古代?中世?残念。近代です!神魔と綴る近代史 作:暇つぶし放浪記
ドンドンドン。
扉を強く叩く音に目を覚ます。
誰だよ、気持ちよく昼寝してたのに。
欠伸を噛み殺しながら、玄関の方に向かう。
「おい!早く出ろ!」
この声はエドさん?
玄関ホールに切羽詰まった声が響く。
普段は飄々として取り乱すことなんて殆どないのに。
嫌な予感がする。
もう目の前なのに、玄関扉までがやけに遠く感じた。
意を決して前へと踏み出し、扉を開ける。
「遅い!」
すると、掴みかかるような勢いで怒鳴りつけてきた。
その形相は悪鬼に似て、蓄えた髭が頬のひきつけに合わせて小刻みに揺れている。
「どうしたんです?」
戸惑いながらも、硬く、鋭い声で問う。
ただならぬことが起きていることはもう理解出来ていた。
「エリザさんが銃で撃たれた!」
なっ!?
だが、事態は想像を絶していた。
どうして?なんで?意味が分からない。俺の存在がバレた?有りえない。商売仇による工作?保守派の仕業か?だとしたら、どうしてエドさんが知ってる?エドさんが刺客の可能性。それもない。目撃者だと仮定して、そんな人目があるところで事を起こすのか?足がつく可能性もあるのに。
幾つもの可能性が頭に浮かんでは消え、思考が堂々巡りする。
立ち竦んだまま放心するアルスの肩を掴み、
「アルマダ人の二人組だ!」
エドワードは矢継ぎ早に言葉を叩きつける。
数日前の路地裏の男たちの顔が頭に浮かんだ。
「あいつら、急に撃ちやがった!俺がお前に目に物見せてやるってエリザさんに服を新調してもらおうって店に向かってたら――ってちげぇ!何言ってんだ!俺!くそっ!」
自分の額を拳で殴りつけ、腹立たし気に短い髪をかきむしる。
酷く動揺しているようだった。
「兎に角、病院に行くぞ!表に車を待たせてる!」
腕を引っ張りながら、門の前に止まる馬車を指差す。
アルスは気の抜けた表情でそれに従った。
道中、不思議と心は落ち着いていた。
それでいてまるで現実感がなく、時間の経過さえ曖昧だった。
酷く長い時間が経ったような気がする。
ようやく病院が見えてくる。
「悪い、先行く。」
まだ止まっていない馬車から飛び降りる。
落下の衝撃を膝を折り畳んで吸収し、素早く前に踏み込む。
そのまま矢のような速度で病院の入口へと直行する。
中に入ると脇目も振らずに受付に押し掛ける。
「すみません!エリザベス・ウェルズという女性がこの病院に運ばれたと思うんですけど!どこにいますか!」
殆ど叫んでいるのと変わらない声量だった。
周囲の人の眼差しが背中に刺さるが、知ったことではない。
ふと肩に手が置かれた。
振り向けば、白衣の男が立っている
「こちらに。」
人のいない場所へと案内しようとする。
それだけでもう分かってしまった。
「……死んだんですか?」
苦虫を嚙み潰したように男の顔が歪む。
そうか。死んだのか。
他人事のように思う。
思考から起伏が無くなっていく。
この世界の全てが鮮明になり、あらゆるものが数式のように
今ならなんだって出来そうな気がする。
「――どうして俺は生きているんだろう。」
もう何をしても意味がないのに。
刹那、アルスの右腕が勢いよく跳ねる。
そのまま首へと飛びつき、万力のように締め上げる。
「なにをっ!?」
男がぎょとして、止めようとするが、手はびくともしない。
それどこか次第に力を強め、首の骨をへし折ろうとしていた。
「あが……が……」
息が苦しくなってきた。
意識が朦朧とする。
自分で手を動かしているのか、それとも勝手に動いているのか、それさえ分からない。
どうでもいい事でもある。
あと少しで全てが終わるのだから。
「やめろ!!」
つい聞いたばかりの怒声の後に横合いから強い衝撃がやって来る。
ふらつく足では堪え切れず、地面になぎ倒された。
その拍子に腕が外れ、新鮮な空気が入ってくる。
視界は真っ白に染まっていて、意識は朦朧としている。
「……おかあさん。」
古い記憶の残滓が蘇る。
まだ何も知らなかった頃の記憶。
彼女を無邪気に母と慕い、手を繋いで街を歩いている。
ずっと思い出すことも出来なかったのに。
何とかそれを掴もうと震える手を伸ばし――世界が黒に染まった。
頑張って毎日投稿をしていますが、次はちょっと本腰を入れたいところなので、多分、遅れます。(今回の話は次の話の余韻を殺す可能性があったので、単体で出しました。序盤に比べ、徐々に文字数が減ってしまっているので、頑張ろうとは思ったのですが、これが限界でした。)