【検証】ダドリーが女の子だった場合でも物語は成立するのか? 作:ウィーズリーの双子絶対TSさせろ委員会
ダリアがハリーについてダイアゴン横丁に行ってしまわないよう、ダーズリー夫妻は懸命になって娘を説得し続けた。
「ボンド通りのカルティエでネックレスを買ってあげるわ。どうかしら、ダリアちゃん」
「いらない。そんなの」
「31日は思う存分お菓子やケーキを食べさせてやろう。だからダリア、どうか行かんでくれ」
「子ども扱いしないで」
「パリ旅行に行ってエッフェル塔を見るのはどうだ」
「それは行きたい。来月がいい」
「いや、31日に」
「パパありがとう!
「うむ……」
ダリアの心は揺るがなかった。
マクゴナガルが猫に変身してからというものの、魔法への憧れと執着はとどまることを知らなかった。
「いまさら何? ずっと魔法のこと黙ってたくせに」
最後にはその一言がとどめになった。
娘から冷たいまなざしを向けられて、バーノンとペチュニアは口をつぐむしかなかった。
かわりに、ダリアはハリーと話すようになった。
「ねえハリー。31日はどんな人が迎えに来るの?」
「えーっと……分からないや」
「ちょっと、しっかりしてよ。自分のことなんでしょ?」
「仕方ないだろ。聞き忘れたんだから」
「まあいいわ。きっとマクゴナガル先生みたいな素敵な魔法使いが来るもの」
ハリーは不思議でたまらなかった。
自分のことを嫌いだとはっきり言ってきたダリアが、それでも積極的に関わってくるからだ。むしろ以前より感情豊かになったようにさえ見えた。
「あの、ダリア」
「なに?」
「僕のことが嫌いなんじゃないの?」
「もちろん、嫌いよ!」
ダリアはにっこり笑った。
目だけは冗談を言っていなかった。ハリーはますますダリアのことが分からなくなっていた。
あまりにも堂々と言われたものだから、ハリーの方も遠慮がなくなる。
「じゃあダイアゴン横丁にも付いてこなくていいだろ」
「それとこれとは話が別だもの」
「無茶苦茶じゃないか、そんなの」
「あなたも無茶苦茶よ?」
「僕が?」
「そうでしょ、魔法使いさん」
ハリーは言い返そうとしたが、とっさには思いつかなかった。
ダリアと口喧嘩をするのはできるだけやめておこう。ハリーは心に刻んだ。
◇◇◇
7月31日。約束の時間が近づくにつれてダーズリー家は落ち着かなくなっていった。
バーノンの顔色は少しずつ青くなり、ダリアはペチュニアにおねだりして髪を念入りに整えてもらっていた。
ハリーはだぼだぼのチェック柄のシャツを着ながら、そういえば今日が誕生日だったと思い出していた。
ようやく髪が納得のいく仕上がりになったダリアは、軽やかな足どりで廊下に出ると物置のドアを軽くノックした。
「ハリー。もうすぐ迎えが来る時間でしょ? 準備できてるの?」
「できてるよ。準備するようなものなんてないし」
ハリーはのそのそと物置から這い出た。
真新しい水色のワンピースで着飾り、肩までの金髪を白いリボンでまとめたダリアの姿を前にして、少しだけ息をのんだ。
「似合ってるよ」
「あら」
ダリアは目を丸くした。
「ありがとう。そういうお世辞もできるのね」
「どういたしまして」
それからダリアもハリーの全身を見た。相変わらずくしゃくしゃな髪、ふちが欠けた眼鏡、古着のだぼだぼなシャツとズボン。
「ハリーも、似合ってると思う」
「嫌味が上手なんだね」
「失礼ね。これはお世辞よ」
ダリアはぷいと顔をそむけるとリビングへと引っ込んでしまった。
来訪者がやってきたのは、約束の時間から15分ほどすぎてからだった。
ドン! ドン! ドン!
物置の中で時間を潰していたハリーは、玄関のドアを叩くものすごい音に思わず飛び上がった。
すぐにリビングの方で慌ただしく動く気配がして、バーノンの重い足音が玄関に向かった。
「誰だ!」
「ダーズリーさんのお宅はここで間違いねえかね?」
「わしがダーズリーだ。貴様は何なんだ!」
「俺はルビウス・ハグリッドってんだ。マクゴナガル先生に言われて、ハリーを迎えに来た」
声を聞いたハリーは急いで物置を飛び出し、玄関へと向かった。
すでに玄関にはダリアもいた。
「おまえさんがハリーか? 最後に見たときは、ほんの赤ん坊だったが……ずいぶんと可愛らしくなったな、ええ?」
「いえ、私は――」
「まるで女の子みてえじゃねえか。ハリーは男の子だと思っちょったんだが」
「僕がハリーです」
バーノンとダリアの隙間をぬけて、ハリーは外に出た。
「もちろん最初からわかっちょったぞ、ハリー。……大きくなったな。父さんによく似とる。でも、その目は母さんの目だ」
大男だった。
背の高さは大人の倍以上はあり、横幅は5倍を超えていそうだった。身をかがめているにも関わらず、目の高さが玄関の軒よりも上にある。ハリーは本能的に一歩引き下がった。
「こ、こんにちは。……ハグリッド先生」
「俺は先生じゃねえ。ホグワーツから来たがな。……おお、そうだった」
ハグリッドは懐から小さな包みを取り出した。
「お誕生日おめでとう、ハリー」
ハリーはおそるおそる包みを受け取った。
誕生日ケーキだった。緑色の文字で"HAPPEE BIRTHDAE"と書いてある。
「ありがとう!」
「11歳だな。立派になったもんだ」
ハグリッドは気さくにウインクをすると、縮み上がっているバーノンの方を見た。
「ダーズリーさん。このままハリーを連れて行ってもいいかね? 俺にはどうにも、ここの玄関が小さくてな」
「……は、早く連れて行ってくれ!」
バーノンは悲鳴を上げると、ダリアの手を握って家の中に引っ込もうとした。
しかしダリアはするりと避けて一歩前に出た。
「ハグリッドさん。私も一緒にダイアゴン横丁に行っていいですか?」
「おお。おまえさんは……」
「ダリア・ダーズリーです」
ハリーは、ダリアの手が小さく震えているのに気づいた。
気持ちはよくわかった。誕生日を祝ってもらったハリーでさえ、まだこの大男のことが少し怖い。
「おまえさんがハリーのいとこか。マクゴナガル先生から話は聞いちょる」
「そうでしたか。マクゴナガル先生にはお世話になりました。……ところで先生は私のことを何と?」
「賢そうな子だとは、言っとったな」
若干歯切れの悪い言い方だった。
「ふふ、ありがとうございます。両親からは一緒に行ってよいと許可をもらっておりますけれど、よろしいですか?」
「買い物の邪魔をせんなら俺は気にせん。ハリー、お前さんはどうだ?」
ハリーはとっさにバーノンの顔色をうかがった。
バーノンは、自分よりはるかに大きなハグリッドに圧倒されていた。それでも必死に首を横に振り、断われと目で訴えていた。
「いいよ。一緒に行こう」
バーノンの顔が絶望に染まったのを見て、ハリーはにやりと笑った。
◇◇◇
ハリーとダリアはどうやって移動するのかと期待で心を踊らせたが、ふつうの電車と地下鉄を乗り継いだものだから、少しだけがっかりした。
「マグルの乗り物はややこしくてならんな、ええ?」
地下鉄の改札で体がつっかえたハグリッドは――切符もハリーとダリアが協力して全部買った――冗談めかして文句を言った。
ふたりとも愛想笑いで返すしかできなかった。
駅から地上に出ると、ハグリッドはロンドンの人混みを割りながら歩いていった。
とびきり大きくて目立つ上に、ハグリッドの通ったあとはぽっかりと人混みに穴があくから、ハリーとダリアがついていくのは簡単だった。
「ねえ、ハリー」
ダリアが小声でしゃべりかけた。
「なに?」
「今日があなたの誕生日だってこと、知らなかった。ごめんなさい」
「いいよ。おじさんもおばさんも、今まで祝ってくれたことなんて無かったから」
「そういうのは早めに言っておきなさい。あたしまで意地悪みたいになるじゃない」
「違うの?」
「知ってたらお祝いぐらいするわよ」
そう言ってから、ダリアは何かを考えはじめた。
チャリング・クロス通りの一角で、ハグリッドは足を止めた。
「ダイアゴン横丁にはこの『漏れ鍋』から入るんだ。ハリー、見えるか?」
「漏れ鍋?」
ハリーは小ぎれいな店がならぶ通りを眺めたが、どこにもそんな看板は無かった。
「よーく見てみろ。本屋とレコード屋のあいだにある」
ハリーは目をこらしてハグリッドの指がさす方を見た。
いつの間にかそこにうす汚れたパブがあった。通行人たちの視線は書店とレコード店に向くばかりで、その間にあるパブには一度も向かないことに、おくれてハリーは気づいた。
「見えた! どうして?」
「マグルだけでは入れんようになっとるんだ」
ハリーはつい、ダリアをふりかえった。
彼女は悔しそうな顔で首を左右に振った。見えていないらしい。
「ダリアも入れるの?」
「『そこにある』と知っちょればな。ハリー、入るときは嬢ちゃんの手を握ってやれ。じゃないとこの子は迷子になっちまう」
「う、うん」
ハリーはおずおずと手を差し出した。猛獣を撫でるときの手つきだった。
ダリアは書店とレコード店の境目を悔しそうに見てから、そっと握った。
想像よりあたたかい手だった。
「……ありえない」
『漏れ鍋』に入ってすぐ、ダリアは眉をひそめて小さくつぶやいた。
現実を受け入れたくないような声色だった。
店内は薄暗く年季が感じられた。
客はそろってローブを身に着けており、派手な耳飾りをつけた者や頭にターバンを巻いた者までいる。プリベット通りではめったに見ない格好ばかりだった。
ハリーもダリアも思わず口をつぐみ、大人しくハグリッドについていった。
「よおハグリッド。いつもの酒かい?」
「悪い、トム。今日はホグワーツに仕事を頼まれとってな」
パブの主人に声をかけられたハグリッドはそう言って、ハリーの肩をつかんだ。
「この子――ハリーの学用品を買わにゃならん」
「まさか……ハリー・ポッターか?」
『漏れ鍋』の店内が静まり返り、視線が一気にハリーへと集まった。
店主のトムはカウンターから出てくると、ハリーの手を握った。
「なんたる光栄……よくぞお帰りで」
店内の客たちがつぎつぎと席を立ち、ハリーに握手を求めた。
「ドリス・クロックフォードです。まさか、こんな日が来るとは。信じられない」
「あなたと握手できるだなんて。今なら魔法なしで空を飛べそうだ……」
「ポッターさん……ああ、言葉が出ません。ディグルです。ディーダラス・ディグルといいます」
ハリーは目を白黒させながらも、なんとか握手に応じつづけた。
いちばん驚いているのはダリアだった。まさかハリーにこんなにも沢山の知り合いがいるだなんて、想像もしていなかったのだ。
「ドリス・クロックフォードです……」
「おまえさん、3回目だろう」
あまりにも長く続いたので、ハグリッドが無理やり終わらせた。
「早く行かにゃ。買い物をする前に日が暮れちまう」
まだ店内はざわついていたが、ハグリッドは2人を連れて『漏れ鍋』の裏口のほうへ歩いていった。
裏口に近い店のすみに、ターバンを巻いた青白い男がいた。
「おや、クィレル教授。偶然ですね。――ハリー、この方はホグワーツの先生だ。『闇の魔術に対する防衛』を教えてらっしゃる」
「ポ、ポ、ポッターくん。お会いできて、ど、どんなにうれしいか」
「こちらこそ」
この人も握手がしたいのかな。ハリーは手を差し出した。
クィレルは全身を引いて避けた。ちょっとだけハリーは悲しくなった。
「すまないクィレル先生、もう行かにゃならん。……ふたりとも、おいで。ハリーは買うものがごまんとあるぞ」
「……あの人、本当に先生なの? とても普通の人には見えないわ」
「うーん、そんなに変かな」
「秀才だったんだが、研究でアルバニアに行ってから少しばかり神経質になってな。何でも吸血鬼と鬼婆に嫌な目に合わされたとか」
耳打ちした言葉がハグリッドに聞かれていたので、あわててダリアは口調をあらためた。
「……そ、そうなんですね! 魔法学校の先生っていろいろな苦労がありそうで、尊敬します」
ハリーがニヤニヤしていると、ダリアが脇腹を小突いた。
「ここがダイアゴン横丁の入口だ」
『漏れ鍋』の裏口を開くと中庭に出た。レンガの壁に囲まれ、すみの方にはゴミ箱がおいてあるだけの殺風景な場所だった。
「みっつ上がって、横にふたつ……」
ハグリッドはぶつぶつ呟きながら、傘で壁のレンガをつついている。
ハリーとダリアは目を見合わせた。
「ここにも目に見えない入口が隠れているんですか?」
「うんにゃ、ここはちっとばかし違う。……ふたりとも、下がってろよ」
最後にハグリッドはひとつのレンガを3回たたいた。
すると叩いたレンガが震え、まわりのもクネクネと動き出した。2人があっけにとられている間に、壁はたちまちアーチへと変化していた。
「ダイアゴン横丁へようこそ」
ハグリッドは得意そうに笑った。
アーチの向こうには、両側に店がずらりと並んだ賑やかな通りが、ずっと奥まで続いていた。
◇◇◇
「すごい、すごい、すごい!」
ダリアの仮面はすっかり外れてしまっていた。
「ねえ見て――自動かき混ぜ式の鍋ですって! 意味わかんない! あはは!」
「ドラゴンの肝? ドラゴンって本当にいるの!?」
「わざわざ箒をショーウィンドウに入れてるの? なんで?」
あっちを見ては目を輝かせ、こっちを見てはハリーの肩を叩いて指をさす。
ハリーも初めての物だらけなダイアゴン横丁に心を踊らせていたが、となりで大はしゃぎしている人がいるせいでかえって冷静になった。
「ハグリッド。まずはどこに行くの?」
「銀行だ。何を買うにもまずは金を取ってこんとな」
ハグリッドはそう言って、ダリアの方を見た。
「嬢ちゃんも、聞いていたよりはずっと可愛らしいもんだ。迷子にはならんようにな」
ダリアは少し固まってから、ハリーの肩に置いていた手を離した。
「ここがグリンゴッツだ」
ひときわ高くそびえる真っ白な建物にハグリッドは入っていった。
広々とした大理石のホールでは、見たこともない生物がそれぞれの仕事をしていた。幼い子供ほどしかない背たけ、やたらと高い鼻、巨大な耳、細長い手指。少なくとも、人間ではない。
「……ハグリッド。あれは?」
「小鬼だ。頭はいいが、愛想は悪い」
「小鬼ってことは、普通の鬼もいるんですか?」
「鋭いな、嬢ちゃん。極東の方におると聞いたことがある」
ひそひそ話をしているうちに、ハグリッドはある小鬼の前で立ち止まった。
「おはよう。ハリー・ポッターの金庫から金を取りに来たんだが」
「鍵はお持ちですかな?」
「ああ。ここに……待っとくれ、どこかのポケットに入っちょるはずだ」
ハグリッドがごそごそと持ち物をあさる間、ハリーとダリアは隣の小鬼が拳のように大きなルビーを秤に乗せているのを眺めていた。一個あたりいくらするんだろうとダリアは想像していた。
「あった。それと……こっちもだ。ダンブルドア先生から手紙を預かっとる」
ハグリッドは小さな鍵と手紙をカウンターに置いた。
ダンブルドアの名前を聞いて、ダリアはぴくりと反応した。
「拝見いたしましょう」
「例の713番金庫に入っている物の件だ」
「……確認しました。お連れ様も一緒に?」
ハグリッドは振り返ってハリーとダリアを見た。迷っている様子だった。
「いや、例の物はやっぱり別の日に――」
「ハグリッドさん。私たちは、ハリーの金庫しか見ません」
ダリアが遮った。凛とした声だった。
「今日はハリーのお金を引き出しに来ただけで、他に何も見たり聞いたりしません。……そうですよね、ハリー?」
「えっ、うん」
『例の』とは何なのか聞きたくてたまらなかったハリーだが、そう言われたら頷くしかなかった。ダリアがいつでもハリーの足を踏めるようにしていたのも大きな理由だった。
「悪いな、嬢ちゃん。気を使わせちまって」
ハグリッドは目を細めた。
小鬼の案内で3人は金庫に向かうトロッコへと乗り込んだ。
上下左右に揺れるものだから、ハリーの金庫に到着する頃にはハグリッドの顔がすっかり青くなっていた。
「迷ったら二度と出てこられなくなりそうね」
線路が続く先の真っ暗な洞窟を覗き込みながら、ダリアは楽しそうに言った。
「さようで。時々、なれの果てが見つかります」
小鬼が笑いながら鍵を取り出し、ハリーの金庫を開けた。
重くて分厚い金属扉が滑るように動き、輝く硬貨の山があらわになった。
金色のやつがガリオン、銀がシックル、銅がクヌート。電車の中でハグリッドに教えてもらったことが、実物となってハリーの前に現れた。
全部でいくらあるのか、見当もつかないほどだった。
「みーんな、おまえさんのもんだ。……うっぷ」
壁に寄りかかったハグリッドが、そう言ってほほえんだ。
ハリーはしばらく動けなかった。
信じられなかった。こんなに沢山のお金があったなんて。それから、マクゴナガル先生がお金の心配はいらないと言っていたのを思い出した。ようやくハリーはその意味がわかった。
我に返ったハリーはすぐにダリアを見た。
ダリアも驚きを隠せていなかった。目をまん丸にして、ガリオンの山とハリーを何度も見比べていた。
これをダリアに見せてしまって本当によかったのだろうか。ハリーは少しだけ不安になった。
買い物に必要な分のお金をハグリッドに預けると、一行は次の金庫へと向かった。
トロッコはぐんぐん速度を上げて地下深くへと潜っていく。小鬼はスピード狂だった。
ハリーは楽しくなってきてトロッコから身を乗り出した。ちょうど渓谷の上を走っているところで、真下には暗くて底の見えない裂け目が大きく口を開けていた。
必死に目をつぶってハリーにしがみついていたダリアは、いとこがトロッコから落ちてしまわないか気が気でなかった。
713番金庫に着くと、ハグリッドの顔は青をこえて白くなりかけていた。
「す……すまんが、お前さんたちは……トロッコで、待っとれ」
「はい、ハグリッドさん」
ダリアは快くうなずいてハグリッドを見送った。
ハリーが金庫の中を覗き込もうとするたびに、ダリアは襟首を掴んで引き戻さなくてはいけなかった。
「すまんな、待たせちまって」
小さな包みを懐にしまいながらハグリッドが戻ってきた。
ハリーもダリアも、それを見逃さなかった。視線に気づいたハグリッドは口に人差し指を当てて「しー」と釘をさした。
帰りのトロッコにもどうにか耐え、地上に戻る頃には、ハグリッドは完全にグロッキーになっていた。
「まずは……制服を買うのが、いいだろうな」
ハグリッドはふらふらと歩いて先導した。しかし、途中でだめになってしまった。
「……すまねえ。ちょいと『漏れ鍋』で元気薬をひっかけてくる。まっすぐ行くと右手に制服の店があるから、2人で先に行ってくれるか。マダム・マルキンの店だ」
ハグリッドは、お金の入った袋をダリアに預けた。
「嬢ちゃんはしっかりしとるから、ハリーの面倒を見てやってくれ」
「承知いたしましたわ、ハグリッドさん」
騙されているぞとハリーは言いたかったが、ダリアなしで買い物ができる自信はなかった。
ふたりは制服の店を目指した。
ハグリッドがいなくなるだけで、人混みを歩くのはうんと難しくなった。
「ねえ、ハリー」
ダリアは少し間をおいた。
「あなた、お金持ちだったのね」
「そうみたい。僕も知らなかった」
ダリアはお金の入った袋を小さく振って、重さを確かめた。
「しかも有名人らしいじゃない? 『漏れ鍋』ではびっくりしたわ」
「それも知らなかった。僕、そんなに凄いことをした覚えはないんだけど」
「そうね。ハグリッドに聞いたら、理由を教えてくれるのかしら」
「後で聞いてみるよ」
ハリーはふとダリアを見た。ダリアはじっとこちらを見ていた。
今までとは少し違った目をしていることに、ハリーは気づいた。
「ハリーってすごいのね。有名人で、お金持ちで、それから……魔法使いで」
ダリアは目を伏せ、黙ってしまった。
何と声をかければいいか、ハリーにはわからなかった。
それっきり喋らないまま歩いていると、ローブや礼服が展示されている店の前にたどり着いた。
「マダム・マルキンの店。ここみたいね」
「サイズの合うやつがあるといいけど」
「ハリー。きっと、採寸からするのよ」
「さいすん?」
「……あたしも中までついて行ったほうがいいのかしら」
「――こんにちは。貴方たちもホグワーツ?」
脇から、ハリーでもダリアでもない声が割り込んだ。
「うん」
ハリーがとっさに返事をすると、声の主は気だるい調子で話しはじめた。
「私のお父様は隣で教科書を買ってて、お母様は杖を見てるの」
ちょっとだけダリアに似ている喋り方だな、とハリーは思った。
「制服の採寸が終わったら、ふたりを連れて競技用の箒を見に行くの。1年生は自分のほうきを持っちゃいけないなんてバカみたいじゃない? お父様にねだって、こっそり持ち込んでやろうと思ってるわ」
ダリアそっくりだ。ハリーは確信した。
声の主はハリーと同じぐらいの年齢の少女だった。
ブロンドの髪を後ろになでつけ、おでこを広く出している。肌は日焼けという言葉を知らないほどに白かった。
「私としたことが、自己紹介を忘れていたわ。私はマルフォイ。ドラセナ・マルフォイよ。あなたは?」
ドラセナはそう言うと笑顔を作り、ダリアに手を差し出した。
「あ……いえ、ホグワーツに入学するのは、あたしじゃなくて」
ダリアは気まずそうに微笑み、ハリーの方へ目をやった。
「あら、失礼」
ドラセナはすぐに手を引っ込めた。
「小汚いからこっちは従者かと思ったわ。じゃあ、あなたは付き添いなのね。もう入学してるの? それとも来年かしら」
「いえ。……あたしには、手紙が来なかったの」
その瞬間、ドラセナの表情が一変した。
排水口に溜まった毛の塊でも見るような目だった。
「うわ、マグルかよ。握手しないでよかった」
ぴしり。
ダリアの笑顔がひび割れる音が、ハリーの耳には確かに聞こえた。
TSするのがダドリーだけと、誰が決めた?