今回から新たに『五等分の花嫁』×『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』のクロスオーバー作品を投稿していきます!
クロスオーバー作品への挑戦は今回が初めてとなります。
もし、上杉風太郎と比企谷八幡が幼馴染だったら?
そして、そんな二人の間に、誰とでも自然に打ち解けられる少年がいたら?
そんな「もしも」から始まる物語です。
原作のキャラクターらしさを大切にしながら、友情や恋愛、そして少しずつ変化していく人間関係を描いていきたいと思います。
オリジナル主人公を中心とした物語となりますので、その点をご理解いただけますと幸いです。
それでは、第1話をお楽しみください!
夏休みが終わった。
九月に入ったというのに、外では相変わらず蝉が鳴いている。
朝から容赦なく照りつける太陽。
制服のシャツが肌に張りつく感覚に、思わずため息が漏れた。
「……まだまだ暑いなぁ」
僕──長尾景紘は、額の汗を拭いながら旭高校の校門をくぐった。
長かった夏休みも終わり、いつもの学校生活を送っていた。
もっとも。
僕としては、学校が始まること自体はそれほど嫌ではない。
友達と会えるし、身体を動かす機会も増える。
それに、家で過ごすのも好きだけれど、やっぱり誰かと話している方が楽しい。
そんな僕には、小学校時代から付き合いのある二人の親友がいる。
一人は──
「おはよう、風太郎」
「……おう」
教室に入ると、窓際の席で参考書を開いていた親友に声をかける。
上杉風太郎。
学年トップの成績を誇る秀才であり、勉強に対する熱意は誰にも負けない。
ただし。
「朝から勉強?相変わらず熱心だねぇ」
「当然だろ。学生の本分は勉強だからな」
「ははっ。風太郎らしいや」
「お前も少しは勉強したらどうだ?」
「一応、ちゃんとやってるよ?」
「平均点を取るだけで満足するな」
「うーん……耳が痛いなぁ」
このように、勉強に関しては少々厳しい。
いや、少々どころではないか。
僕が苦笑しながら鞄を下ろすと、風太郎が机の上に置かれた一冊の本へ視線を向けた。
「……また歴史の本か?」
「うん?」
「それだ」
「ああ、これ?」
僕は鞄から取り出した本を持ち上げる。
表紙には、甲冑を身につけた戦国武将の姿が描かれていた。
「上杉謙信について書かれた本なんだ。昨日、書店で見つけてね」
「お前、本当に謙信が好きだな」
「うん。何度読んでも面白いんだよ」
「……その熱意を勉強に向ければ、もう少し成績も上がるだろうに」
「ははっ。それは言わないでほしいなぁ」
「事実だろ」
「そうなんだけどね」
僕が笑っていると、後ろから気怠そうな声が聞こえてきた。
「朝から勉強の話とか、お前ら元気だな」
「あ、おはよう。八幡」
「おう」
比企谷八幡。
こちらも小学校時代からの親友だ。
風太郎とは違う意味で頭が良い。
人間観察に長けていて、物事の本質を見抜くことも多い。
ただし。
「そもそも学生の本分が勉強って誰が決めたんだ?俺としては、学生の本分は青春という名の幻想に踊らされないことだと思うんだが」
「……朝から何を言ってるの、八幡」
「真理だ」
「はははっ!相変わらずだねぇ!」
「笑うところじゃねえだろ」
このように、かなりひねくれている。
……うん。
改めて考えてみると、僕の親友たちは少し変わっているのかもしれない。
いや。
少しどころではないか。
「それにしても、八幡。昨日はちゃんと寝た?」
「あ?」
「目の下、ちょっとひどいよ?」
「元からだ」
「いや、それは知ってるけど……」
「おい。さらっとひどいこと言ってないか?」
「ごめんごめん」
僕が笑いながら謝ると、八幡は小さくため息をついた。
そんな八幡を見ながら、ふと思う。
八幡は高校入学式の日に交通事故に遭った。
犬を助けようとして車にはねられ、しばらく入院することになったのだ。
幸い、大きな後遺症は残らなかった。
けれど。
学校に来られるようになった頃には、クラス内の人間関係がある程度できあがっていた。
そのせいもあって、八幡には僕と風太郎以外に親しい友人がほとんどいない。
……まあ。
本人は気にしていないと言っているけれど。
「ねえ、八幡」
「何だ?」
「たまにはクラスの人たちと話してみたら?」
「断る」
「即答だね!?」
「そもそも、何を話せと?」
「趣味とか、好きなものとか?」
「趣味は読書と人間観察。好きなものは平穏な日常と労働のない社会だ」
「……最後のはちょっと違わない?」
「大事なことだぞ」
「ははっ。そうだねぇ」
本当に、この二人は。
「お前、また余計なことを考えてるだろ」
「え?」
八幡がこちらを見ていた。
「どうせ俺たちに友達ができないとか、そんなことだろ」
「……よく分かったね」
「何年の付き合いだと思ってんだ」
「小学校からだから……結構長いね」
「そういうことだ」
そう言って、八幡は窓の外へ視線を戻した。
僕は小さく笑う。
そう。
僕たちは小学校時代からの腐れ縁だ。
風太郎が勉強ばかりするようになっても。
八幡がこんなにひねくれてしまっても。
三人の関係は変わらなかった。
だからこそ。
僕は、この二人にももう少し友達が増えてほしいと思っている。
もっとも。
「景紘。お前、昨日の英語の課題は終わっているんだろうな?」
「……あ」
「おい」
「……ごめん。最後の問題、忘れてた」
「まったく……」
「ははは……」
「人の心配をする前に、自分の心配をした方が良いんじゃないか?」
八幡の指摘に、僕は何も言い返せなかった。
……ごもっともです。
◇◆◇◆◇
昼休み。
午前中の授業が終わり、僕たちは食堂へ向かっていた。
「今日も学食?」
「ああ」
「まあ、風太郎はそうだよね」
「当然だ。安く済ませられるからな」
「俺としては、もう少しまともな食事をした方が良いと思うが」
八幡が呆れたように呟く。
「何を言っている。栄養が取れれば十分だろう」
「お前の食事に栄養があるのか、甚だ疑問なんだが」
「ははっ。まあまあ」
そんな会話をしながら、食堂へ到着する。
昼休みということもあって、食堂は大勢の生徒で賑わっていた。
僕たちは列に並び、それぞれ注文する。
そして。
「おばちゃん。焼肉定食、焼肉抜きで」
……出た。
いつもの注文だ。
「はいよ!二百円ね!」
「どうも」
「……風太郎」
「何だ?」
「何度聞いても不思議な注文だよね、それ」
「何がだ?」
「いや、焼肉定食なのに焼肉がないって……」
「肉を抜けば安くなる。味噌汁と漬物もついてくるんだぞ」
「うん。それは知ってるけどさ」
「なら問題ないだろ」
「……そういうことにしておこうかな」
隣で八幡が小さく笑った。
「景紘。諦めろ。こいつに食事の楽しさを説いても無駄だ」
「八幡、お前まで何を言っている」
「いや、焼肉のない焼肉定食を食ってる奴に言われてもな」
「はははっ!」
本当に、いつもどおりだ。
僕は唐揚げ定食。
八幡は日替わり定食を注文した。
三人分の食事を受け取り、空いている席を探す。
その途中。
「そういえば、風太郎」
「何だ?」
「たまには僕がお弁当を作ってこようか?」
「……は?」
風太郎が怪訝そうな顔をする。
「何だ、突然」
「いや、毎日同じものだと飽きるんじゃないかなって」
「別に飽きん」
「でも、もう少し栄養のあるものを食べた方が良いと思うんだよね」
「余計なお世話だ」
「ははっ。まあ、そう言わずにさ」
僕は笑いながら続ける。
「料理は好きだし、一人分増えるくらいなら大した手間じゃないよ?」
「断る」
「えっ?どうして?」
「お前に毎日作らせるわけにはいかないだろ」
「別に気にしなくて良いのに」
「それに、食費がかかる」
「……そっちが本音かな?」
「当然だ」
……本当に風太郎らしい。
すると。
「……お前ら、夫婦みたいな会話してんな」
八幡がぼそりと呟いた。
「八幡。それはちょっと違うと思うけどなぁ」
「いや、どう聞いてもそうだろ」
「どこがだ?」
「無自覚かよ……」
八幡が額に手を当てる。
僕は思わず笑ってしまった。
「はははっ!」
「何がおかしいんだ?」
「いや、何でもないよ」
そんな会話をしているうちに、窓際のテーブルに空席を見つけた。
ただし、完全に空いているわけではない。
一人の女子生徒が座っていた。
赤みがかった長い髪。
頭には星形の髪飾り。
整った顔立ちをした、可愛らしい女の子だった。
そして、何より目を引いたのは制服だった。
旭高校の制服とは、明らかにデザインが違う。
……転校生かな?
そんなことを考えていると、風太郎が先に歩き出した。
「お前ら、何をしている。早く座るぞ」
「あ、ちょっと風太郎」
僕の声も聞かず、風太郎は女の子へ話しかける。
「おい。ここ、空いてるか?」
「え?」
女の子が顔を上げた。
「……あ、はい。どうぞ」
「そうか」
風太郎は短く答えると、椅子を引いた。
……相変わらずだなぁ。
僕は苦笑しながら、女の子に声をかける。
「ごめんね。僕たちも一緒に座って良いかな?」
「はい。構いませんよ」
「ありがとう」
八幡も軽く会釈して席につく。
さて。
せっかく同じテーブルになったことだし。
「初めまして。僕は長尾景紘。こっちは上杉風太郎と比企谷八幡だよ」
「……どうも」
八幡が小さく頭を下げる。
風太郎は既に食事を始めていた。
……本当にマイペースだね、君は。
「私は中野五月と申します」
「中野さんだね。よろしく」
「はい。よろしくお願いします」
丁寧な子だなぁ。
そんな第一印象を抱く。
「ところで、中野さんって……もしかして転校生?」
「えっ?どうして分かったんですか?」
「制服が違うからね。今日から旭高校に?」
「はい。実は、今日こちらの学校に転校してきたばかりなんです」
「やっぱり。じゃあ、まだ学校にも慣れてないよね」
「そうですね。校舎も広いですし、少し戸惑っています」
「分からないことがあったら聞いてよ。僕で良ければ案内するから」
「ありがとうございます」
五月さんが微笑む。
うん。
話しやすい子だ。
「……景紘」
「ん?」
八幡が小声で話しかけてきた。
「お前、本当に初対面の相手でも平気で話しかけるよな」
「そう?」
「ああ。俺には真似できん」
「ははっ。八幡も慣れればできると思うよ?」
「いや、遠慮しておく」
「もう。そういうところだよ?」
「余計なお世話だ」
そんなやり取りをしていると。
「……お前、よく食うな」
風太郎が突然口を開いた。
視線の先には、五月さんの料理。
「え?」
五月さんが首を傾げる。
「その量、一人で食うのか?」
「はい。そうですが……」
「そうか」
風太郎は一度頷くと。
「太るぞ」
…………。
……あ。
やってしまった。
「…………はい?」
五月さんの笑顔が固まる。
「風太郎」
僕はすぐに声をかけた。
「今のはちょっと失礼じゃないかな?」
「何がだ?」
「いや、女の子に対して太るなんて……」
「事実を言っただけだろ」
「そういう問題じゃないんだけど……」
「そうですよ!」
五月さんが声を上げた。
「初対面の女性に対して、あまりにも失礼ではありませんか!?」
「何を怒っているんだ?」
「怒りますよ!普通は!」
……うん。
これは完全に風太郎が悪い。
八幡も呆れたように額へ手を当てている。
「……風太郎。お前、もう少し言葉を選べ」
「お前まで何だ?」
「いや、さすがの俺でも今の発言はどうかと思うぞ」
「そうだよねぇ……」
僕も同意する。
しかし。
風太郎は納得していない様子だった。
「食いすぎれば太る。それだけの話だろ」
「だから、そういう問題ではありません!」
「……面倒な奴だな」
「なっ……!」
五月さんの顔が赤くなる。
怒りで。
……ああ。
どうしよう。
初対面なのに、最悪の雰囲気になってしまった。
「まあまあ、中野さん。落ち着いて」
「長尾君!今の発言、どう思いますか!?」
「うん。風太郎が悪いと思うよ」
「おい、景紘」
「いや、今のは擁護できないかなぁ」
「……ちっ」
風太郎は小さく舌打ちした。
本当に困った親友だ。
その時だった。
♪♪♪
風太郎の携帯電話が鳴った。
「……ん?」
画面を確認した風太郎の表情が、少しだけ変わる。
「らいはか」
「あれ?らいはちゃんから?」
「ああ」
風太郎は携帯電話を耳に当てた。
「もしもし。どうした?」
どうやら妹のらいはちゃんかららしい。
上杉らいは。
風太郎の妹で、小学生の女の子だ。
僕も八幡も小さい頃から知っている。
素直で優しく、しっかり者。
……正直なところ、兄よりも人付き合いが上手だと思う。
「……何?」
電話の向こうから何かを聞いた風太郎が、驚いたように声を上げた。
「家庭教師?」
家庭教師?
僕は思わず八幡と顔を見合わせる。
「……時給五千円!?」
「ご、五千円!?」
僕まで声を上げてしまった。
周囲の生徒がこちらを見る。
……あ。
ちょっと恥ずかしい。
「本当か!?らいは!」
風太郎の声が弾んでいる。
珍しい。
風太郎がここまで興奮するなんて。
「分かった!詳しい話は後で聞く!」
そう言って電話を切る。
「……風太郎?」
「景紘!八幡!」
「う、うん?」
「俺に家庭教師の仕事が見つかった!」
「へぇ!良かったじゃない!」
「しかも時給五千円だ!」
「いや、待て」
八幡が眉をひそめた。
「高校生の家庭教師に時給五千円って、どう考えても怪しくないか?」
「そうかな?」
「普通に考えれば破格だろ」
「まあ、確かに……」
僕も少し気になった。
けれど。
風太郎はそんなことを気にしていないらしい。
「とにかく、詳しい話を確認してくる!」
「あ、風太郎?」
「先に戻るぞ!」
そう言って、食器を持って立ち上がった。
「ちょっと待って。まだ中野さんに──」
「じゃあな!」
……行ってしまった。
「…………」
「…………」
僕と八幡は、しばらく食堂の出口を見つめていた。
「……なあ、景紘」
「うん?」
「あいつ、謝るという概念をどこかに置き忘れてきたんじゃないか?」
「はは……僕も少し心配になってきたよ」
そして。
「…………」
向かい側では、五月さんが頬を膨らませていた。
……ですよねぇ。
◇◆◇◆◇
「……まったく。何なんですか、あの人は!」
五月さんが不満そうに呟く。
「初対面であんなことを言うなんて……信じられません!」
「うん。ごめんね、中野さん」
僕は苦笑しながら頭を下げた。
「風太郎、悪い奴じゃないんだけど……ちょっと言葉が足りないところがあるんだ」
「ちょっと、ですか?」
「……かなり、かな」
「そうですよね!」
即答だった。
うん。
反論できない。
「でも、中野さんが怒るのも当然だと思うよ。せっかく楽しく食事してたのに、嫌な気持ちにさせちゃったね」
「……長尾君が謝る必要はありませんよ」
「そうかもしれないけど、あいつとは長い付き合いだからさ」
「長い付き合い?」
「うん。小学校からの親友なんだ」
「小学校から……」
五月さんが少し驚いたように目を見開く。
「比企谷君もですか?」
「……ああ」
八幡が頷いた。
「不本意ながら、腐れ縁というやつだ」
「不本意って……八幡、ひどいなぁ」
「事実だろ」
「まあ、そうだけどね」
僕が笑うと、五月さんも小さく微笑んだ。
「ふふっ……仲が良いんですね」
「うん。まあ、いろいろあるけどね」
「いろいろ?」
「風太郎は勉強ばっかりだし、八幡はこんな感じだし」
「おい。俺を何だと思ってる」
「大切な親友だよ?」
「……そういうことを平然と言うな」
「え?何で?」
「何でもねえ」
八幡が顔を背ける。
……変なの。
すると、五月さんが口元に手を当てて笑った。
「ふふふっ」
「あ、笑った」
「えっ?」
「いや、さっきまで怒ってたから。少し安心したよ」
「……もう。長尾君は不思議な方ですね」
「そうかな?」
「はい。でも……」
五月さんは少しだけ表情を和らげた。
「長尾君とは、普通にお話しできそうです」
「それなら良かった」
僕は笑顔で答えた。
「学校のことで困ったことがあったら、遠慮なく声をかけてね」
「はい。ありがとうございます」
「……ちなみに」
八幡が口を開く。
「風太郎にはあまり期待しない方が良いぞ。あいつ、勉強以外のことになると途端に不器用になるからな」
「……それは、何となく分かりました」
「はははっ!」
思わず笑ってしまう。
まったく。
風太郎も、もう少し愛想良くすれば良いのに。
……まあ。
それができたら苦労しないか。
「ところで、中野さん」
「はい?」
「午後の授業、大丈夫?教室の場所は分かる?」
「ええ。今日は案内していただけることになっていますので」
「そっか。それなら安心だね」
僕は時計を確認する。
昼休みも、そろそろ終わりが近い。
「それじゃ、僕たちも戻ろうか。八幡」
「ああ」
僕たちは食器を片付け、席を立った。
「中野さん。また学校で会ったらよろしくね」
「はい。こちらこそ」
「じゃあね」
軽く手を振る。
すると、五月さんも小さく手を振り返してくれた。
……うん。
良い子だったなぁ。
風太郎の第一印象は最悪だったけれど。
僕としては、また話してみたいと思える相手だった。
◇◆◇◆◇
「……で?」
食堂を出たところで、八幡が口を開いた。
「何?」
「どうだったよ、転校生」
「中野さん?」
「ああ」
「良い子だったね。礼儀正しいし、話しやすかったよ」
「そうか」
「八幡は?」
「……まあ、普通じゃねえの」
「ははっ。八幡らしい感想だね」
「何だそりゃ」
僕は笑いながら廊下を歩く。
その時。
「せんぱーい!」
聞き慣れた声が聞こえてきた。
振り返ると、一人の女子生徒がこちらへ駆け寄ってくる。
明るい茶色の髪。
可愛らしい顔立ち。
そして、どこか計算されたような愛嬌のある笑顔。
一色いろは。
僕の中学時代からの後輩だ。
「おや、いろは。どうしたの?」
「どうしたの、じゃないですよー!」
いろはは僕の前で立ち止まると、頬を膨らませた。
「せんぱい、今日のお昼、一緒に食べようと思ってたのに!」
「えっ?そうだったっけ?」
「そうですよー!昨日、連絡したじゃないですか!」
「……あ」
そういえば。
昨日の夜、いろはからメッセージが来ていた気がする。
「ごめん。すっかり忘れてたよ」
「ひどいです!可愛い後輩との約束を忘れるなんて!」
「ははっ。ごめんごめん」
「笑って誤魔化さないでください!」
「じゃあ、今度何か奢るよ」
「本当ですか!?」
……切り替えが早い。
「うん。何が良い?」
「そうですねぇ……じゃあ、今度のお休みに一緒に出かけません?」
「良いよ。どこに行きたい?」
「えへへ。それは後で考えます♪」
いろはが満足そうに笑う。
まったく。
相変わらずちゃっかりしている。
「……景紘」
隣から八幡の声がした。
「ん?」
「お前、完全に手玉に取られてないか?」
「そうかな?」
「そうだろ」
「もう、比企谷先輩。人聞きの悪いこと言わないでくださいよー」
いろはが八幡へ笑顔を向ける。
「わたしはただ、せんぱいと仲良くしたいだけですよ?」
「……さいですか」
「はい♪」
八幡が小さくため息をついた。
僕は思わず笑ってしまう。
「ははっ。八幡もいろはには敵わないね」
「お前が甘すぎるんだよ」
「そうかなぁ?」
「そうだ」
いろはとは中学時代からの付き合いだ。
当時からよく話していたし、休日に一緒に出かけることも珍しくなかった。
高校が同じになってからも、その関係は変わっていない。
もっとも。
「そういえば、いろは」
「はい?」
「今日は葉山君と一緒じゃないんだね」
「えっ!?」
いろはの表情が一瞬で変わった。
「な、何でそこで葉山先輩が出てくるんですか!?」
「いや、最近よく話してるみたいだから」
「そ、それは……」
珍しく言葉に詰まるいろは。
……分かりやすいなぁ。
いろはが葉山隼人君に好意を持っていることは、何となく気づいている。
葉山君は同じ二年生で、サッカー部に所属している。
僕とはクラスは同じだが、出身中学校は違う。
ただ、教室や廊下で会えば軽く話す程度の関係だ。
所謂グループが違うというやつである。
「葉山先輩とは、別にそういうんじゃないですからね?」
「うん?」
「だから!変な勘違いしないでください!」
「ははっ。分かってるよ」
「……本当ですかぁ?」
「もちろん」
僕が笑うと、いろはは少し不満そうに唇を尖らせた。
……何か変なこと言ったかな?
「……はぁ」
隣で八幡がため息をつく。
「どうしたの、八幡?」
「いや。お前ら、いろいろ大変そうだなと思ってな」
「何が?」
「……何でもねえよ」
……?
よく分からない。
「それじゃ、せんぱい!」
いろはが僕の袖を軽く引っ張った。
「今度のお休み、ちゃんと空けておいてくださいね?」
「うん。分かったよ」
「約束ですよ?」
「もちろん」
「えへへ♪」
いろはが嬉しそうに笑う。
「じゃあ、また後で連絡しますねー!」
そう言って、小走りで去っていった。
その背中を見送りながら、僕は小さく笑った。
「相変わらず元気だねぇ」
「……お前もな」
「え?」
「いや、何でもねえ」
八幡はそれ以上何も言わず、教室へ向かって歩き始めた。
僕もその後を追いかける。
今日も、いつもと変わらない学校生活。
風太郎がいて。
八幡がいて。
いろはがいて。
そして、新しく出会った中野五月さん。
少しだけ、いつもと違うことがあった。
けれど。
この時の僕は、まだ知らなかった。
今日出会ったあの女の子が。
そして、彼女と同じ顔をした四人の姉妹が。
これからの僕たちの日常を、大きく変えていくことになるなんて。
──もちろん。
そんな未来を知る由もない僕は。
「八幡、午後の授業って何だっけ?」
「数学」
「……あ」
「どうした?」
「風太郎に課題を見せてもらうの、忘れてた」
「…………」
「…………」
「……お前、人の心配してる場合じゃねえな」
「ははは……本当だね」
いつもどおり。
親友と笑いながら、教室へ戻るのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
初めてのクロスオーバー作品、第1話はいかがでしたでしょうか?
今回の主人公は、オリジナルキャラクターの長尾景紘。
勉強一筋の上杉風太郎。
ひねくれ者の比企谷八幡。
そんな個性の強い二人と幼馴染である景紘が、これから物語の中心となっていきます。
第1話では中野五月との出会いに加え、『俺ガイル』から一色いろはも登場しました。
風太郎と五月の第一印象は、案の定というべきでしょうか……(笑)
そして、景紘に対して遠慮なく甘えてくるいろは。
今後、残る四人の姉妹も登場し、彼らの日常は少しずつ賑やかになっていきます。
特に、風太郎と八幡という正反対の二人が、五つ子たちとどのような関係を築いていくのか。
その辺りも楽しみにしていただければ嬉しいです!
まだまだ始まったばかりの物語ですが、友情も恋愛も、じっくり丁寧に描いていくつもりです。
もし今回のお話を読んで「続きが気になる!」「このクロスオーバー、面白そう!」と思っていただけましたら、お気に入り登録や評価で応援していただけると、とても励みになります!
また、感想も大歓迎です!
「このキャラクターの絡みが楽しみ!」
「この三人の関係が好き!」
そんな一言でも、作者としては本当に嬉しいです。
皆様と一緒に、この物語を育てていけたらと思っています。
それでは、次回もよろしくお願いいたします!