古代?中世?残念。近代です!神魔と綴る近代史 作:暇つぶし放浪記
13話 エドワード
軍を辞めてから二週間が経った。
馬鹿みたいに忙しい毎日だった。
エリザの葬式や遺産整理、関係者に対する連絡などやるべきことが山積み。
なのに、やりたい事も沢山あって、スケジュールはパンパン。
結果、殆ど眠れなくて、最後の方は歩く屍みたいになっていた。
もっとも、そのお陰もあってか今日からは自由に動くことが出来る。
大きな
「どこか行くんですか?」
すると、玄関ホールでバアラトとすれ違う。
彼女はこちらを見回した後、首を傾げて訊く。
「ちょっとな。これからやりたいことに必要だから知り合いの所を回ってくる。」
革鞄をパンと軽く叩く。
この中身がこれからの計画の主翼を担うものだ。
いずれこの国の全てを焼き尽くしてしまう大火になる代物だが、今はまだ種火でしかない。
少しばかりテコ入れをしてやる必要があった。
ふむと顎に手を当て、バアラトは思案気にする。
そして、同行を申し出た。
「それなら私も付いていってもいいですか?邪魔はしませんので。」
「良いけど、そんな面白いものじゃないぞ?」
「それは私が決めることです。それに貴方から説明されるのを待っていたら、いつの間にか終わってたなんて可能性もありそうですし。」
「……もしかして、この二週間、放置状態だったこと怒ってる?」
「怒っていませんよ。忙しかったんですよね。計画があるって言ってたのに、一向に説明してくれない事も、勝手に色々進めちゃってる事も、忙しかったなら仕方がありません。」
うん、怒られて当然だったわ。
報告・連絡・相談の要素、全部無視したんだから。
バツが悪そうに横髪を掻くと、彼女は悪戯っぽくべっと舌を出す。
もっとも、本当に怒っていたわけではないのか、或いはこちらの困り顔を堪能して溜飲を下げたのか、すぐに「冗談ですよ」と笑ってくれたが。
それから玄関扉に鍵をかけ、家を出る。
向かったのは繁華街の方だった。
馬車に乗って移動し、目的地の近くで降りる。
あとは歩きになる。
幸い、十時頃の人通りはそこまでなく、並んで歩くにも余裕がある。
「ここだな。」
足を止めたのは二階建ての酒場の前。
例に漏れず煉瓦造りの建物で、アーチ窓の下にある吊り看板には『アルビオン』という店名とエールハウスの文字が刻まれている。
中に入るとベルの音が出迎える。
テーブル席には数名の男が座っていて、熱心に議論を交わしている。
耳に入る限り、最近の女性の傾向などという俗っぽい内容だった。
小さく鼻を鳴らし、カウンターの方に向かう。
この店の主人は驚いたように目を丸くしたが、今度は嬉しそうに髭に覆われた口角を持ちあげた。
「よぉ!久しぶりだな!元気してたか!」
「お陰様で。この前は色々面倒かけてすみませんでした。」
「良いってことよ。こっちもお前には散々、世話になったからな。それよりお前が立ち直ってくれて、本当に良かった。」
主人はカウンター越しにアルスの肩を叩き、うんうんと大きく頷く。
嬉しそうに細められた目は微かな湿り気を帯びている。
大袈裟だとは言えなかった。
エリザベスを失ったばかりのアルスは生きる気力を失った抜け殻であったし、そうでなくとも一度、自死しようとしている。
心配するなと言う方が無理な話だ。
少し鬱陶しく感じたが、甘んじて受け入れる。
彼は目元を素手で拭って、ふぅと大きく胸を下げた。
そして、視線をアルスから置いてきぼりになっているバアラトへと。
「そこのお嬢さんはエリザさんの店に来てた子だな?」
「はい。あの時はエリザさんの事を教えてくれてありがとうございました。」
「礼を言うのはこっちの方だ。見た感じ、こいつが立ち直れたのはお嬢さんのお陰みたいだし。」
相変わらず、鋭い。
その洞察力に思わず舌を巻く。
やや飛躍しがちではあるが、その推察には常に彼なりの根拠があり、今回もエリザを失った後のアルスが誰かと一緒にいるということを解釈しての結論なのだろう。
「改めて、俺の名はエドワード・メイソン。こいつを救ってくれてありがとう。」
ニカ
軍を辞めてから二週間が経った。
馬鹿みたいに忙しい毎日だった。
エリザの葬式や遺産整理、関係者に対する連絡などやるべきことが山積み。
なのに、やりたい事も沢山あって、スケジュールはパンパン。
結果、殆ど眠れなくて、最後の方は歩く屍みたいになっていた。
もっとも、そのお陰もあってか今日からは自由に動くことが出来る。
大きな
「どこか行くんですか?」
すると、玄関ホールでバアラトとすれ違う。
彼女はこちらを見回した後、首を傾げて訊く。
「ちょっとな。これからやりたいことに必要だから知り合いの所を回ってくる。」
革鞄をパンと軽く叩く。
この中身がこれからの計画の主翼を担うものだ。
いずれこの国の全てを焼き尽くしてしまう大火になる代物だが、今はまだ種火でしかない。
少しばかりテコ入れをしてやる必要があった。
ふむと顎に手を当て、バアラトは思案気にする。
そして、同行を申し出た。
「それなら私も付いていってもいいですか?邪魔はしませんので。」
「良いけど、そんな面白いものじゃないぞ?」
「それは私が決めることです。それに貴方から説明されるのを待っていたら、いつの間にか終わってたなんて可能性もありそうですし。」
「……もしかして、この二週間、放置状態だったこと怒ってる?」
「怒っていませんよ。忙しかったんですよね。計画があるって言ってたのに、一向に説明してくれない事も、勝手に色々進めちゃってる事も、忙しかったなら仕方がありません。」
うん、怒られて当然だったわ。
報告・連絡・相談の要素、全部無視したんだから。
バツが悪そうに横髪を掻くと、彼女は悪戯っぽくべっと舌を出す。
もっとも、本当に怒っていたわけではないのか、或いはこちらの困り顔を堪能して溜飲を下げたのか、すぐに「冗談ですよ」と笑ってくれたが。
それから玄関扉に鍵をかけ、家を出る。
向かったのは繁華街の方だった。
馬車に乗って移動し、目的地の近くで降りる。
あとは歩きになる。
幸い、十時頃の人通りはそこまでなく、並んで歩くにも余裕がある。
「ここだな。」
足を止めたのは二階建ての酒場の前。
例に漏れず煉瓦造りの建物で、アーチ窓の下にある吊り看板には『アルビオン』という店名とエールハウスの文字が刻まれている。
中に入るとベルの音が出迎える。
テーブル席には数名の男が座っていて、熱心に議論を交わしている。
耳に入る限り、最近の女性の傾向などという俗っぽい内容だった。
小さく鼻を鳴らし、カウンターの方に向かう。
この店の主人は驚いたように目を丸くしたが、今度は嬉しそうに髭に覆われた口角を持ちあげた。
「よぉ!久しぶりだな!元気してたか!」
「お陰様で。この前は色々面倒かけてすみませんでした。」
「良いってことよ。こっちもお前には散々、世話になったからな。それよりお前が立ち直ってくれて、本当に良かった。」
主人はカウンター越しにアルスの肩を叩き、うんうんと大きく頷く。
嬉しそうに細められた目は微かな湿り気を帯びている。
大袈裟だとは言えなかった。
エリザベスを失ったばかりのアルスは生きる気力を失った抜け殻であったし、そうでなくとも一度、自死しようとしている。
心配するなと言う方が無理な話だ。
少し鬱陶しく感じたが、甘んじて受け入れる。
彼は目元を素手で拭って、ふぅと大きく胸を下げた。
そして、視線をアルスから置いてきぼりになっているバアラトへと。
「そこのお嬢さんはエリザさんの店に来てた子だな?」
「はい。あの時はエリザさんの事を教えてくれてありがとうございました。」
「礼を言うのはこっちの方だ。見た感じ、こいつが立ち直れたのはお嬢さんのお陰みたいだし。」
相変わらず、鋭い。
その洞察力に思わず舌を巻く。
やや飛躍しがちではあるが、その推察には常に彼なりの根拠があり、今回もエリザを失った後のアルスが誰かと一緒にいるということを解釈しての結論なのだろう。
「改めて、俺の名はエドワード・メイソン。こいつを救ってくれてありがとう。」
にっと人懐っこい笑みを浮かべ、白い歯を見せる。