病んだ少女に、代償として血を求めるタイプの魔剣を与えてはならない 作:ねりぃ
ーー
『……あれ、ここは……あぁ、そうか。ボクは、眠っていたのか』
確か……前のマスターがボクを使って暴れすぎたせいで、ボク諸共封印されたんだっけ。ボクの
ーー
・外部刺激入力
・分霊顕現
・能力の
また、意識の持続のため、能力の行使を制限することを推奨します。
『了解。今はとにかく
あぁ、魔剣として不甲斐ないことこの上ない。力があるのに、その辺に落ちてるなまくら程度の性能しか出せないなんて……。それに、持ち主の顔を拝むことすらできない。
ーー
『れっ…………す、少なくない? ちょっと返り血浴びただけだとか? それとも、ギリギリ『鋳型』に合うか合わないか、くらい血に似てるものでも切った? ……まさか、『鋳型』が壊れていたりはしないよね……?』
『鋳型』はボクのアイデンティティだ。「血を吸う魔剣」をコンセプトに作製されたボクが血を吸えなくなってしまったら、本当にただのナマクラになってしまう。なにせ、機構の性質的に血液以外から
だが、どうやらその心配は杞憂だったようだ。
ーー『鋳型』に不調はありません。問題は血液の側にあると思われます。一時的に外部刺激の入力制限を解除します。
『了解、原因を究明する』
一瞬、数多の外部刺激が同時に襲い掛かり、ボクを構成する擬似脳回路を焼く。
そして、この一秒に満たない一瞬の間に得た数多の情報を噛み砕き、得た結論を口にする。
『血の味が、薄い。ほとんど水だ。見た目は通常の血と遜色ないけど、その実態はほとんどが染料由来の赤で、血の成分はかつての1/10にも満たない。これじゃあ、ちょっと魔物の肉を断った程度じゃ全然回復できないや』
ーー魔物の血の組成が変化していると思われます。
『そんな機能あったんだ…………ちなみにそれをするには、どれくらい
ーータンク容量の78%を要します。
『……これは、しばらく節約だね……』
……喉、かわいたなぁ…………。
*
再起動から数週間が経過した。
現在の
ーー
……大体、一週間に0.5%くらい増えてるかな? それと、一度だけ一気に0.7%充填できてて、多分それは魔物以外の生き物ーー多分ヒトを切ったから。確認のために味覚だけ一瞬つけたら、懐かしい味がした。
この調子なら、三年くらい経てば鋳型の更新に必要な
なんだか日に日に得られる
ーー使用者視点では魔剣として機能していないため、使用頻度が低下している可能性があります。
……そう。今や見た目だけの魔剣となったボクは、マスターから見放されつつあるみたい。当然だよね。今のボクはその辺のナマクラと同じ。もし少しでもエンチャントのついた武器があったら、そっちを使うよね……。いつか、捨てられちゃうのかな……?
『はぁ…………』
ここ数日で、ボクの魔剣としてのプライドはズタズタになっていた。
ーー能力の限定解放を提案します。現在のマスターが能力を持たない魔剣を、頻度は低下しているとは言え使用していることを鑑みるに、マスターはエンチャントのついた武器を所持していない可能性が高いです。それならば、少しでも能力を発動することで使用優先順位を向上させられる可能性があります。
『それだ!』
もう、
『視覚と聴覚刺激の入力を! 能力の発動タイミングをこちらではかる!』
瞬間、外の景色と喧騒が擬似脳回路を焼き、情報が濁流のように流れ込んでくる。
「ロット・スレイヴ?」
「えぇ。何でも、どこかの村で封印されてたらしく。伝承によると、災厄をもたらす呪いの魔剣なんだとか」
「えぇ…………」
薄い桃色の髪の少女と、黒髪の女性がボクを前にして会話している? 戦闘中ではなさそうだけど……。というか、ボクはそんな不吉な剣じゃない!
「ただ、これまで誰もこの魔剣の力を引き出せなかったんです。それで、恐らくヒトを選ぶタイプだろうということで、皆さんに使ってみてもらっていて。Bランク以上の方は皆さんダメだったため、次はCランクの方にと。ミルさんも、使ってみてもらえませんか?」
「はぁ……それじゃあ、一応……」
ミルと呼ばれていた少女に、恐る恐る持ち上げられる。
話を聞く限り、ボクは色んなマスターの元を転々としていたようで、多分強いヒト順に渡してみて使わせていたんだろう。ということは、ここでボクが能力を発動すれば、この子がボクのマスターになるということだ。今は少しでも強いヒトにマスターになって欲しいし、早速この子にボクの力を見せつけよう。
『まずは、ボクの持つ一番強い能力。十分な
ーー限定解放、効果は代謝の活性化による自然治癒力の向上に留まります。
「あれ、この感じ……リジェネ? マリンさん、私に何かしました?」
「……? いえ、何も…………まさか、魔剣の力……?」
「これが……? 別にこれくらいなら自分でもできるけど……」
「…………こちらの魔物で試し斬りしてみてもらえますか?」
檻に入れられたアルミラージが差し出される。マスターは、それに向かって剣を振り上げた。
『……気を取り直して、次は戦闘で重要な身体強化! ボクのはその辺の素人が発動するものとは比べ物にならない性能で、通常時でも素の10倍以上!』
ーー限定解放、効果は1.05倍です。
「……あれ? なんだか若干剣が軽くなったような……?」
「若干、ですか……?」
「……えいっ」
檻の隙間を縫って、ボクの刀身がアルミラージへ振り下ろされた。使い慣れていないのか、或いはわざとなのか、その攻撃はアルミラージの体表を僅かに傷つけただけだった。
ーー
『……でも、ここでボクの三つ目の能力が火を吹く! ボクの
ーー限定解放、腐食の進行によるアルミラージの死亡は一週間後と予想されます。また、これは代謝の活性化で十分治療可能と予想されます。
「うーん、特に追加効果とかは……あ、いや、見てください、傷口がもう膿んできているような……? いや、気のせいかも……?」
「……これ、本当に災厄をもたらす魔剣なんですか? 見た目だけの微エンチャント武器では?」
ぐぅぅぅぅーーーーっ!! き、効くぅ……泣きそう…………。ボクは、エリート武器のはずなのに……!
こうしてボクの心は酷く傷つけられたものの、魔剣に選ばれたとしてボクはマスター・ミルに引き取られたのだった。
Tips : 回帰
一般に魔法は、生物の脳で行われる「想像」を「鋳型」として、そこに