突然、変な生き物が現れ「君を魔法少女にしてあげるだっちゅ」と言ってくる。
こんな怪しい誘いに、乗っていいのか……!?
※この作品はカクヨム、なろうにも投稿しております
俺の街には、たまに怪物が現れる。
そして、そのたびに魔法少女が怪物を倒してくれる。
その姿を見るたびに、俺も魔法少女になりたいと思った。
……男だけど──。
「はあ、宿題めんどくさいなあ。当たり前だけど高校の宿題って、中学より難しくてやる気が……宿題はあとでいいや。スマホ見よ」
俺は宿題を後回しにして、SNSを開いた。
いろいろな情報があるが、俺のお目当ては一つだけだ。
「おっ、また怪物出たけど、もう魔法少女が倒してくれたんだ。さすがだなあ〜」
魔法少女の活躍を見ると、宿題なんてどうでもよくなる。
特に、薔薇のような鮮やかな赤色のドレスをまとった魔法少女が俺のお気に入りだ。
そして、活躍を見るたびに俺はこう思う。
「俺も魔法少女になって怪物を倒したいっ」と。
「まっ、俺は男だけど。さて、やるか……」
そんなことを呟き、宿題に取り掛かろうとした時だった。
「コンッコンッ」という、なにかがぶつかっているような音が、窓の外から聞こえてくる。
最初、俺は虫かなにかが突っ込んできているのだと思い、無視していた。
だが、その音は静まることなく、むしろどんどん激しくなっていく。
「せっかく宿題やろうとしてたのにうるさいなあ……虫だったらスプレーかけるか」
俺は騒音を消すために、殺虫スプレーを手に持ちカーテンを開けた。
だが騒音の正体は、虫ではなく別のものだった。
「な、なんだ……この生き物……」
それは、二十センチほどの、薄桃色の毛に覆われた謎の生物だった。
さらに、うさぎのような耳があり、背中には翼まで生えている。
「これ、もしかして怪物……?だ、だとしたらまずいよ……は、はやく誰か呼んでこないと」
そして、俺がカーテンを閉めようとすると、
謎の生き物が喋りかけてきた。
「待つだっちゅーっ」
「う、うわあああ。しゃ、しゃべったあッ」
「僕は怪しいものじゃないだっちゅ。君にお話があって来たちゅ。だから、この窓開けてほしいちゅ」
「怪しい生き物の言葉なんて信じられるかっ。い、言っとくけど、か、怪物なんて怖くないぞ。この街には魔法少女がいるんだからなっ」
俺はとりあえず、カーテンを閉めようとした。
すると、また怪しげな生き物が喋りかけてくる。
「その魔法少女に関する話なんだちゅ。君、魔法少女になりたいんちゅよね?」
思わず、カーテンを閉めようとする手が止まった。
「な、なんでそれを……」
「外に声が漏れてたっちゅ」
「……マジで?」
「マジっちゅ」
声が漏れていたという恥ずかしい事実に、思わずのたうち回りそうになったが、
なんとか耐え、俺は生き物に疑問を投げかけた。
「漏れてたのは……まあいいや。それより、なにが目的だ」
「……単刀直入に言うと、君を魔法少女にしにきたちゅ。そのためにも、窓開けて欲しいちゅ」
「……それ、本当か」
「本当だっちゅー」
前からなってみたいと思っていた魔法少女、それになれるという嘘くさい話。
なれるという保証はゼロで、言ってる奴も怪しい生き物。
まともな人間なら、絶対に窓を開けないだろう。
だが……俺は、それを頭の中で分かっていつつも、
魔法少女への憧れが、俺の警戒心をあっさり吹き飛ばした。
「ふう、ようやく入れたっちゅ」
(なにやってんだ俺。意味わからんやつを家に入れちまったぞ。もしこいつが嘘ついてる怪物だったら……)
俺が、数秒前の行動を後悔していると、
生き物は、どこからともなく注射器を取り出した。
「な、なんだよそれ」
「マジカルパワー注射ちゅ。じゃあ早速いくっちゅよ〜」
「え、まっ、心の準備が──」
……気絶していたのだろうか、目が覚めると、俺は床に倒れていた。
「くそ……あいつ、やっぱり騙してたんだな。まあ、入れた俺も悪いけど……ん?」
起きあがった俺の視界に、ふと鏡が入り、
そこに映っていた自分を見て、俺は言葉を失った。
薄桃色を基調としたドレス。
胸元には小さなリボンが結ばれ、腰から広がるスカートには、何枚もの薄い布が重なっている。
そして、長い袖の先には白い手袋。
足元には、ドレスと同じ薄桃色のブーツ。
……これは、何度も街を救ってきてくれた、魔法少女の衣装そのものだ。
「……マジか」
鏡の中にいるのは、どう見ても魔法少女だった。
テレビやスマホで何度も見てきた、あの魔法少女。
それが今、鏡の中にいる──。
「俺が……魔法少女……」
思わず鏡に近づく。
髪もいつもより少し長くなっていて、見慣れた自分の顔なのに、どこか別人のように見える。
俺は恐る恐る、その場で一回転してみた。
スカートと髪がふわりと舞う。
「……すっげえ」
嬉しくなって、もう一回転する。
ふわっ。
「すっげええええっ」
思わず叫んでしまった。
ただ、一つだけ問題がある。
「……ちょっとスースーするな、これ。よく魔法少女は耐えれるな」
俺はスカートの裾を押さえながら、少しだけ恥ずかしくなった。
そんな風に、俺が自分の姿に驚いていると、生き物が喋りかけてきた。
「あ、おはようっちゅ。魔法少女になれたみたいっちゅね」
「おい、こ、これどういうことだよ。説明しろおっ」
俺は生き物を両手で掴み、上下に揺さぶった。
「せ、説明するから、やめてくれっちゅ〜」
それを聞いた俺は手を離し、生き物の説明を聞いた。
どうやらこいつは、本当に俺を魔法少女にしてくれたらしい。
この町では現在、深刻な魔法少女不足に陥っていて、新しい魔法少女が必要だったそうだ。
「……不足してるのは分かったけど、なんで俺なんだ。俺、男だぞ」
「知ってるちゅ。でも君は口調が男っぽいけど、見た目がナヨっとして、顔もまあ女の子と言えば女の子かな? くらいの感じだから、誤魔化せると思ったっちゅ」
「今すごい馬鹿にされた気がするけどいいや……てか、誤魔化せるってなんだよ」
「魔法少女は本来、女子以外がなることを禁じられているのだけど、魔法少女適正のある女子が、OKしてくれなかったんだちゅ」
その時、俺は「なんて勿体無いんだ」と思った。
せっかく魔法少女になれるのに、どうしてならないんだ?
「まあとにかく、女子の代わりに女の子っぽい君をスカウトしたちゅ。あ、これあげるちゅ」
生き物は、広辞苑……いや、それ以上の厚さの本を出してきた。
「な、なんだその分厚い本……てか、どこから出したんだ?」
「ちっちゃいことは気にするなっちゅ。この本は『魔法少女六法』と言って、魔法少女のルールが書いてある本ちゅ」
「……それがどうかしたのか?」
「簡単に言うと、この本に書いてあるルールを守らないと君は死ぬ」
その一言に、思わず「は?」という声が漏れた。
「どういうことだよおっ、こんな分厚い本のルールなんかテキトーにやってても破っちゃうだろおっ」
「お、落ち着くっちゅ。さっき言ったちゅよね『魔法少女は女子以外禁止』って」
「まあ……」
「実はこの本にも同じルールが書かれてるだっちゅ。でも君は死んでない。これがどういうことか分かるっちゅ?」
「……どういうことだ?」
「はあ、察しの悪いお前に教えてやるちゅ。僕以外に男だとバレなければ……」
生き物が続きを話そうとしていると、突然外から地響きのような音がしてきた。
俺が気になって音のする方向のカーテンを開けると、外で巨大なゴーレムのような怪物が歩いているのが見えた。
「か、怪物だっちゅーッ。話は後っちゅ、倒しにいくっちゅーッ」
「え、わ、分かったっ。魔法少女としてきっちり倒してやるよッ」
俺は初の戦闘に、少し心を躍らせながら、
窓を開け、そこから飛び出して怪物の方へ向かった。
怪物の元に着いたが、人の気配は感じられない。
「はあ、活躍を見せる観客がいないのが残念だな。やい怪物。お前はこの俺が倒してやるぜ」
「グオオ……グオオオッッッ」
巨大な怪物は、俺の言葉に反応したのか、大きく口を開け叫んだ。
その隙に、俺は怪物の懐へ潜り込んだ。
「これで終わりだあっ、マジカルパーンチッ」
渾身の一撃を、隙だらけの怪物に打ち込んだ。
しかし、怪物には全く効いていない。
それどころか、俺の拳が砕けたような、そんな不吉な音がした。
「え、嘘だろ……一撃で砕けるとかそんなの……」
「あ、危ないだっちゅーっッ」
「えっ」
俺が砕けた拳に気を取られている間に、
怪物は巨大な拳を、俺に向けてきた。
気がついた時には、すでに拳が俺の胴体の目前まで迫っていた──。
拳が体にめり込み、何かが砕ける音がして、全身を激痛が駆け抜けていく。
……なんとなく、今なら魔法少女にならなかった女子の気持ちがわかる気がする。
こんな……痛い思いをすると知っていたら、俺もきっと窓を開けなかっただろう──。
──意識が飛んでいたのか、気づくと俺は瓦礫の中にいた。
きっと吹っ飛ばされ、建物に突っ込んだんだろう。
街を守るための魔法少女なのに、逆に街を壊すなんて、魔法少女失格だ。
「だ、大丈夫だちゅか」
生き物が、心配そうに俺に駆け寄ってきて、
俺の体を引っ張り、立ち上がらせようとする。
だが俺の体は、さっきの一撃でもう力が入らない。
そうこうしていると、怪物がこちらへ近づいてきて、
俺の目の前まで来ると歩みを止め、倒れている俺に向かって、拳を振り下ろした。
(ああ、俺、死ぬんだ……)
そんなことを考え、死を覚悟すると、
どこからともなく声がした──。
「そこまでよ、あなたの相手はこの『マジカルクイーン』よ」
その声に反応したのか、怪物は俺に拳を下ろすのをやめ、
声の方向へ拳を向けた。
俺も力を振り絞り、その方向を向くと、
そこに立っていたのは、俺とよく似たデザインのドレスを着た魔法少女だった。ただし、俺のドレスが薄桃色なのに対して、彼女のドレスは──とても鮮やかな、赤色だった。
「グオオオオオオッッッッッ」
「消えなさい『マジカルイレイザー』」
魔法少女がそう唱えると、周囲から光が集まり、
怪物に向けて、その光が照射された。
「グオッグオオオオオ──ッ」
光を浴びた怪物は断末魔を叫びながら、跡形もなく消滅した。
(す、すごい。あの怪物を一瞬で消し去るなんて……。俺もあんな風になりたい……)
そう思いながら、魔法少女を見つめていると、
こちらにやってきた。
「あなたも魔法少女なの? ごめんね、助けが遅くなって……」
「い、いいんです。それより助けてくれて、ありがとうございます」
「これが私の仕事だからね。さあ手当てしてあげるわ」
すると、魔法少女は俺に向かって両手をかざした。
手をかざされていると、痛みが引いてくる。
どうやら、なにかエネルギーを送ってくれているようだ。
やがて、俺は動ける程度に回復した。
「あ、ありがとうございました」
「ふふ、いいのよ。そういえばあなた、見慣れない魔法少女ね」
「え、あ、そうなんですよ。新入りで……」
「そっか。それと聞きたいことがあるのだけれど」
「……? なんですか」
「君、男の子だよね?」
「……え?」
「どうして分かったんですか?」
そう尋ねようとした瞬間、生き物がものすごい勢いで俺の口を塞いだ。
「ふぁ、ふぁにふんふぁ(な、なにすんだ)」
俺は口を塞がれたまま抗議したが、
そんなことは意に介さず、生き物はなにかを唱えた。
「マジカルテレポートっちゅッッ」
──気づくと、俺は自分の部屋へ戻っていた。
「な、急になにすんだよっ。あと、テレポートあるなら最初から使ってくれよ……」
「こ、これはめちゃくちゃ疲れるんだちゅ。それと、君に伝えなきゃいけないことがあるだちゅ……」
「なんだよ」
生き物は一旦深呼吸をし、落ち着いてから話し始めた。
「行く前に言い損ねたけど、君が男だってバレたら君は死ぬ。僕も同じだちゅ」
「は、はあっ? そもそもなんで男はダメなんだよ?」
「六法にそう書いてあるからっちゅ」
「そもそも魔法少女六法ってなんだよっっ」
「六法は六法でちゅ」
「それは説明になってねえぞっ」
俺が生き物に詰め寄ると、目を閉じながらこう言った。
「て、テレポートで疲れたちゅ〜、一旦寝るちゅ……」
そのまま、生き物は眠りにつきやがった。
……とにかく、こうして俺は憧れの魔法少女になった。
男だとバレたら死ぬ、という最悪のおまけ付きで──。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
普段は男の娘学園ラブコメを執筆しているので、
よければそちらも覗いてみていただけると嬉しいです!