真恋に強引にプリクラを撮らされて、何とか耐えきりゲーセンから脱出した先には、
「え、兄貴…?」
でかい綿あめを持った妹、進藤久遠がちょうどいた。
最悪だ。
久遠に真恋を紹介するにしても、もうちょっと準備をしてからにしたかったのだけど。
「え、もしかして兄貴の彼女さん?」
「彼女ではない!言ったろ!学友だって!!」
「学友はちょっとお硬すぎないですか、才人くん」
「だよねえ。兄貴そういうとこあるから」
なんでもう分かりあってんの君ら。
「ちょっと待って、いま綿あめ食べきっちゃうから…」
「才人くん、妹さんですよね?紹介してくださいよ」
「え、ああ」
急に真っ当なこと言い出すな…
「今そこで必死にカラフルな綿あめに齧り付いてるのが、俺の妹の進藤久遠だ」
「ほうも。ひんぼうふおんです」
綿あめにかぶりついたまま喋るんじゃねえ。
「ぷは。進藤久遠です。兄貴、彼女さんの紹介して」
「彼女じゃねえ。ま、姫路も俺が紹介するのか?」
「お願いしますね?」
「なんなんだよ…えーっと、こっちは学友の姫路真恋だ。つうか場所移したいから早く食え」
いつまで綿あめ食ってるんだ。ていうかそんな綿あめ、この田舎都市のどこにあったんだ。
「今食ってんじゃん…」
久遠が綿あめを食べきる様子を見守る不思議な時間が過ぎていく。
「ふふ、妹さん可愛らしいですね。才人くんに似ています」
「俺に似てるなら駄目だろう。久遠はこれで気の回る妹だよ」
「ふが、マジで、もふ、人が、口離せないときに、褒めるのやめてくんない?」
久遠は、蹴るよ?と言いながら蹴ってくる。先に手を出すな。足だけど。
「ヨシ。食べ終わったし、カフェ行こう。全部話してもらうからね」
「すっげえやだ」
「バカ兄貴には拒否権なし」
「私には拒否権ありますか?」
「んー…無しで」
真恋も拒否権ないんだ…横暴が過ぎるだろ。
「はい、分かりました。じゃあ行きましょうか」
……素直すぎない?
ついさっき真恋と入ったカフェに、今度は久遠を追加して入ることになるとは。
さっきまでのランチタイムよりは人が少なくはなっているが、アーケード街の便利な立地にあるカフェにはまだまだ客がいて店員さんも忙しそうだ。
何人かのさっきにもいた店員さんと目が合うと微妙に怪訝そうな顔をされる。
そりゃそうだ。
「久遠ちゃん、何か食べますか?」
「いいんですか!じゃあハムたまごサンドください」
「ふふ、それさっき才人くんも食べてました」
「じゃあ変えよっかな…」
いいじゃねえか、うまいんだぞ。食えよ。
「君たち初対面だよね?」
「当たり前じゃん。ボケてんの兄貴」
「そうですよ、妹さんいるのもたまたま聞いただけで教えてくれなかったですし」
波長が合いすぎる。ずっと俺だけが負傷してる。
「改めまして、姫路真恋と申します。才人くんとは夏休みから友達になって、同じ障害者仲間として大いに助けられてますよ」
「ふうん。兄貴やるじゃん。こんな綺麗な人とオチカヅキになってるなんて」
だから写真見せるの嫌だったんだ。
絶対に下世話なことしか言わないんだからこの妹。
「どっちかと言うと、私の方から近づいたんですけどね」
「ああ〜まあ、そうだな」
「え、マジで?!この陰キャ引きこもり人嫌いお人好し三白眼ヒョロもやしのどこにそんな魅力が…」
「適当に属性つけすぎてトゲアリトゲナシトゲトゲみたいになってるじゃねえか」
「えーっと、春に病院で見かけて、そこから同学年の男子全員の顔確認して、見つけてからは交友関係から場所特定して待ち伏せしました」
「え、改めて聞くと俺そんな怖い手段で追い詰められてたんだな?」
普通に初耳な部分があるんだけど。
というか真恋もはっきりと自分のやったことを羅列したのは初めてのようで、なかなか見ないくらいに顔が真っ赤になっている。
「え、こわ。兄貴のどこにそこまでやる価値が…」
「結果論ですけど、やった価値はありましたよ」
「真恋、無理しなくてもいいぞ」
「いえ、これも本当のことです。才人くんと知り合ってからやっと自分の左足に意味を持てました」
「まあ見たところ兄貴も満更じゃないっぽいし、いいんじゃないの」
「んあ?まあ真恋は俺には過ぎた友人だよ。」
いろいろあったけど、俺の友人には勿体ない人間なのは確かだ。
あのバカップルもだけど、俺は人には恵まれているのだろう。
「ふーん?ああなってた兄貴がこうなってるの不思議に思ってたけど、なんか納得した」
「俺はお前の中でどうなってたんだよ」
心室細動以降迷惑かけ通しなのは悪いとは思っているが、言い方が常に回りくどい妹だな。
「ねぇ真恋さん、メッセ交換しよ」
「ええ、いいですよ」
仲の進み方が爆速すぎる。なんでそこまで波長があっているんだ。
というか真恋がノリノリすぎるのか?
「変なこと送って困らせるなよ」
「兄貴の写真とかいる?中学時代のとか」
「え、ください」
「直球で変なもん送ろうとしてんじゃねぇ」
ていうか中学時代はマジでやめろ。
まだ小学生のときのほうがマシだ。
真恋も受け取ろうとしてんじゃないよ。要らないだろ。
「おい久遠、お前もちゃんとした挨拶してないだろう」
俺から紹介したときに一応言ってたけど、あんな綿あめまみれはノーカンだ。
「はーい。進藤才人の妹、中2の14歳進藤久遠でーす。今日はクソデカ綿あめをインストに載せるために市内来たらそれどころじゃなくなりました」
「あの綿あめってどこに売ってたんですか?後で買いに行きましょう才人くん」
食いつくところ、そこなんだ?
「デカすぎで堪えそうだから見るだけでいいや」
「一緒に買いに行くんだ?兄貴には辛そうだけど」
「さっきまでもっと辛いところにいたから大丈夫だろ…」
プリクラに比べたら綿あめの荷物持ちなどはなんてことはない。
「その袋、あのゲーセンでしょ?兄貴が入りそうにないとこ」
「あ、あーそうだな。まあ袋のことはいいだろ」
「いっぱいプリクラ撮ったんですよ、見てください」
抵抗虚しく俺と真恋が写ったプリクラが久遠の前に並べられていく。
「うっわ、兄貴真顔多すぎ…せっかくカワイイ人と撮ってるんだからもうちょっと笑顔になりなよ」
「か、カワイイ…」
「お前は、自分の兄貴がヘラヘラしてるプリクラが見たいのか」
「言われてみればあんまり見たくはないね」
キツい。と言い捨ててプリクラを観る作業に戻りやがる。
にゃろう。
「これとーこれ何枚かくれませんか」
「そんなのいるのか…?うーん…俺の袋にもおんなじやつあるからそれから分けるわ」
そんな俺達兄妹の様子を見ながら、真恋は目を細める。
「やっぱり似ていますね。ご兄妹で仲いいのは良いことです」
「……今の兄貴は昔の兄貴みたいだからね」
「俺に昔も今も無いだろう」
実際は、あるのは分かっている。
だけどなんとなく、まだ真恋に俺が一番腐っていた時期を知られたくはない。
それに、それを言うことがあるなら俺の口から言うべきだ。
「何言ってんのさ、あの頃だって」
「久遠ちゃん、言わないでおいてもらえますか?それは私が彼から直接聞くべきものだと思うのです」
……また気を使わせているな。
「すまない、真恋」
それを見ていた久遠は、何故かプリクラを静かに机に置いた。
「んーやめ!あたしには合わないや。こういうの」
へ?なんだ?何を言ってるんだ?
俺が全く分からずに呆然としていると真恋は腑に落ちたという表情をしている。
「やっぱり私を警戒していましたね。ごめんなさい、私もそういうのよくやるから分かるんです」
「警戒…?真恋を……?」
普通警戒するなら俺の方じゃないのか?
「だって、絶対怪しいじゃん。突然兄貴に美少女の知り合いができてさあ、しかもしれっと腕掴んでんの」
言われて見れば真恋は喫茶店で座るまで手を離していなかった。
俺も昨日の雨で地面が濡れて滑りやすくなっているから気にしていなかったな。
「きっと、才人くんのお人好しを食い物にする人を見てきたんですね」
「うん。またあの連中みたいなのだったらどうしようかと思ったよ」
「そしてあなたの推測はある程度当たっています。私はこの人の優しさにつけ込んでますよ」
「お前ら、何を言っているんだよ」
あの連中に心当たりはもちろんある。勇気とラブをバカにして悦に浸っていた俗物。
そして俗物にもなれず、でも勇気とラブと仲良くも出来ず、俺にだけいい顔をしようとした世渡りを頑張っていたやつら。
だがそいつらと真恋は決定的に違うし、その件は俺よりも勇気たちが傷ついたものだ。俺の傷ではない。
俺の傷であってはならない。
「真恋さん、兄貴をよろしくね。こんなんだけど割と小物選びのセンスとかあるよ」
「知ってますよ。この髪飾りはお兄さんから頂いたものです」
「え、うわ。これ渡しといて学友って言い張ってるのマジ…?」
「はっ倒すぞ、久遠てめえ」
キャイキャイとアウェー戦を一時間以上遂行されて、さすがに疲れてきたのでお開きにしたいところだ。
「楽しかった〜。真恋さんたちこれからどうするの?」
「才人くんの化粧水、乳液選びと綿あめですかね」
……完全に忘れていた。そういえば言ってたね、そんなこと。
「えー面白そう!あたしも選んだげる」
「帰れよぉ」
女子2人に抵抗は無意味。強く学んだ日になった。