グリーン・スパイダー 作:みどりいろ
私、
主な理由は、できることが少ない場所に居たから。
ここは
端的に言えば、ドが幾つか付くレベルの田舎である。
デパートどころかコンビニもないし、一番近いスーパーまで徒歩数時間はかかるらしいのだ。
一ヶ月ある夏休みの内、一週間の間だけだけれど。両親の都合で私はこの、大きな畑とそれを囲むもっと大きな自然の中で、過ごすこととなった。
で、退屈だなって話だけど。
それもなにより、電波的に少し不便で、ネットに気軽に繋げられないこと。そこがネックで退屈に拍車をかけている。
友達と会うのはもちろん、通話もちょっと難しいなんて、生まれてこの方あんまり経験のないことだった。
とはいえ。私は暇でも、お世話になっている親戚夫婦は仕事で忙しいだろうし。余計な手間をかけさせるのも申し訳ない。
ここに不満があるというわけじゃないし。
ただそう、ここには娯楽らしい娯楽がない。
もっと子供なら泥遊びなり山に入って駆け回るなりするかも知れないけれど、それはちょっと。一応私も花の女子高校生。小学生男児ではないのだ。
「でも流石に勉強以外、じっと家でだらだらするのもなあ。散歩にでも行こうかな」
ほとんど使い物にならないスマホだけ時計代わりに持って。ここの地理に明るいわけでもないのでアテもなく。「ちょっとその辺散策します」と書き置きだけして家を出た。
「空気は美味しいんだけどね」
畑を横目に、愚痴と言うほどでもない感想を吐く。
地面は昨日の雨が残っているのか、少しだけぬかるんでいて散歩のコンディションはそんなによろしくはない。
でも、空気は澄んでいる。自然もたまに触れるくらいなら新鮮で、いいかも。なんてプラスに思考の舵を切る。
「うわ、虫だ」
手のひらを返した。サイアク。
間も置かず、マイナス気分に傾き直す。
街じゃそうそう見かけない、デカいムカデ。
それが道端にぼとりと落ちていた。
背筋がぞわりと震えるのも仕方がない。
「か、帰りたい」
無論。この大自然から、と言う意味だけど。
いや、まだまだ帰るまで時間があるのだ。
ホームステイは始まったばかり。こんなことで、挫けてはいられないのだ。
せっかくのお休み。一週間を無駄にするわけにもいかない。
気を取り直し、大回りでムカデを避けて先へ進む。
「写真撮ろっかな」
普段周りにない環境だし。記念にもなるだろう。スマホを取り出して、風景を試しに撮影する。カシャ。と小気味良い音がスマホから発射された。
「いいかも?」
正直、良し悪しは不明だ。
写したのは畑と曇り空。映えもなにもないけど。これはこれで良い、のかも。
いや、どうだろう。わからない。
別に全然良くないかも。
まあこれから上手くなればいいでしょう。
開き直って、切り替えて、またシャッターボタンを押した。
「ふん」
パシャパシャと、取り敢えず数だと写真を撮りまくり、気が付けば時刻はそろそろ夕暮れ時。我ながら十分過ぎるほど活動していた。
なんだ、結構楽しめるもんじゃん。なんて、鼻を鳴らす。
日が暮れたら暗くなるし、帰らないと。
と、そう考えていた時、
「あれ?」
遠くに、座り込んでいる子供らしき姿が見えた。
この辺の家の子かな。なんて思ったけれど、どこか様子がおかしい気がした。
取り越し苦労なら良いけれど、ほうって帰るのも寝覚めがわるい。
声だけでもかけた方がいいかな。
そう思いながら近づくと、それはやはり子供だったみたいだ。
仕立ての良さげな若草色のワンピースを着て、澄んだ雰囲気を纏う様は、どこぞかの令嬢然としている。無頓着にまだ乾ききっていない地面にべったりと座り込んでいるのも含めて、どことなく、浮世離れしているというか。
「どうしたの?」
声を掛けるが、反応はない。
この辺に住んでいるのかなと考えて、様子を見る。
同世代、というには少しだけ年の差がありそうだった。中学生くらいかな。
反応がないと居心地も悪い。
どうしよう。と思案を繰り返す。
慣れないことをしているためか、状況に酔っているのか、少しだけ鼓動が逸る。
「大丈夫?」
ようやく少女が顔を上げた。
しかし不思議そうな目をするだけで、その表情はほとんど「無」。
角度によって完全に翠色に見える、不思議な光沢を持った黒髪。
流石に地毛ではないだろうと思ったけど、よく見ると眉毛やまつ毛まで同様だった。
無機質な、温度のない瞳に私の顔が映る。
(綺麗……)
森の妖精か自然の擬人化か何かかな?
なんて、冗談でも突拍子もない思考がよぎる。
あとから考えれば変なテンションになっていたんだとわかるけど。それもやむなしってくらい、その子の存在は幻想めいていた。
「名前は言える?」
これが私とワカバの出会いで、
たった一週間の交流。そのはじまりだった。