身長、体重と量り終え、結果を見てどうしても微妙な気分になってしまう。
身長は中3時の172センチから1センチ伸びて173センチになっていた。
それはもちろん嬉しいのだけれど、体重も2キロ増えてるのがいただけない。
「うーん…最近、ことあるごとに外食していたからなあ」
思えば由緒正しいインドアをしていた時期は、休日は1食だけというのも珍しくなかった。
(病院食暮らしのときは、アレで健康的な生活してたんだよな)
「ねーえっ、何を考え込んでいるんですか!」
「いや、俺の身長の伸びに対して体重も増えているな、と。」
「身長伸びてるならいいじゃないですか…私身長縮んでましたよ…0.5センチ…」
「それは、まあ…見た目じゃわからんし…」
「でもこの0.5センチが無いと!身長が147センチになってしまうんですよ!!」
「変わるのか?それは」
正直十のくらいの数が変わんないんだったら、別に良いような。
「平均身長あるから言えるんですよ…体重も増えてたし…」
言われてみれば、真恋も以前より少しだけ丸くなった気もする。
といっても、若干細すぎで骨ばっていた分が健康的になっているだけだし。
あとは、うん。あんまり見ないようにしてる部位もしっかり大きくなってる気がする。
「あ、なんか失礼なこと考えてません?」
なんでそういうとこ、鋭いかな。
「そんなワケ無いだろう。前はちょっと心配になる細さだったから、丁度いいんじゃないか?」
「そうですかねえ…なら良いのかなあ」
「ああ、良いんだから。これからもカフェで毎回サンドイッチ食べるといい」
真恋は出かけたときの時間潰しや休憩でカフェに入ると、必ずサンドイッチを注文する。
「ぐぬ…そういうあなたは、毎回頼むココアで糖尿病になってしまえ…」
「そういう本当のやつはやめろ」
自分は自分で、ココアやオレンジを使ったスイーツがあると手が伸びてしまう…
……そりゃあ増えるか。体重。
ていうか元々遅れているのに少し喋りすぎている。急がなければ。
「次、握力か。さっさと行かないとな」
「あ、待ってくださいよ」
握力や細々としたものを順調に測り終え、体育館での最後の測定に来た。
長座体前屈、足伸ばして座って、箱を前へ押す、アレ。
普通は同性同士で測り合ってやるのだが、もう体育館には俺たちを見守る教師が2人のみ。
「真恋さん、私が測ろうか?」
女性の先生がすぐに寄ってきてくれたので、全て解決だ。よしよし。
「いえ、それには及びませんよ。皆さん生徒同士でやっていたのでしょう。私もそれに倣います」
「え?いやマジ?」
「何がですか。じゃあ行きますよ~」
そう言うと、いつの間にか準備を済ましていた真恋が箱を前に押しやる。
いや…身体かったいな…真恋。
「もうちょっと頑張れ、悲惨な数値だぞ」
「え!?むううううううん」
お、少し伸びてきた、伸びてきた。
……ここで完全に失念していたことを思い出した。
今真恋は胸元の緩い体操服で、一応ジャージを羽織ってはいるが暑いからか前は開けている。
……真恋の柔らかさを守る鎧が、見えてしまった。
なんでサポーター的なアレも一緒に着けてないんだ。
よくは知らないがあるだろそういうの!妹の洗濯物くらいでしか見かけたことないけど!
すぐにスイと目線を逸らして、記録取りに専念する。
「…うん、まあまあの記録だな」
「平均行けましたかね?」
「平均を知らんが、真恋の身体はまだ全然畳めそうではあったな」
「うーん、そうですか。うん…?」
「じゃあ次は俺だな」
煩悩を振り切るようにガっと箱を前に押す。勢いだこんなもん。
「おっ、結構伸びるじゃないですか!へえー、あっ」
あっ、てなんだ。あっ、て。
記録を取り終わり、他の測定も大体終わったところでやっと心が落ち着いてはきた。
教師も撤退を始め、俺たちもスポーツテストのために移動を始めるときに真恋が近寄ってくる。
…あのー、見えました?…
!?!???!!?
「な、何がだ?」
「ふふ。分かりました。大丈夫ですよ。誰にも言いません」
それに、私も同じ穴の狢です。
そう言うと、杖と右足を同時に前に出してコケそうになっていた。
「あのなあ…はあ~」
「才人くん、私が全部記録取るので、ちゃっちゃかやっていきましょう」
「おう、どうせ大した記録にもならんからパッパと行くぞ」
スポーツテストはやたら進みが早かった。
なんなら普通にやっていた組の最後尾組には追いつけそうなほどだ。
「これ交代で取ったり、委員にいちいち知らせる手間がないからですよねえ」
「そうだなあ。マジで平均ちょっとくらいの記録を量産しているだけだからな」
「ていうか、普通は委員の仕事なのに私がやらされてたのおかしくないですか」
「今日もやってるじゃん」
「今日は良いんですよ、一人だから行ったり来たりも必要ないし」
「そうかよ、っと」
雑談をしながらボールを投げる。
完全に記録に興味がないやり方しちゃってるな〜。
「おーまた平均ちょい下くらいですね」
「やっぱそんなもんか」
「お、やってるねえお二方」
そこに、もう全て終えたらしい勇気とラブ、そして常田さんが様子を見に来た。
「私はもう見てるだけですけどね」
「真恋、次なんだっけ」
「えーっと…反復横跳びで終わりだと思いますよ」
「そうか。あ、真恋、スニーカーの紐、解けてるぞ」
装具などの関係で紐が解けやすいから、真恋の靴はそこそこ注意して見ている。
ひと月一緒にいた分の癖ってやつだな。
「あ、ほんとだ。じゃあちょっとお願いします」
「んー」
いつもの通り真恋の杖を預かり、腕を貸す。
曰く、調整が利いて倒れにくいからしゃがみやすいらしい。
スッスッと腕を好きに使って装具の調整をしつつしゃがんで、靴ひもを結ぶ様子を見守る。
「……あんたら、普段からこれやってんの?」
「え?ああ、まあそうなるか?回数はそんなにだが」
「たしかに。知らない人が見たら、ちょっとビックリしちゃうかもだねぇ」
え?何にだ?
「普通、座れる台持ってきてあげたりとか、結んであげるとかじゃないか?」
勇気の言葉に二人でハッとする。言われてみればなんかおかしい。
「いやですね、ショッピングモールとかだとベンチ埋まってたり、台とかも無かったりなので…」
「そ、そうだよ。用意が難しいところに慣れちゃっててだな」
「慣れるくらいには、進藤クンの腕使って靴紐直してるんだね」
結構な期間必要だよね、と常田さんに笑顔で詰められる。
誤解です…
「み、皆さん何を言っているんですか。ほらもう結び終わったので行きますよ」
「平静を装ってるけど、真恋さっきまで肩で男の足に寄りかかって体重かけてたんだよね…」
「転ばないためでしょう!あんまり言うなら亜季ちゃん嫌いです!」
プンスカという擬音がよく似合いそうなほどに、顔を赤くしている真恋だが俺は上手く直視できないでいる。
(なんで気づかなかったんだ…?どう考えても、手をつなぐとかよりヤバいじゃないか)
靴紐の硬さは個人で好き嫌いあるからとか、そんな理由で最初やった気がするなあ、たしか。
不純な?考え事をしながら挑んだ反復横跳びの記録はそれはひどいものだった。
「やっとご飯だよぉ…」
「ああ、俺はいつも通り弁当作ってきてるから」
「弁当持ってても学食行こうぜ〜親友〜」
「鬱陶しい、学食は人多すぎんだよ」
「中々釣れないねぇ、きぃくん」
やっとのことで身体測定及びテストの全項目が終わり、昼の時間がやってきた。
このあとは、提出物をある程度まとめて出したりするだけだった気がするが、一応学校タブレットのデータを確認する。
「あら?お一人ですか?」
「真恋か。あの2人なら学食だよ」
「そういうあなたは…タブレット見ながらお弁当ですか。お行儀悪いですよ」
「ほっとけ」
真恋は、俺がつまんでいる冷凍食品と卵焼きだけのお弁当をまじまじと見てくる。
「…なんだよ」
「いえ…では学食に行ってみますね」
「おう、行ってきな」
夏休み中の遊んでいる時期は、一緒に食べるのが習慣化していたなあ。
けど、さすがの真恋でも周り全員他組の状態で弁当を広げる度胸は無かったようだ。
(今日は濃度濃かったから、やっとゆっくり出来てる感覚だな)
真恋は、俺の日常に一つまみだけ入ると言っていたが、あまりにも多くないか?
力士の土俵入りの塩くらい多い気がする。
提出物をまとめながら、少し惜しいことをした気がしていた。