隣の席は南ことり   作:Gussan0

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どうもΣ(゚Д゚)

続き書けたで候。

では、どうぞ∠( ゚д゚)/


第十話 穂むら

 休日の午後。

 

「着いたよ!」

 

 少し先を歩いていた高坂さんが振り返り、一軒の店を指差した。

 

「ここが穂乃果の家!」

 

「へえ……」

 

 俺は足を止めて店先を見上げた。

 

 和菓子屋――穂むら。

 

 前世の記憶にある場所が、今は目の前にある。画面越しに何度も見たはずなのに、実際に立ってみると不思議なくらい印象が違った。

 

「水瀬君?」

 

 隣から声をかけられ、南さんを見る。

 

「どうしたの?」

 

「いや、ちゃんとした和菓子屋なんだなって」

 

「ちょっと水瀬君!それどういう意味!?」

 

 高坂さんがすぐに反応した。

 

「変な意味じゃないって。思ってたより立派だなって」

 

「最初からそう言ってよ!」

 

「穂乃果、水瀬君は別に馬鹿にしていないでしょう」

 

「分かってるけど!」

 

「ならいいじゃないですか」

 

「海未ちゃんはどっちの味方なの?」

 

「どちらの味方でもありません」

 

 二人のやり取りに南さんがくすくす笑う。

 

「とりあえず入ろっか」

 

「そうだよ!水瀬君、早く!」

 

「はいはい」

 

 高坂さんに急かされながら、俺たちは穂むらへ入った。

 

 ◇

 

「ただいまー!」

 

「穂乃果、お店でそんな大声出さないの」

 

 奥からすぐに女性の声が返ってきた。

 

「はーい」

 

 あまり反省しているようには聞こえない。

 

 ほどなくして店の奥から女性が姿を見せると、南さんと園田さんが慣れた様子で頭を下げた。

 

「こんにちは」

 

「お邪魔します」

 

「あら、ことりちゃんに海未ちゃん。いらっしゃい」

 

 高坂さんのお母さんは二人に笑いかけ、それから初めて見る俺に視線を向けた。

 

「あ、お母さん。この子が水瀬君! ことりちゃんと同じクラスの!」

 

「初めまして。水瀬拓海です。今日はお邪魔します」

 

「ああ、あなたが水瀬君ね。穂乃果から聞いてるわ。お家が洋服屋さんなんですって?」

 

「洋装店をやってます」

 

「そうなの。今日はゆっくりしていってね」

 

「ありがとうございます」

 

 初めて友達の家に来たとき特有の緊張が少しだけ和らぐ。

 

「じゃあ水瀬君、こっち――」

 

「穂乃果、その前にこれ奥へ持っていってくれる?」

 

「今?」

 

「今」

 

「はーい……水瀬君、ちょっと待ってて!」

 

「うん」

 

 高坂さんはお母さんから盆を受け取ると、そのまま店の奥へ消えていった。

 

 その後ろ姿を何となく目で追う。

 

「珍しい?」

 

 南さんが横から聞いてきた。

 

「ちょっとね。学校じゃ見ないから」

 

「穂乃果ちゃん、お店のお手伝いもちゃんとするんだよ」

 

「つまみ食いをして叱られることもありますが」

 

「それも想像できるな」

 

「でしょ?」

 

 南さんが楽しそうに笑う。

 

 俺が水瀬洋装店の息子であるように、高坂さんも穂むらの娘だ。学校では見えない生活がここにはある。

 

 そんな当たり前のことを、少しだけ実感した。

 

 ◇

 

「お待たせ!」

 

 しばらくして高坂さんが戻ってくる。

 

 今度はお茶と菓子が載った盆を持っていた。

 

「それもお手伝い?」

 

「これはみんなの!」

 

「さっきより嬉しそうだね」

 

「だってお菓子だよ?」

 

「分かりやすいですね」

 

「海未ちゃんも食べるでしょ!」

 

「もちろんいただきますが……」

 

 高坂さんに案内され、俺たちは居間へ移動した。

 

 四人で座ると、高坂さんは待ってましたと言わんばかりに俺の前へ皿を差し出す。

 

「水瀬君、これ!」

 

「何?」

 

 皿の上には、焼き色のついた饅頭が載っていた。

 

 俺がそれを見るより早く、高坂さんが胸を張る。

 

「穂むら名物『穂むらまんじゅう』、略して『ほむまん』!美味しいよ!!」

 

「……ほむまん?」

 

「うん、ほむまん!」

 

「穂むらまんじゅうだから?」

 

「そう!」

 

「そのままだね」

 

「分かりやすくていいでしょ?」

 

「穂乃果ちゃん、その呼び方気に入ってるんだよ」

 

 南さんが笑いながら一つ手に取る。

 

「だって呼びやすいもん!」

 

「水瀬君が正式な商品名まで『ほむまん』だと勘違いしたらどうするのですか」

 

「さすがに分かるよ、園田さん」

 

「ほら!」

 

「だからといって穂乃果が勝ち誇ることではありません」

 

「海未ちゃん細かい!」

 

 二人が言い合っている横で、俺も一つ手に取った。

 

「じゃあ、いただきます」

 

 一口食べてみる。

 

 香ばしい皮と餡の甘さが口の中に広がった。甘すぎず、もう一つくらいなら普通に食べられそうだ。

 

「……美味しい」

 

「でしょ!」

 

 高坂さんが満面の笑みで胸を張る。

 

「なんで高坂さんが作ったみたいな顔してるの」

 

「だって、うちのお饅頭だもん!」

 

「高坂さんが作ったわけじゃないでしょ?」

 

「そうだけど……でも、うちのお饅頭を美味しいって言ってもらえたら嬉しいよ!」

 

「ああ、それは分かる」

 

「でしょ?」

 

「うちの店の服を褒めてもらったら、俺も嬉しいし」

 

 そう答えると、高坂さんの顔がさらに明るくなった。

 

「やっぱり一緒だ!」

 

「何が?」

 

「お店の子!」

 

「括りが大雑把だなぁ」

 

「いいの!」

 

 扱っているものは服と和菓子で全然違う。それでも、自分の家の店を褒めてもらえると嬉しいという感覚は、俺にもよく分かった。

 

「水瀬君、もう一個食べる?」

 

「いいの?」

 

「もちろん!」

 

「穂乃果、自分の家だからといって勝手に勧めすぎでは?」

 

「お母さんがみんなで食べていいって言ったもん」

 

「じゃあ遠慮なく」

 

「海未ちゃんも!」

 

「いただいています」

 

「ことりちゃんも!」

 

「食べてるよ~」

 

 いつもの調子で賑やかになる。

 

 俺は二つ目のほむまんへ手を伸ばした。

 

 ◇

 

「お姉ちゃん、うるさいんだけど」

 

 しばらくすると、聞き慣れない声がした。

 

 振り返ると、俺たちより少し幼い女の子が部屋の入口に立っている。

 

「あ、雪穂!」

 

 高坂さんが振り返った。

 

 前に聞いた、高坂さんの二つ下の妹。

 

「雪穂、こっち来て!」

 

「なんで?」

 

「紹介するから!」

 

「別にいいけど……」

 

 雪穂は南さんと園田さんに気づくと、軽く手を上げた。

 

「ことりちゃん、海未ちゃん、こんにちは」

 

「こんにちは、雪穂ちゃん」

 

「お邪魔しています」

 

 どうやら二人とはかなり顔馴染みらしい。

 

 そして雪穂の視線が俺に止まる。

 

「……その人は?」

 

「水瀬君!私たちの友達!」

 

「南さんと同じクラスの水瀬拓海です。初めまして」

 

「高坂雪穂です」

 

 互いに軽く頭を下げる。

 

「この前話したでしょ? 雪穂がやってたゲーム、水瀬君も気になってるんだって」

 

「ああ、あれ?」

 

「友達に勧められてるんだ」

 

「面白いですよ。慣れればそんなに難しくないし」

 

「佐藤も同じこと言ってたな」

 

「佐藤?」

 

「クラスの友達」

 

「ふーん」

 

 そこで一度会話が途切れる。

 

 初対面なのだから、これくらいでいい。

 

「雪穂もほむまん食べる?」

 

「あとでいい」

 

「美味しいのに」

 

「毎日見てるし」

 

「毎日見てても美味しいよ!」

 

「それは知ってる」

 

 雪穂が呆れたように返す。

 

「じゃ、私宿題あるから」

 

「え、もう行くの?」

 

「うん」

 

「真面目だね」

 

「お姉ちゃんと違って」

 

「雪穂!?」

 

「じゃあね」

 

 雪穂はさっさと部屋を出ていった。

 

 残された高坂さんだけが不満そうだ。

 

「もう、雪穂ってば!」

 

「でも高坂さんも宿題はやってるでしょ?」

 

「やってるよ!」

 

「穂乃果。昨日の数学は?」

 

「……」

 

「やってないんだ」

 

「皆、帰ったらやるもん!」

 

「必ずですよ」

 

「海未ちゃんはお母さんみたい!」

 

「誰のせいですか!」

 

 また笑いが起きた。

 

 ◇

 

 ほむまんを食べ終えたあとは、高坂さんの部屋へ移動した。

 

「ここが私の部屋!」

 

「お邪魔します」

 

「どうぞどうぞ!」

 

 南さんと園田さんは何度も来ているらしく、特に珍しがることなく入っていく。

 

 俺だけが部屋の中を何となく見回していると、南さんに気づかれた。

 

「水瀬君、またキョロキョロしてる」

 

「初めて来た友達の部屋って気にならない?」

 

「そういうもの?」

 

「俺はね」

 

「じゃあ好きなだけ見ていいよ!」

 

「勝手に引き出し開けたりしても?」

 

「それは駄目!」

 

「しないよ」

 

「もう!」

 

 高坂さんが頬を膨らませ、南さんが笑う。

 

 それからは、特に何をするでもなく四人で過ごした。

 

 学校の話をしたり、最近見たテレビの話をしたり。俺が席替えをしてから佐藤と話す機会が増えたことを話すと、高坂さんが興味津々で聞いてくる。

 

「この前、放課後にゲーセンも行ったよ」

 

「いいなぁ。何したの?」

 

「普通にゲーム」

 

「穂乃果も今度行きたい!」

 

「穂乃果、その前に昨日の数学があります」

 

「もうその話はいいじゃん!」

 

「よくありません」

 

「海未ちゃん!」

 

 そんなやり取りから、いつの間にか昔の話になった。

 

「そういえば、ことりちゃんって小さいころ――」

 

「穂乃果ちゃん?」

 

 高坂さんの言葉を、南さんが笑顔で遮る。

 

「な、何?」

 

「何を言おうとしたのかな?」

 

「……何でもないです」

 

「気になるな」

 

「水瀬君も聞かなくていいの!」

 

「じゃあ代わりに穂乃果の昔の話をしましょう」

 

「なんでそうなるの!?」

 

「公平でしょう」

 

「海未ちゃんまで!」

 

 三人の昔話を聞いていると、知らない話が次から次へと出てくる。

 

 俺と出会う前から、この三人には積み重ねてきた時間がある。そこへ無理に入り込む必要はない。ただ、こうして話してくれることが嬉しかった。

 

 ◇

 

「穂乃果ー。そろそろお店手伝って」

 

 一階からお母さんの声が聞こえた。

 

「はーい!ごめん、ちょっと行ってくるね」

 

「うん」

 

 高坂さんが勢いよく部屋を飛び出していく。

 

「走らない!」

 

「はーい!」

 

 直後に注意され、階段を下りる足音が急にゆっくりになった。

 

「……いつもあんな感じ?」

 

「うん」

 

「昔から変わりませんね」

 

 南さんと園田さんの返事がほとんど同時だった。

 

 少しして俺たちも一階へ降りる。

 

 店先では、高坂さんがお母さんに言われながら商品を整えていた。途中で客が入ってくると、すぐにそちらへ顔を向ける。

 

「いらっしゃいませ!」

 

 元気なのは学校と変わらない。

 

 でも、ここではちゃんと穂むらの娘として、その場所に馴染んでいる。

 

 俺が店番をしているところを南さんたちが初めて見たときも、こんな感じだったのだろうか。

 

「水瀬君?」

 

「ん?」

 

「穂乃果ちゃん見てた?」

 

「うん。ちゃんと手伝ってるなと思って」

 

「ちゃんとって……」

 

 南さんが笑う。

 

「でも、穂乃果ちゃんらしいでしょ?」

 

「うん」

 

 それは何となく分かった。

 

 ◇

 

 夕方。

 

「今日はありがとうございました」

 

 帰る前に、高坂さんのお母さんへ頭を下げる。

 

「こちらこそ。また遊びに来てね」

 

「はい」

 

「水瀬君!」

 

 高坂さんが奥から小さな包みを持って駆け寄ってきた。

 

「これ!」

 

「何?」

 

「ほむまん!」

 

「また?」

 

「お土産だよ!」

 

 高坂さんのお母さんを見ると、笑いながら頷いてくれる。

 

「ご家族でどうぞ」

 

「ありがとうございます。母さんたちも喜ぶと思います」

 

「ちゃんと『穂むら名物』って言ってね!」

 

「分かったよ」

 

「『ほむまん』も!」

 

「そこも?」

 

「大事!」

 

「何が大事なのか分からないけど、伝えとく」

 

「よし!」

 

 高坂さんは満足そうに頷いた。

 

「じゃあ、また学校で!」

 

「うん。また学校で」

 

 南さんと園田さんも挨拶を済ませ、三人で穂むらを後にした。

 

 ◇

 

 帰り道。

 

 俺の手には、ほむまんの入った包みがある。

 

 今日は学校では見られない高坂さんを、いくつも見た。

 

 母親に店の手伝いを頼まれて、妹には遠慮なくからかわれて、それでも自分の家の饅頭を褒められれば嬉しそうに笑う。

 

 前世から知っている高坂穂乃果と、大きく違うわけじゃない。

 

 それでも、知識として知っているのと、実際に友達として知っていくのでは全然違った。

 

「水瀬君」

 

「ん?」

 

 隣を歩いていた南さんがこちらを見る。

 

「今日、楽しかった?」

 

「うん。楽しかったよ」

 

「よかった」

 

「ほむまんも美味しかったし」

 

「ふふっ。それ穂乃果ちゃんに言ったら、また喜ぶよ」

 

「もう十分伝えたよ」

 

「それもそっか」

 

 南さんが楽しそうに笑う。

 

 俺も手元の包みを見る。

 

 穂むらまんじゅう。

 

 略して、ほむまん。

 

 名前も、存在も、前から知っていた。

 

 でも、その味を知ったのは今日が初めてだ。

 

 たぶん、これからもそういうことが増えていく。

 

 知っていたはずの人たちの、知らなかったところを。

 

 俺は少しずつ知っていくのだろう。




今日はここまで。

では、また∠( ゚д゚)
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