大学の構内で行われた百物語。最悪の夜が来る事を誰も知らないでいた。

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第1話

 (ふふふふ、面白いくらいに続いているわね)

 

 サークル活動の名目で集まった夜の大学構内。大学側には内緒で無数の蝋燭が灯される中、行われているのは百物語。

 

 百本の蝋燭を灯しながら怪談を順番に語り、終わると一本消して行く。

 百本目を消せば本物のお化けが出るから九十九本目で止めるのがルールだが、彼女は百本目を語る気でいた。

 

 ウェーブのかかったロングヘアーに大きく突き出した胸と括れた腰 ヘソ出しルックに半ズボンタイプのジーパン姿で床に座って蝋燭を囲む笑顔の綺麗な上品な大学生。

 

 

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 首塚 咲(くびつか さき)は息苦しいからと黒いマスクを近くの机の上に置き、九十一話目を語り出す。

 

「これは少しばかりオカルトの知識があった子供の話よ。お化けが出るって噂の裏路地に入った時、現れたの。赤いコートにマスクを付けた女が」

 

 その姿で他の参加者は口裂け女の話だと理解する。当然の様に例の問い掛け あたし、綺麗? が行われ、綺麗と答えた所まで話は進んだ。

 

「これでももぉ? そう言って裂けた口を見せた相手に小学生は得意顔だったわ。そして例のお呪いを口にしようとしたの。ポマードって三回唱える奴」

 

 でも、そうやって話を途切れさせて咲はクスクスと笑う。

 

「口裂け女が本当に居るのなら聞きなれていると思わない? 何百何千も聞いたもの。足の速さで目の前まで行って、口を手で塞げば終わり。後は隙間から鋏を突っ込んで……」

 

 二本の指で自分の口を鋏で切る様な仕草をして、蝋燭を吹き消した。

 

「ヒュー! 咲ちゃん、やるねぇ。話数稼ぎと思いきやゾッとしたよ」

 

「ふふふ、有難う」

 

 次の語り部である辻霧 白夜(つじぎり びゃくや)は金髪にピアス、指輪でジャラジャラ飾った見た目通りのチャラい感じで褒め称える。

 サークルには咲目当てで入ったと思われている程にナンパをする男だった。

 

 

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 ミスコンの優勝経験もある咲は前から言い寄られる事が多く、だから決めていた。

 

 此奴を最初に襲おう、と。

 

 

 咲は人ではない。百物語に紛れ込んだ異形の存在、口裂け女。

 

 百本目が終わる瞬間を思い描き、そっと口元を指先で撫でていた。

 

 

「それじゃあ次は俺の出番だな。咲ちゃん怖いし、ハードル上がり過ぎっしょ。怖くなかったらデートしてあげるから勘弁!」

 

 月が雲で覆われ蝋燭の灯りのみがサングラスに反射する中、白夜がふざければ隣の女子に脇腹を殴られさっさと話せと脇腹を叩かれる。

 

「おおっと、メンゴ」

 

 笑いつつもサングラスの奥では目の輝きが全くの別人の様に変わった。

 

「これは俺の友達の友達の話。学校の行事でお寺に行った時、夜中にトイレに起きた生徒が変な音に気が付いた」

 

 それは みたなぁ というタイトルで知られる有名な怪談。トイレの窓から外を見れば墓から骨壷を取り出して食べていた女に気が付かれ、慌てて皆が寝ている場所に逃げて布団に潜り込む。

 

 だが、追って来た女には誰が目撃者か見抜く方法があった。

 

「簡単な話だ。便所に行ったら足が冷たいから触れば良い。……部屋の全員が寝相が悪く布団を跳ね除けて足が冷えていなければ」

 

 其処で白夜は蝋燭を吹き消し、後頭部を叩かれた。

 

「何処が怖い話やねん!」

 

「いや、人違いで襲われる可能性もあって怖くね?」

 

「やかましい!」

 

 暗闇の中で光る猫耳ヘッドホン。赤毛のおカッパ頭でTシャツにショートパンツ姿の彼女は白夜の過ちをもう一度叩くと座り直す。

 

 鹿羽 早由(しかばね さゆ)。百物語を提案したサークル内のムードメーカーだ。

 

 

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 白夜は決めていた。最初に引き裂くのは此奴だと。

 

 

 

 百物語を終えた時に現れるとされる妖怪の名を知っているだろうか? その名は青行燈。

 

 そう、白夜の正体はそれだ。百話目を終えた後は血塗れの惨劇を百一話目にすべく笑みを浮かべる。

 サングラスの奥で目が怪しく光っていた。

 

「じゃあ次はウチの番か。まあ、古い話でもするわ。鍋島の猫騒動って知っとる?」

 

 早由が話すのは飼い猫による敵討ち。息子を理不尽に殺された女が飼い猫に恨みを託して命を絶ったのだ。

 

 その時の彼女は快活さを潜め、湿り気を帯びた執念深い女の情念を孕んでいた。

 

「恨みっていうのが死んだ程度で消えるかいな。逆や。死んだ後の方がずっと濃くなるんやで」

 

 早由はにやりと口角を上げれば覗くのは鋭い犬歯だ。

 瞳は物語の中の復讐心に共鳴する様に、あるいは目の前の人間たちの恐怖を煽る様に妖しく金色に光っている。

 

 そして最後に化け猫が退治された所で話を終えた早由は隣で少し震えていたサークル仲間に視線を向ける。

 

「静ちゃん、大丈夫かー?」

 

「はい……。大…丈夫…です」

 

 言葉を途切れさせながら返事をしたのは黒髪ショートボブに長袖白ワンピースの気弱そうな女性。

 

  墓森 静香(はかもり しずか)。……早由が最初の獲物に選んだ相手だ。

 

 

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 誰にも気が付かれない程の僅かな瞬間、昂った早由のは影の形が変わる。

 そう、本来の姿である化け猫の姿へと。

 

 獲物を甚振る習性によって気弱な静香は最高の獲物だったのだ。

 

 

「あの…。じゃあ、私の…私は……クネクネについて……」

 

 それは都市伝説の一つ。祖父の住む田舎に来た兄弟は遠くの畑でクネクネ動く白い物を見つけ、兄が双眼鏡で見てしまう。

 

「お兄さんが…見て…来た後で、様子がおかしいので弟…さんは聞いた…みたいです。何が見えた…のかと。そうしたら…言いました。見ナイ方ガイイと…」

 

 語られるのは都市伝説通りの内容。サークルでも気が弱く自己主張に乏しい彼女は時々途切れさせながら語り、自分の震える手に手を重ねる。

 

 手で隠れた指がクネクネと動いていた。

 

 彼女もまた人ではない。姿を直視した相手の気を狂わせる怪異クネクネこそが正体だ。

 

 静香は獲物の中でも特に気を狂わせたら面白そうと感じた相手に視線を向ける。

 

「じゃあ…田辺…君の番…です……」

 

 語り手最後の一人は田辺。この大学に所属している事をサークルの誰もが知っている男だ。

 前髪で目元を隠した陰気そうな見た目で、それが奇妙な笑みを浮かべて踊る姿を静香は想像していた。

 

 

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「それじゃあ肝試し、或いは百物語に参加する時のメンバーの話だ。何時もの仲間が集まって行うけれど、一人だけ名前を知っている仲間の筈なのに知らない誰かが混ざっているのに気が付くのさ」

 

 引き込み役だよ。獲物を誘って仲間のいる巣窟で遊ぶ為のね、

 

 淡々と語る彼の前髪で隠れた視線の先には咲……その背後の壁の向こうの部屋。

 

 

 

「楽しみね。恐怖は最高のスパイスだもの」

 

 古ぼけたピアノの前には周囲には響かない演奏を奏でる少女。その姿が鍵盤に吸い込まれれば天井が開き、鋭利な牙と巨大な舌が姿を見せる。

 

 

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「ペタ…ペタ……」

 

 壁や天井を歩き回る異形の存在。六本の腕を持ち長い髪で顔を隠したそれは今か今かと百話目が終わるのを待ち侘びていた。

 

 

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 百物語が始まると田部に知らされ、近くの高校の旧校舎から足を運んだ存在。

 部屋の中には胴体と同じ大きさの頭を持つ男子生徒や数倍の長さの腕を動かし歪んだ笑みを浮かべる女子生徒の姿もある。

 

 

 

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 引き込み役の田辺……動く人体模型の合図を待ち侘びている怪異達。

 

 

 

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 百話目が終わるまで……最悪の夜まであと少し。

 

 




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