名もなき神々の楽園   作:采霞

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第14話 救出隊の条件

マルクトは開いた画面の横で、複製をリオの方へ向けた。

自分が保管した記録と現在の信号の間には、まだ空欄が残っていた。そこを指で示した。

 

「我も一緒に行きます」

 

リオは空欄を見てから、マルクトを見た。

 

「記録だけ渡すこともできるわ」

 

「その記録が役立つのか、我も確かめたいのです。我の知らない部分を尋ねられたら、その場でそうお伝えできるように」

 

マルクトは画面を閉じなかった。一緒に持っていく複製を選んだ。原本は保管場所に残した。

ユウカが白紙の地図を横に移し、場所を空けた。

 

「先生が消えたのではなく、別の可能性に固定されたのかもしれない、ということですか?」

 

「まず、その可能性を確かめよう」

 

リオは地図に目的地を書く代わりに、照合する資料を置いた。マルクトが用意した複製にも、仮説の表示は残っていた。

同行する人が増えても、座標が得られたわけではなかった。

 

臨時調査室の壁には、作戦参加候補の名簿だけが貼られていた。

出発時刻と目的地の欄は空白だった。

 

「今日確認するのは、参加意思と任務の範囲よ」

 

リオが言った。

 

「出動を承認する場ではないわ」

 

リンは議事録に『候補者の確認』と記した。

目的地も、進入経路も確定していなかった。

 

ユウカが任務の範囲を読み上げた。

 

「現地で行うのは、接触と状態の確認、先生の意思を聞くところまでです。先生が戻らないと言ったら、無理に連れてきてはいけません」

 

サオリは腕を組んだまま、申請書を見ていた。

 

「危険な状態だったら?」

 

「その時に確認できた状況を見て、改めて判断する必要があるわ」

 

リオが言った。

 

「今ここで帰還を約束することはできない」

 

ユウカは任務範囲の欄を読み返した。

 

「先生が『戻りたくない』と言ったら、危険だから出た言葉だと先に疑って、無視することはできません。逆に、助けを求められたら、拒否を尊重するからといって見捨ててもいけません」

 

リオはすぐには答えなかった。

 

「その判断には、現地で聞いた言葉と実際の安全状態を、別々に確認する必要があるわ」

 

そう言った。

 

「今はどちらも前提にしない方がいい」

 

「それなら、記録も分けておいてください」

 

ユウカが言った。

 

「拒否と救助要請を、初めから同じ意味に分類しないでくださいね」

 

リンは任務の範囲に、『本人の意思』と『現地の安全状態』を別項目として加えた。

 

「私は連れて帰る」

 

スバルがサオリを見た。

 

「先生が望んでいなくても?」

 

サオリはすぐには答えなかった。申請書には『先生を連れて帰る』という一文が残っていた。ペンを取り、その文に線を引いた。

 

「いや。捜して、話す機会を作る。戻るかどうかは先生に決めてもらう」

 

直した文を読み返し、署名した。紙に刻まれた古い筆跡は消えなかった。

サオリはペンを置き、申請書をリンに渡した。

スバルはその紙に視線を走らせた。

 

「書き直したからといって、すべてが変わるわけではありません」

 

「分かっている」

 

サオリは複製を自分の方へ引き寄せた。強く書いた古い文が裏にまで透けていた。

スバルはその横に自分の申請書を置いた。

 

「サオリを信じて行くわけではありません。残される生徒たちのことは、私が整理してから行きます。あなたが一人で危険を背負おうとしたら、その時も黙ってはいません」

 

「監視するということか」

 

「必要なら」

 

リンが二人の間へ書類ファイルを滑らせた。

スバルはサオリの署名の上に自分の紙を重ねなかった。引き継ぐ仕事を書いた別紙を取り出し、申請書の横に添えた。アリウスに残る人に渡すべき予定が、まだ残っていた。

サオリはその一覧には触れなかった。代わりに、ファイルがスバルの方へ渡るよう、自分の腕をどけた。

一緒に行くという二つの名前が並んだ。どちらも、もう一方を保証してはいなかった。

 

シロコ*テラーは任務の範囲を確かめ、短く言った。

 

「参加する。先生を捜したい」

 

「戻らないと言われたら?」

 

ユウカが尋ねた。

 

「その言葉を直接聞く」

 

ケイは自分の分析表を閉じた。

 

「私も参加します」

 

マルクトは生徒たちの申請書とは別に置かれた、記録担当者用の書式を見た。

リンはマルクトの書類を生徒名簿にまとめず、別の記録として受理した。マルクトは生徒ではなかった。

リオは最後に自分の名前を記した。

 

「私も同行するわ。自分が設計した条件が、現地でどんな結果を生むのか確かめる責任があるから。もちろん、だからといって指揮と中止の権限を全部私に集めるつもりはない」

 

ユウカは署名された紙を受け取る代わりに、作業台の上を空けた。

 

「同行するなら、まず試験中に直接操作する人と、外から遮断する人を分けてください。どちらも会長一人で担当しないでくださいね」

 

リオは装置を見下ろした。制御画面と遮断装置が、同じ席の前にあった。

遮断装置をユウカの方へ移した。

 

「試験案ができたら、ここで確認しよう。現地の役割も、その時に分けるわ」

 

シロコ*テラーが扉のそばで振り返った。

 

「失敗したら?」

 

「接続を切って撤退する。次の試行は、新しい情報が得られてからよ」

 

「うん」

 

扉の横の椅子を引き、作業台の近くに置いた。待つ場所が変わっただけで、扉の向こうへ続く道が分かったわけではなかった。

マルクトは自分の記録票を取り、リンが空けておいた場所の横に置いた。

 

ケイは原本と分析用の複製を分け、観察と解釈を別々に残すと話した。

 

サオリは申請書の複製をファイルに収めた。

ケイは机に残る資料を一度見渡した。最初に手が伸びたのは、自分の起源に似た標識だった。指先が画面の前で止まった。

 

「これも持っていきます。同じ意味だと決めつけるつもりではありません」

 

現在の信号とまとめず、別に開いた。あとで照合する時、何に目を留めたのか、まず自分が知っておく必要があった。

マルクトは空の椅子を作業台の下に押し込み、ケイの見る画面を遮らない場所に立った。リオは二人が選んだ複製の一覧から確認した。

 

部屋で名前を書く作業は終わった。

引き継ぎが必要な人は引き継ぎに行き、残った人は経路試験に使う資料を開いた。目的地の欄は、まだ空白だった。

 

「次は進入の可能性から検討する必要があるわ」

 

リオが言った。

 

「プラナには、損傷した経路の残留信号を読み取る試験案を設計してもらおう。実行は別途承認するまで禁止よ」

 

プラナが設計画面を開いた。

サオリが見ていた白紙の地図は、作業台の端に押しやられた。その上に受信する時間窓を描き込むことはできなかった。

画面には損傷した経路に残る波形があった。プラナは波形をつないで元の経路を復旧するのではなく、その間の短い空白を選んだ。その隙間から流入するものだけを一度受け取り、隔離領域に保存する計画だった。

リオは外へパケットを送る機能が選択されていないことを確認した。出所や座標を探す機能は設計になかった。

 

「なら、これを受け取っても道はできないわけか」

 

サオリが画面の横の地図を見ながら言った。

 

「まず、入ってくるものを確かめるのよ」

 

リオが答えた。

シロコ*テラーは地図を手に取り、空白のまま戻した。ケイは保存する原本と分析用の複製を並べて開いた。

マルクトは持参した記録を後ろへ引いた。中央に空の受信ウィンドウが残った。スバルは作業台から離れたところで、引き継ぐ予定に担当者がいるか確認した。

 

プラナは受信終了後、自動で次の窓を開く設定を切った。リオは終了後に残る保存先を先に見た。そこに残る予定なのは通路ではなく、一度受信した記録だけだった。

 

リオは危険と中止条件を検討し、一度だけの受信試験を別途承認した。

バルクへの進入や東京への移動は承認しなかった。試験が成功しても開かれた経路ができるわけではなく、相手の記録にアクセスできるわけでもなかった。

試験には、過去の損傷した記録の残留パターンを利用した。自己点検とは周期が違い、外部からの流入の可能性はあったが、不具合や内部の残響かもしれなかった。

プラナは受信した断片を入れる隔離領域を先に開いた。

まだ何も入っていなかった。サオリは空の画面を見てから、作業台の前へ来た。

 

「声が来たら、残せるか」

 

「受信できた範囲は保存します」

 

「途切れていても?」

 

「途切れたまま残します」

 

サオリはうなずいた。文の終わりを聞くために、もう一度開いてほしいとは言えないということでもあった。

ユウカがサオリの前の空いた椅子を後ろに引いた。制御画面のすぐそばに立つと、リオの動く場所が狭くなった。サオリは横へ退き、そのまま画面を見ていた。

スバルは引き継ぎ一覧を鞄に入れた。残される人たちに、戻る時刻まで書いて渡すことはできなかった。

ケイは自分の記録を別のウィンドウへ移した。

 

リオは制御画面の前に座った。サオリが見ていたのは地図ではなく、まだ何の音も入っていない受信ウィンドウだった。

 

「確認の過程で、接続した痕跡が相手に残る可能性は?」

 

リオが尋ねた。

 

「排除できません。ただし、現在の設計では応答パケットを送りません。接続を維持せず、受信したデータの一部だけを隔離領域に保存します」

 

「一度確認したあと、追加で開いてほしいと要請が来ても、自動で続かないようにして」

 

「設定しました」

 

ユウカは異常な応答があれば接続を切り、原本と複製を分けるよう記した。

 

「読み取り専用といっても、安全が保証されるわけではないわ」

 

リオが言った。

 

「プラナ、異常な信号が見えたら、結果を増やそうとせずに切って」

 

「了解しました。データ量より接続の終了条件を優先します」

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