雷鳴に刻まれし運命を背負う少女の深い闇―The Black Lightning Destiny― 作:管理局事案編纂室
宿題をしていたフェイトは、不意の着信に顔を上げた。発信者を確認して電話に出る。
『アリサ、どうしたの?』
『今度の日曜空いてる?』
『ふっ、私は時の流れを操る……。
『はいはいすごいわねー(棒)。
なのはから聞いたんだけど、翠屋で季節限定ケーキが出るらしいのよ』
『ケーキッ!?』
『キャラどっか行ったわよ』
『あっ、えっと、……コホン。
ふっ、ケーキごときでこの私を釣ろうとは、舐められたものだ……。とはいえ高貴なる―――』
『他の人を誘うわ』
『うぇぇ!?待って!行くっ!行くよっ!!!』
『最初からそういえばいいのよ。じゃあ日曜迎えいくから。くれぐれも隣を歩いて恥ずかしくない服にしてよね』
『ふっ。私の素晴らしいセンスは常人には理解できないか』
『殴るわよ』
『なんで!?』
『ムカついたから』
『ひどいよぉ……』
『まったく、黙ってればかわいいのに』
『……今、デレた?』
『デレてないわ』
『……ツンデレ女王(ボソッ』
『グーとパーどっちがいい?特別に選ばせてあげるわ』
『な、なんの選択肢なの?』
『裁きよ』
『裁き!?』
日曜日。約束通り、フェイトの家にアリサが訪ねて来ていた。家にはフェイトのほかにはリンディがリビングでまったりとお茶を飲んでいる。
「フェイト」
「なに?」
「私隣を歩いて恥ずかしくない格好にしてって言ったわよね?」
「?」
フェイトは自分の格好を顧みた。特に恥ずかしいところはなかった。強いていえばカッコよすぎるところだろうか?
「特におかしな所はないと思うけど?」
アリサに向き直り、コテンと首を傾げた。アリサは何故か頭を右手で抑えて大きなため息をついていた。
「フェイト」
「はい」
「そのあまりにも暑苦しそうなロングコートはこの際いいわ。その眼帯は何?」
「これは……その、この前の戦いでやられちゃって……」
「え、あ、その……ごめんなさい。てっきりアンタの趣味だと……」
「アリサちゃん、そういう設定だから心配しなくても大丈夫よ」
「ふんっ!」
「いたっ!?」
「紛らわしい言い方してんじゃないわよ、心配して損したじゃない!殴るわよ!?」
「もう殴ってる……」
「はぁ。で、なんでバルディッシュはチェーンでぐるぐる巻きになってんの?なんか悪いことしたの?」
「かっこいいから」
「アンタのセンスを疑うわ」
「ひどい!?」
「ていうか、バルディッシュはぐるぐる巻きにされることに納得したの?」
「特に嫌がったりはしなかったよ?ねえ、バルディッシュ?」
『…………………………Yes sir』
「ほら」
「すごく間があったような気がするけど……まあいいわ。じゃあ次はそのコートの下を確認させなさい」
「………………えっち」
「本当に眼帯が必要な体にするわよ」
慌てて真っ黒で重そうなコートを脱ぐフェイト。その下から出てきた服を見たアリサは再びこめかみを抑えた。
「ごめんフェイト、私が間違ってたわ」
「?何の話か分からないけど、間違いは誰にでもあるよ」
「ええ、ありがとう。アンタのセンスには疑う余地がなかったわ」
「ようやくアリサにもこのかっこよさが伝わったんだねっ……!!!」
「疑う余地もなく酷いって意味よ!何よその英文と十字架がプリントされたシャツは!?」
「かっこいいと思うんだけど……」
「よく聞きなさい。アンタのセンスは、なのはが逆上がり出来るようになるくらいに絶望的よ」
「そ、そんなに酷いの……!!?」
「分かったかしら?なら今すぐ脱ぎなさい。そして持っている服を全部出しなさい。私が選ぶわ」
「そんな、母さんもいるのに脱げだなんて……」
「左目とお別れの挨拶は済んだかしら?」
「今どき暴力系ヒロインは流行らな……あ、嘘です冗談ですごめんなさいツンデレ暴力系ヒロイン最高で……。頭が割れるように痛いぃぃぃぃっ!!!?」
アリサのアイアンクロ―がフェイトの頭を捉えた。そのままギリギリと力をこめられていく。
「アンタの減らず口はどうすれば治るのかしら?頭かち割って中身を入れ替えてみましょうか?」
「か、母さん助けて!アリサに殺されるっ!」
「お土産はシュークリームでお願いね」
「誰もお土産の話なんかしてないよ!?最近耳が遠くなったんじゃ」
「アリサちゃん、ヤッていいわよ」
「イエス、マム」
「母さん!?娘を見捨てるの!!!?」
「何かしら?耳が遠いからよく聞こえないわ」
「やっぱり加齢が……いたいぃぃぃぃぃ!!!???」
場所は変わって、フェイトとアリサの2人は翠屋の窓際の席で寛いでいた。
「酷い目にあった……」
「自業自得でしょ」
「本当のことしか言ってないのに。歳をとると短気になるんだ……」
「アンタ、それ絶対リンディさんに言うんじゃないわよ」
「お冷やどうぞー」
「ありがとうなのは。注文いい?」
「はーい、ちょっと待ってね。……はい、どうぞ」
「ケーキセットを2つ。フェイトもセットで良かったわよね?」
「うん」
「私は巨峰のショートケーキにするけど、フェイトは?」
「甘美で芳醇な実りと時の神秘が作り出す奇跡のハーモニー」
「普通に喋りなさい」
「梨のチーズケーキだね」
「今ので分かるの!?」
「フェイトちゃんだもん。飲み物はどうするの?」
「納得いかないわ……。えっと、コーヒーをホットでお願い」
「砂糖とミルクはどうする?」
「いらないわ」
「はーい。フェイトちゃんは?」
「ふっ、悪魔の熱き涙を貰おう」
「……大丈夫なの?」
「案ずるな。私に不可能など、ない……!」
「それほどの覚悟なんだね……!わかったよ。でも天使の抱擁と白亜の慈愛は付けておくね」
「なんで会話が成立してるのよ」
「復唱するね。ケーキセットが2つ、巨峰のショートケーキと甘美で芳醇な実りと時の神秘が作り出す奇跡のハーモニー、悪魔の熱き涙が2つで間違いないでしょうか?」
「ちょっとまって、私は悪魔の涙なんて得体の知れないもの頼んでないわよ」
「コーヒーのことだよ」
「悪魔の涙ってコーヒーなの!?」
厨房に引っ込むなのはを見送り、アリサはフェイトに向き直った。
「ていうかフェイト、コーヒー飲めたの?」
「ふっ、愚問」
「いちいち鼻を鳴らすのすごく癇に障るからやめて」
「母さんだけじゃなくアリサも短気に……」
「勘違いだと思うんだけど、今私を年寄り扱いした?もしそうだとしたらアンタの息の根を止めるわ」
真っ青になって首をブンブンと振るフェイト。
「そう、良かったわ!友達を1人失うことにならずにすんで」
ガクガクと震えるフェイトとニコニコと微笑むアリサ。そこになのはがケーキを持ってやってきた。
「お待たせしましたー。……どうしたの?」
「躾けてただけだから気にしないで」
「そっか。はい、巨峰のショートケーキとコーヒーのセットになります」
「ありがと」
「はい、フェイトちゃん。甘美で芳醇な実りと時の神秘が作り出す奇跡のハーモニーと、悪魔の熱き涙のセットだよ」
「よい働きだ……。精進せよ」
「はっ!ありがたきお言葉」
「アンタ達はいちいちボケないと気が済まないの?」
「ボケてないよ?母さんじゃないんだから」
「そっちのボケじゃないわよ。まあいいわ。冷めないうちにいただきましょう」
アリサはカップを手に取り、ゆっくりと香りを楽しんだのち、一口口に含んだ。
「うん、おいしい。それにいい香りね」
そのまま優雅にケーキにフォークを入れる。さすが令嬢だけあってひとつひとつの所作に品があり、様になっていた。
フェイトは見様見真似でカップを手に取ると、黒々とした液体を見つめた。とりあえず香りを嗅いだ。よくわからないけど、多分これが大人の香りなんだと思った。
「芳醇でよい香りだ……」
そして、いよいよカップに口を付け、ゆっくりと傾ける。まず最初に感じたのは灼熱だった。フェイトの舌は悪魔の熱き涙によって焼き尽くされた。つまるところ、猫舌だった。
次いで苦みが口いっぱいに広がった。フェイトはリンディの影響で甘党だった。
「~~~~~~~~~~~~っっっっっ!!!!!?????」
それでもフェイトは必死に、熱くて苦い液体を嚥下した。そして、カップをソーサーに戻す。目尻には涙がたまり、プルプルと小刻みに震えていた。
(……まったく。コーヒー飲めないくせに背伸びなんてして、しょうがない子なんだから)
アリサは自分のケーキを切り分けると、フェイトの方に差し出した。
「フェイト。ほら、あーん」
「あー、ん。…………おぃひぃ」
「そ。よかったわ」
「その、アリサ。お返し」
フェイトが自分のケーキを切り分けると、アリサに差し出した。
日曜の午後は平和に過ぎていった。