整備室の時計は23時を回っていた。
外のミレニアムは静かになっていたが、完全に眠ったわけではない。いくつかの研究棟にはまだ明かりが残り、遠くでは自動搬送ロボットの通過音が聞こえた。
整備室の扉には、一時的な立ち入り制限の表示が貼られている。前に立っているのは、ユウカが選んだ当直の生徒が一人だけ。通信異常と整備試験の中止。それが、彼女の知っている説明のすべてだった。
室内にいるのはリオとユウカ、そしてアバンギャルド君の胸の奥で点灯している小さなランプだった。
「プラナ。現在の接続状態をもう一度報告して」
「外部演算体との接続は制限されています。シッテムの箱には接続できません」
「接続を試みた形跡は残っている?」
「記録の一部が損傷しています。確認可能な通信経路を通じて、読み取り専用のアクセスを試みることはできます」
ユウカは腕を組み、診断画面を見つめていた。夜が更けるにつれ、整備室の空気は冷えていく。エアコンの設定は変わっていなかった。それでも彼女はジャケットの袖を一度引き下げ、画面の項目を順に確認した。
「読み取り専用でも、接続経路を開けば向こうから信号を送ってくる可能性はありますよね?」
「その可能性は排除できません」
「なら、中継経路を開いたままにはできません。要求を送って応答を待つ時間も制限しましょう。異常な信号があれば、すぐに切断します」
リオは画面を覗き込んだ。
外部診断装置との回路は遮断されている。残っているのは補助演算部の保存記録と、損傷した経路の一部だけだった。シッテムの箱に直接触れることはできない。
「要求は一度だけにしよう。応答があれば必要な項目だけ受け取る。再接続は前提にしない」
ユウカは準備していた遮断手順を画面の端に表示した。
リオはしばらくアバンギャルド君を見つめる。プラナがこの機体の中で目覚めた理由も、シッテムの箱とつながっていない理由も、まだ分からない。ただ、通信異常と彼女の起動時刻は一致している。それが偶然なのか、関連する出来事の一部なのかを確かめるには、無闇に電源を落とすのではなく、記録を読む必要があった。
「プラナ、試せる?」
「要求された範囲であれば可能です。ただし、接続の安全性は保証できません」
「なら、危険が生じたら先に知らせて」
「確認しました」
ユウカが接続を開いた。画面上の灰色の線が一本、淡い青に変わる。数字と記号が素早く流れていった。
診断プログラムは応答なしと表示していたが、その下の別ウィンドウに、読み取れない文字列が一瞬現れて消えた。
「今のは何が入ったんですか?」
「応答データの一部を受信しました。形式が一致しません」
「切断しますか?」
リオはすぐには答えなかった。画面に残った文字列を複製して保存するよう、ユウカに目で合図する。彼女は保存先を分離し、外部から実行できない隔離領域へコピーした。コピーが終わる前に、経路の末端が黒く変わった。
「もう少し待ったら?」
「要求が繰り返される可能性があります」
「切って」
ユウカが遮断手順を実行した。
接続表示が消え、整備室の端末は通常画面に戻った。アバンギャルド君の表示灯は消えなかった。プラナの声も続いている。
「接続の試行は終了しました」
「保存できたのは?」
「損傷した記録の一部です。再生可能な範囲は限られています」
ユウカは保存データを開いた。数行の通信経路と時刻情報が表示されたが、途中から区切り記号が壊れている。元のファイルに上書きしないよう複製を作り、別に保管した。同じ情報を読み返すことはできても、失われた記録まで戻すことはできない。
コピーの保存完了を確かめてから、ユウカは接続画面を閉じた。指先はしばらく遮断ボタンの上に留まっていた。相手からの応答はなかった。ファイルの末尾は壊れたままで、再接続すれば続きを読める保証もなかった。リオは再試行の欄を空白のままにして、現在の状態を保存した。
「時刻情報は信用できる?」
「記録装置の内部時計は正常に動作していました。ただし、外部通信網との時刻同期状態は確認できません」
「ミレニアム側の記録と照合すると?」
「起動直前の記録は診断装置と一致しています。シャーレとの通信が途絶えた時刻も、同じ時間帯に分類されます」
ユウカは別の内部ネットワーク記録を開き、二つの時刻を比べた。
二つのシステムは別々の装置だったが、その日の定期同期記録は残っていた。誤差を計算しても、二つの変化の間に有意な差はなかった。
ユウカは一致した時刻に印をつけた。原因の欄は埋めなかった。
「プラナ、要求の前後を分けて見せてください」
プラナはしばらく黙った。その間は、人がためらうように長いものではなかった。必要な情報を探している時間に近い。
「管理者権限の実行記録を確認しました」
ユウカが画面を拡大した。リオの視線もその箇所に留まる。
「実行時刻は?」
「シッテムの箱との通信が途絶える直前です」
「権限を実行した主体は特定できる?」
「記録が損傷しています。署名情報の一部だけが残っています」
「残った部分から、何が分かるの?」
「管理者認証を使用した実行です。本来の経路から外部演算体を分離する処理が続いています」
ユウカの入力が止まった。分離。リオはその言葉を問い返す。
「強制的な分離だったの?」
「強制射出の記録が存在します」
アバンギャルド君の内部で冷却ファンが低く唸った。つい先ほどまで整備試験の一部のように聞こえていた音が、今は返事を待つ沈黙を満たしている。
リオは椅子を引かなかった。立ったまま、記録の前後を確認する。
実行直前の命令はほとんど壊れていた。実行後の経路は二つに分かれている。
一つは外部演算体の移動を示す不完全な表示。もう一つは、シッテムの箱の内側に残った「応答なし」の状態だった。
「外に出た演算体が、あなたということ?」
「現在の記録と私の起動位置を照合すると、そのように判断できます」
「誰が実行したのかも分かる?」
「実行主体の署名は完全ではありません。確認できる管理権限の痕跡は、アロナ先輩のものと一致しています」
ユウカはリオを見た。リオは画面から目を離さずに言った。
「アロナの署名の、残っている部分だけを見せて」
名前の根拠となる行は途中で途切れていた。リオはその下に『推定』と書き込んだ。
プラナはそれ以上完全な署名を示せなかった。代わりに、強制射出のフラグが残っている区間を示した。
ユウカは該当箇所を別の複製として保存した。元データは書き込み禁止にし、読める項目と損傷した項目をそれぞれ記した。
「じゃあ、あなたがここにいるのは、誰かが外へ送り出したからなのね」
「現在確認できる記録からは、そのように判断できます」
リオは次の質問をしばらく選べなかった。記録が示しているのは実行主体の痕跡だけで、なぜその選択をしたのかまでは語っていない。
彼女はプラナの声が聞こえたスピーカーを見た。
「どうして、あなただけ……」
リオは質問を言い終えられなかった。移動経路の隣には、内部に残った実行主体の痕跡があった。
「保護措置だった可能性はあります」
プラナが言った。
「誰のためだったのか、あの方がなぜ内部に残ったのかは分かりません」
リオはスピーカーから目をそらした。答えられないプラナに、同じ質問を重ねることはしなかった。
「シッテムの箱の内部から、追加の応答を受け取れる?」
「現在の経路からは不可能です」
「別の経路を作れる?」
「確認できません。追加接続は損傷した記録を破損させる可能性があります」
ユウカが手を上げた。
「今はこれ以上つながない方がいいです。一度の要求で一部の記録は得られましたが、経路が不安定なのも確認できました。同じことを繰り返せば、読める痕跡まで消えるかもしれません」
リオは反論しなかった。
必要な情報は一つ得られた。それ以上を求めて、証拠を失う可能性もある。プラナが外へ出たという記録、管理者権限が実行された記録、アロナの署名が残っているという痕跡。それだけでは、今すぐすべての答えを得られない。
「アロナからも、何の応答もないの?」
プラナはすぐには答えなかった。
信号を探すように表示灯が二度点滅した。ユウカは新しい接続を開かない。画面にはすでに遮断された経路だけが表示されていた。
「アロナ先輩の応答を確認できません」
ユウカは状態欄に「生存の有無と現在の状態を確認できず」と記録した。プラナが報告を終えても、スピーカーから目を離せなかった。
保存を終えても、灰色の表示はそのままだった。
リオは机の上の通信端末を見た。シャーレに送ったメッセージはまだ保留中だった。ミレニアムの内部ネットワーク経由で送った個別メッセージも、届いたかどうか確認できない。リンに限定チャンネルで送った記録には、先生との連絡が途絶えたと記されている。
ユウカは自分の端末を一度だけ点けた。
さっき送った文は短い。『確認できたら返信してください』。余計な説明も、返事を急かす言葉も添えていない。送信状態は灰色のままだった。彼女は画面を消し、記録用紙に時刻を書いた。心配していないふりをする必要はない。けれど、まだ確認されていない最悪の事態を先に口にする理由もなかった。
「まずはプラナの状態と損傷記録を保存しよう。箱に再接続する方法は、別に検討する必要がある」
「先生の捜索は?」
ユウカの問いに、リオは少しだけ間を置いた。
「接続が途絶えたという事実だけでは、居場所を特定できないわ。今は調査記録と各学園からの確認内容を集める必要がある。捜索を始めるにしても、何を探すのか整理しなくては」
それは捜索を諦めるという意味ではなく、まだ出発点が分からないということだった。
廊下の照明は省電力モードに落ち、扉の前では当直の生徒が持ち場を守っていた。リオは再接続の承認欄を空白のままにし、追加の試行を保留した。アロナの状態は、依然として確認できなかった。