちゃったって感じ」

「魔剣に選ばれちゃったんだ……」

 

 

 持って帰ってきたってことは、発動した能力は悪いものじゃなかったんだろうけど、それ絶対代償とかあるよね。寿命が縮むとか、記憶を奪われるとか……。

 しかも、もしこれでミルがすごく強くなっちゃったら、前線での戦いを強いられかねない。歴戦の戦士が簡単に命を落としかねない戦場にミルが向かうことになったら、私は自害するまでもなく不安に押しつぶされて死んでしまうかもしれない。

 

 

 ーー一瞬、ミルが死んでしまえば、私も躊躇なく死ねるーー楽になれる、なんて考えてしまった自分に、強烈な嫌悪感を覚えた。最低だ。最低、最低、さいていーー

 

 

「…………お姉ちゃん? 大丈夫?」

 

 

 いつの間にか、ミルが不安げな表情で私の顔を覗き込んでいた。暗い顔をしてしまっていたのだろう。笑顔、笑顔を、作らなきゃ…。

 

 

「だいじょうぶ、大丈夫よ? それより魔剣! 結局どんな能力だったの?」

「うーんとね、まず、ちょっとした怪我を治療できるでしょ? それから、ちょっとだけ体が軽くなる……気がする。後は、この剣で切ってできた傷がちょっとだけ治りにくくなる……かも知れない」

「…………えっと、それだけ?」

「今のところはね。まだ知らない力があるかもだけど」

 

 

 これは……何というか、拍子抜けだ。呪いの魔剣なんて言うからには、前線の状況を簡単にひっくり返してのける程のとんでもない力を持っていると思っていたのだが……。この程度の性能では、精々あったらいいなの微エンチャント武器。ちょっと裕福なハンター一家が、子供のハンター就任祝いや昇格祝いに奮発して買ってあげてもいいーーそんな程度だ。

 

 

「ちなみに、代償とかってあったりする?」

「多分ないよ? 体に違和感とかないし」

「そっか…………本当に、大丈夫だよね?」

「大丈夫だよぅ。もうお姉ちゃん、心配し過ぎ」

 

 

 頬を膨らませながら私の肩を突っつくミルの様子を観察するものの、特に違和感はない。今の所は、本当に大丈夫なのだろう。

 

 だが、もし代償が寿命や記憶ならすぐには分からない。……この程度の性能でそんな代償が要求されるようなら、もはや呪いそのものだが。

 ただ、微エンチャント武器とは言え、なにも付与効果のない武器よりかはマシだろう。もしこれが特に代償もなくただのちょっといい武器として運用できるのなら、少しでも生存率を上げるためにも、こちらを使ったほうがいいはずだ。

 

 

「……何か体に違和感があったらすぐに手放すこと。魔剣を使った日はその次の日までにその日したこと、あったことを詳細に報告すること。この2つが守れるなら、使ってもいいよ」

「やったー! お姉ちゃん大好き!」

「…………」

 

 

 本当は、こんな武器をミルに使わせたくない。まだその力の全貌が明らかになったわけでもないのに使わせて、万が一取り返しのつかないような罠が潜んでいたらと思うと、ゾッとする。かと言って、この武器を使うなと言ってもミルは使うだろう。

 なにせ、今の稼ぎのままでは私を養って2人で満足に食べていくことなどできない。ならば、少しでも稼げるよう少しでも戦果を多く上げるために、ミルは少しでも強くなれる方法をとるはずだ。

 

 それならばーー私の知らないところで使われて、知らない間にどうしようもないところまで行ってしまうくらいなら、私は積極的に使用を禁止するよりも、消極的に許可する方を選ぶ。

 …………最近の様子を見るに、私を心配させまいと虚偽の報告をしてくる可能性もあるだろう。これまでも目は光らせてきたが、これからはミルの一挙手一投足に注意を向けねばなるまい。

 

 

「…………報告では、嘘も誤魔化しも禁止だからね。大したことじゃないから話さないってのも禁止。絶対だからね」

「わかってるよぉ。……私のこと信用してないの?」

「してない。……できるわけないでしょ。いつも自分のことを顧みないで、無理をして……」

「…………それは、ごめんなさい…………」

「…………っ」

 

 

 本当に申し訳なさそうに項垂れるミルの姿に、いつもの罪悪感が湧き上がってくる。

 

 あぁ、また私はミルのせいにして……ミルが自分のことを顧みないのは、私が無力で、ミルの負担になっているからなのに。

 

 

 ーー考えなければ。こんな身体でもできることを。少しでもお金を稼ぐ方法を。ミルに、こんな剣を使わせる必要がなくなるような手段を。




Tips : ハンター
 アノマリ協会に所属し、魔物を相手にする傭兵をハンターと呼ぶ。主に貴族から輩出される騎士に対して、ハンターの多くは農民や市民、孤児院やスラムを出身とするものが多い。ハンターとなるには、協会の施設で最低限の講習を受け、簡単なテストに合格する必要がある。
 ハンターは、魔物の襲撃の際に召集を受け、協会の采配でパーティの編成と役割分担が行われた後、出撃して魔物と戦闘を行う。報酬は襲撃の度にその戦果にかかわらず一定額が支払われるが、大きな戦果を上げるとランクが上がり、ランクが上がると報酬も増える。逆にランクに見合う戦果を上げられないとランクが下がることもある。ランクは見習いの「F」から始まり、E、D、C、B、A、Sと上がっていく。Bランク以上はベテランとされ、「前線」と呼ばれる、より強い魔物が現れるエリアへ送られるが、報酬もCランク以下と比較して飛躍的に増加する。
 ミルはCランクで、ルリナもCランクだった。また、姉妹の両親はどちらもBランクだったが、二人とも最初の襲撃で戦死している。
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