続き書けたで候。
では、どうぞ∠( ゚д゚)/
月曜日。
「水瀬、昨日のやつ見た?」
朝、席に着いて教科書を机へ入れていると、前の席から佐藤が振り返った。
「昨日のやつって?」
「ドラマだよ。先週話しただろ」
「ああ。見た見た」
「最後ヤバくなかった?」
「俺は途中から怪しいと思ってたけど」
「嘘つけ。絶対分かってなかっただろ」
「いや、あの先生が出てきたあたりで少し」
「後半じゃねえか」
「分かったことには変わらない」
「それで推理した気になるなよ」
佐藤が笑う。
月曜日の朝は、大体こんな感じだ。
休みの間に見たテレビの話だったり、漫画の話だったり。この前一緒に行ったゲームセンターの話になることもある。
「そういや、今度あのゲームやろうぜ」
「格ゲー?」
「それ。水瀬、弱かったし」
「初めてだったんだから仕方ないだろ」
「次も負けたら?」
「ジュース一本」
「言ったな?」
「そっちが負けてもだからな」
「余裕」
「その台詞覚えとく」
話していると、教室の前の扉から南さんが入ってきた。
「おはよう、水瀬君。佐藤君」
「おはよう」
「おはよ、南」
南さんは自分の席へ向かおうとして、途中で足を止めた。
「あ、水瀬君」
「ん?」
「昨日ね、あれの続きを少し考えてみたの」
「あれ?」
「この前話してた服」
「ああ」
「あとで見てもらってもいい?」
「いいよ」
「ありがとう」
南さんは嬉しそうに笑って、自分の席へ向かっていった。
その後ろ姿を見送っていると、佐藤がこちらを向く。
「服?」
「南さん、服作るの好きだから」
「へえ。水瀬んちも服屋だっけ」
「洋装店ね」
「何が違うんだ?」
「説明すると長い」
「じゃあいいや」
「聞いといてそれ?」
そんなことを話しているうちに先生が教室へ入ってきた。
◇
昼休み。
「水瀬、食おうぜ」
「うん」
今日は佐藤と、何人かの男子で机を囲んだ。
話題は途中から、次の体育で何をするかに移っていた。
「サッカーがいい」
「俺バスケ」
「水瀬は?」
「どっちでも」
「一番つまんねえ答え!」
「じゃあ卓球」
「選択肢にねえよ」
「だったら聞くなよ」
くだらない話をしながら弁当を食べる。
ふと教室の反対側を見ると、南さんも女子数人と一緒に昼を食べていた。
目が合う。
南さんが小さく手を振った。
俺も軽く手を上げて返す。
「水瀬、聞いてる?」
「聞いてるよ」
「じゃあ今何の話?」
「体育」
「その前」
「知らん」
「聞いてねえじゃん!」
「ごめんごめん」
笑いながら、また男子の話に戻る。
南さんと同じクラスだからといって、ずっと一緒にいるわけじゃない。
俺には俺の友達がいるし、南さんには南さんの友達がいる。
でも、廊下ですれ違えば話すし、帰る時間が同じなら一緒に帰る。
それくらいが、今はちょうどよかった。
◇
「水瀬君」
放課後。
帰り支度をしていると、南さんがノートを抱えてやってきた。
「朝言ってたやつ?」
「うん。ちょっとだけいい?」
「いいよ」
開かれたノートには、服の絵が描かれていた。
以前よりも細かい。
全体の形だけではなく、袖や襟、使いたい布についても横に小さく書き込まれている。
「ワンピース?」
「うん。まだ作るって決めたわけじゃないんだけど……こういうの、可愛いかなって」
「いいんじゃない?」
「ほんと?」
「ただ、これだと袖がちょっと難しいかも」
「ここ?」
南さんが指差す。
「うん。この形にしたいなら、身頃とどう繋ぐか考えないと。あと、この布だと絵みたいにふわっとしないと思う」
「じゃあ、もう少し薄い方がいい?」
「形を出したいならね。ただ薄すぎても縫いにくいから――」
そこまで話したところで、横から声が飛んできた。
「二人とも、まだ帰らないの?」
高坂さんだった。
その隣には園田さんもいる。
「穂乃果ちゃん」
「何見てるの?」
「南さんが考えた服」
「見たい!」
高坂さんがすぐ横へ来る。
「わあ、可愛い!」
「まだ考えてるだけだよ?」
「でも可愛いよ!」
「ありがとう」
南さんが少し照れたように笑う。
園田さんもノートを覗き込んだ。
「以前作ったものより、かなり複雑そうですね」
「そうなんだ。だから水瀬君に聞いてたの」
「これを作るのですか?」
「まだ分からないけど、いつか作れたらいいなって」
南さんが自分の描いた服を見る。
俺ももう一度ノートを見た。
「いきなり全部作るんじゃなくて、一回小さいところから試してみてもいいかもね」
「小さいところ?」
「袖だけ練習するとか。余ってる布ならうちにもあるし」
「あ、それいいかも」
「じゃあ今度――」
「あっ!」
突然、高坂さんが声を上げた。
「何?」
「水瀬君、この前のほむまん!」
「ああ」
「お家の人、食べた?」
「食べたよ」
「どうだった!?」
「美味しいって」
「ほんと!?」
ぱっと顔が明るくなる。
「母さんが、今度近くに行ったら店にも寄ってみたいって言ってた」
「やった!」
「穂乃果が作ったわけではないでしょう」
「でも嬉しいんだもん!」
「それはこの前聞いた」
「何回でも嬉しいよ!」
「そういうもんか」
「そういうもの!」
高坂さんは満足そうに頷いた。
◇
四人で校門を出たものの、途中で園田さんが足を止めた。
「私は今日は部活がありますので」
「あ、そっか」
「海未ちゃん頑張ってね!」
「はい。では、また明日」
「またね」
「じゃあね、園田さん」
園田さんが弓道場の方へ向かっていく。
残った三人でしばらく歩いていると、今度は高坂さんが「あっ」と声を上げた。
「私、頼まれてたんだった!」
「何を?」
「帰りに買い物してきてって、お母さんに」
「忘れてたの?」
「今思い出したからセーフ!」
「セーフなのかな」
「家に帰ってから思い出すよりはいいんじゃない?」
南さんが笑う。
「でしょ? じゃあ私こっちだから!」
「うん。また明日」
「またね!」
高坂さんが手を振って走っていく。
「走ると危ないよー!」
「分かってるー!」
遠くから返事が聞こえた。
「……絶対分かってないよね」
「穂乃果ちゃんだから」
それで説明がついてしまうあたり、付き合いの長さを感じる。
◇
気づけば、帰り道は南さんと二人になっていた。
「水瀬君、今日はお店?」
「うん。帰ったら少し手伝うよ」
「そっか」
「南さんは?」
「今日は特に何もないかな」
「じゃあゆっくりできるね」
「うん」
しばらく並んで歩く。
以前なら、南さんと二人きりになると少しだけ意識していた。
前世で好きだった女の子が隣を歩いている。
そんなことを考えていた時期もある。
今は、それより先に普通の会話が出てくる。
「さっきの服、本当に作るの?」
「作ってみたいけど……難しい?」
「今すぐ一人で全部は難しいと思う」
「やっぱり?」
「でも、練習すればできるよ」
「水瀬君、手伝ってくれる?」
「もちろん」
「ほんと?」
「その代わり、俺が全部作るのはなしね」
「分かってるよ」
南さんが笑う。
「自分で作りたいから」
「なら大丈夫」
「でも、分からないところは教えてね?」
「そこは任せて」
「水瀬先生」
「先生じゃないって」
「ふふっ」
前にも似たようなことを言われた気がする。
そんな話をしながら歩いていると、南さんがふと思い出したように口を開いた。
「そういえば、お母さんがね」
「うん」
「水瀬君のこと聞いてきたの」
「俺?」
「うん。この前、お店に行った話をしたから」
「何て?」
「服屋さんの男の子と仲良くなったって」
「それだけ?」
「それだけだよ?」
「ならいいけど」
「何を心配してるの?」
「いや、別に」
南さんは少し考えてから、楽しそうに笑った。
「お母さん、水瀬君のお店にも興味あるみたい」
「へえ」
「お洋服好きだから」
「じゃあ、今度来てもらえばいいよ」
「うん。そう言っておくね」
そこで話は一度終わった。
けれど数歩進んだところで、南さんがもう一度口を開く。
「……あのね、水瀬君」
「何?」
「今度、うちにも来る?」
「南さんの家?」
「うん」
少しだけ意外だった。
「この前、穂乃果ちゃんの家に行ったでしょ?」
「行ったね」
「それで……水瀬君、ことりのお家には来たことないなって思って」
「そりゃないでしょ」
「そうなんだけど」
南さんが少しだけ困ったように笑う。
「穂乃果ちゃんと海未ちゃんは何回も来てるし。今度みんなで遊ばない?」
「いいよ」
「ほんと?」
「南さんはうちに何回も来てるんだし。俺だけ駄目って言われたら困るけど」
「そんなこと言わないよ」
「じゃあお邪魔しようかな」
「うん!」
南さんの表情が明るくなる。
「穂乃果ちゃんと海未ちゃんにも聞いてみるね」
「了解」
それ以上、その話を特別なものにはしなかった。
友達の家へ遊びに行く。
この前は高坂さんの家で、今度は南さんの家。
ただそれだけのことだ。
◇
「ただいま」
「おかえり」
家へ帰ると、店の奥から母さんの声が返ってきた。
「拓海、ちょうどよかった。これ二階に運んでくれる?」
「分かった」
鞄を置き、渡された箱を持ち上げる。
学校へ行って。
友達とくだらない話をして。
南さんと服の話をして。
高坂さんたちと帰って。
家に戻れば、店を手伝う。
特別なことなんて何もない。
でも最近、こういう日が少し楽しい。
「拓海?」
「何?」
「ぼーっとしてないで、それお願いね」
「今やるって」
箱を抱えて階段へ向かう。
明日もたぶん、今日とそんなに変わらない。
それでいい。
中学生なんだから。
毎日何か大きな出来事が起こる方がおかしい。
今はまだ、こんな日々を重ねていけばいいと思った。
また投稿しますー。
では、また∠( ゚д゚)