### 【序章】異郷の酒場と異質な客たち
どこか無機質な金属の壁と、怪しげな青紫色のネオンが明滅する酒場の片隅。
異世界の街やダンジョンの食堂で見かける木造の温かみとは程遠いその空間で、ムコーダは深々とため息をついた。
「ハァ……また妙なところに飛ばされちまったなぁ……」
手元のグラスに入った怪しげな果汁ジュースをちびちびと舐めながら、ムコーダこと向田剛志は己の薄幸ぶりを呪っていた。
事の発端は、いつもの秘境探索の途中だった。旅の途中で見つけた古代遺跡の転移陣。フェルが「この先に美味い魔獣がおる気配がする」などと言い出し、スイやドラちゃんもノリノリで飛び込んだ結果、到着したのは緑の森でもダンジョンでもなく、見たこともない巨大な金属の建造物――星々を巡る宇宙船や宇宙ステーションのような場所だった。
周囲を行き交う人々は、見慣れない電子端末を手にし、身体の一部を機械化した者や、人間離れした姿の異星人ばかり。幸いにも、ムコーダの固有スキル『ネットスーパー』は問題なく起動したものの、ここが自分たちの知る世界ではないことだけは明白だった。
「主ー、ここなぁにー? なんだかつるつるしてて、へんな匂いがするよー?」
「んー、なんだか金属臭ぇ場所だな。獲物になりそうな魔獣はいねえのか?」
「フェル、ドラちゃん、スイ。頼むからここでは目立つ行動をしないでくれよ……。とりあえず、まずは情報の収集だ」
そうやって辿り着いたのが、この星間交流のハブとなっている治安の怪しい酒場だった。
情報を集めようにも、周囲の会話からは「スターピースカンパニー」「星核」「開拓者」「星核ハンター」といった聞き覚えのない物騒な単語ばかりが飛び交っている。
「ぬぅ……我を満足させるほどの肉はあるのだろうな、ムコーダ?」
巨躯を小さく折りたたむようにしてベンチに座る伝説の神獣・フェルが、不機嫌そうに唸る。その隣では、スライムのスイがムコーダの鞄の中でそわそわと揺れ、小ドラゴンのドラちゃんは「なんか退屈な場所だなー」とテーブルの上で欠伸をしていた。
「フェル、ちょっと静かにしてくれって。今、周りの話を聞いて――」
ムコーダが苦笑いしながらフェルを宥めようとした、その時だった。
カツン、カツン、と。
喧騒に満ちた酒場の中で、妙に澄んだハイヒールの音が近づいてきた。
周囲の酔っ払いたちが、一瞬で息を呑み、静まり返る。重苦しい緊張感が、潮が引くように店内に広がっていった。
「あら……ずいぶんと賑やかなお連れ様ね」
艶っぽく、どこか人の心を惑わすような低い声。
振り返ったムコーダの視界に飛び込んできたのは、紫がかった髪をなびかせ、サングラスを額にひっかけた美貌の女性だった。ワインレッドの上品かつミステリアスな衣装を身に纏い、その瞳には光を吸い込むような独特のグラデーションが浮かんでいる。
その後ろには、大きな刀を背負った、東洋風の黒髪の青年――刃(ブラド)。
そして、パンクな装いでホログラムの画面を宙に浮かべ、ゲーム機を弄っている少女――銀狼(シルバーウルフ)。
異彩を放つ三人組。彼らこそ、全宇宙におたずね者としてその名を轟かせる『星核ハンター』であった。
### 【第一章】星核ハンターとの遭遇
(うわぁ……見るからにヤバい奴らが来た……!!)
ムコーダの本能が警鐘を鳴らしまくる。長年の冒険者生活(とトラブル回避本能)で培われた勘が、「関わるな」と激しく叫んでいた。
「あ、あの……俺たちに何か用でしょうか……?」
ムコーダはひきつった笑顔を浮かべ、後ずさりしようとした。しかし、フェルは鋭い眼光を女性――カフカに向け、低い声で威嚇する。
「ほう……ただの人間ではないな。身体の奥に歪な『力』を秘めておる。……ムコーダ、油断するなよ」
「フェル、刺激しないで!!」
カフカはフェルの威嚇に対しても全く動じることなく、むしろ興味深そうに目を細めた。
「ふふ、素晴らしい従魔ね。それに……そちらの小さな子たちも、この世界の生態系には存在しない異物。……いいえ、あなた自身が『この世界の人類』ではないわね?」
「っ……!?」
初対面で即座に自分たちの正体を見抜かれ、ムコーダの背中に冷や汗が流れる。
銀狼がゲーム機から目を離さず、怠そうに口を開いた。
「カフカ、脚本通りとはいえ、本当にこんな奴らが『鍵』なの? ただの冴えないおっさんと、バカでかいイヌと、スライムと、ちびドラゴンだけど。データ照会しても宇宙のデータベースに存在しない完全なノイズよ」
「失礼な! 俺はドラゴンだっつーの! イヌ扱いすんじゃねぇ!」
ドラちゃんがギャーギャーと叫ぶが、刃は無言のまま冷ややかな視線を向けるだけだった。
「銀狼、脚本を疑わないの。エリィ(エリオ)の言った通りだわ。『運命の交差点にて、異界の調理人と出会う』……ね」
カフカは優雅な動作でムコーダの向かいの席に腰掛け、脚を組んだ。彼女から漂う甘く危険な香水と、かすかな硝煙の匂いに、ムコーダは生きた心地がしない。
「単刀直入に言うわ、異界のお客様。……私たち『星核ハンター』の手助けをしてくれないかしら?」
「えっ……手助け……? いやいやいや! 俺はただのしがない冒険者(兼料理人)ですよ!? 戦闘なんてからっきしですし、ヤバいことには関わりたくないんです!」
即座に辞退しようとするムコーダ。しかし、カフカはクスリと微笑み、妖艶な笑みを深めた。
「あら、戦ってほしいわけじゃないのよ。お願いしたいのは……あなたの『お料理』よ」
「……料理?」
思わぬ言葉に、ムコーダはポカンと口を開けた。
### 【第二章】悪魔の誘いと交換条件
カフカはゆっくりと指を組み、事の経緯を語り始めた。
「近々、私の故郷である『プテルス-VI』……あるいは、星間社会で呼ばれるところの特定の宙域で、重大な『星間停戦会合』が開かれるの。スターピースカンパニー、仙舟同盟、そして各派閥の要人たちが集まる、極めてセンシティブな会談よ」
「へ、へえ……凄そうな話ですね……(なんでそんな大事に俺が……?)」
「表向きは平和的な交渉の場。けれど裏では、互いの腹を探り合い、一触即発の緊張状態が続いているわ。そこで出される『料理』は、単なる食事ではないの。各勢力の面子、そして何より……緊迫した交渉のテーブルで、相手の懐に入り込むための重要な『武器』になる」
カフカの瞳が怪しく光る。
「カンパニーの高級料理も、仙舟の薬膳も、彼らにとっては食べ慣れた退屈な政治の味。でも……この世のどの星のデータベースにも存在しない、あなたの作る『異世界の料理』ならどうかしら? 人々の理性と警戒心を挫き、本音を引き出す……最高の『仕掛け』になると思わない?」
「いやいやおかしいでしょ!? なんで料理を外交兵器みたいに言ってるの!? 無理です無理です、そんな重大な宴会料理なんて作れませんよ!」
ムコーダは全力で首を振った。政治の場など一番関わりたくないジャンルだ。失敗したら処刑されるかもしれない。
しかし、ここで予期せぬ方向から邪魔が入った。
「おい、ムコーダ」
「へ?」
フェルがガシガシと頭を掻きながら、面倒そうに口を開いた。
「断るにしても、まずは腹が減った。我は腹が減っておるのだ。異世界の料理とやらを言い訳にする前に、まずは飯を出せ」
「あー! スイもお腹すいたー! あるじー、ごはんー!」
「俺も! 肉! 肉食わせろ!」
「お前たち、今それどころじゃ……!」
頭を抱えるムコーダを見て、カフカは楽しそうに目を細めると、銀狼に目配せをした。
銀狼は「はいはい」と溜息をつき、空中にホログラムのウィンドウを操作する。
「……はい、これ」
ぽん、と音を立てて、テーブルの上に現れたのは――眩いばかりの光を放つ、見たこともない透明な結晶や、金色のカード、そして怪しげな超高純度のエネルギーブロックの山だった。
「っ……!? な、なんですかこれ!?」
「報酬よ」とカフカは言った。「信用ポイントが数億単位、それに……あなたたちのいた世界へ戻るための次元転移技術に必要な、超高純度『ステラリス・エナジー』。さらには、この宇宙に存在するあらゆる希少な食材や魔獣の素材の買い付け権」
「じ、次元転移のエネルギー……!?」
ムコーダの目が飛び出そうになる。確かに、この世界に来て一番困っていたのは「どうやって元の(異世界の)世界に戻るか」だった。ネットスーパーは使えるものの、帰還の方法が分からず詰んでいたのだ。
さらに、カフカは追い打ちをかけるように続けた。
「それだけじゃないわ。あなたたちの連れているその神獣様たち……彼らが満足するような、この宇宙で最高峰の『超大型宇宙魔獣の肉』――例えば、反物質レギオンの侵攻兵器の肉や、絶滅大君の眷属の極上部位。それらを私たちのルートで手配してあげてもいいわ」
その言葉を聞いた瞬間。
ピクッ、とフェルの耳が跳ね上がった。
「……なに? この宇宙の最高の肉だと……?」
フェルの目が爛々と輝き始める。
「おいムコーダ! 引き受けろ! 今すぐ引き受けるのだ!」
「ちょっとフェル!? 相手は絶対ヤバい奴らなんだってば!」
「黙れ! 我は異世界の極上の肉とやらが喰いたいのだ! 断るならば……生肉のまま噛みちぎってやるぞ!」
「主ー! スイも新しいお肉食べたいー!」
「俺も乗った! おいおっさん、早く『やる』って言えよ!」
「お前らぁぁぁぁぁ!!」
従魔たちの裏切り(いつものことだが)により、ムコーダの外堀は一瞬で埋め尽くされてしまった。
カフカは満足そうに微笑み、ムコーダに向かって細く美しい手を差し伸べた。
「交渉成立……でいいかしら、シェフ?」
ムコーダは絶望に目を伏せながら、力なくその手(の手袋越し)を握り返すしかなかった。
「……分かりましたよ……作ればいいんでしょ、作れば……! ただし! 安全の保証と、終わったら絶対に元の世界に帰してくださいね!?」
「ええ、約束するわ。……エリオの『脚本』通りに動いてくれる限りはね」
カフカの不敵な笑みに、ムコーダは胃が痛くなるような予感をひしひしと感じていた。
### 【第三章】仕込みと波乱の予感
こうして、半ば脅迫(と従魔たちの食い意地)によって引き受けることになった「星間停戦会合」の料理担当。
会合が開かれる宙域へと向かう星核ハンターの移動拠点(巨大な宇宙船)の中で、ムコーダはさっそく準備に取りかかることになった。
「さて……相手は各勢力の要人たち……。どんな料理を出せばいいんだ……?」
厨房として与えられた最新鋭の調理室で、ムコーダは腕を組んで唸っていた。
そこに、ふらりと銀狼が清涼飲料水の缶を持ちながら入ってくる。
「ふーん、案外普通のキッチンツールで料理するんだ。ホログラム調理器とか分子分解加熱器とか使わないの?」
「使いたくても使い方が分からないんだよ! 包丁とフライパンがあれば十分! ……それより銀狼さん、来る要人たちの好みとかって分かりますか?」
「んー、カンパニーの連中は見た目が豪華で高価そうなものが好き。仙舟の連中は味覚が肥えてて上品な薬膳や繊細な味つけを好む。……まあ、ぶっちゃけ全員互いを毒殺しようと警戒してるから、何を出してもまともに味わう気はないと思うけど」
「物騒すぎるだろ!!」
ムコーダはツッコミを入れつつ、ネットスーパーの画面を開いた。
(警戒心が強い……か。なら、一口食べた瞬間に警戒心を吹き飛ばすような、圧倒的な『美味さ』と『安心感』……そして、胃袋を掴むような親しみやすい料理がいいかもしれない)
ムコーダが考えたプランはこうだ。
1. **前菜**:ネットスーパーの高級ドレッシングを使った、異世界の新鮮野菜と魔獣のタタキ風カルパッチョ。
2. **メイン(魚)**:高級白身魚のソテー、バジルとバター醤油の香ばしいソース添え。
3. **メイン(肉)**:オーク肉(あるいはこの世界で調達してもらう極上肉)の特製生姜焼き&ステッキステーキ。日本の「タレ」文化の暴力を叩きつける。
4. **締め**:特製出汁の効いた和風スープと、ふっくら炊き上げた白米(おにぎり)。
「よし……これならどうだ!?」
さっそく試作品として、ネットスーパーで仕入れた「特選和牛」と「オーク肉」、そして日本の市販の「焼肉のタレ(甘口・辛口)」、「生姜焼きのタレ」を使って、肉料理を豪快に焼き上げていく。
ジュゥゥゥゥッ……!!
甘辛い醤油とニンニク、生姜が焦げる芳醇な香りが、最新鋭の無菌室のような調理室いっぱいに広がる。
「うおっ……何だこの匂い……!?」
香りに引き寄せられて、部屋の隅で刀を磨いていた刃がゆっくりと歩み寄ってきた。無表情だった彼の鼻先が、かすかにピクピクと動いている。
「おいおい……匂いだけで脳のバグが起きそうなんだけど。何それ?」
銀狼もゲーム機を置き、唾を呑み込みながらフライパンを覗き込んできた。
「へへん、これが地球(というか日本の)至高の調味料、『焼肉のタレ』と『生姜焼き』の威力ですよ!」
焼き上がった厚切り肉を切り分け、皿に盛り付ける。
フェルとスイ、ドラちゃんには、巨大なタライのような皿にドカンと盛ったステッキステーキを差し出す。
「うむ! これだ! このニンニクの効いたタレこそが至高!!」
ガツガツと猛烈な勢いで肉を喰らうフェル。
「美味しいー! 甘くてしょっぱくて、ご飯が欲しくなるー!」とプルプル揺れるスイ。
「やっぱムコーダの肉は世界一だな!」と飛ぶドラちゃん。
そして、ムコーダは小さな皿に分けた分を、カフカ、刃、銀狼の三人に差し出した。
「良かったら、毒味代わりに食べてみてください」
刃は無言で肉を一切れつまみ、口へと運んだ。
その瞬間――
「……っ!?」
刃の瞳が大きく見開かれた。
長年の「魔陰の身」による苦痛と絶望、死を望む絶え間ない精神の摩耗。そんな彼の重苦しい精神に、香ばしい醤油のコクとジューシーな肉汁、そして濃厚なタレの旨味がダイレクトに染み渡っていく。
「これは……心が……穏やかになる……? いや、そうではない……体が……肉を……欲している……」
ボソボソと呟きながら、刃はものすごい勢いで残りの肉を口に放り込み、無言でムコーダに皿を差し出した。
「おかわりだ」
「え、あ、はい!」(あのコワモテの人が一瞬で落ちたー!?)
銀狼もフォークで生姜焼きを一口食べると、目が輝いた。
「なにこれ……! ヤバい、脳内麻薬(ドーパミン)がドバドバ出るんだけど!? カンパニーの三ツ星レストランの料理とか、全部気取ってるだけで味薄かったんだなって分かるわ。これ、永遠に食べられるやつじゃん!」
最後に、カフカが優雅に一口。
ゆっくりと噛み締め、喉を通した瞬間、彼女は頬をかすかに紅潮させ、うっとりと吐息を漏らした。
「ふふ……あははっ……素晴らしいわ、ムコーダ。これはただの料理じゃない……『魅惑(チャーム)』の言霊を使わなくても、食べた者を虜にする『呪い』のような料理ね……」
カフカはムコーダの顔にぐっと顔を近づけ、囁いた。
「これなら……あの方々のガチガチに固まった心も、一口で解けてしまうわ。最高の『切り札』になりそうね」
(ひぇぇぇ……褒められてるのに全然嬉しくない! むしろ怖いよこの人!!)
ムコーダは引きつった笑いを浮かべるしかなかったが、ひとまず試食は大成功に終わった。
しかし――事態はそう簡単に平和には進まない。
### 【第四章】迫り来る星間会合と、忍び寄る影
数日後。
目的の宙域、巨大宇宙ステーション『アルカディア』。
ここは各派閥の中立地帯であり、厳重なバリアと星間警察、カンパニーの治安維持部隊が警戒の目を光らせる巨大都市だった。
会合の夜が、刻一刻と近づいてくる。
ムコーダは特設のバックヤード厨房で、汗だくになりながら大量の食材の仕込みを行っていた。
「フェル、スイ、ドラちゃん! つまみ食いは禁止だからね! 本番が出せなくなったら元も子もないんだから!」
「ぬう……目の前にこれほどの肉がありながら待たねばならんとは、拷問だな……」
「スイ、いい子で待ってるよー! 終わったらすごーくいっぱい食べさせてねー!」
厨房の外では、カフカたちが手回しを進めていた。
表向きはカンパニーの最高級ケータリング業者に成りすまし、ムコーダの料理を宴会場へと運び込む手はずになっている。
しかし、銀狼が急に険しい表情でホログラム端末を操作し始めた。
「……カフカ、ちょっとマズいことになったわ」
「どうしたの、銀狼?」
「反物質レギオン……ううん、それだけじゃない。『壊滅』の信徒たちの極端派勢力が、このステーションの防衛システムをハッキングして侵入してきてる。狙いは……この『星間停戦会合』の破壊。要人たちを一網打尽にして、宙域全体の混乱を引き起こす気よ」
「……そう。エリオの脚本にもあったわね。『予期せぬ混乱と、炎の宴』……」
カフカは全く動じることなく、むしろ愛用の二丁拳銃を取り出し、カチリとスライドを引いた。
「刃、準備はいいかしら?」
「……俺の番か」刃が冷たく刀を抜く。
その会話を聞いていたムコーダは、手に持っていた包丁を落としそうになった。
「えっ!? な、なんですかそれ!? 襲撃!? テロ!?? 聞いてないですよそんなの!!」
「安心して、ムコーダ」
カフカは優しくムコーダの肩に手を置いた。その顔には、死の恐怖すら楽しむような美しい笑みが浮かんでいた。
「あなたと……その美味しいお料理は、私たちが命に代えても守ってあげる。……だって、あなたのお料理がなければ、私たちの『本当の目的』も達成できないんだから」
「本当の目的って何なんですかぁぁぁぁ!!」
その時だった。
ズゥゥゥゥゥン――――――っ!!!!!
巨大な爆発音がステーション全体を揺らした。
警告音が鳴り響き、赤い緊急ランプが怪しく明滅し始める。
『警告。防衛エリアBが突破されました。異形の敵群が侵入。全員速やかに避難してください――』
厨房の扉が吹き飛び、そこから黒い炎を纏った異形の怪獣――『反物質レギオン』の先兵たちが雪崩のように押し寄せてきた!
「ギャァァァァオオンっ!!」
「ひぃぃぃぃぃっ!?? 出たぁぁぁぁっ!?」
ムコーダは悲鳴を上げて頭を抱える。
「チッ、鬱陶しい雑魚が……」
刃が刀を振るおうとした、その瞬間――
「ぬオオオオオンっ!!」
爆風を切り裂いて突風が吹き荒れた。
一瞬にして、押し寄せてきたレギオンの群れが、目にも留まらぬ爪の斬撃によって細切れに粉砕される!
「我の……我の『夕食』の邪魔をするなぁぁぁぁっ!!」
フェルが全身に黄金の雷を纏い、威圧感満載で咆哮していた。
「あー! スイのごはんの邪魔しちゃだめー! 酸の弾丸ー!」
シュバババババッ!!
スイが放った強酸の弾丸が、敵の装甲を瞬時に溶かし去っていく。
「ひゃっはー! 久々の戦闘だぜ! 燃え尽きろ!」
ドラちゃんが超高温の炎を吹き荒らし、残弾を一掃する。
「……は?」
銀狼が呆然と口を開ぐ。
「なにあの生き物たち……怪獣より強いんだけど……データが……計測不能……?」
カフカも一瞬驚きに目を見開いたが、すぐにクスクスと楽しそうに笑い出した。
「ふふ……あはははっ! 素晴らしいわ! 本当に頼もしいお連れ様ね、ムコーダ!」
「いや、フェルたちはただご飯を邪魔されて怒ってるだけだからぁぁぁ!!」
混沌と狂気が渦巻く中、星間停戦会合の会場からは、さらに巨大な『怪物』の気配と、絶望的な悲鳴が響き渡り始めていた――。
### 【後半への引き】
戦火に包まれる巨大宇宙ステーション『アルカディア』。
要人たちが逃げ惑い、絶望が支配する宴会場の中央で、反物質レギオンの大型兵器『践踏者(トランプラー)』が暴れ回り、事態は最悪の局面を迎えていた。
しかし、爆煙を突いて会場の巨大扉を蹴り開けたのは――
特大の保温容器を抱え、涙目になりながら走ってくる一人の男(ムコーダ)と、
その後ろから悠然と歩いてくる、黄金の雷を纏う巨大な神獣(フェル)、
そして、妖艶な笑みを浮かべ、両手に銃を構えた美しき処刑人(カフカ)。
「おいムコーダ! 敵を全滅させれば、あの『宇宙魔獣のステーキ』と『白米』とやらが喰えるのだな!?」
「そうだよフェル! だから早くあのデカイのを片付けて、料理を要人たちに食わせて交渉を終わらせるんだよ!!」
「ふふ……さあ、宴の始まりよ。……みんな、私のために『踊って』頂戴?」
異世界の「至高の飯」の香りが、戦場と化した星間会合の会場に漂い始める。
料理の香りに誘われた要人たちの混乱と胃袋、そしてカフカたちの真の目的に秘められた『脚本』の結末とは――!?
絶体絶命の危機の中で、前代未聞の「グルメ×星間戦争」の幕が上がる!!
### 【第五章】一瞬の狂乱と、新たなる「扉」の解放
「ギャオオオオオンっ!!」
巨大宇宙ステーション『アルカディア』の大ホールを破砕し、巨躯を揺らして躍り出た反物質レギオンの大型兵器『践踏者(トランプラー)』。
その半人半馬の歪な鉄躯から放たれる『壊滅』の波状攻撃は、星間停戦会合に集まっていたスターピースカンパニーの幹部や仙舟の要人たちを恐怖のどん底へと突き落としていた。
「ひぃぃっ! 警備部隊は何をしている!?」
「だ、駄目です! 通信が遮断され、防衛システムが乗っ取られています!」
悲鳴と怒号が飛び交う惨状。だが、そんな絶望の渦中に、ズカズカと足音を立てて乱入してきた一団があった。
「ぬうう……! 我の肉の香りを……宴の仕込みの邪魔をする不届き者が、あのデカい鉄くずか!!」
黄金の雷光を全身にバチバチと走らせ、フェルが凄まじい威圧感で前足を踏み鳴らす。
「スイもー! お肉のにおいが消えちゃうから、お前なんか溶かしちゃうぞー!」
「俺のメシの邪魔すんじゃねぇえええっ!」
トランプラーが不気味な光を放ち、フェルたちへ向けて超高出力の粒子砲を照射しようとした――その瞬間だった。
「フェル、スイ、ドラちゃん! サクッと片付けて! 料理の温かいやつが冷めちゃったら台無しだから!」
ムコーダの身も蓋もない叫びが響く。
「フンっ!」
フェルが軽く前足を一振りした。
ただそれだけで、真空を切り裂く巨大な風の刃『風刃』が放たれ、トランプラーの強固な装甲を一瞬で紙屑のように引き裂く。
「え……?」
呆然とするカンパニーの要人たち。
そこへ、スイがシュババババッ!と特大の酸の弾丸を撃ち込み、トランプラーの関節金属をドロドロに溶かしたかと思えば、ドラちゃんが音速を超えて突撃し、超高温の炎で核心部を焼き切った。
ほんの数十秒。
各宙域で壊滅的な被害をもたらす恐怖の大型兵器は、まるで子供のおもちゃのように崩れ去り、ただの鉄くずの山と化したのである。
「……あ、呆気なさすぎる……」
物陰に隠れていた銀狼が、ホログラム画面に表示された『戦闘終了:所要時間18秒』の数値を二度見している。
刃は抜こうとした刀の柄から手を離し、「……出番すら無しか」と短く呟いた。
「はぁー……怖かった……。とりあえず、これで一安心だな……」
胸を撫で下ろすムコーダ。
すると突然、頭の中でポーン!という聞き慣れた、だがどこか景気の良いファンファーレが響き渡った。
(ん……? なんだ? ネットスーパーのレベルアップ音か……?)
慌てて目の前にネットスーパーの画面を立ち上げると、そこには衝撃の「新店舗オープンのお知らせ」が躍っていた。
『祝・異次元実績解除! 以下の店舗が新たにネットスーパーへ加盟しました』
・**KURAND(クランド)**
・**KALDI COFFEE FARM(カルディ)**
・**成城石井**
・**角上魚類**
・**OKストア**
・**シャトレーゼ**
「う、うおおおおおっ!?!? マジかよぉぉぉっ!?」
ムコーダの叫び声に、カフカが微笑みながら近づいてくる。
「どうしたの、ムコーダ? そんなに驚いて」
「い、いや! 俺のスキル『ネットスーパー』に、日本の凄まじいラインナップのお店が大量に追加されたんです! カルディに成城石井!? それに魚の角上魚類まで!? シャトレーゼもあるぞ!?」
あまりの興奮に、ムコーダは手始めにシャトレーゼのページを開き、ずっと気になっていた人気商品をポチッと注文した。
光と共に現れたのは、上品なパッケージに包まれた『シャトレーゼの契約農場たまごのバターどらやき』である。
「あ、これ……カフカさん、刃さん、銀狼さん。助けてもらった(?)お礼と言っちゃなんですけど、甘いものでもどうぞ。めちゃくちゃ美味いんですよ」
手渡された小袋を、カフカは興味深そうに見つめた。
「あら、和菓子かしら? 可愛いパッケージね」
袋を開け、しっとりとした生地で北海道産小豆の餡とバタークリームを挟んだどら焼きを、カフカが優雅に一口かじる。
その瞬間――カフカの動きが止まった。
「……っ」
自家炊き餡の上品な甘さと、塩気の効いたバタークリームのコクが口の中でとろけ合い、ふんわりとした生地と合わさって絶妙なハーモニーを奏でる。安価でありながら圧倒的なクオリティを誇るシャトレーゼの技術の結晶が、カフカの舌をダイレクトに直撃したのだ。
「なに……これ……。甘みの中に、ほんのりとした塩気……。こんなに優しくて、濃厚な味わい……」
カフカの頬が、かすかに桜色に染まる。いつも完璧でミステリアスな笑みを絶やさない彼女が、どこか幼い少女のように瞳を輝かせ、気恥ずかしそうに頬を撫でた。
「ふふ……困ったわね。こんな美味しいものを教えられたら……私、本当にあなたを離したくなくなっちゃうわ……」
「カフカが……照れてる……!?」
銀狼が衝撃を受けつつ、自分もどら焼きをパクつく。
「んんんっ!? 甘じょっぱくてヤバい! ゲームしながら食べるのに最高すぎるんだけど!?」
刃も黙々とどら焼きを噛み締め、静かに頷いていた。
「よし……新店舗の力も手に入った。これなら……最高の『星間停戦宴会料理』が作れるぞ!!」
ムコーダは意気揚々と腕まくりをした。
### 【第六章】開宴・異界の狂乱フルコース
トランプラーの乱入というトラブルはあったものの、それが逆に「危険は去った」という証明になり、さらにフェルたちの圧倒的な力によって場は静まり返っていた。
混乱の収まった大宴会場。壊れたテーブルが整えられ、スターピースカンパニーの幹部、仙舟の要人、そして各宙域の代表者たちが、未だ緊張と猜疑心を剥き出しにして着席していた。
そこへ、カフカの合図とともに、ムコーダが堂々と特大のワゴンを押して入場してくる。
「皆様、大変お待たせいたしました! これより、異世界の食材と技を尽くした特製フルコースをご提供いたします!」
#### 【前菜・ドリンク】夜のクラフトコーラ & 生ハムとキャビアのサラダ
まず運ばれてきたのは、怪しくも美しい濃密な琥珀色のドリンク。
KURAND(クランド)**より取り寄せた**『夜のクラフトコーラ』だ。
スパイスとハーブが複雑に絡み合い、濃厚な甘みと柑橘の爽やかさが同居する、大人のためのプレミアムクラフトコーラシロップ。これを冷えたスパークリングウォーターで割ったものがグラスに注がれる。
「ほう……見たことのない色合いの飲み物だな……」
仙舟の要人が警戒しながら一口含んだ。
「――っ!? なんだこの弾けるようなスパイスの香りは!? シナモン、クローブ、カルダモン……それらが複雑に交差し、舌の上で官能的な甘みが弾ける……!」
「う、美味い! 酒ではないのに、まるで心を酔わせるような重厚感だ……!」
前座のドリンクだけで会場がどよめく中、続いて差し出された前菜。
**カルディ**から取り寄せた『生ハム』**と**『ランプフィッシュキャビア』**をふんだんに使い、ネットスーパーの新鮮野菜と和えた一皿。仕上げには、カルディ特製の**『ライムリーフドレッシング』が回しかけられている。
「し、生ハムの塩気とキャビアのぷちぷちとした食感……そこにライムリーフの爽快なアジアンハーブの香りが絡みつき、脂っぽさを一瞬で吹き消す! なんだこの洗練された味は!?」
カンパニーの幹部が目を剥いてフォークを動かす手を止められない。
#### 【一の皿】チーズウィンナーと加賀野菜のマーラータン・刀削麺入り
続いて運ばれたのは、深底のどんぶりから立ち上る痺れるような辛香。
**成城石井**の激ウマ『チーズウィンナー』**と、**OKストア**から取り寄せた新鮮な**『加賀野菜(加賀太きゅうり、加賀蓮根など)』**をたっぷりと煮込んだ**『マーラータン(麻辣湯)』だ。中にはモチモチの刀削麺が踊っている。
「ぬおおっ!? 辛い! だが痺れる旨さが追ってくる!」
「このウィンナーの中からあふれ出るパリッとした食感と、濃厚なチーズのとろけるコクは何だ!?」
「加賀野菜のシャキシャキとした歯ごたえと、唐辛子と花椒のスープが刀削麺に絡みついて、汗が止まらん……しかし手が止まらん!!」
会場のあちこちで、気取っていた要人たちが上着を脱ぎ捨て、汗をかきながらガツガツと麺をすすり始める。
#### 【二の皿】のどぐろの炭火焼き
宴の熱気が高まる中、静かに運ばれてきたのは日本の「魚のテーマパーク」**角上魚類**から取り寄せた、最高級の『のどぐろ(赤むつ)の炭火焼き』。
身にたっぷり乗った脂が炭火でじっくりと炙られ、皮目がパリッと香ばしく焼き上げられている。
「これは……魚……なのか? まるで極上の肉のような脂の乗り……!」
仙舟の食通が箸を伸ばし、一口含んだ瞬間、瞳から涙をこぼした。
「口に入れた瞬間、身がほどけ……濃厚で甘い脂がじゅわっと広がる! 塩加減が完璧だ! シンプルでありながら、素材の暴力を叩きつけられているような感覚だ……!」
#### 【三の皿】京野菜のシーザーサラダ
濃厚な魚の後は、お口直しのサラダ。
**OKストア**の鮮度抜群な『京野菜(水菜、九条ねぎ等)』**に、**カルディ**の味わい深い**『パンチェッタ』**をカリカリに炒めて散らし、仕上げに**成城石井**の**『濃厚シーザードレッシング』とパルミジャーノを惜しみなくかけた一品。
「シャキシャキとした京野菜の瑞々しさに、パンチェッタの燻製香と塩気……そして成城石井のドレッシングのコク! 箸休めどころか、これだけでメインを張れる美味さだ!」
#### 【メイン】松阪牛のサーロインステーキ ~ほりにしのスパイス~
そして、満を持して登場したメインディッシュ。
日本の誇る最高峰ブランド牛『松阪牛のサーロインステーキ』**。
これを、万能調味料として名高いアウトドアスパイス**『ほりにし』で豪快かつ完璧な火入れで焼き上げたものだ。
ジュゥゥゥゥッ……!!
「ぐ、なんだこの匂いはぁぁぁぁっ!?」
会場全体に広がる、松阪牛の甘い和牛香と、ほりにしに含まれるガーリック、塩、各種スパイスの破壊的な香り。
一口食べたカンパニー最高の美食家が、テーブルを叩いて立ち上がった。
「うあああぁぁぁぁっ美味い美味すぎる!! お肉が……噛む必要がないほど柔らかく解けていく! そしてこの和風でありながらスパイシーな『謎の粉(ほりにし)』の旨味が、和牛の脂の甘みを何倍にも引き立てている!! なんだこの悪魔的な肉はぁぁぁっ!!」
「おかわりだ! 私にもその肉をくれ!!」
#### 【サイドディッシュ】よだれ鶏 & 魯肉飯(ルーローハン)
勢いは止まらない。
『奥久慈しゃものよだれ鶏』**には、**カルディ**の**『よだれ鶏のタレ』をたっぷりとかけ、弾力のあるしゃもの歯ごたえと甘辛酸っぱいゴマ&ラー油のタレが絶妙にマッチ。
さらに、『かごしま黒豚の魯肉飯(ルーローハン)』が運ばれると、トロトロに煮込まれた黒豚の角煮と八角の香りが食欲を暴走させ、白米とともに要人たちの胃袋へ消えていった。
「もうダメだ……胃袋が……胃袋が屈服していく……!」
「政治交渉などどうでもいい! この料理を作ったシェフを我が社で雇うぞ!」
「ならん! 仙舟の国賓としてお迎えするのだ!」
#### 【デザート】スペシャルいちごショートケーキ & チョコバッキー
熱狂の宴の締めくくりは、**シャトレーゼ**の面目躍如たる絶品スイーツ。
甘酸っぱい苺とふんわりスポンジ、純生クリームが調和した『スペシャルいちごショートケーキ』**と、パリパリとしたランダムなチョコの食感が楽しい**『チョコバッキー』だ。
「この白いケーキのクリーム……雲のように軽い……甘美だ……」
「このアイスバー、チョコの食感がゴリゴリ、パリパリとしていてた、楽しすぎる……っ!」
ケーキとアイスを食べ終えた頃には、あんなに殺気立っていた要人たちが、全員穏やかな笑みを浮かべ、満腹の腹をさすりながら互いに肩を組んでいた。
「いやあ、カンパニーさん、今回の停戦条約、結んじゃいましょうか」
「そうだね仙舟さん、平和が一番だよ……あの美味しい料理をまた一緒に食べられるならね……」
カフカの言った通り、ムコーダの「とんでもスキル料理」は、一切の兵器を使わずに星間戦争の危機を完全に回避せしめたのだった。
### 【第七章】結末・報酬と大逃走劇
「ふふ……お見事だったわ、ムコーダ」
騒乱が収まり、和やかなムードに包まれた宴会場の裏手で、カフカが満足そうに微笑んでいた。
「政治家たちの警戒心を完全に解き、歴史的な停戦協定を結ばせるなんて。あなたの料理は、どんな『言霊』よりも強力な魔法ね」
「はぁ……はぁ……死ぬかと思いましたよ……」
疲れ果てたムコーダがへたり込む。
「さて、約束の報酬よ」
カフカが差し出したのは、約束通りの超高純度エネルギーブロックと、数億単位の信用ポイント、そして――
「これがあれば、あなたたちの元いた世界への『次元の扉』を開くことができるわ。銀狼、準備はいい?」
「いつでもいけるよ。座標セット完了」
銀狼がゲーム機を操作すると、ムコーダたちの目の前に、光り輝く次元の亀裂(ポータル)が現れた。
「うおおおおっ! これで帰れる! 帰れるぞぉぉぉっ!」
ムコーダは歓喜の声をあげた。
「ふむ! 素晴らしい成果だったなムコーダ! 異世界の肉も美味かったぞ!」
「スイ、甘いケーキすごーく美味しかったー!」
「俺もあの肉のスパイスのやつ、また食いたいぜ!」
従魔たちも大満足の様子だ。
「それじゃあカフカさん、皆さん、お世話になりました! 俺たちはこれで――」
ムコーダがポータルへ飛び込もうとした、その時だった。
「待てぇぇぇぇぇぇぇぇいっ!!!!」
地鳴りのような叫び声とともに、宴会場の扉が破られた。
現れたのは、目を血走らせ、口の周りに生姜焼きやステーキのタレをつけたカンパニーの幹部たち、仙舟の重鎮たち、さらには宇宙ステーションの警備隊長たちであった!
「あの素晴らしい料理を作った伝説の料理人を逃すな!!」
「我が星の専属料理長として年収100億信用ポイントで雇うぞ!」
「いや我が国へ来い! 男爵の爵位と城をやる!」
「待て、あの『ほりにし』とかいう魔法の粉のレシピを教えろぉぉぉっ!」
「ひえええええええっ!?!?? な、なんですかあいつらーっ!?」
ムコーダの顔が恐怖で引きつる。
「あらあら……あなたの料理の虜になったファンたちが、あなたを追いかけてきたようね」
カフカがクスクスと楽しそうに笑う。
「笑いごとじゃないですよ!? フェル! スイ! ドラちゃん! 逃げるぞぉぉぉっ!!」
「おいムコーダ! 早くあの穴に入れ!」
「主ー! 追っかけてくるよー!」
「シェフ! 逃がさんぞぉぉぉっ! もう一度あの『のどぐろ』と『どら焼き』を食べさせてくれぇぇぇぇっ!」
群がる宇宙の偉い人たちが、なりふり構わずムコーダへ向かってダイブしてくる!
「無理無理無理無理!! 帰る帰るーっ!!」
ムコーダは悲鳴を上げながら、報酬のバッグを抱えて次元のポータルへと全力で飛び込んだ。
続いてフェル、スイ、ドラちゃんも飛び込み、光の亀裂はギリギリのところでパチンッと閉じたのだった。
静かになった宇宙ステーションの裏手。
残されたのは、取り逃がして絶望する要人たちの叫び声と、
手に残った『バターどらやき』の袋を愛おしそうに見つめるカフカの姿だった。
「ふふ……またどこかで会えるといいわね、可愛いシェフさん」
カフカは優雅にサングラスをかけると、星々の海へと繋がる闇の中へ、静かに消えていくのだった。