星を掴め ―― 嗤われた【重力魔法】、時間も光も支配して最強になった 作:朝凪小夜
双頭の竜を倒してから、俺の力はもう誰にも止められなかった。
最深部へ進むほど、魔物は強くなる。だが、強い魔物ほど聖点の力で濃く強化されている。そして。その濃い強化ほど俺の重力は深く効く。
俺は倒すたびに強くなった。
竜を一頭沈めれば、その莫大な強化が俺のものになる。強くなれば、より強い魔物を倒せる。より強い魔物を倒せば、より大きな強化を吸収する。
際限がなかった。
この絶望的な戦力差の領域で、俺は倒すたびに膨れ上がっていった。竜を、狼の群れを、異形を。かつて都市の総力を結集した討伐隊すら飲み込もうとしたこの絶望を。俺は糧にして強くなり続けた。
気づけば。
俺は一人で竜の群れを沈めていた。
ルーチェの光がなくても。俺の集束させた密度が竜の頭を押し潰す。時間を止め、動きを奪い、そして圧し潰す。数十の兵の命を要したあの災厄を俺は一人で次々と。
あの双頭の竜との戦いで掴んだ密度の集束、それが俺の戦い方を根本から変えていた。もう遅らせて、ルーチェに貫いてもらうだけではない、俺自身が倒せる。一点に集めた密度で、竜の頭であろうと、異形の核であろうと、握り潰せる。攻撃力が貧弱だと嘆いていたあの俺はもういなかった。
狼の大群が押し寄せても、俺は広げた領域でその数百の群れを一斉に鈍らせ、ルーチェの光と俺の集束で掃討した。
人ならぬものたちの領域。ここを支配していた魔物たち。
その絶望的な戦力差を
――俺は覆していた。
遠くでヴェルドー家の討伐隊がまだ戦っていた。
数百の、兵腕利きの冒険者。魔法使い。聖職者。都市の総力。それが竜と狼の群れに押されながらじわじわと進んでいる。
その討伐隊が倒す魔物の数は。
俺一人が倒している数の
――半分にも満たなかった。
最初は信じられなかった。都市の総力を結集した大部隊。それが一頭の竜を倒すのに数十の兵の命を要していた。なのに、俺は一人で竜を次々と沈めている。
石ころ使いと嗤われた俺が
都市の総力を上回る戦果を叩き出していた
そして。
ヴェルドー家の討伐隊の先頭で剣星が舞っていた。
ステラ。
あいつは相変わらず圧倒的だった。一人で竜を両断し、狼の群れを薙ぐ。都市の誇り、頂の存在。
だが。
俺は今、あいつの隣に並んでいた。
いや。
越えていた。
ステラが一頭の竜を両断するあいだに、俺は三頭を圧し潰していた、ステラが数十の狼を薙ぐあいだに、俺は数百を鈍らせ掃討していた。
かつてあの崖の際で、俺はあいつの遠い背中を見上げた。丘の上の庭園で微笑むあいつを、俺の声も手も届かない場所にいたあいつを。あのとき、俺は、あいつと俺のあいだに横たわる途方もない距離にただ打ちのめされた。
その距離を今、俺は埋めきって、追い越していた。あいつがいる場所より、さらに高いところへ。同じ戦場で、同じ魔物を相手に、あいつの何倍もの戦果を挙げながら。
あいつの強さは個の力だ。一人の剣の届く範囲。どれだけ圧倒的でもその剣の届く先だけ。
俺の力は、違う。
この聖点の力に満ちた領域で倒すほど膨れ上がる。剣の届く範囲など関係ない。俺はこの絶望を丸ごと糧にして際限なく強くなっていく。
――越えた。
俺は追いかけていた。あの遠い背中を。剣星を。この人ならぬ領域でこそ越えていた。
胸の火が、ごうと燃え上がった。
石ころ使いと嗤われた頃、俺はあいつの背中をただ見上げることしかできなかった。あの頂は雲の上にあった。届くなんて思えなかった。
だが今。
俺はその頂を越えている。
都市の総力すら上回る戦果を。剣星すら凌ぐ働きを。この絶望的な聖点の最深部で俺は叩き出していた。
誰も俺を見下せない。
もう、誰も。
あの宴で俺を虫けらのように嬲ったあの男。あいつの討伐隊は今俺の後塵を拝している。あいつが率いる都市の総力が俺一人の戦果に及ばない。
――ざまあみろ。
ほんの少しの、だが、確かな溜飲。あの男の、あの貴族たちの、俺を見下したあいつらの鼻を明かしている。庶民の身で。あいつらの頂を越えて。
これが俺の望んだ自由だ。
誰にも見下されない。誰にも踏みつけられない。圧倒的な力で全てを越える。
空っぽだった胸に今火が満ちていた。
「クロト」
隣でルーチェが俺を見ていた。
その碧い目が静かに俺を映している。
「……あなたはもう、誰も届かない場所に来たわ。都市の総力も剣星もあなたには及ばない。……この戦果は誰の目にも明らかよ。この聖点を獲るのにあなたがいなければならなかったって。……勲一等はあなたのものよ、クロト」
勲一等。
庶民が貴族の勲功を覆すそれが俺の手の中にあった。
俺は頷いた。
「……ああ。もう少しだ。最深部の大珠を獲れば……俺は勲一等の英雄になる。誰にも見下されない自由を手に入れる」
「ええ」
ルーチェは微笑んだ
「……そのために、私がついてるわ。最後まで……あなたの戦果を誰にも奪わせない」
誰にも奪わせない。
その言葉を俺は心強く聞いた。
ルーチェがいる。あいつが俺の戦果を守ってくれる。相棒として最後まで。
俺はそう思った
ただ隣に心強い相棒がいて、俺の圧倒的な戦果を守ってくれる。それだけで俺は満たされていた。
最深部の大珠がもうすぐそこに見えていた。
力の渦巻く巨大な聖点。その中心。全ての魔物が守ろうとするこの地の核。
あそこを獲れば。
俺は勲一等の英雄になる。ヴェルドー家より先に。あの男の目論見を砕いて、誰にも見下されない自由を手に入れる。
俺はその大珠を見上げた。
空っぽだった胸に火が満ちている。目指すものがある。あと少し、あと少しで俺は全てを手に入れる。
――そう信じて。
俺は最後の力を振り絞って、最深部の大珠へと進んでいった。
その隣で金の髪が静かに微笑んでいた。