どうも、社畜から無職へです。
今回はジオン水泳部達です。
このお話は無職とAIの妄想と自己満足の凝固物です。
勘違いや解釈違いが在るかもしれませんがお許しを。
ダメな方はプラウザバック推奨。
笑って赦せる寛大な方のみ、お読み下さい。
酔っぱらいの愚痴なので台詞がクドくて読みにくいです。
海底の深く、遮光層を完全に抜けた暗黒の底に、その店はある。
看板代わりに掲げられた錆びかけの潜望鏡と、鈍く光るネオン。「BARマッドアングラー」。
ここは、一年戦争からこっち、地球のあらゆる泥水と深海を這いずり回ってきた水陸両用MS……通称「水泳部」の面々が、夜な夜な集まってはオイルを煽り、日頃の酷使に対する愚痴をこぼし合う、秘匿された社交場である。
今夜も、水圧に耐え抜いた強者たちの重苦しい駆動音が、店内に響いていた。
第一章:湿気と錆と、終わらない塩害
カウンターの端で、琥珀色の最高級冷却水を一気に飲み干したのは、巨体を縮めるようにして座るゴッグだった。
「やってられん!本当にやってられんぞ!!」
ゴッグは強靭なネイルの先端で、退屈そうにコースターをつついた。ズゴゴ、とモノアイが不機嫌そうに左右に揺れる。
「どうしたんだ、ゴッグの旦那。お前さんといえば、頑丈さ(だけ)が取り柄の、水泳部の不動のエースじゃないか」
隣で安物の潤滑油をチビチビと舐めていたアッガイが、大きな頭を傾げながら声をかけた。体育座りのような姿勢でカウンターに収まる姿は、一見すると愛くるしいが、その駆動系は金属疲労で悲鳴を上げている。
「エース? 笑わせるな」
ゴッグは重い金属音を立ててグラスを置いた。
「世間は『装甲が厚い』だの『ガンダムのハンマーを受け止めた』だの、過去の栄光ばかりを語りおる。だがな、その分のツケがどこに回っているか知っているか? 全部この関節のシーリングだ!
上層部は『水陸両用なんだから、ちょっとくらい陸に上がっても平気だろ』と、ジャブローの湿地帯から砂漠のど真ん中まで、どこにでも俺たちを投入しやがる。砂漠だぞ、砂漠! ジオラマ撮影だからって水泳部に砂漠を歩かせる奴があるか!
関節の隙間に砂が噛んで、駆動用モーターが四六時中『ギチギチ』と悲鳴を上げている。おまけに、戦闘が終わった後の洗浄作業はどうだ。陸戦用のザクどもは『俺たち忙しいんで』とさっさと引き上げ、俺たちは海水と砂が混ざった工業品に最悪汚れを整備兵は高圧洗浄機の水をぶっかけるだけ。塩害を舐めるなと言いたい。装甲の裏側、もう腐食でボロボロだぞ!」
「贅沢言うなよ、旦那」
カウンターの奥から、鋭い声が響いた。赤く塗装された流線型のボディ――シャア専用ズゴックだ。
「お前はまだ、まともに歩かせてもらえるだけマシだ。私を見ろ。ことあるごとに『シャア専用』だの『名機』だのともてはやされ、あらゆるシチュエーションの、あらゆる作戦に引っ張り出される」
「おいおい、ズゴックの兄貴。あんたは水泳部のカリスマだろ。何が不満なんだ?」
アッガイが尋ねる。
「カリスマ? その肩書きのせいで、私のポージングのノルマがどれだけ厳しいか知っているか?
『ジャブローに潜入したら、まずジムの腹を貫け』。上層部も、のちの歴史家も、ガンプラ少年たちも、そればかりを要求してくる。たまには普通にメガ粒子砲でスマートに戦いたい。なぜ毎回、わざわざダッシュして、あの硬いジムの装甲に拳を突き立てねばならんのだ。
あれをやると、指先のアイアン・ネイルにものすごい衝撃が走るんだ。最近じゃ、突き刺した後に指が抜けなくなったらどうしようと、夜もオイルが喉を通らん。しかも、あのポーズを綺麗に決めるために、股関節の柔軟性を維持しろと整備班から毎日キツいストレッチを強いられる。私のモノアイの下にあるスリット、あれはインテークのデザインじゃない。ストレスで歪んだ顔を隠すためのものだ」
ズゴックは赤い前腕を頭に当て、深くため息をついた。
第二章:奇抜なデザインという名の十字架
「デザインと言えば、私以上の被害者はいないはずですがね……」
店の隅、一番薄暗いボックス席から、ひときわ異形な巨影がぬっと立ち上がった。
ゾックである。
その巨体と、前後対称というあまりにも前衛的なフォルムに、店内のMSが一瞬静まり返る。
「あ、ゾックさん……生きてたんすね」
アッガイが気まずそうに言った。
「生きていますよ、アッガイ君。もっとも、これを『生きている』と言えるなら、ですが」
ゾックは前とも後ろともつかないボディをゆっくりと揺らしながら、カウンターに近づいてきた。
「私はね、メガ粒子砲を9門も搭載しているんですよ。火力だけで言えば、水泳部の中でも随一だ。しかしね、上層部の設計思想を疑います。なぜ、前後対称にしたんですか?」
ゾックは愚痴をこぼし始めた。
「『後ろを振り向く必要がないから隙がない』。カタログスペックにはそう書かれていました。ですがね、実際に運用してみなさい。歩くとき、どっちに足を動かせばいいか、一瞬脳内コンピュータがフリーズするんですよ。
しかも、戦場で味方から『ゾック、前方を警戒しろ!』と言われても、自分が今どっちを向いているのか分からなくなる。
一番悲惨なのは移動ですよ。ホバー移動の負荷が凄まじくて、まともに陸上を移動できない。ジャブローでは、ただの固定砲台扱いです。挙句の果てに、後輩のMSたちからは『ジオンのカッパ』だの『前後がわからないポンコツ』だのと影口を叩かれる。私はただ、普通に頭があって、普通に前を向いて歩ける、普通のMSになりたかった……!」
ゾックの巨体が小刻みに震え、モノアイが前後に激しく往復する。その悲痛な叫びに、ゴッグもズゴックも静かにグラスを傾けるしかなかった。
「……まぁ、ゾックの兄貴の見た目は、確かに個性的すぎるからな」
アッガイが同情の目を向ける。
「個性的と言えば、アッガイ、お前だって相当だろ」
ゴッグが言った。
「お前、最近じゃ『かわいい』とか言われて、妙な人気があるじゃないか。マスコット枠として、チヤホヤされてるんだろ?」
その言葉に、アッガイのモノアイがぴたりと止まった。
「……旦那、それを僕に言いますか」
アッガイの声が、一段と低くなった。
「かわいい? その言葉が、どれだけ僕を追い詰めているか、旦那にはわからないんです。
僕はね、ステルス性を極限まで高めた、隠密作戦用の水陸両用MSなんですよ。頭部に詰め込まれた数々の索敵センサー、伸縮式のクロー、内蔵されたバルカン砲。どれをとっても、一級品の暗殺者(アサシン)のはずなんです。
それなのに、後世の人間たちは僕をどう扱いました?
『体育座りが可愛い』『頭が大きくてぬいぐるみたい』。挙句の果てには、頭部パーツをクマの形に改造されたり、女の子向けのファンシーグッズにされたり……。
戦場に出れば出たで、『あ、アッガイだ、可愛いー!』とか言われながら、連邦の白い悪魔にビーム・サーベルで一瞬で頭を切り落とされる。僕のアイデンティティは、一体どこへ行ったんですか? 僕は、恐れられたい。ジオンの隠密部隊として、夜陰に紛れて敵を恐怖に陥れたい。それなのに、今の僕の扱いは……ただの癒やし系キャラです。もう、隠密行動なんて辞めて、全身金ピカにでも塗り替えてやろうかと思いますよ!」
アッガイは、カウンターに頭を突っ伏して、うう、と泣き崩れた。
第三章:次世代の台頭と、消えないアイデンティティ
「ファースト世代の先輩方は。まだ恵まれている方ですよ」
店の扉が開き、水滴を滴らせながら入ってきたMSがいた。
シャープなボディ、洗練されたバックパック、そして長い腕。U.C.0080のポケットの中の戦争で活躍した、ハイゴッグだった。
「おお、ハイゴッグじゃないか。お前のようなスタイリッシュな弟が、何の悩みがあるんだ?」
ゴックが尋ねる。
ハイゴッグは、長すぎる腕を器用に折りたたみながら席についた。
「スタイリッシュ、ですか。確かに私たちは、兄さん達のデータを基に、よりスマートに、より水中特化型として洗練されました。腕も伸びるし、ジェット・パックで寒冷地の大地を滑るように動けます。
ですがね、兄さん。私たちは『やりすぎた』んですよ」
「やりすぎた?」ゴッグが聞き返す。
「そうです。今の私たちの出番を見てください。アンディが乗った機体なんて、寒冷地ジムを何機か落としただけで、ハイゴッグの性能をフルに発揮する前に、蜂の巣にされて終わりです。機動性と防御力がトレードされて、同じ(ゴック)の名を冠して居ながら紙装甲!もし、兄さんだったら、マシンガンの弾ごとき平然と弾き返して居たハズです!
『統合整備計画』なんて大層な名前をつけて、パーツを共通化して、扱いやすくなったはずなのに、結局のところ、私たちに与えられたのは『局地戦の噛ませ犬』という役職だけ。
先輩方のように、教科書に載るような大活躍もできず、歴史の闇に消えていく。洗練されすぎたガンプラとしてのプロポーションだけが一人歩きして、戦果が伴わない。このギャップが、どれほど辛いか……」
ハイゴッグは、長い指先で冷えたグラスを弄びながら、ため息をついた。
「いや、貴方はまだマシです、ハイゴッグ」
ゾックが居たボックス席のさらに奥、球体MS用の特等席から、怨念めいた低音が響いた。
そこにいたのは、ネオ・ジオン抗争時代に開発された、水泳部唯一のMS――カプールだった。
「カプール……」
「私を見て下さい。私は本来、第一次ネオ・ジオン抗争時に、地球の海を支配するために作られた最新鋭の水陸両用MSです。この丸っこいボディは、水中での水流抵抗を極限まで減らすための究極のフォルム。だが、歴史の悪戯とは恐ろしいものでね。私が本当に有名になったのは、それから何百年も経った遠い未来、地球の穴から掘り出されて、髭のガンダム(∀ガンダム)と一緒に戦った時なんです。しかも、名前は『カプル』と縮められ、中身はミリシャの素人パイロット。水中戦? そんなものは二の次三の次。毎日毎日、陸の上をコロコロと転がりながら移動させられ、パンチを繰り出し、おもちゃのように扱われた。最高級の水中用MSが、なぜマウンテン・サイクルから掘り出されて、陸上で泥まみれになって戦わなきゃならんのです。私のハイドロ・ジェット推進器が、泣いているんですよ!」
カプールは、その丸い身体を震わせながら、大声を上げた。
終章:泥水に乾杯を
店内に、それぞれのMSたちの駆動音と、ため息が混ざり合う。
誰もが、己の生まれた意味と、上層部からの理不尽な酷使、そして時代の波に翻弄される現実に、疲れ果てていた。
マスターが、静かに全員のグラスに新しいオイルを注いだ。
ゴッグがグラスを掲げた。
「……まぁ、色々と文句は言ったがな」
ゴッグのモノアイが、鈍く光る。
「俺たちがいないと、ジオンの海上戦力は一日も持たない。連邦の奴らが海を恐れるのは、俺たちがこの泥水の中に潜んでいるからだ」
ズゴックが、アイアン・ネイルを軽く鳴らした。
「フッ、違いない。どれだけ痛くても、ジムの腹をブチ抜くあの快感だけは、陸戦用のザクどもには味わえんからな」
「僕だって、可愛いって油断させておいて、敵の不意を突く瞬間は……まぁ、悪くないです」
アッガイも、少しだけ機嫌を直した。
「前後対称の恐怖を、また連邦に教えてやりますよ」
ゾックも静かに笑う。
「私たち水泳部の真価、次の戦いで見せてやりましょう」
ハイゴッグとカプールも、グラスを合わせた。
「よし、野郎ども」
ゴッグがグラスを高く突き上げる。
「地球のすべての泥水と、理不尽な上層部と、それでも戦い抜く俺たちの錆びついた駆動系に――乾杯!」
「乾杯!!」
金属のグラスが激しくぶつかり合い、重厚な音が店内に響き渡る。
彼らは明日もまた、塩害と戦い、奇抜なデザインの十字架を背負い、冷たい海へと潜っていく。
だが、この「マッドアングラー」がある限り、水泳部の魂が錆びつくことは決してないのだ。
深海の夜は、まだ始まったばかりだった。
~fin~