病んだ少女に、代償として血を求めるタイプの魔剣を与えてはならない 作:ねりぃ
マスターに引き取られて数日が経過したある日の夜。リビングに無造作に立てかけられ、ぞんざいな扱いに憤りを感じていたボクの目の前で、マスターとそのお姉さんがテーブルを囲み、何やら真剣に話をしていた。
「私、体を売って稼ごうと思うの」
「は?」
どうやら話を聞く限り、マスターのお姉ちゃんは右腕を欠損し、その上生命線だった
「……協会からもらった退職金も、もうすぐ尽きるわ。時間がない……けど、未だに私は一人で生活することもままならないし、ましてや仕事なんて見つかりっこない。もう、体を売るしかないの」
「…………」
…………何だか、シンパシーを感じる。ボクも、まともに
「私、家を出て奴隷になるわ。そうすればまとまったお金がーー」
「いい加減にして?」
なるべく考えないようにしていても、こんなのを見せられてしまうとつい考えてしまう。
もし、ボクが魔剣として万全だったのならーー
*
それは、ある日の夜。
ーー
ーー
『ーーうぇぇっ!? な、何!?』
なんかすごい勢いで
ーー
ーー
『うぇぇーー!?!?!? と、とりあえず、外部刺激入力! 視覚と聴覚ーーいや、全部!』
まず最初に、懐かしい香りと喉の潤いを感じた。そして、刀身いっぱいに感じる甘美な血の味。思わず惚けてしまいそうになって、遅れてやってきた視覚と聴覚がそんなボクを正気に戻す。
「ーーーーーー」
ボクが、少女の心臓を突き刺している。彼女はマスターのお姉さんの…………ま、まさか姉妹喧嘩? いや、二人は仲睦まじい感じだったし、あのマスターに限ってこんなことは……。
ーー本剣の柄を握っているのは登録名ルリナ本人です。自殺の可能性があります。
『……っ!?
ーー本当に実行しますか? このままにしておけば、鋳型更新に必要な
『バカ言うな! 仮にもマスターのお姉ちゃんだぞ! 絶対に助ける! いや、いっそこのまま腕まで治してしまえば、考え直してくれるはず……!』
ーー承知しました。ですがーー
『今度は何だ! 早くやれ!』
ーーヒーリングの発動前に本剣をルリナから引き抜くことを推奨します。
『た、確かに!
ーー
じわじわと出力を上げ、動き出したところで出力を弱め、ゆっくりとルリナの体から刀身を引き抜く。
ーー
『今度こそ、
ーー制限解除、ヒール
『紛らわしい名前をつけるな!』
ルリナの体が淡く光り、みるみると外傷が治っていく。胸の傷は閉じて、心臓だって元通り。足と腕の刺し傷も塞がり、さらに右腕の断面が泡立って、ゆっくりと新たな腕が生えてくる。その腕は当然、
ーー現在の
『言い方…………
ーー
そうしてぴょんぴょん跳ねながら飛び散ったルリナの血を舐め取っていく。かなり屈辱だが、
「…………んぅ……あれ……わ、たし…………いき、てる…………?」
『どうやらお姉ちゃんが目覚めたみたい。右腕、気付くかな。ふふ、驚くだろうな。なんだかこの前目覚めてから初めて魔剣らしいことをした気がするよ』
ーー
ルリナは、まず左手で胸を確認し、それから足の怪我も確認する。とうぜん、どちらも治療済みだ。さぁ、右腕はどうなってるかな? わくわく。
「う、腕が…………な、なんで…………?」
むふふ、驚いてる驚いてる。驚きの次は喜びかな? それとも感涙?
ルリナは辺りを見回し、地面に横たわるボクを発見してじっと見つめる。それからボクを手に取った。左手で柄を握り、右手で刀身をなぞる。
『…………流石に、また自殺しようとしたりしないよね……?』
ーー
『も、もうちょい様子見』
それからルリナは、完全に固まってしまった。身じろぎひとつせず、ボクをじっと見つめ続ける。そ、そんなに見つめられるとちょっと恥ずかしいかも……?
それから五分くらい経って、ようやくルリナは口を開いた。
「あなたが、私を、救ってくれたんですか……?」
そう言うルリナの目には、涙が浮かんでいた。
『その通り、ボクが救ってやったんだ。そうだ、
ーー
「ーーーーっ!?」
まるでルリナの問いに返事をするかのように、カタカタと刀身を震わせる。
『伝わったかな、伝わったよね?』
「お救いいただき、ありがとうございました。私の一生を、捧げます。ご主人様ーー」
『ーーーーえ?』
なんて?
Tips :
この性質によって永久機関を実現するかに思われたが、それを実行したヒト/街/国の悉くがいずれも異なる要因で滅んでいる。