GATE×PEACE GEAR―門の向こうの観測者―   作:最上 イズモ

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第5話 炎の向こう側

 

煙は、近づくほど太くなった。

 

黒い。

 

ただの野焼きではない。

 

森の上へ伸びる煙柱。

 

風に押されながらも途切れず、空を濁らせている。

 

車列が速度を落とした。

 

伊丹「全員警戒」

 

短い指示。

 

返答。

 

車内の空気が変わる。

 

イズモは窓の外を見た。

 

焦げた匂い。

 

まだ距離はある。

 

それでも。

 

風が運んでくる。

 

イズモ「木だけじゃない」

 

伊丹「何が」

 

イズモ「燃えてる匂い」

 

一瞬。

 

言葉を選ぶ。

 

イズモ「建材も混じってる」

 

伊丹「村か」

 

イズモ「可能性高い」

 

車両が進む。

 

道。

 

というより。

 

踏み固められた土の筋。

 

車体が揺れる。

 

イズモは座席の端を掴んだ。

 

伊丹「大丈夫か?」

 

イズモ「道悪い」

 

伊丹「そこ?」

 

イズモ「サスペンション気になる」

 

伊丹「今それ考えるな」

 

イズモ「はい」

 

珍しく。

 

すぐ黙る。

 

理由は。

 

前方。

 

森の中。

 

焼けた木。

 

一本。

 

二本。

 

十。

 

まだ火が残っている。

 

枝。

 

地面。

 

枯草。

 

熱源。

 

イズモの視線が動く。

 

イズモ「止めて」

 

伊丹「何か見えた?」

 

イズモ「右」

 

伊丹が見る。

 

最初。

 

何もない。

 

数秒。

 

黒いもの。

 

地面。

 

人。

 

伊丹「停車!」

 

車列。

 

止まる。

 

隊員たちが降りる。

 

銃。

 

警戒。

 

イズモも降りた。

 

伊丹「前に出るな」

 

イズモ「分かってる」

 

横へ。

 

少しだけ。

 

位置を変える。

 

倒れている。

 

人。

 

いや。

 

人型。

 

長い耳。

 

イズモ「……亜人」

 

伊丹「生きてるか?」

 

イズモは距離を取ったまま見る。

 

胸。

 

動いている。

 

弱い。

 

イズモ「呼吸あり」

 

隊員「武器確認」

 

剣。

 

離れた場所。

 

焦げている。

 

伊丹「救護」

 

衛生隊員が近づく。

 

イズモも。

 

少し遅れて。

 

同行する。

 

負傷者。

 

若い。

 

服。

 

焼けている。

 

腕。

 

火傷。

 

それ以外にも。

 

爪痕。

 

イズモ「……これ」

 

伊丹「何だ」

 

イズモ「刃物じゃない」

 

傷を見る。

 

幅。

 

深さ。

 

間隔。

 

イズモ「動物」

 

伊丹「この辺の?」

 

イズモ「サイズ次第」

 

隊員「足跡あります」

 

全員が見る。

 

地面。

 

大きい。

 

爪。

 

深い。

 

伊丹「……」

 

イズモ「嫌な予感する」

 

伊丹「俺もだ」

 

***

 

進む。

 

さらに。

 

森の被害が増える。

 

木が。

 

倒れている。

 

燃えた。

 

だけではない。

 

折れている。

 

抉られている。

 

一部は。

 

根元から。

 

イズモ「熱源反応」

 

伊丹「どこ」

 

イズモ「前方」

 

伊丹「人?」

 

イズモ「複数」

 

間。

 

イズモ「動いてる」

 

車列が。

 

停止。

 

徒歩。

 

静かに。

 

森の中。

 

音。

 

ぱちぱち。

 

まだ燃えている。

 

焦げ臭い。

 

そして。

 

声。

 

泣いている。

 

子供。

 

伊丹「行くぞ」

 

前方。

 

村。

 

だった場所。

 

家。

 

崩れている。

 

屋根。

 

燃えている。

 

井戸。

 

倒れた柵。

 

地面。

 

人。

 

亜人。

 

老人。

 

子供。

 

伊丹「救助開始!」

 

隊員たちが散る。

 

状況確認。

 

負傷者。

 

避難。

 

消火。

 

イズモは。

 

一瞬。

 

立ち止まった。

 

視界。

 

情報。

 

多い。

 

熱。

 

人。

 

叫び声。

 

煙。

 

建物。

 

崩壊。

 

伊丹「イズモ!」

 

イズモ「聞こえてる!」

 

戻る。

 

判断。

 

一つずつ。

 

イズモ「水源確認!」

 

隊員「井戸!」

 

イズモ「使える!」

 

イズモが手を向ける。

 

伊丹「何する」

 

イズモ「消火補助」

 

井戸。

 

水。

 

汲み上げる。

 

大量ではない。

 

だが。

 

空気中の水分。

 

残った水。

 

地面の湿気。

 

合わせる。

 

風。

 

火。

 

イズモ「延焼方向だけ切る」

 

伊丹「全部消さないのか」

 

イズモ「できるけど」

 

燃えている建物。

 

崩れかけ。

 

イズモ「無理に温度落とすと崩れる可能性ある」

 

伊丹「了解」

 

火の勢い。

 

少し。

 

弱まる。

 

完全には消えない。

 

だが。

 

隣の建物へ移る炎が。

 

止まる。

 

隊員「こっち!」

 

声。

 

倒れた柱。

 

その下。

 

人。

 

イズモ「行く」

 

伊丹「待て」

 

イズモ「生きてる」

 

二人。

 

走る。

 

柱。

 

重い。

 

下。

 

女性。

 

意識あり。

 

呼吸。

 

苦しい。

 

イズモ「動かさないで」

 

隊員「持ち上げるぞ」

 

イズモ「待って」

 

手。

 

柱。

 

見る。

 

荷重。

 

崩壊。

 

屋根。

 

まだ一部繋がっている。

 

イズモ「これだけ上げたら屋根落ちる」

 

伊丹「じゃあ」

 

イズモ「先に支える」

 

空気。

 

土。

 

木材。

 

全部。

 

使う。

 

イズモ「三秒だけ」

 

隊員「何が」

 

イズモ「屋根を持たせる」

 

手を伸ばす。

 

ぎし。

 

屋根。

 

止まる。

 

不自然に。

 

揺れながら。

 

イズモ「今!」

 

柱。

 

持ち上げる。

 

女性。

 

引き出す。

 

衛生隊員。

 

運ぶ。

 

イズモ「離れて!」

 

全員。

 

離れる。

 

数秒。

 

屋根。

 

崩れる。

 

土埃。

 

伊丹「……三秒って」

 

イズモ「だいたい」

 

伊丹「だいたいでやるな」

 

イズモ「間に合ったから良し」

 

伊丹「後で説教する」

 

イズモ「はい」

 

***

 

村の中央。

 

生存者。

 

集められている。

 

言葉。

 

通じない。

 

だが。

 

表情。

 

警戒。

 

恐怖。

 

当然。

 

見たこともない服。

 

車両。

 

武器。

 

人間。

 

伊丹「言葉が欲しいな」

 

イズモ「学習する」

 

伊丹「今から?」

 

イズモ「音声サンプルあれば」

 

伊丹「どれくらいで」

 

イズモ「日常会話なら」

 

少し考える。

 

イズモ「量次第」

 

伊丹「便利だな」

 

イズモ「完璧ではないよ」

 

イズモは。

 

住民を見る。

 

言葉。

 

断片。

 

繰り返し。

 

人名。

 

地名。

 

何かを指している。

 

空。

 

山。

 

森。

 

そして。

 

何度も。

 

同じ単語。

 

イズモ「……」

 

伊丹「分かる?」

 

イズモ「単語だけ」

 

伊丹「何て言ってる」

 

イズモ「たぶん」

 

もう一度。

 

耳を澄ます。

 

老人。

 

震える声。

 

指。

 

空。

 

その単語。

 

イズモ「炎龍」

 

伊丹「……炎龍?」

 

住民。

 

一斉に。

 

空を見る。

 

イズモ「これ」

 

伊丹「原因か」

 

イズモ「たぶん」

 

言葉が。

 

また一つ。

 

別の住民。

 

若い男。

 

必死に。

 

何か。

 

ジェスチャー。

 

腕。

 

翼。

 

火。

 

人。

 

イズモ「大型飛行生物」

 

伊丹「ワイバーンより?」

 

イズモ「比較にならない感じ」

 

伊丹「嫌だな」

 

イズモ「私も」

 

そこへ。

 

一人の隊員。

 

走ってくる。

 

隊員「伊丹二尉!」

 

伊丹「何だ」

 

隊員「北側に生存者!」

 

伊丹「人数」

 

隊員「一名!」

 

イズモが。

 

顔を上げる。

 

隊員「ただ」

 

伊丹「ただ?」

 

隊員「……見た目が」

 

***

 

森。

 

村から。

 

少し離れた場所。

 

倒木。

 

焦げた地面。

 

その奥。

 

木の根元。

 

一人。

 

座っている。

 

少女。

 

金髪。

 

長い耳。

 

弓。

 

だが。

 

持つ力は。

 

もうない。

 

伊丹「……エルフ?」

 

イズモ「それっぽい」

 

伊丹「また雑だな」

 

イズモ「正式分類ないから」

 

少女。

 

こちらを見る。

 

震える。

 

武器。

 

上げようとする。

 

イズモ「待って」

 

伊丹「動くな」

 

イズモ「私が行く」

 

伊丹「一人で?」

 

イズモ「銃持ってない」

 

伊丹「だからって」

 

イズモ「一番怖く見えない」

 

伊丹「自信あるのか」

 

イズモ「比較では」

 

伊丹「……行け」

 

ゆっくり。

 

イズモ。

 

手を見える位置。

 

武器なし。

 

距離。

 

詰めすぎない。

 

少女「――!」

 

弓。

 

上がる。

 

途中。

 

止まる。

 

力が。

 

入らない。

 

イズモ「大丈夫」

 

通じない。

 

声。

 

低く。

 

ゆっくり。

 

イズモ「攻撃しない」

 

少女。

 

息。

 

荒い。

 

視線。

 

イズモ。

 

その後ろ。

 

自衛隊。

 

銃。

 

車両。

 

知らない。

 

怖い。

 

当然。

 

イズモは。

 

そこで止まる。

 

近づかない。

 

少女「……」

 

イズモ「……」

 

沈黙。

 

待つ。

 

少女の腕。

 

ゆっくり下がる。

 

イズモも。

 

何もしない。

 

数秒。

 

少女。

 

目。

 

閉じる。

 

力。

 

抜ける。

 

イズモ「伊丹さん!」

 

倒れる前。

 

イズモが支える。

 

軽い。

 

熱。

 

火傷。

 

疲労。

 

脱水。

 

イズモ「生きてる」

 

伊丹「救護!」

 

***

 

少女は。

 

簡易的な救護所へ運ばれた。

 

イズモは。

 

少し離れて。

 

座る。

 

手。

 

煤。

 

服。

 

汚れている。

 

伊丹「お疲れ」

 

イズモ「まだ」

 

伊丹「十分やったろ」

 

イズモ「村全体見れてない」

 

伊丹「隊員がいる」

 

イズモ「……」

 

伊丹「一人で全部やるな」

 

イズモ。

 

少し。

 

止まる。

 

伊丹「お前が倒れたら」

 

指。

 

救護所。

 

伊丹「今助けた連中も困る」

 

イズモ「……了解」

 

伊丹「素直」

 

イズモ「正論なので」

 

水。

 

渡される。

 

イズモ。

 

飲む。

 

一口。

 

二口。

 

遠く。

 

村。

 

煙。

 

さっきより。

 

減っている。

 

伊丹「なあ」

 

イズモ「何」

 

伊丹「炎龍」

 

イズモ「うん」

 

伊丹「どれくらい強いと思う」

 

イズモ「分からない」

 

伊丹「だよな」

 

イズモ「でも」

 

イズモが。

 

焼けた木を見る。

 

太い。

 

幹。

 

表面だけではない。

 

内部まで。

 

炭化。

 

イズモ「熱量はかなり高い」

 

伊丹「銃でいける?」

 

イズモ「サイズと装甲次第」

 

伊丹「お前なら」

 

イズモ「止められるかって?」

 

伊丹「そう」

 

イズモは。

 

少し考える。

 

イズモ「見ないと分からない」

 

伊丹「逃げないな」

 

イズモ「逃げるよ」

 

伊丹「え?」

 

イズモ「勝てないなら」

 

伊丹「……」

 

イズモ「勝てない相手に正面から行くの、ただの自殺だから」

 

伊丹「意外とまともだ」

 

イズモ「失礼だな」

 

伊丹「銀座で矢掴んでたやつが言うな」

 

イズモ「飛んできたから」

 

伊丹「普通避けるんだよ」

 

イズモ「後ろに人いたし」

 

伊丹「そういうとこだぞ」

 

少し。

 

笑う。

 

ほんの一瞬。

 

空気が。

 

軽くなる。

 

その時。

 

音。

 

遠い。

 

低い。

 

空気が。

 

震える。

 

イズモの顔が。

 

変わる。

 

伊丹「何だ」

 

イズモ「……静かに」

 

全員。

 

止まる。

 

また。

 

音。

 

森。

 

鳥。

 

一斉に飛ぶ。

 

住民たち。

 

動きが止まる。

 

顔。

 

恐怖。

 

誰かが叫ぶ。

 

「炎龍!」

 

次の瞬間。

 

空。

 

影。

 

巨大。

 

雲の下。

 

赤い。

 

翼。

 

イズモ「……でか」

 

伊丹「全員退避!」

 

叫び。

 

隊員。

 

動く。

 

住民。

 

パニック。

 

救護所。

 

負傷者。

 

間に合わない。

 

炎龍。

 

旋回。

 

こちらを見る。

 

イズモ「見つかった」

 

伊丹「迎撃準備!」

 

銃。

 

上がる。

 

イズモ「待って!」

 

伊丹「何!」

 

イズモ「撃つなら村から引き離して!」

 

伊丹「理由!」

 

イズモ「ここで暴れたら」

 

周囲。

 

指す。

 

イズモ「全部燃える!」

 

炎龍。

 

口。

 

光。

 

熱。

 

上がる。

 

イズモ「来る!」

 

火。

 

吐き出される。

 

一直線。

 

村。

 

救護所。

 

イズモ「《Elemental Symphony》!」

 

風。

 

一気に。

 

横。

 

炎。

 

曲がる。

 

完全には止まらない。

 

熱。

 

皮膚。

 

痛い。

 

イズモ「っ……!」

 

炎が。

 

村の横。

 

地面。

 

焼く。

 

伊丹「イズモ!」

 

イズモ「大丈夫!」

 

嘘。

 

少し。

 

腕。

 

赤い。

 

でも。

 

立てる。

 

イズモ「もう一回来る!」

 

伊丹「撃て!」

 

銃声。

 

一斉。

 

弾。

 

炎龍。

 

鱗。

 

火花。

 

一部。

 

刺さる。

 

だが。

 

止まらない。

 

炎龍が吠える。

 

イズモ「効いてる」

 

伊丹「倒せるか」

 

イズモ「倒すより」

 

炎龍。

 

下降。

 

イズモ。

 

見る。

 

進路。

 

村。

 

人。

 

イズモ「誘導する!」

 

伊丹「どこへ!」

 

イズモ「村の外!」

 

走る。

 

伊丹「おい!」

 

イズモ「伊丹さん!」

 

振り返る。

 

イズモ「住民お願い!」

 

伊丹「勝手に行くなって言っただろ!」

 

イズモ「通信圏内!」

 

伊丹「そういう問題じゃない!」

 

イズモ「後で怒られる!」

 

伊丹「今怒ってる!」

 

炎龍。

 

再び。

 

火。

 

イズモ。

 

腕。

 

風。

 

押す。

 

炎。

 

逸らす。

 

そして。

 

地面。

 

蹴る。

 

走る。

 

村から。

 

離れる。

 

炎龍の視線。

 

追う。

 

イズモ「こっち!」

 

言葉。

 

通じるか。

 

知らない。

 

だが。

 

注意。

 

向く。

 

熱源。

 

動く標的。

 

妨害した相手。

 

十分。

 

炎龍。

 

翼。

 

傾く。

 

追う。

 

伊丹「……本当に引っ張った」

 

隊員「二尉!」

 

伊丹「追うぞ!」

 

隊員「救護は!」

 

伊丹「半数残れ!」

 

車両。

 

エンジン。

 

イズモ。

 

走る。

 

後ろ。

 

巨大な影。

 

炎。

 

森。

 

村。

 

遠ざかる。

 

イズモ「……」

 

心拍。

 

上がる。

 

熱。

 

風。

 

音。

 

イズモ「いや」

 

一瞬。

 

笑う。

 

イズモ「これは普通に怖いな」

 

背後。

 

咆哮。

 

イズモ「うん」

 

さらに。

 

速度。

 

上げる。

 

イズモ「知ってた」

 

その先。

 

開けた。

 

岩場。

 

木。

 

少ない。

 

イズモ「ここなら」

 

止まる。

 

振り返る。

 

炎龍。

 

来る。

 

赤い鱗。

 

巨大な翼。

 

熱。

 

視界。

 

全部。

 

埋める。

 

イズモ「……観測開始」

 

空気。

 

水分。

 

地形。

 

熱。

 

圧力。

 

鱗。

 

翼。

 

筋肉。

 

魔力らしき反応。

 

一つずつ。

 

視界に。

 

浮かぶ。

 

イズモ「殺さず止める」

 

間。

 

炎龍。

 

咆哮。

 

イズモ「……できるかな」

 

後方。

 

車両音。

 

伊丹の声。

 

無線。

 

伊丹『できるかなじゃない! 無理なら逃げろ!』

 

イズモ「聞こえてた」

 

伊丹『当たり前だ!』

 

少し。

 

息を吐く。

 

イズモ「了解」

 

姿勢。

 

低くする。

 

イズモ「まず」

 

炎龍。

 

急降下。

 

イズモ「逃げ道は残す」

 

地面が。

 

揺れた。

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