幻影旅団全員生存RTA   作:ワトソンくん

3 / 3
戦闘シーンは各々の想像力で補完してね


第2話【表】「馬子にも衣装と執念深い兵隊」

 荒野。夜。

 

 気球の残骸が、黒い煙を上げて燃えている。

 

 ウボォーギンを乗せたクラピカの車は、すでに闇の彼方へ消えている。だが、残された旅団に焦りの色はない。

 

 マチが、静かに手を伸ばした。

 指先から、細い念糸が伸びている。

 

「……逃げても、追える」

 

 ウボォーギンが連れ去られる瞬間、彼女はこっそり念糸を繋いでいた。

 

 マチが振り返り、残されたメンバーに告げる。

「行くわよ」

 

 追跡チームだけで車に分乗し、夜闇を切り裂いて走り出す。

 廃ビルには、次の作戦を練る仲間たちが残っている。

 

 モールも、肋骨を押さえながら黙って後部座席に滑り込んだ。

 

 ◆◆◆

 

 追跡の途中、幹線道路から外れた荒地。

 前方を塞ぐように、複数の人影が立っていた。

 

 陰獣の残党。

 

 梟(フクロウ)が手を広げる。

 

「ファンファンクロス」

 

 視界が歪み、世界が四角い枠で切り取られる。

 閉ざされた空間。

 

 そして、その中に閉じ込められたのは、ノブナガと、そしてモールだった。

 

「おい、なんだこれ! 出せコラ!」

 

 ノブナガが壁を斬りつける。

 刃は空間の境界に弾かれ、手応えさえない。

 

 その隣で、モールは座り込んでいた。

 

 ポケットから、小さなおもちゃの兵隊を取り出す。

 三体。四体。五体。

 

 モールは、兵隊の背に指を当てた。

 

 制約と誓約。

 

「……ウボォーギンを、殺そうとする者を、止めろ」

「……ボクが、解除と言うまで、止まるな」

 

 兵隊の目が、かすかに赤く光る。

 

 ノブナガが振り返る。

「おい、青いの。何してんだ」

 

「……準備」

 

 モールはそれだけ言って、布切れを取り出した。

 そして、静かに鶴を折り始める。

 

 暴れる刀と、折られる鶴。

 閉ざされた空間の中で、只ならぬ準備が音もなく進んでいく。

 

 ◆◆◆

 

 空間の外。

 

 旅団は陰獣残党と交戦していた。

 

 マチが念糸を操り、梟を捕縛する。

「動かないで。食い縛るわよ」

 

 フェイタンは、陰獣三人を相手にしていた。

 手刀が閃く。骨が砕ける。悲鳴が途切れる。

 

「痛いか? ……もっと痛い目に合わせてやる」

 

 シズクはデメちゃんを構える。

「……デメちゃん、吸って」

 

 陰獣二人が、まとめて吸い込まれる。

「……あ、ごめん。吸いすぎた」

 

 シャルナークは携帯を弄りながら、それを眺めている。

 

 ◆◆◆

 

 梟が無力化されたことで、ファンファンクロスが解けた。

 

 ぽっかりと開いた空間。

 ノブナガが飛び出してくる。

 

「やっと出られるか!」

 

 その後ろから、モールも出てきた。

 手には、折り上がった鶴。

 ポケットには、目だけが光る兵隊たち。

 

 ◆◆◆

 

 シャルナークの情報を頼りに、追跡チームはウボォーギンの居場所を突き止めた。

 ヨークシン市内の、あるビルの一室。

 

 扉を開けて突入する。

 

 そこには、拘束具で拘束されたウボォーギンがいた。

 そして、彼の前に立っているのは、ダルツォルネだ。

 

「待っていた。こいつの移送を頼む」

 

「……まるで馬子にも衣装だな」

 

 突入してきた旅団を見て、ウボォーギンはふんと鼻を鳴らした。

 

「……なにっ!?」

 

 ダルツォルネが異変に気づいた瞬間、すでに遅かった。

 

 フィンクスが、ダルツォルネの背後から手刀を突き出していた。

 刃は心臓を貫き、背骨を断つ。

 

 呆気なく死んだダルツォルネ。

 

 シズクがデメちゃんを召喚し、ウボォーギンの体に這わせた。

「……デメちゃん、ウヴォーの身体にある、悪い毒、全部吸い取って」

 

 デメちゃんが、ウボォーギンの体内に潜む毒を吸い取る。

 

 毒が抜けたウボォーギンは、拘束具を力ずくで引きちぎった。

 

 そして一拍。

 

 ウボォーギンは、ゆっくりと息を吸い、そして叫んだ。

 

「クッソー!!!!」

 

 ビル中に響き渡る大声。

 

 ノブナガが耳を押さえる。

「おい、バカ! 静かにしろ!」

 

 だが、遅い。

 その叫びは、すでにクラピカ達に聞こえていた。

 

 ◆◆◆

 

 ウボォーギンはビル内でクラピカを探す。

 だが、すでに空。

 

「……逃げたね」

 

 フェイタンが溜息を吐く。

 

 ◆◆◆

 

 ヒルを完全に排出するため、そして情報収集のために数箇所の拠点を襲撃。

 ウボォーギンはビールを煽り、用を足し、体を軽快にした。

 

 シャルナークがパソコンを取り出す。

 ハンターライセンスを使い、ハンター専用サイトを駆使してアクセス。

 指先が画面を滑る。

 

 そして、見つけた。

 

 ◆◆◆

 

 ビル街。

 

 月光が、アスファルトを照らしている。

 

 そこに、クラピカが立っていた。

 

「ほぉ、逃げずにいるとは大したもんだ」

 

「どこで死にたい。選ばせてやるよ」

 

 クラピカが言う。

 

 ウボォーギンはニヤリと笑い、指で自分の耳を突っつく仕草をする。

 

「人気のない荒野がいい。お前の断末魔はうるさそうだ」

 

 ナチュラルに煽りながら、戦場を荒野へと移動させる。

 

 ◆◆◆

 

 荒野。

 

 月が、砂漠の地平線に白く浮かんでいる。

 

 ウボォーギンが、ゆっくりと拳を握る。

 

「……来い」

 

 ウボォーギンが、地を蹴った。

 

 クラピカが鎖を放つ。

 だが、ウボォーギンはそれを避けない。

 代わりに、地面を拳で叩きつけた。

 

 ドゴォォォォォォン!! 

 

 砂漠の地面が砕け、土煙と砂嵐が爆発的に巻き上がる。

 視界が完全に遮断された。

 

「……無駄だ。私には『円』で見える」

 

 クラピカが冷たく告げる。

 砂煙の中から、ウボォーギンの気配が迫ってくる。

 

 だが、それは罠だった。

 

 土煙の中から飛び出してきたのは、ウボォーギンの巨躯。

 そして、その拳はすでにクラピカの左腕の軌道上にあった。

 

「遅えんだよ!」

 

 超破壊拳(ビッグバンインパクト)。

 

「ぐああっ!?」

 

 鈍い音と共に、クラピカの左腕がバキバキに折れた。

 骨が砕け、腕が不自然な角度に曲がる。

 

 クラピカが砂煙の中に吹き飛ぶ。

 

 ◆◆◆

 

 砂煙が晴れる。

 

 クラピカは地面に転がり、折れた左腕を押さえていた。

 激痛。

 だが、それ以上に彼を支配したのは、怒りだった。

 

 クラピカが顔を上げる。

 その瞳は、紅く染まっていた。

 

 緋の目。

 

 ウボォーギンが、睨みつけている。

 その瞳には、旅団に殺された同胞の姿が映っている。

 

(……旅団。……クルタ族を……)

 

 虐殺された村。

 積み上げられた死体。

 えぐり取られた緋の目。

 

 ウボォーギンの顔が、虐殺者たちの顔と重なっていく。

 

 クラピカが、震える声で呟く。

 

「……私はお前達を、絶対に許さない」

 

 クラピカのオーラが爆発する。

 絶対時間(エンペラータイム)。

 

「この状態……すべての系統を百パーセントで引き出すことができる」

 

 クラピカが、折れた左腕を見る。

 骨が砕け、肉が裂けている。

 

 だが、クラピカは動じない。

 右手から鎖を伸ばし、折れた左腕に巻き付ける。

 

 治癒の鎖(ホーリーチェーン)

 

 鎖で、折れた腕をぐるぐると巻き上げる。

 骨の破片を無理やり押し込み、固定する。

 シュッーっというような音が荒野に響く。

 

 痛みを寛解させ、腕を機能させる。

 これが、クラピカの「治癒」。

 圧倒的なまでの才覚。

 

「……これで、十分だ」

 

 クラピカが立ち上がる。

 その動作は、絶対時間による神速そのもの。

 

 ウボォーギンが、拳を振るう。

 だが、クラピカはすでにその背後にいた。

 

「遅い」

 

 クラピカの鎖が、ウボォーギンの四肢に巻き付く。

 

「……っ!?」

 

 ウボォーギンが驚愕する。

 いつの間にか、足元から鎖が伸びていた。

 土煙の中で、クラピカはすでに鎖を張り巡らせていたのだ。

 

 クラピカが鎖を引き絞る。

 ウボォーギンの巨躯が、鎖によって地面に叩きつけられる。

 

 ◆◆◆

 

「旅団の情報を吐け」

 

 クラピカが、ウボォーギンの顔を殴打する。

 拳がめり込み、血が飛ぶ。

 

「……知らねえよ」

 

 ウボォーギンが、血混じりの唾を吐いて笑う。

 

「仲間の居場所は? 能力は?」

 

 クラピカが、さらに殴打する。

 肋骨が軋む音がした。

 

「……殺せ」

 

 ウボォーギンが、低い声で言う。

 

「……殺せ」

 

 その言葉が、クラピカの怒りを極限まで引き上げた。

 

「……殺せ、だと?」

 

 クラピカの右手が、剣の形をした鎖を構えた。

 

 律する小指の鎖(ジャッジメントチェーン)。

 

「……死ね」

 

 クラピカの右手が、ウボォーギンの胸へと伸びる。

 

 ◆◆◆

 

 その瞬間。

 

 陰に潜んでいた何かが飛び出した。

 

 小さなおもちゃの兵隊。

 ファンファンクロスの中で、制約と誓約によって限界を突破された兵隊たちが、空中で隊列を組む。

 

 兵隊の目が、紅く光った。

 

 ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!! 

 

 ライフルの一斉射撃。

 

 クラピカの足元、背後、頭上。

 クラピカの周囲を取り囲むように、無数の弾丸が撃ち込まれる。

 

「っ!?」

 

 クラピカは反射的に処刑の鎖を防御に回そうとした。

 その一瞬の気の緩み。

 胸に刺さろうとしていたジャッジメントチェーンの刃先が、数ミリだけ後退した。

 

 だが、兵隊たちの攻撃は止まらない。

 

 可愛い見た目とは裏腹に、その火力は標的を黒焦げにするほど。

 そして、彼らの性質は極めて執念深い。

 

 クラピカが壁を蹴って飛び上がっても、兵隊たちは地面を這い上がり、壁をよじ登って追撃する。

 鎖で振り払おうとしても、紙切れのように回避し、再び射撃を開始する。

 

「なんだこれは!」

 

 クラピカの顔から、冷静さが失われていく。

 絶対時間による神がかったスピードも、執拗に追いかけてくる無数の銃口の前では、意味を成さない。

 

 そして、何より致命的だったのは、その乱入によってクラピカの「念のコントロール」が乱れたことだった。

 

 ウボォーギンは、苦悶の表情を浮かべながら、その隙を見逃さなかった。

 

「……てめえごときが……俺の心臓を……握れると……思ったか……!」

 

 ウボォーギンが、チェーンジェイルの拘束を力ずくで引きちぎり、**胸に浅く食い込んだ鎖の刃を**素手で掴む。

 掌から血が噴き出す。

 だが、ウボォーギンは構わず、鎖を無理矢理引きちぎった。

 

 血飛沫が上がり、鎖が弾け飛んだ。

 

「ぐああっ!?」

 

 クラピカは、悔しげに唇を噛みながら、闇へと撤退していった。

 兵隊たちの追跡を振り切り、鎖のコントロールを取り戻すために、全神経を集中させながら。

 

 荒野に、銃声の残響だけが響いている。

 

 ◆◆◆

 

 陰に潜んでいたモールは、震える指先で呟いた。

 

「……解除」

 

 兵隊たちが動きを止める。

 もし解除を忘れていたら、彼らはモール自身を攻撃していたはずだ。

 

 モールは、そっと胸を撫で下ろした。

 

 ウボォーギンには、モールの存在はバレていない。

 クラピカにも、モールの存在は悟られていない。

 

 ただ、「謎の玩具が、俺の命を救った」という事実だけが残った。

 

 ◆◆◆

 

 荒野。

 

 胸に深い裂傷を負い、血を流しながら、ウボォーギンは荒野の真ん中に座り込んでいた。

 

 周囲には、彼の放つ「近づくな」という念の圧(あるいはオーラ)が、嵐のように吹き荒れている。

 遠くで、旅団の気配がする。

 だが、誰も近づこうとはしない。

 彼の放つ圧に阻まれたのではない。

 彼のプライドが、それを許さないことを、旅団は知っているからだ。

 

 ウボォーギンは胸の傷を押さえながら、荒野の風の中に座り続けている。

 

「……鎖野郎をぶっ殺すまで、俺は帰らねぇ」

 

 その顔には、痛みも疲労もない。

 あるのは、剥き出しの殺意だけだ。

 

 陰で、モールがそれを見ていた。

 

(……この人は、本当に怪物だ)

 

 モールは、ポケットから布切れを取り出す。

 静かに、鶴を折る。

 

 一羽増えた。

 

 この折鶴に果たして意味はあるのだろうか。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

現代日本に転生したけど、何かおかしくない?(作者:匿名のななし)(原作:色々)

――やっぱイカれてるわ。この世界。▼旧題:念能力者が行く多重クロス世界


総合評価:1287/評価:7.65/連載:27話/更新日時:2026年09月29日(火) 08:00 小説情報

超古代に『剣』の概念を生み出した男の話(作者:柴犬ダックス)(原作:Fate/)

タイトルそのまま。▼メソポタミア文明よりも以前の神代の黎明期。▼神獣達が大地を闊歩し、まだ人類が石器を用いてた時代に転生した主人公が、ガイアに『剣』の概念をブチ込む物語。▼


総合評価:1846/評価:8.75/連載:2話/更新日時:2026年08月15日(土) 00:11 小説情報

グロキシニア転生者が行くHUNTER×HUNTER(作者:霊槍って、良いよね)(原作:HUNTER×HUNTER)

 七つの大罪の世界でグロキシニアとして転生し、チャンドラーと相打ちになるという大金星を上げた主人公が気付けばHUNTER×HUNTER世界の暗黒大陸の世界樹の元にいた……というところから始まる話。▼ 


総合評価:7479/評価:8.38/連載:16話/更新日時:2026年10月03日(土) 20:15 小説情報

Fate/hollow adaptation――異戒の華は冬木に咲く​(作者:りー037)(原作:Fate/)

十年前の冬木。第四次聖杯戦争の裏側で、大聖杯のシステムすら想定し得なかった「致命的なバグ」が産声を上げた。▼魔術師たちの野望と妄執が渦巻く中、地獄のような環境から一人の少女が解放される。▼間桐桜。彼女の足元に広がる「虚数」の影は、マスターを失い世界から消滅するはずだった理外の怪物――あらゆる事象に適応し破壊する『異戒の神将』と奇跡的な融合を果たしていた。


総合評価:3995/評価:8.57/連載:32話/更新日時:2026年08月11日(火) 02:54 小説情報

かませじゃないよ、カストロさん(作者:喜代治も)(原作:HUNTER×HUNTER)

▼「お前今私のことス○トロつったか?」▼「言ってな……言ったよ♦︎」▼「殺す」▼「❤︎」


総合評価:8297/評価:8.78/短編:1話/更新日時:2026年07月21日(火) 19:03 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>