次の日の深夜0時頃僕たちは再び昼頃追い出されたレストランの前に立っていた。
「2人とも準備はいいか?」
「もちろんです!」
「大丈夫です」
僕とエズラ先輩がそう各々の返事をすると、探偵様はキセルを手に持ち口に咥えたままレストランのドアを妖精を使って開けた。
妖精ってやっぱり便利だな〜高いからあんまり使えないけどやっぱりこう言う仕事には結構必需品だったりするんだよねー
「わぁ〜!どんなパーティを開いてるか見てみます?」
「肉塊…ですよね?」
「一体全体何を食べているんだ?」
ホテルのキッチンまで進んでみると、そこには赤い照明の下で何かを必死になって食べている肉塊のような存在がいた。
なんだろう…あれ…すごく…すごく美味しそうな匂い…!
「っ!目を逸らせ!あいつらが食べているものを見るな!匂いもだめだ!」
「探偵様、あれは…どんな味がするんでしょうか…?」
「あんなものを食べようなんて考えるな。食べたらあの肉塊達と同じになるぞ」
「……」
「はぁ…」
隠れていた場所から一歩前に出ようとしたところで僕は探偵様に後頭部を殴られた。
「いでっ」
先ほどまであの食べ物のような何かにしかぼやけて定まらなかった視点が殴られた衝撃でもとに戻り、顔にハンカチがあてられる。
あれ…?僕はなんであんなものを食べようと…?
「しっかりしろ、このままキッチンへ向かう」
「はい…」
「大丈夫?後輩」
「多分…」
僕は隣に立っていたエズラ先輩に若干心配されながらも探偵様に後ろに続いて廊下の奥を目指した。
また失敗しちゃった…最近はこんなのが続いてばっかりだ…
「人を魅了する食べ物か…」
「探偵さん、あいつらなんであれをあんなに必死そうに食べてるんですかね?」
「今からそれを調べに行くんだ、準備しろ2人とも」
廊下に列を作る肉塊たちはまるでこちらに一切の興味が無いようにただ何かをぶつぶつと呟きながら自分の番を待っていた。
探偵様はキセルをポケットから出し、エズラ先輩はスティグマ工房の剣を鞄から抜き、僕は大剣を背中からゆっくりと下ろし全員準備を終えたことを確認しゆっくりと扉が開いている廊下の奥の調理場へと進んだ。
「…入るぞ」
中に入ってみると、ガチャガチャと忙しく料理をするような音が聞こえた。隠れている調理台から音の聞こえる方を覗いてみると、シェフらしきねじれが尾に付いた手で自分に頭を向けている人物に何かをしていた。
あの人に一体何をしてるんだろう?何かをあの人の頭から取り出しているような…
「探偵さん…あれはなんですか…?脳ではなさそうですけど…」
「脳に入っている何か…考え…?」
「そんな考えを抜くなんてそんなこと…」
「ねじれとは見えないものを実体化させる。そう言うものだ」
「なるほど…」
僕が改めてねじれというものの特性に感心していると、こちらの声が聞こえたのかシェフが一瞬こちらを見たかと思えば完全に目が合ってしまった。
げ…!目合っちゃった…
「お前らは昼のクソどもか!料理を食べたきゃ列に並べ!昼に出してるものとは格が違うぞ!」
「あの人たちに何を食わせている?」
「あいつらの望むものを食わせてやってるんだ!俺は考えを調理する。最近の奴らは自分が何を考えているのかさえ分かっていない。だからこそ誰かが調理して食べてもらわなきゃならい!」
探偵様はその言葉を聞き、眉間に軽く指を当てた。
それもそうだ、人を殺したねじれとなればもうねじれる前には戻れない。当然排除対象となる。
「人を殺したのか…」
「殺した?あいつらは死んでなんかいない。今も俺の料理を美味しく食べてるじゃないか」
そうシェフが言い終わると先ほどまで静かだった廊下から大量のベタつく足音が聞こえる。
「うわぁ!?探偵さん!肉塊がキッチンに集まってきてます!」
「…エズラ、ラパエ、処理しろ」
「…了解しました」
「はいっ!」
僕はエズラ先輩元気よく探偵様に応えスティグマ工房の剣を持って敵に向かっていくエズラ先輩の後ろに続いた。
「…ふん!」
僕はこちらに捨て身とばかりに向かってくる敵数体を相手に半歩ほど踏み込み思い切り横に振った大剣は肉塊数体の胴を綺麗に真っ二つに吹っ飛ばしながら切り裂いた。
「てい!」
エズラ先輩はスティグマ工房の武器特有の熱線が入った紋様から生まれる肉の焼けこげた匂いと断面にその紋様を残しながら敵を蹴散らしていた。
スティグマ工房の武器はやっぱりかっこいいなーでも僕には大剣があるし…
「ふう…」
後ろから一瞬煙を吐く探偵様のことが聞き取れたが、肉塊たちが相変わらず突進してくるため探偵様とねじれが何を話していたかは聞き取れなかった。
__ __ __
「探偵さん!肉塊全員、処理しましたよ!」
「こっちも終わった」
数分後、エズラ先輩が最後の一体を切り刻み探偵様に伝えると、探偵様のねじれの処理も終わったようで奥のキッチンから出てきた。
「ツヴァイに連絡しちゃいます?」
「あぁ、適当に報告書は書いておけ。どうせ考えを抜いて調理する…と書いても信じないだろう。私は先に戻って仮眠を取る。」
そう言うと探偵様は僕とエズラ先輩を置いてレストランの出口へと向かっていった。
「は〜い!後輩はどうする?」
「僕ですか?僕も戻って仮眠を取ろうと思います」
「分かった〜!」
「お疲れ様です」
僕は鞄に剣をしまう先輩に一言声をかけると出口へ向かった。
今日は“あれ“の日か。明日は朝が早くなりそう。
___ ___ ___
次の日の早朝、僕はいつもとは違う“黒のスーツ“を着て深夜に来ていたレストラン近くにある路地裏に来ていた。エズラ先輩が報告書を今日のうちに提出したからか朝からツヴァイ協会のフィクサーが十数人現場に来ていた。
「エズラ先輩、あなたは一体何を報告書に書いたのですか?」
私は現場の警備の厳重さに驚いていた。普通の協会ならねじれ事件というものには関心どころか信用もなく大体は良くてフィクサーが数人程度起こった現場に来るか程度であり、それらしき報告書を書いても書き直しさせられるぐらいだった。
ここまで厳重な警備になることは予想していませんでしたが…いいでしょう。私は私に与えられた仕事をするだけですので。
「本当に部長はこんなことを調べろって言ってたのか?」
「仕方ないだろ、仕事なんだから…」
依頼で使ったもう一つの入り口から中に入り、素早く近くの部屋へと隠れ中の様子を伺った。
少し覗いてみると、そこには2人のツヴァイフィクサーがハンカチを口にあてながら切り裂かれた肉塊たちを見て回っていた。
「本当にこんなのがずっとここにいたのか…?」
「おい、ちょっと見ろよこいつの断面…なんか模様が入ってるぞ」
「この紋様が入ってるってことは…おそらくスティグマ工房の武器を使ってたやつがこいつを殺したってことか…随分と金持ちがこの依頼を受けたんだな…」
「(他にフィクサーの方は…見当たりませんね)」
2人がエズラ先輩が切り裂いた肉塊の遺体を確認しているのを聞きながら私は辺りに他にフィクサーがいないことを確認し、隠れていた部屋からフィクサー達がいる廊下へと足を進めた。
どちらにしろこれからやることは多少なりとも音を出しますからね。今のうちに店の中にいる人たちには眠ってもらった方が良いでしょう。
「っ!?誰だ!ここにどんな目的…で…」
「は、はぁ…!?」
「こんにちは、いえ。この時間ならおはようございますというのが良いでしょうか?」
2人後ろからゆっくりと接近すると1人は即座に私の気配に気付いたのか振り返り、もう1人はその声を聞いてか少し遅れて反応した。しかし、2人とも私を見るや否や先ほどまでの少し楽しそうな顔はどこへやら、後に反応した方は怯えたような、先に反応した方は緊張したような顔になった。
それもそうでしょう。なぜなら私は今普通の人間では構造上ありえないはずの腕が5本あり尚且つ私の顔は今は大きな黒い蝶になっているのだから。
…やはり普通の人には驚かれてしまいますよね。なぜだか少し残念です。
「お前は…なんだ…?」
「私ですか?私はただ腐りつつある遺体を回収しに来た葬儀屋ですよ」
「葬儀屋…?」
私は首から伸びる手一本以外を上着のポケットに入れ、出来る限り優しい声で彼の質問に答えた。が、彼は私の答えに意味がわからないと言わんばかりに私に聞き返した。
「そうです。それで唐突なのは分かっているのですが…眠ってもらえないでしょうか?」
「は?」
「え?」
私は自分の意思を伝え終えた後、ポケットから残りの腕4本を素早く抜き全部の手で人差し指と親指以外を曲げ、銃のような指の構えを取った。次の瞬間、チリンと音が鳴り私と話していた方はギリギリのところで私の攻撃を避け、先ほどから怯えたような表情をしていた方は音が鳴り終わるのと同時に床に倒れ込んだ。
1人逃しましたか、これはそう簡単には終わらなさそうですね。
「クソッ…!」
「避けてしまいましたか…残念です」
私は背中に背負っている大剣から鎖を解き、大剣を本来の棺に戻した。
本来ならあのねじれてしまった方に使うはずのものですが…こういった使い方も悪くは無いでしょう。
「なんでもありかよ…!」
私は棺を地面に立てるように置くと、大剣が棺に変わったことに驚いている様子でいるフィクサーに向かって棺の扉を開いた。
フィクサーは咄嗟に私の方に防御姿勢を向けてきたが、棺から出てきた大量の黒い蝶の群れに飲み込まれ私が棺を閉じる頃には焦点が合わない目をしながら数秒後またチリンという音と共に倒れた。
さて、外にいる方々が今の音を聞きつけた可能性も考えると急いだ方が良さそうですね。
「あなたに哀悼の意を」
そう一言残し私は廊下の奥のキッチンへと足を進めた。
やっと蝶の葬儀感出てきた…あと上手く書けてるかな…?
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