けれどユウカも、ヒナも、確かに昨日の先生と話していた。
メッセージも残っている。仕事もしている。
誰も嘘をついていない。
それなら――昨日、先生だったのは誰なのか。
キヴォトスで起きた、ある一日の事件。
けれどユウカも、ヒナも、確かに昨日の先生と話していた。
メッセージも残っている。仕事もしている。
誰も嘘をついていない。
それなら――昨日、先生だったのは誰なのか。
キヴォトスで起きた、ある一日の事件。
目を覚まして、最初に感じたのは頭の重さだった。瞼を開けても、しばらく焦点が合わない。口の中は妙に乾いていて、身体も鉛のように重い。よく眠った朝というより、深い水の底から無理やり引き上げられたような感覚だった。
それから、目を覚ます直前まで、誰かに呼ばれていた気がする。
「先生。先生、起きてください」
「先生! お願いです、起きて!」
聞き覚えのある声だった。
私は枕元の端末へ手を伸ばした。午前6時42分。そして、その下に表示されている日付を見て、指が止まる。
“……水曜日?”
おかしい。
私の最後の記憶は、月曜日の夜だった。その日は仕事が長引いたので、そのままシャーレ内の居室に泊まることにした。「月曜からこの調子じゃ、今週大変だな……」なんて思った覚えもある。
その夜は軽く食事をして、明日も早いしそろそろ寝よう――そこまでは覚えている。
火曜日の記憶が、丸ごとない。
私は身体を起こした。頭痛、倦怠感、それに少し吐き気もある。単なる寝過ぎとも思えたが、それだけではない気がした。
枕元にはシッテムの箱が置かれている。手に取って電源を押したが、画面は真っ暗なままだった。
“……アロナ?”
もう一度押すが、反応はない。
充電器へ繋いでみると、ようやく空になったバッテリーの表示だけが一瞬浮かび、また画面が消えた。
“珍しいな……”
昨夜充電し忘れたのだろうか。
そう思いながらシッテムの箱を充電器へ戻し、自分の端末を開いた。
カレンダーは水曜日。ニュースの日付も水曜日。
そしてモモトークを開いたところで、背中に嫌な汗が滲んだ。
ユウカ「先生、もうすぐつきますけど領収書の分類終わりましたか?」 09:03
“終わってるよ。珍しいでしょ” 09:04
ユウカ「珍しいでしょ、じゃありません!!毎回やってください!!」 09:04
日付は昨日、火曜日。
ノア「先生、午後の書類をお持ちしますね」 13:51
ノア「10分ほどで伺いますね」 13:51
“ごめん、少し席を外すから机に置いておいて” 13:52
ノア「直接伺いたいこともあるので、執務室に行きますね」 16:15
“ごめん、忙しくて今日は会えそうにないかも。” 16:17
ノアとの会話。
その他にも、私が送ったことになっている文章が何十件も並んでいた。どれも、私が書きそうな文章だった。
“……覚えてない”
昨日送ったはずのメッセージに、一件も心当たりがなかった。
昨日、私は何をしていた?
数分間画面を眺めたあと、私は通話画面を開き、ユウカへ電話をかけた。朝早いので少し迷ったが、昨日もっとも長く私と接していたらしいのが彼女だった。
数回の呼び出しのあと、眠そうな声が返ってくる。
ユウカ「先生……? どうしました、こんな朝早くに」
“ごめん、ユウカ。少し聞きたいことがあるんだけど”
ユウカ「はい……?」
“昨日、私と会った?”
電話の向こうが静かになる。
ユウカ「……はい?」
“昨日、火曜日。私と会ったかな”
ユウカ「会いましたよ。シャーレで」
“それって、何時くらい?”
ユウカ「9時過ぎから……1時間くらいですけど」
ユウカの声から、眠気が消えていった。
ユウカ「先生。何かあったんですか?」
私は昨日のモモトークを見つめながら答えた。
“……昨日のこと、何も覚えてないんだ”
今度は、さっきより長い沈黙があった。
ユウカ「…………は?」
事情を簡単に説明すると、ユウカはすぐに声を低くした。
ユウカ「先生、今どこですか?」
“シャーレ。いつもの居室”
ユウカ「そこから出ないでください」
“そこまで?”
ユウカ「そこまでです。それに……昨日の先生、『明日の午前中は休む』って言って、午前の予定を全部空けてたんですよ」
“私が?”
ユウカ「はい。午前中に来る予定だった人にも連絡してました。だから私も、今日は午後から行くつもりで……」
妙だった。
昨日の私が、今日の午前中に誰も来ないようにしている。
ユウカは予定を変更して8時半頃にシャーレへ来ると言った。そして電話を切る直前、少し考えてから尋ねてきた。
ユウカ「ノアにも声をかけていいですか?」
記憶を辿るなら、確かにこれ以上適任な人物も少ない。
“お願いしていい?”
ユウカ「分かりました。先生は、それまで一人で変なことしないでくださいよ」
“変なことって?”
ユウカ「分かりませんけど! とにかくです!」
電話が切れた。
私は端末を置き、充電中のシッテムの箱を見る。
いつも元気な二人がいないのは寂しい。そして、不安だった。
◇◇◇
午前8時34分。
予定通りユウカとノアが居室まで迎えに来て、そのまま三人で執務室へ移った。
ノア「月曜日の夜から今朝まで、本当に何も覚えていないんですね?」
“うん。昨日の朝、起きた記憶すらない”
ノア「夢などは?」
“今朝は誰かに起こされた気はする。でも夢かもしれない”
ノアは手元の端末へ淡々と記録していく。一方のユウカは、さっきからずっと難しい顔で私を見ていた。
“ユウカ?”
ユウカ「何ですか」
“昨日の私、そんなに変だった?”
ユウカ「……普通でしたよ」
“普通?”
ユウカ「少なくとも、その時はそう思いました」
そこでノアが顔を上げた。
ノア「ユウカちゃん。昨日は私に、『今日の先生、なんか変だった』とおっしゃっていましたよね」
ユウカ「の、ノア!」
“変だったんだ”
ユウカ「ちょっとだけです!」
ユウカは顔を赤くした。
ユウカ「……昨日の先生、仕事を全部先回りしてやってたんですよ。領収書も分類済み。予定も確認済み。私が言う前に必要な書類まで出してきて」
“いい先生じゃないか”
ユウカ「そこじゃありません!」
ユウカが机を軽く叩く。
ユウカ「それだけだったら、珍しくやる気があるな、で終わってました。でも昨日、私が昼食のことで注意したんです。また適当に済ませたでしょうって」
“いつものやつだ”
ユウカ「いつものです。そうしたら先生、『分かった。次から気をつけるよ』って」
“……一回で?”
ユウカ「一回で」
“それは変だ……”
ユウカ「自分で認めるんですか!?」
けれど、言われてみれば分かる。私ならたぶん一度くらい、忙しかったとか、今日は仕方なかったとか、野菜ジュースは飲んだとか、そんな抵抗をする。
ユウカは視線を落とした。
ユウカ「その時は、今日は素直だなって。ちょっと嬉しかったんです。でも今思い返すと……返事が正しすぎたんです」
“正しすぎた?”
ユウカ「私が何を言えば納得するか知っていて、一番正しい返答をそのまま返されたみたいな」
気持ちの悪い表現だった。
ノア「ちなみに私は、昨日先生に一度も会えていません」
“そうなの? でもモモトークでは会う予定だったみたいだけど”
ノア「はい。二度会おうとしました。一度目は13時51分に『先生、午後の書類をお持ちしますね』と連絡しました。先生は14時3分に執務室を出て、私が着いたのは14時7分」
“……連絡した直後に出た?”
ノア「二度目も同じです。16時15分に、今から伺うと連絡しました。先生は16時17分に外出。私が着いたのは16時21分でした」
“避けられてるみたいだね”
ノア「ええ。偶然なら、ですが」
ノアはいつも通り微笑んでいたが、目だけは笑っていなかった。
◇◇◇
昨日の防犯カメラの映像を確認した。
火曜日、9時13分。執務室から出てくる私。その隣にはユウカがいる。画面の中の私は何かを言い、ユウカがこちらを向いて怒る。それを見て画面の中の私は笑っていた。
“……私だね”
ユウカ「先生ですね」
ノア「先生……に似てますね」
顔も、服も、歩き方も、表情も私だった。
なのに、画面の中の私は昨日という日を知っている。ここにいる私は、何も知らない。
その日の通話履歴を見ると、18時7分にヒナへ電話をかけていた。
私はヒナへ電話する。
ヒナ「先生? どうしたの?」
“朝からごめん。昨日、私から電話したよね?”
ヒナ「……した」
“何を話した?”
ヒナが一瞬黙った。
ヒナ「妙な話だった」
“妙な?”
ヒナ「先生が急に、『ストリートオブヤンキー』の話をし始めたの」
“漫画の?”
ヒナ「うん。11巻の143ページ、2コマ目。いいシーンだよね、覚えてる? って」
“……それだけ?”
ヒナ「そのあと、『今夜もう一度ちゃんと見てみて。台詞だけじゃなくて、背景も』って。感想は明日聞くから、って言って切った」
私は覚えていない。
ノア「空崎さんは、それで何かされたんですか?」
ヒナ「気になったから、読み返した」
電話の向こうで紙をめくる音がした。
ヒナ「そのコマ。背景は鐘崎港。特徴的な時計塔が写ってる。台詞は『こっちは7人倒したぜ』。3人のヤンキー。停まってるのは大きめのバン。それから、時計は20時。」
“鐘崎港、7、3、バン、20時……”
ヒナ「何かの緊急のメッセージかと思った」
ユウカ「それにしては、ずいぶん回りくどいですけど……」
ヒナ「私も考えすぎかと思った。でも先生がわざわざ『背景も見て』なんて言うのは変だったから」
“もしかして……何か、調べてみた?”
ヒナ「うん、実際に行ってみた。鐘崎港、第7埠頭の第3倉庫。大勢を動かすほどの根拠はなかったから、私だけで確認しに行った」
“それで?”
ヒナ「本当にいた。灰色バンが」
私たち三人は顔を見合わせた。
ヒナ「20時過ぎ、第3倉庫から出てきた。こっちに気づいた瞬間に逃げたから追ったけど、途中で撒かれた」
ノア「そのことを昨日、先生に伝えましたか?」
ヒナ「伝えていない。先生がわざわざ『感想は明日聞くから』と言っていたから、何かあると思って」
ノア「なるほど。賢明なご判断かと」
“その車の情報って残ってる?”
ヒナ「ナンバーも車種も記録してある。送る」
“ありがとう”
ヒナ「先生」
“うん”
ヒナ「今日は一人で行動しないで」
“分かった”
通話が切れた。
ユウカ「先生、今日は随分素直ですね」
“今のお願いに言い訳するほど馬鹿じゃないよ”
ノア「昨日の先生も、同じように判断していたのかもしれませんね」
ノアの言葉で、また室内の空気が冷えた。
◇◇◇
今度はユウカが、昨日のシャーレの通信記録を調べ始めた。
ユウカ「……何これ」
“何か見つかった?”
ユウカ「昨日、先生がシャーレにいた間、ずっと外部との大容量通信が続いてます」
“動画でも見てたとか?”
ユウカ「仕事中にそんな量の動画を見てたら怒りますよ」
“じゃあ知らないことにしよう”
ユウカ「見てたんですか!?」
“昨日の私は知らないって!”
ノア「ユウカちゃん、今はそちらではなく」
ユウカ「分かってる!」
通信にはミレニアム系の規格が使われていた。ユウカはその場でハレへ電話をかけ、事情を話してから、通信ログを送る。
ユウカ「ハレ。朝からごめん。今送ったログ、見てもらえる?」
ハレ「……ちょっと待って」
しばらくして、ハレの声が返ってきた。
ハレ「これ、遠隔制御じゃない?」
ユウカ「遠隔?」
ハレ「双方向で映像、音声、姿勢情報。触覚フィードバックもある。人型素体とかアバターフレームとか、そういうの」
私たちは顔を見合わせた。
ユウカ「ちょっと待って。それって……遠くにいる誰かが、人形みたいなものを動かしてたってこと?」
ハレ「簡単に言えば、そう」
ノア「……昨日の防犯映像には、先生が映っていましたよね」
ユウカ「……ええ」
ノア「では、その素体を使えば……誰かを先生そっくりに見せることも可能なんですか?」
ハレ「技術的にはね。外側に高精度のホログラムを被せれば、顔も服も体格もかなり誤魔化せる。中にちゃんとした人型素体が入ってるなら、歩くことも物を持つこともできるよ」
“……そんなことまでできるの?”
ハレ「できるかできないかだけなら、できる」
そこで、ハレは少し間を置いた。
ハレ「でも、だからって一日中誰かになりすますのは別の話かな」
ユウカ「どういうこと?」
ハレ「見た目だけ先生にしても、すぐバレるよ。歩き方、よく使う言葉、誰をどう呼ぶか、どの仕事を先にやるか。人によって距離感も違うし」
ノア「私と話す時の先生と、ユウカちゃんと話す時の先生では、同じではありませんからね」
ハレ「そういうこと。その人の生活習慣も、人間関係も、かなり細かく知らないと無理」
“しかも、その場その場で相手に合わせて喋らないといけない”
ハレ「うん。一日の予定まで組むなら、相当計画的にやらないと。普通の遠隔操作者じゃ、すぐにボロが出るよ」
ユウカが、さっきの会話を思い出すように眉を寄せた。
ユウカ「……でも昨日、その場で偽物だと疑うほどの違和感はなかった」
ノア「ええ。少なくとも、大きな騒ぎにはなっていません」
“じゃあ、もし本当に誰かが私を動かしてたなら……”
私の姿を真似られるだけでは足りない。私が普段どう動くのかを知っていて、誰とどんな距離で話すのかも知っていて、それを一日の筋書きとして組み立てられる人間でなければならない。
ハレ「そういう人が裏にいるなら、話は別だけどね」
その言葉に、背筋に寒気が走った。
ユウカ「待って、じゃあ……昨日の先生って」
ユウカが小さく呟く。
ハレ「中身まで先生だったかは、分からないね」
ユウカはハレにお願いして、さらに通信経路を追ってもらった。
しばらくして出てきた接続元を、ユウカが読み上げる。
ユウカ「え……接続元、これ、本当?」
ハレ「うん……私もおかしいと思って何回もチェックしたけど、本当みたい」
ユウカ「ワイルドハント芸術学院……特殊交易部?」
◇◇◇
すぐに特殊交易部へ連絡を取ると、桜井ミヨ本人に繋がった。
昨日の遠隔通信について聞きたい、と伝えた瞬間、電話の向こうで僅かに息を呑む音がした。
来られるなら直接話したい、と伝えると、ミヨはしばらく黙ったあと答えた。
ミヨ「……分かりました。今、近くにいるので……行きます」
◇◇◇
午前10時12分。
ミヨは、見るからに帰りたそうな顔でシャーレへやってきた。
ミヨ「さ、桜井ミヨです……」
“朝から呼び出してごめんね”
ミヨ「い、いえ……」
正面にユウカ。斜め横にノア。私は少し離れた位置へ座る。
ユウカ「昨日、シャーレへ接続されていた遠隔制御通信について聞きたいんですが」
ミヨ「……知りません」
ミヨは即答した。
しかしノアがにこりと笑う。
ノア「まだ具体的に何の通信か、お伝えしていませんよ」
ミヨ「…………」
ノア「昨日の先生について、何かご存じではありませんか?」
ミヨ「知りません」
ノア「本当に?」
ミヨ「ほ、本当に……」
ノアは追及を急がなかった。代わりに、静かに別の質問を出した。
ノア「では昨日の先生は、なぜ私だけ避けていたのでしょう?」
ミヨの顔が固まった。
ノア「私は二度、先生へ『今から伺います』と連絡しました。その二度とも、直後に先生は執務室を離れています。偶然でしょうか?」
ミヨ「…………」
対面で押されると弱いのだろう。ミヨは見る見る背を丸めて椅子へ沈んでいった。
ミヨ「いや……ノアさんはリストに……」
口にしてから、自分で気づいたらしい。
ミヨ「あ」
両手で口を塞ぐ。
ノア「ミヨさん」
ノアの笑顔が僅かに深くなる。
ノア「何のリストですか?」
ミヨ「…………」
ノア「昨日、先生との接触を避けるべき人物をまとめたリストがあった。違いますか?」
しばらく黙っていたミヨが、観念したように肩を落とした。
ミヨ「……接触禁止者リストです」
ユウカ「誰との?」
ミヨ「……昨日の、先生役との」
ユウカの表情が変わる。
ユウカ「先生役……?」
ミヨは膝の上で手を握り締めた。
ミヨ「昨日シャーレにいた先生を動かしてたの……私です」
室内が静まり返った。
“あの……私そっくりの、素体を?”
ミヨ「……はい」
ユウカ「ちょっと待ってください。じゃあ、昨日私と話してた先生も?」
ミヨ「私が操作してました」
ユウカ「モモトークも?」
ミヨ「……はい」
ユウカが額を押さえる。
ユウカ「何でそんなことを……」
ミヨ「ち、違うんです!」
ミヨが慌てて顔を上げる。
ミヨ「私、犯罪だとは思ってなかったんです。本当にシャーレの『セキュリティ訓練』だって聞いてて……!」
“セキュリティ訓練?”
ミヨ「はい。先生本人も許可してるって」
“私はそんな許可をした覚えないけど……”
ミヨ「それも、おかしくないことになってたんです」
“どういうこと?”
ミヨ「『抜き打ち形式の訓練』だって説明されました。先生は、いつか本人そっくりの代役を送り込んで、周囲が気づけるか確かめる訓練をすること自体には事前に同意している。でも、いつ実施するか、どういう方法でやるかは先生本人にも教えないって」
ノア「先生本人へ確認しても、訓練かどうか確かめられないようになっていた」
ミヨ「……はい。それに、『訓練終了の通知が来るまでは、先生本人から何を聞かれても内容を明かさないこと』って。先生側から協力者の守秘を確認する場合もあるって言われてました」
それなら、もし私本人から昨日の記憶がないと聞いても、ミヨの中ではまだ「訓練ではない」と断定できない。
ユウカ「でも、そんな説明だけで信じたんですか?」
ミヨ「説明だけじゃありません。許諾書もありました。依頼元の登録、支払い保証、前金、契約主体……確認できるものは全部確認しました。追加資料も要求したんです」
ミヨは俯いた。
ミヨ「詐欺の依頼って、大体どこかに雑なところが出ます。急かしたり、確認すると説明が変わったり、考える時間を与えなかったり。でも今回は逆でした。疑うたびに、ちゃんとした資料が出てきた」
ノア「だから先ほども、まだ黙っていた」
ミヨ「……はい。昨日も途中からおかしいとは思ってました。でも、本当に訓練だったら、私が勝手に全部話した時点で訓練を壊すことになるから……」
それなら、ここまで頑なに否定していた理由は分かる。
私は一つ確認する。
“ミヨ。昨日、18時7分にヒナへ電話したのも君?”
ミヨが僅かに身を固くした。
ミヨ「……はい」
“『ストリートオブヤンキー』の話をした?”
ミヨ「しました」
“ヒナ、その漫画を読み直したらしいんだ”
ミヨ「えっ」
“それで、実際に鐘崎港の第7埠頭へ行った”
ミヨの目が見開かれる。
“20時過ぎ。第3倉庫から、本当に灰色のバンが出てきたって”
ミヨ「…………」
“ヒナを見た瞬間、車は逃げた。追跡も振り切ったらしい”
ミヨの顔から、目に見えて血の気が引いていく。
ミヨ「……ほ、本当に?」
“うん”
ミヨは何も言わなかった。ただ、膝の上で握っていた手に強く力が入る。
ノア「普通の車両なら、風紀委員長を見た瞬間に逃走する理由は薄いですね」
ミヨ「…………はい」
そこでようやく、最後まで残っていたものがミヨの中で崩れたようだった。
ミヨ「……分かりました」
顔を上げる。
ミヨ「全部、話します」
◇◇◇
依頼が特殊交易部へ届いたのは、数日前のことだった。
対象が私だということも、その時点でミヨには伝えられていたという。
依頼内容は、「ある人物の代役を一日だけ周囲に違和感なく行動させるための、プロット作り」。
“プロット?”
ミヨ「誰と会うか、何時にどこへ行くか、どの程度会話するか。想定外の質問をされたらどう回避するか。疑われた時は、どういう理由でその場を離れれば自然か。そういう……筋書きです」
ユウカ「……そういうの、得意なんですか?」
ミヨ「一応……。そういうのを考えるのは、部長の仕事なので」
ノア「そういうの、とは?」
ミヨ「荷物を誰にも見つからず運んだり、相手の見張りを避けたり、交渉相手の嘘を見抜いたり、誰が次に何をするか読んだり……」
ミヨは私たちの顔を見た。
ミヨ「……交易です」
“……うん”
ミヨ「そ、その顔やめてください!」
依頼を受けてから、ミヨは数日かけて私の普段の行動や人間関係を調べ、一日の流れを組み立てた。
そして火曜日の朝。
送られてきた専用端末を起動して初めて、本当に私そっくりの素体が用意されているのを見たという。
ミヨ「さすがにそこで、もう一度確認しました。本当に先生本人の許可があるのかって」
ユウカ「それで、また訓練だと?」
ミヨ「はい。先生の許諾書も改めて送られてきました」
“念入りだね……”
偽物の身体はミレニアム製の遠隔操作可能の素体。その上に高精度のホログラムで私の姿を重ねていたらしい。
基本的な会話は、過去の会話記録をもとに候補が表示され、ミヨが適切なものを選ぶ。候補で対応できない時だけ、ミヨ自身が返答を入力する仕組みだった。
ユウカ「モモトークもミヨさんが?」
ミヨ「……はい。先生のスマホそのものが素体と一緒に用意されてました」
“え、でもロックは?”
ミヨ「端末と一緒に、ロック解除番号も渡されました」
“……え?”
ミヨ「最初はセキュリティ訓練だと思っていたので疑わなかったのですが……」
ユウカ「犯人は、先生のスマホのパスワードも知ってたってこと!?」
ミヨ「ええ。ですが知っている生徒も結構いるんじゃ……」
ミヨはそこまで言って、しまった、という顔をした。
“……ミヨ?”
ミヨ「え、えっと……」
“もしかして、スマホのパスワード、最初から知ってた……わけないよね?”
ミヨ「……知ってました」
ユウカ「なんで!?」
ミヨ「前に先生がロック解除するところを……何回か、盗み見て……」
“…………ミヨさん?”
ミヨ「だ、だって特殊交易部の活動中に先生に端末を取られたら困ることもあるので!」
ノア「それで先生の暗証番号を覚えていた、と」
ミヨ「……はい」
随分と別件で注意したい情報が出てきた。
ともあれ、普段使いのスマートフォン自体が本物だったため、モモトークや通話も普段通り使用できたらしい。
“だから昨日の私は妙にまともだったのか”
ユウカ「自分で言わないでください! ……でも、ミヨさんが先生の素体を操作して喋っていたなら、私に一回で謝ったのも……」
“その話、まだ引っ張る?”
ユウカ「重要な差異です」
ノア「記録しておきましょう」
“ノアまで”
そのノアが尋ねる。
ノア「では、接触禁止者リストについて教えてください」
ミヨ「ノアさんは、何があっても絶対に会ってはいけないと指定されていました」
ノア「理由は?」
ミヨ「……記憶力が異様にいい。先生のことをよく見てる。長く話すと違いに気づく可能性が高い……って、分析されてました」
ノアが少しだけ目を丸くした。
“ノア、嬉しそうだね”
ノア「そんなことありません」
“あるよ”
ノア「ありません」
ノアの口角は僅かに上がっていた。
◇◇◇
ミヨ「でも、午後になってから変わったんです」
“何が?”
ミヨ「プロットが、途中から私のじゃなくなったんです」
先程までの控えめな雰囲気とは違い、そこだけは強く言い切った。
ミヨ「午前中は私が作った通りでした。先生なら朝はここへ行く、この人とはこれくらい話す、この時間は執務室。空いた時間にはこうする。全部、先生の一日として自然になるように作りました」
ユウカ「……先生の行動、随分詳しいんですね」
ミヨが露骨に目を逸らす。
“ミヨ?”
ミヨ「……特殊交易部では、先生の行動予定は重要な情報なんです」
“……どうして?”
ミヨ「こっちが、その……少し特殊な交易をしている時に、先生が急に来ると全部面倒になるので」
“……なるほど?”
ミヨ「だから何時ごろシャーレを出るとか、どの区画へよく行くとか、自然と把握するんです!」
“自然と、ね……”
ミヨ「自然とです!」
そこまで言って、ミヨはぼそりと付け足した。
ミヨ「……分かってた方が、会いたい時にも……」
“ん?”
ミヨ「な、何でもありません!」
顔を赤くして打ち消す。
ノアは何も言わなかったが、明らかに聞こえていたようだ。
ノア「『午後になってから変わった』『途中から私のじゃなくなった』とのことですが、昨日の午後、何があったんです?」
ミヨ「14時前くらいです。操作画面の端に、一瞬だけ変な表示が出ました」
ユウカ「どんな?」
ミヨ「全部は覚えてません。英語で……SUBJECT、S。それからBIO……何とか。最後がVE……なんとか」
“意味は?”
ミヨ「その時は分かりませんでした。ただ、その表示が出たすぐあとから、依頼主が私のプロットに条件を足したんです」
ノア「条件?」
ミヨ「条件は、一つだけでした。でも、その一つで分かったんです。これはもう、私が書いた『先生の一日』じゃないって」
追加された条件は、妙なものだった。
『20時から20時20分まで先生役を必ずシャーレ執務室内に留めること』
ユウカが眉を寄せる。
ユウカ「それでおかしいと?」
ミヨ「はい」
ミヨは即答した。
ミヨ「これは先生を演じるための指定じゃありません。別の何かを成立させるために、先生を配置してる」
“そこまで分かる?”
ミヨ「分かります」
迷いのない返事だった。
ミヨ「私も、似たプロットを作りますから」
一瞬、静かになる。
“……それは、交易で?”
ミヨ「……交易で、です」
ミヨは咳払いしてから言う。
ミヨ「例えば、20時に別の場所で何かをしたい。でも、それを見られたら困る人がいる。だったら、その人を20時から20時20分まで監視カメラのある別の場所に固定する。誰かと会わせてもいい。そうすれば、その人が現場にいた可能性を消せます」
ノアが静かに口を開く。
ノア「昨日の場合、その人物が先生だった」
ミヨ「はい」
“じゃあ、ヒナにあの電話をしたのも?”
ミヨ「はい、プロットに条件が付け加えられてからです」
昨日18時7分。
ミヨは、偽物の私を使ってヒナに電話をかけた。
ノア「ですが付け加えられた指示には、『第7埠頭』とも『第3倉庫』とも書かれていません。ミヨさんはどうして場所が分かったのですか?」
ミヨ「遠隔操作での、立ち入り禁止区域が設定されていたんです。大体はD.U.の外側すべてがそうだったんですが、一箇所だけおかしいところがあって」
ユウカ「おかしいところ?」
ミヨ「D.U.シラトリ区内の鐘崎港。その第7埠頭だけが、点みたいに小さく禁止区域になってたんです」
ノア「D.U.の中なのに、そこだけ?」
ミヨ「はい。先生役を普通に動かすための制限なら、あんな場所だけ避けさせる理由がないですから」
ミヨは机の上に指で小さな円を描く。
ミヨ「それで地図を拡大してみたら、その禁止区域の中心が第3倉庫とほとんど重なってました」
ユウカ「それだけで、第3倉庫に何かあると?」
ミヨ「それだけなら、まだ偶然だと思ったかもしれません。でも第3倉庫って、あの辺ではちょっと特殊なんです」
“特殊?”
ミヨ「連邦生徒会やヴァルキューレの巡回から外れやすくて、夜になると人通りもかなり減ります。搬入口も表通りから見えにくい。……誰にも見られずに何かを出し入れするなら、私でも候補にします」
言い切ってから、ミヨが少しだけ目を逸らした。
ユウカ「……ずいぶん詳しいですね」
ミヨ「…………交易部なので」
“それ、便利な言葉になってない?”
ミヨ「……交易部なので!」
ノアは小さく笑ってから、地図へ視線を戻した。
ノア「つまり、依頼主は場所を教えてしまったわけではない」
ミヨ「はい」
ノア「ただ、先生を近づけたくない場所だけを、地図の上に残した」
ミヨ「……だから、逆に目立ったんです」
行ってはいけない理由は書かれていない。
そこに何があるのかも書かれていない。
ただ、その一点だけが不自然に避けられていた。
ミヨ「隠したかったんだと思います。だから、どこを隠してるのか分かりました」
“……なるほど。それでヒナに、指示役にバレないようにメッセージを伝えたんだ”
ミヨ「はい。直接『第7埠頭へ行って』なんて言ったら、私が依頼を疑ってるのが分かります。でも先生とヒナさんが『ストリートオブヤンキー』の話をしてた記録があったので、使える場面を思い出しました」
ユウカ「それが、あのコマ?」
ミヨ「はい。会話だけなら、ただ先生が漫画の話をしてるだけ。でも本を開いて、台詞と背景をちゃんと見れば、第7埠頭、第3倉庫、20時、まで分かる。どの埠頭にも倉庫は6つまでしかありませんから」
“……でも、ヒナがそこまで気づく保証はなかった”
ミヨ「ありません。でも、直接言うよりは……」
ミヨは膝の上で手を握った。
ミヨ「何も起きなければ、ただ先生が漫画の話をしただけで終わる。でも、もし本当に何かあるなら……ヒナさんなら気づくかもしれないと思って」
“保険?”
ミヨ「……伏線です」
“伏線”
ミヨ「回収されない方が良かった伏線ですけど」
昨日、ヒナは本当にバンを見つけた。
その事実を聞いた今のミヨには、もう「訓練だったのかもしれない」とは思えないようだった。
◇◇◇
ユウカは再びハレへ電話した。今までの話を要約してから、ミヨの見た表示について尋ねる。
ユウカ「ハレ、SUBJECT S、BIO何とか、VEなんとか、って表示、何だと思う?」
ハレ「前後は?」
ユウカ「分からない」
ハレ「うーん……断定はできないけど、生体認証っぽいかな。BIO-IDとかBIOMETRIC、VERIFIEDなら照合成功。SUBJECT Sは認証対象の識別名とか」
ユウカ「識別名?」
ハレ「まあ、話の流れから察するに……SUBJECT S。S……先生、じゃないかな」
“ちょ、ちょっと待って”
私は話を遮ってハレに確かめる。
“私は昨日の記憶がないんだ。生体認証なんて覚えてない”
ハレ「……まあ、SUBJECT Sの部分は、ただの憶測だよ」
私は頭の中で最悪の想定をして、ハレに聞いた。
“……昨日の偽物で、最高権限の生体認証って通せる?”
ハレ「無理だと思うよ。顔や声を真似るくらいならできても、指紋や虹彩まで使う最高権限なら……本物が要る」
執務室に沈黙が流れる。
ミヨの顔が、また青くなった。
ユウカ「……じゃあ昨日、どこかで」
“……本物の私が、生体認証をした?”
月曜日の夜から水曜日の今朝までの空白。
私はシャーレの管理端末を自分の前へ引き寄せた。最高権限の監査ログは、ユウカにもノアにも閲覧権限がない。本人である私が開くしかない。
“私の認証履歴なら、こっちから見れる”
画面の指示に従い、自分のIDと生体認証で管理領域へログインする。いつもなら気にもしない緑色の「認証成功」という文字が、今日はやけに不気味に見えた。
監査ログを開き、昨日の記録へ遡る。ユウカとノアも私の両脇から画面を覗き込んだ。
ユウカ「……ありました」
“昨日、13時58分”
ノア「先生の最高権限による生体認証。その直後に、一件の臨時受領資格が発行されていますね」
“臨時受領資格……? 受領対象は?”
ユウカ「『封印指定押収品・管理番号――』。名称は伏せられてます」
“有効時間は……”
ノア「今日、午前11時35分から11時55分まで」
その下には、受領場所も記載されていた。
シャーレ地下搬出口。
さらに下を見る。
押収品の通常搬送予定。
正午。
搬送先――連邦生徒会、聖櫃。
ユウカ「……聖櫃?」
ミヨ「何ですか、それ」
私は画面から目を逸らした。
“あー……確か、倉庫の名前だったかな”
ユウカ「倉庫?」
“連邦生徒会の。押収品とかを置いておくところだったと思う”
ミヨ「へえ……」
ミヨは素直に頷いた。
ユウカも「そんな場所があるんですね」とだけ言って、再び画面へ視線を戻した。
ノアだけは、戻さなかった。
ほんの一瞬、私の顔を見ていた。
質問はしてこない。ただ、その目だけが今の説明をそのまま受け取ってはいなかった。
聖櫃について何か知っているのか。それとも、私が「確か」「だったかな」と曖昧な言葉を重ねたことに気づいただけなのか。
それでもノアは何も言わず、やがて画面へ目を戻した。
ノア「臨時受領資格の有効時間が、通常搬送の直前に設定されていますね」
ユウカ「つまり、正午に聖櫃へ移される前なら、この資格を使って横から受け取れるってこと?」
“……そういうことになるね”
ミヨ「じゃあ……犯人は、今日の11時55分までにそれを奪うつもり?」
壁時計を見る。
午前10時48分。
ノア「先生。昨日の事件……まだ終わっていないのでは?」
◇◇◇
ユウカ「先生。教えてください。何が運ばれるんですか?」
ユウカが私を見る。
“え”
ユウカ「え、じゃありません。先生なら知ってますよね?」
“……まあ”
ユウカ「言ってください」
“ちょっと中身は言いづらいというか……”
ユウカ「今まさに盗まれようとしてるんですよ! 安全上必要な確認です!」
“…………”
私は考えた末、答えた。
“……実は、18禁の本でね”
沈黙。
三人の視線が一斉に冷たくなる。
ユウカ「先生」
“はい”
ユウカ「今、嘘つきましたね?」
“なぜそう思うのかな”
ユウカ「最高権限の生体認証が必要な18禁の本って何ですか!?」
“それはもう、かなり刺激が強い”
ユウカ「どう強いんですか!?」
“なんか、こう、肌色の比率が――”
ユウカ「先生!」
ノアだけが笑いを堪えていた。
ノア「まあ、先生が言えないのであれば今は置いておきましょう」
“助かるよ”
ノア「後ほど、なぜ成人向け書籍を連邦生徒会の倉庫へ移送するのか、詳しく伺います」
そう口にしながら、ノアの視線だけはまた一瞬こちらに向いた。
どうやら、聖櫃について誤魔化したことまで含めて覚えておくつもりらしい。
その時、ミヨが小さく口を挟んだ。
ミヨ「……その臨時受領資格、使われたらどうなるんですか?」
“そのまま受け取れるはず”
ユウカ「じゃあ止めないと!」
“いや”
私は画面に表示された有効時間を見る。
11時35分から11時55分。
“止めたら、向こうに気づかれるかもしれない”
ノア「資格はまだ生きていると思わせたまま、使わせる?」
“うん”
ユウカ「でも、本当に品物を渡すわけにはいきませんよね?」
“うん。受領処理の直前で止めよう”
私は管理端末を操作する。資格そのものには触れない。代わりに、この管理番号の押収品だけ、搬出時に管理者の最終承認を要求するよう設定する。
“これなら、向こうから見れば資格はまだ有効なまま”
ノア「そして使用された瞬間、先生の端末へ承認要求が来る」
ミヨ「……罠にするんですね」
“そういうこと”
私はヒナへ電話をかけた。
“ヒナ。何度もごめん”
ヒナ「何か分かった?」
“うん。今日の11時35分以降、シャーレの地下搬出口に昨日の車と関係ある人間が来るかもしれない”
ヒナ「分かった。すぐに行く」
“できれば、気づかれないように”
ヒナ「任せて」
通話を切った。
現在時刻、午前10時55分。そこからは、待つ時間になった。
◇◇◇
11時37分。
私の管理端末から甲高い通知音が鳴った。
ユウカ「来た!」
画面には、臨時受領資格の使用要求。
場所はシャーレ地下搬出口。
“承認しない”
拒否を選ぶ。
同時にヒナへ電話をかける。
“ヒナ!”
ヒナ「見えてる」
電話の向こうで誰かの叫び声が聞こえ、直後にタイヤが鳴った。
ヒナ「逃げた」
“追える?”
ヒナ「追う」
通話が切れる。
ユウカ「先生、裏手にも一人います!」
“搬出口閉じられる?”
ユウカ「シャーレ側の閉鎖手順なら分かってます! やります!」
ノアが送られてきた位置情報を覗き込んだ。
ノア「ユウカちゃん。西側です」
ユウカ「何が?」
ノア「逃走経路です。昨日空崎さんが追った灰色のバンは、西へ抜けています。同じ組織なら今回も同じ退避経路を使う可能性があります」
ユウカ「……分かった!」
ユウカがヒナへ位置情報を送る。
そこから先は、こちらには何も見えなかった。追跡が続いているのか、もう見失ったのか。それすら分からない。
誰も不用意に口を開かず、ただ端末の画面を見つめる。
不意に、私の手の中で端末が震え、メッセージが表示された。
『ヒナ:確保した』
短い一文だった。
それだけで、張りつめていた空気が一気にほどけた。
◇◇◇
その日の午後。
今日捕まった実行役と、ヒナが昨夜記録していた灰色のバンの情報を手掛かりに、捜査は一気に進んだ。
ハレにも頼み、第7埠頭周辺の交通記録や倉庫の入退場ログ、それからシャーレの監視映像を詳しく調べてもらった。
私自身も念のため医務室へ行き、採血を受けた。朝から続いていた頭痛と倦怠感が、単なる寝不足なのか、それとも何かの薬によるものなのか調べるためだ。
夕方には、昨夜の灰色のバンを運転していた実行役の一人も確保された。
押収した端末や車両の記録を調べ、私の血液検査の結果が出るのを待つ。
そうして、その日の21時を回った頃。
ようやく月曜日から今朝までの時間が一本につながった。
◇◇◇
私たちはもう一度、執務室へ集まっていた。ユウカ、ノア、ミヨ、それからハレも駆けつけてくれた。
ノア「一度、整理しましょう」
ノアがホワイトボードに時刻を並べて書き込んでいく。
ノア「月曜日、23時40分頃。先生は仕事を終え、この建物の居室へ戻っています」
“ここまでは覚えてる”
ノア「そして火曜日、0時20分頃」
ハレがモニターに映像と設備ログを映す。
ハレ「最初に、先生の居室だけ電源が落ちてる」
ユウカ「居室だけ?」
ハレ「うん。建物全体じゃない。居室へ行ってる系統を外から一度落としたみたい。6分くらいで保護機構が働いて、自動復旧してる」
“何のために?”
ハレ「正確には分からない。でも侵入する間だけ照明とか、室内にある普通の電子機器とかをまとめて止めたかったんじゃないかな。何が置いてあるか全部把握してなくても、部屋ごと落とせばいいから」
続けて、居室前の監視映像。
誰もいない廊下。
一見すると、何もおかしくない。
ハレ「その直後。0時21分から0時25分まで、同じ47秒を繰り返してる」
ユウカ「……本当だ」
ハレ「カメラに侵入して、直前の映像をループさせてる」
ノア「この約4分間に、本物の先生を居室から連れ出した。同時に、偽物の先生となる素体を部屋へ入れたのでしょう」
朝になれば、その素体が私として居室から出てくる。
だから誰も、先生が夜中に消えたとは思わない。
シッテムの箱はそのまま部屋に残された。
私はその夜、まだ充電器へ繋いでいなかった。眠る前に繋ぐつもりだったのだと思う。
犯人がシッテムの箱について何か知っていたわけではない。
結果として、充電されないまま取り残された。
ノア「スマートフォンは先生と一緒に持ち出され、その後、素体へ渡されたと考えられます」
ユウカ「だから火曜日のモモトークも、いつもの先生のアカウントから送れた」
ミヨ「……はい」
ノア「火曜日の日中は、ミヨさんが遠隔操作をした素体が先生として活動。そして13時58分、誘拐した本物の先生から最高権限の生体認証を取得」
ユウカ「それを使って、今日11時35分から11時55分まで有効な臨時受領資格を作った」
ノア「その後、火曜日20時」
画面に第7埠頭の地図が表示される。
ノア「本物の先生を、最初の監禁場所から別の場所へ移送する予定でした」
ミヨ「……第7埠頭。第3倉庫」
ノア「はい」
“じゃあ、ヒナが見た灰色のバンに”
ノア「ええ。先生が乗っていたと思われます」
分かっていても、実際に言葉にされると妙な感覚がした。
ユウカ「品物じゃなくて……先生自身を運んでたんだ」
ノア「ええ」
ミヨ「じゃあ……私が電話したせいで」
ノア「空崎さんが現れ、予定していた移送は失敗しました。ただし、バン自体は追跡を振り切っています」
“その時点では、まだ私はこのバンの中にいた”
ノア「はい」
つまり、ヒナは品物の輸送を妨げたわけではない。先生を救出したわけでもない。
だが、犯人の予定を壊した。
ノア「犯人側はそこで計画を変更したと思われます。先生の生体認証は既に取得済み。これ以上、先生本人を別の監禁場所へ運び続ける必要性は低い」
ユウカ「しかも、一度風紀委員会に車を見られた」
ノア「先生を連れ回し続ければ、発覚する危険だけが増える」
だから、先生を元の場所へ戻す。
ただし、起こさないまま。
ノア「昨夜の運転役が持っていた端末から、投薬記録が見つかりました」
ノアが画面を切り替える。
時刻、火曜日21時18分。
聞いたことのない薬剤名と投与量。
その横に、『予測覚醒時刻――水曜日12時30分前後』。
ユウカ「……12時30分。品物の臨時受領資格の有効期限が、11時35分から11時55分までだから……」
“犯人は、そこまで計画してたんだ”
ノア「運転役は移送だけでなく、先生を眠らせた状態に保つ役割も担当していました。押収された薬剤と記録された投与量は、今日先生から採取した血液から検出された成分とも一致しています」
犯人たちは、「先生は12時半頃まで起きない」ことを前提に計画を進めていた。
ノア「そして今日。水曜日、3時6分」
再びシャーレの居室前廊下の監視映像。
また、同じ47秒が繰り返される。
ハレ「ここも同じ。3時6分から3時10分まで、映像がループしてる」
ユウカ「この時に、先生を戻した……」
ノア「おそらく、同時に偽物の素体を回収したのでしょう。先生のスマートフォンも、この時に元の場所へ戻されたと考えられます」
眠った本物の先生を元の場所へ戻し、素体と犯人は去る。
前日のうちに、偽物の私から午前中の予定はすべて取り消してある。
少なくとも予定上、朝から私を訪ねてくる人間はいない。
私は薬で眠ったまま。
ノア「そして、11時35分。犯人は臨時受領資格を使用して押収品を受け取る」
ユウカ「11時55分までに持ち出す」
ノア「正午には、本来の搬送が始まる」
ミヨ「先生が起きるのは……」
ノア「犯人の想定では、12時30分頃です」
全員の視線が私へ向いた。
ユウカ「でも、先生は6時42分に起きた」
“……うん”
ノア「予定より、およそ6時間も早い」
犯人たちの計画は、並べれば単純だった。
本来であれば今日の12時30分、ようやく私が目を覚ますはずだった。
その時には、すべて終わっている。
ミヨ「……なのに、先生は朝に起きた」
そこが、犯人にとっての最後の計算違いだった。
◇◇◇
ミヨが置いた伏線は、結果として二度役に立った。移送を狂わせ、後には運転役へ辿る手掛かりにもなった。
ミヨ「……ごめんなさい」
ミヨがまた申し訳なさそうに言った。
“ミヨは悪くないよ”
ミヨ「でも……」
“怪しい仕事を受けたこと。途中でおかしいと思ったのに相談しなかったこと。今日、最初に嘘をついたこと。その辺はちゃんと反省してね”
ミヨ「……はい」
“でも昨日、おかしいと思った時に伏線を残してくれてありがとう”
ミヨが顔を上げる。
“あの電話がなかったら、私は別の監禁場所へ運ばれてた。今朝、ここで目を覚ましてもいなかったと思う”
ミヨ「…………」
“そうしたら、あの『品物』にも間に合わなかった。それに灰色のバンも見つからなかった。昨日から何が起きてたのかも、ここまで辿れなかった”
“本当に、助かったよ”
ミヨはしばらく黙っていた。それから、小さく俯いた。
ミヨ「……小説だったら、ちょっと出来すぎです」
“そう?”
ミヨ「不確定な状況で置いた伏線が、最後にちゃんと回収されるなんて」
“嫌?”
ミヨ「いえ」
ミヨは僅かに笑った。
ミヨ「私は、ハッピーエンドの方が好きなので」
◇◇◇
事件が一段落し、全員が帰る準備を始めた頃。
ノア「先生」
“何?”
ノア「まだ、納得していないことがあります」
“…………”
ノア「18禁の本」
“あー”
ノア「今日、連邦生徒会の聖櫃へ移送される予定だったのですよね?」
“…………”
ノア「成人向け書籍を?」
“特殊な本でして”
ノア「随分特殊ですね」
ユウカまでこちらを見る。
ユウカ「先生。嘘ですよね」
“…………”
ユウカ「先生?」
“……大人の事情”
ユウカ「今その言葉使います!?」
少し離れたところで、ミヨも遠慮がちに言う。
ミヨ「その……回収されてない伏線、残ってますけど」
“これは回収しなくていいやつ、かな”
ミヨ「そういうプロット、私あんまり好きじゃないんですけど……」
“ごめんね”
ミヨ「……まあ、先生なら仕方ないです」
“そこは納得するんだ”
ミヨ「先生なので」
随分ひどい評価を受けている気がした。
その横で、ノアだけは何も言わなかった。
◇◇◇
夜。
全員が帰ったあと、私は執務室の扉を閉めた。
朝から充電していたシッテムの箱を机へ置く。
電源を入れる。
“……アロナ、プラナ”
画面が光る。
アロナ「先生!」
いつもの教室が映ると同時に、アロナがこちらへ駆け寄ってきた。その少し後ろから、プラナも姿を現す。
プラナ「先生。接続を確認しました」
アロナ「大丈夫ですか!? 本当に大丈夫ですか!?」
“大丈夫だよ”
私は笑った。
“二人とも、心配かけたね”
アロナ「もう! 本当ですよ!」
プラナ「……はい。今回は、非常に心配しました」
プラナはいつもの落ち着いた表情だったが、返事までにほんの少し間があった。
“二人とも、早めに起こしてくれて助かったよ”
アロナ「…………! やっぱり分かってたんですか!?」
“なんとなくね。今朝、起きる前にずっと声が聞こえてたから”
アロナ「先生が全然起きてくれなくて! 何回呼んでも、何回呼んでも反応が薄くて!」
プラナ「アロナ先輩は、先生との接続が回復してから、ほぼ休まず呼びかけを続けていました」
アロナ「プラナちゃんだって手伝ってくれたじゃないですか!」
プラナ「私は接続状態の確認と、残存電力の管理を行っていただけです」
アロナ「それを手伝ったって言うんですよ!」
思わず笑ってしまう。
“じゃあやっぱり、二人のおかげだ”
プラナ「……はい」
ほんの少しだけ、プラナの表情が柔らかくなった。
“私がいなくなった時、どうなってたの?”
プラナ「月曜日深夜、先生との接続が突然途絶しました」
アロナ「何回繋ごうとしても、全然ダメだったんです!」
プラナ「先生の認証がない状態では、私たちだけで外部への通常通信を確立することもできませんでした」
シッテムの箱は、誰にでも使える端末ではない。
私がいない以上、二人だけで外へ助けを求めることもできない。
アロナ「だから、ずっと先生を探してました。何回も何回も繋ごうとして……」
“それでバッテリーが減った?”
アロナ「はい……」
月曜日の夜、私はシッテムの箱を充電器へ繋ぐ前に連れ出された。そこから一日以上、二人は接続を試し続けた。
それなら、朝には空になっていても不思議ではない。
アロナ「でも、夜中に先生が戻ってきたんです!」
“3時頃?”
プラナ「正確には、水曜日3時10分。先生との接続が回復しました」
犯人たちが眠った私を部屋へ戻し、去ったと思われる時間。
アロナ「でも、全然起きなくて! だから私、ずっと呼んでました! 先生! 先生! 起きてください! って!」
3時過ぎから6時42分まで。薬で眠っている私を、二人は呼び続けた。残り少ないバッテリーを使いながら。
“……それで、私が起きた瞬間に力尽きたんだ”
アロナ「力尽きてません!」
“バッテリー0%だったけど”
アロナ「あれは……そう、戦略的撤退です!」
“そっか”
私は笑った。
“ありがとう”
アロナ「えへへ……」
プラナ「……間に合って、よかったです」
犯人たちの記録では、私は12時30分頃まで眠っているはずだった。薬の量も、周囲に誰も来ないようにする準備も、計画通り。
でも犯人たちは知らなかった。
先生がいなくなったことを誰よりも早く知って、ずっと探し続けていた二人がいたことを。
その二人が、先生が戻ってきた瞬間から、起きるまで呼び続けることを。
“アロナ達のおかげで、間に合った”
アロナ「えへへへ……!」
アロナが嬉しそうに笑う。プラナも、ほんの少しだけ目を細めた。
“でも、今日のことはみんなには秘密にしておこうか”
アロナ「どうしてですか?」
“二人のことまで説明し始めると、話がかなり増えちゃうから”
アロナ「なるほど!」
プラナ「妥当な判断です」
実は最初から、薄々分かっていた。
アロナがあんなに必死で私を呼んだのだから、何かが起きた。ただ、何が起きたのかまでは分からなかった。
だから今日、私は少しだけ、とぼけていた。
いや、少しではないか。柄にもないことをした一日だったなと思った。
◇◇◇
シッテムの箱を閉じて、地下室に移動する。
クラフトチェンバーのある部屋。
棚の後ろに隠された、厳重なセキュリティの金庫。
中に入っている、最高機密指定の端末のロックを解除した。
画面に表示されたのは、一枚の写真。
銀色の腕時計。
一見すると何の変哲もない。街の店で売られていても、誰も気に留めないだろう。
だが、内部構造、使用されている規格、観測された反応。そのいくつかが、
『シャーケードの杖』
と同一規格だった。
同じものなのかは、まだ分からない。
模造品なのか。模造品ならば、なぜ作れたのか。
同じ技術体系から作られた別の物なのか。ならば誰がなぜ作ったのか。
それを調べるため、今日の正午、連邦生徒会の聖櫃へ極秘移送する予定だった。
“……18禁の本は、さすがに無理があったかな”
ノアには多分何かを隠していることくらいはバレている。それでも、聞かない方がいいこともあると判断したのだろう。
だが、本当に問題なのは、そこではない。
この腕時計を押収した時点では、ただの正体不明の物品だった。シャーケードの杖と同じ規格である可能性が判明したのは、その後の解析でのことだった。
その解析結果を知っている人間は、極端に少ない。
なのに、犯人は最初からこの腕時計だけを狙っていた。
“…………”
以前にも、似た感覚を覚えたことがある。
ミレニアムEXPO。
あの時、リオしか知らないはずの場所が知られていた。存在そのものが外へ漏れるはずのない部屋で、リオが開発したビッグシスターアルゴリズムの存在を、なぜか知っていて、奪おうとした生徒達。
リオに気づかれずにハッキングして、情報を抜き取れる人間など、このキヴォトスに何人いるのだろうか?
そして今回。
まだ公開されていない解析結果、偽装された依頼元、偽造された許諾書、ミレニアム製の遠隔素体。
特殊交易部へ持ち込まれた異様な高額依頼。ミヨが犯罪プロットを組むのが上手で、私のことをよく観察しているということまで、知っている人間。
今日捕まった者たちは、誰も本当の依頼主を知らなかった。私を攫った実行犯も、腕時計を受け取りに来た者も。一番上にいる誰かへは、直接繋がっていなかった。
更にミヨは、私の素体で会話をする時、「過去の会話記録をもとに候補が表示される」と言っていた。
つまり、私が誰とどういう会話をしてきたかという大量の記録を、誰かが持っていることになる。
水面に見えているのは、今日捕まえた何人かだけ。その下で、もっと大きな何かが動いている。
私は端末を手に取り、連絡先から、唯一登録されている名前を選ぶ。
迷わず通話ボタンを押した。
数回の呼び出しの後。
リン「……その端末からかけてきたということは」
“今、周りに誰かいる?”
リン「いいえ。通信機器も全て切りました。この端末以外は」
私は今日のことを思い出しながら、話し始める。
“一度、整理しよう”
地下室だから窓の外は見られない。だけど夜のキヴォトスは、昨日……いや一昨日と何も変わっていないように見えるだろう。
“現在キヴォトスで起きている、全ての謎を”
仕事ができると評判のあの子は、こんな時間になった今も、連邦生徒会で働いているのだろうか。
“今回の事件も、つながっているかもしれない”
百鬼夜行連合学院で起きた騒動、花鳥風月部。
ゲヘナ学園の雷帝とその追従者達。
アリウス自治区で出現したラッパを持った天使達。
突如出現するようになった、ロア。
失踪した連邦生徒会長がSRT特殊学園を解散した理由。
そして、失踪した理由。
別世界の私とこの世界の私の違い。
色彩。
ケイが話していた「テクスチャ」の話。
今まで、それぞれ別の場所に置かれた謎だと思っていた。
ただ、共通点がある。
知らないはずのことを知っていて、届かないはずの場所へ手が届いている、何者かがいる。
そして、表に出てくる人間はいつも、その先を知らない。
私は画面の中の銀色の腕時計を見る。
謎は解き明かされないものがほとんどだ。謎が謎のままでも、生徒達は青春を送れるかもしれない。
けれど、その謎が今も蠢き続け、闇の中で牙を研いでいたら。
別々だと思っていた謎が、実は、一本にまとまっていたら。
遠くない未来で、謎のまま放置してきたツケを、私だけでなく、生徒達まで払わされることになるかもしれない。
リン「先生」
端末の向こうから、静かな声が返ってくる。
リン「どこから始めますか?」
少し考える。
今日の事件は終わった。
実行役は捕まった。奪われるはずだった物も残っている。私もここへ戻ってきた。
けれど、今日の事件を「今日の事件」として片づけていいのかは、もう分からなかった。
ミヨの言う通りなら、伏線は綺麗に回収された。
ハッピーエンドだ。
――本当に?
ふと、今日ミヨが言った言葉を思い出す。
プロットが、途中から私のじゃなくなった。
誰かが場面を足した。
人を配置し、時間を決め、ひとつの結果へ辿り着かせる。
私は今日一日、その筋書きを壊してきたつもりだった。
けれど。
もし、壊されるところまで含めて、誰かが想定していたら?
“最初から”
リン「最初から?」
“最初から、全部見直そう”
端末の向こうで、紙を引き寄せる音がした。
リン「承知しました」
私は端末の画面を眺める。
今まで別々に追ってきた事件。
別々だと思っていた違和感。
そこに、同じ名前が残っているわけではない。
むしろ逆だった。
どの事件にも、肝心なところだけ何も残っていない。
誰が知ったのか。誰が渡したのか。誰が最初に動かしたのか。
そこへ辿り着こうとすると、決まって痕跡が途切れる。
偶然なら、それでいい。
けれど、これだけ違う場所で、違う形をした謎のすべてに、同じような空白が残っているのだとしたら。
見えないのではなく、見えないようにしている誰かがいるとしたら。
そう考えた瞬間、それまで何もなかったはずの場所に、ひとつの輪郭が浮かび上がる。
顔も、名前も、まだ分からない。
ただ。
痕跡を残さなかったことだけが、今になって、その存在を何より雄弁に語り始めていた。