隣の席は南ことり   作:Gussan0

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どうもΣ(゚Д゚)

続き書けたで候。

では、どうぞ∠( ゚д゚)/


第十三話 海未の家

 七月に入った。

 

 ついこの間まで雨の日が続いていたかと思えば、最近は雲の切れ間から強い日差しが差し込むようになった。梅雨明けはまだ先らしいが、夏が近づいていることは嫌でも感じられる。

 

 通学路の街路樹は青々と葉を茂らせ、朝から蝉の声が聞こえる日もある。水瀬洋装店でも、店先に並ぶ服はすっかり夏物が中心になっていた。

 

 学校へ着くころには、額にうっすらと汗が浮かんでいる。

 

「水瀬、おはよー」

 

「おはよう、佐藤」

 

 教室に入ると、前の席に座っていた佐藤が下敷きで顔を扇いでいた。

 

「今日も暑いなあ」

 

「蒸してるから余計にね」

 

「早く夏休みになんねえかな」

 

「その前に期末テストがあるけど」

 

「……言うなよ」

 

 佐藤が嫌そうな顔をする。

 

「せっかく楽しいこと考えてたのに」

 

「考えないようにしても、テストはなくならないよ」

 

「分かってるって!」

 

 そう言いながらも、佐藤は机に突っ伏した。

 

 俺は苦笑しながら鞄を置く。

 

 期末テスト。

 

 夏休みが近づいてきたのは嬉しいけど、その前に越えなければならないものがある。

 

 中間テストの結果は悪くなかったものの、数学には少し不安が残っていた。

 

 今回も、ちゃんと勉強しておかないとな。

 

 ◇

 

 昼休み。

 

「期末テスト、どうしよう……」

 

 高坂さんが弁当を食べながら、机に突っ伏した。

 

 今日は高坂さん、南さん、園田さんと一緒に昼食を取っている。

 

「穂乃果、まだ一週間以上ありますよ」

 

「でも、範囲広いんだもん!」

 

「だからこそ、今から勉強するんです」

 

「海未ちゃんはもう始めてるの?」

 

「当然です」

 

「うぅ……」

 

 高坂さんが情けない声を漏らす。

 

 その様子に南さんがくすくす笑った。

 

「ことりも、そろそろ復習しないとなあ」

 

「南さんは何か苦手な教科あるの?」

 

「うーん……数学かな。文章問題がちょっと苦手で」

 

「ああ、分かる」

 

「水瀬君も?」

 

「うん。計算だけならまだいいんだけど、問題文が長いと途中で分からなくなることがあって」

 

「そうなんだ」

 

 南さんが少し意外そうな顔をした。

 

「水瀬君って、勉強も得意なのかと思ってた」

 

「そんなことないよ。普通だって」

 

「ふふっ、そっか」

 

 すると、高坂さんが勢いよく顔を上げた。

 

「ねえねえ! だったら、みんなで勉強しない?」

 

「勉強会ですか?」

 

 園田さんが聞き返す。

 

「うん! 一人でやるより、みんなでやった方が楽しいし!」

 

「楽しいかどうかはともかく、分からないところを教え合うのはいいと思います」

 

「でしょ!?」

 

「ただし、ちゃんと勉強することが条件です」

 

「分かってるよー!」

 

 高坂さんが頬を膨らませる。

 

 南さんは楽しそうに笑いながら、俺を見た。

 

「水瀬君も一緒にどう?」

 

「俺も?」

 

「うん。数学、分からないところがあったら一緒に考えられるし」

 

「それなら、参加しようかな」

 

「やった!」

 

 高坂さんが嬉しそうに声を上げる。

 

「じゃあ、どこでやる?」

 

「それなら、私の家はどうでしょう」

 

 園田さんが提案した。

 

「道具を広げられる部屋もありますし、落ち着いて勉強できると思います」

 

「海未ちゃんのお家!」

 

「穂乃果、遊びに来るわけではありませんからね」

 

「分かってるってば!」

 

 そんなやり取りを経て、土曜日に園田さんの家で勉強会をすることになった。

 

 ◇

 

 土曜日の午後。

 

 朝から降っていた雨は、昼前には上がっていた。

 

 ただ、雲はまだ厚く、空気も湿っている。家を出て少し歩いただけで、背中にじんわりと汗が滲んできた。

 

 待ち合わせ場所に着くと、高坂さんと南さんが先に来ていた。

 

「あっ、水瀬君!」

 

「こんにちは」

 

「こんにちは、高坂さん、南さん」

 

「今日は暑いねえ」

 

 高坂さんが手で顔を扇ぐ。

 

「うん。雨が止んだのはよかったけど」

 

「ことり、髪が湿気でまとまらなくて大変だったよ」

 

 南さんが困ったように笑う。

 

「そうなの? いつもと変わらない気がするけど」

 

「えへへ、そうかな?」

 

 そんな話をしていると、園田さんがやってきた。

 

「皆さん、お待たせしました」

 

「海未ちゃん!」

 

「こんにちは、園田さん」

 

「こんにちは。では、行きましょうか」

 

 俺たちは園田さんの案内で歩き始めた。

 

 ◇

 

「こちらです」

 

 園田さんが足を止めた。

 

 目の前には、落ち着いた佇まいの和風の家があった。

 

「へえ……立派な家だね」

 

「そうでしょうか?」

 

「うん。うちとは雰囲気が全然違うから」

 

 水瀬洋装店も古くからある建物だけど、こちらはまた違った趣がある。

 

「海未ちゃんのお家、久しぶりだね!」

 

「穂乃果、先月も来たでしょう」

 

「あれ? そうだっけ?」

 

「来ましたよ。ことりも一緒に」

 

「えへへ……」

 

 高坂さんが笑ってごまかす。

 

「じゃあ、入りましょう」

 

 園田さんが玄関を開けた。

 

「ただいま戻りました」

 

 すると、奥から足音が聞こえてきた。

 

「おかえりなさい、海未」

 

 姿を現したのは、落ち着いた雰囲気の女性だった。

 

「お母さん。ただいま戻りました」

 

「あら、穂乃果ちゃんにことりちゃんも。いらっしゃい」

 

「こんにちは!」

 

「お邪魔します」

 

 高坂さんと南さんが慣れた様子で挨拶する。

 

 どうやら、園田さんのお母さんとも顔馴染みらしい。

 

「それで、こちらが……」

 

 園田さんが俺へ視線を向けた。

 

「水瀬拓海君です。ことりと同じクラスで、私たちとも仲良くしてくださっているんです」

 

「初めまして。水瀬拓海です。今日はお邪魔します」

 

 頭を下げると、お母さんは柔らかく微笑んだ。

 

「初めまして。海未の母です。どうぞゆっくりしていってくださいね」

 

「ありがとうございます」

 

「海未、お部屋の準備はできているの?」

 

「はい。先ほど済ませてあります」

 

「そう。では、皆さんをご案内してあげて」

 

「はい」

 

 園田さんに促され、俺たちは靴を脱いで家へ上がった。

 

 ◇

 

 案内されたのは、畳の敷かれた部屋だった。

 

 低い机が置かれ、窓の向こうには手入れされた庭が見える。

 

 雨に濡れた葉が、時折吹く風に揺れていた。

 

「ここで勉強しましょう」

 

「わあ、涼しい!」

 

 高坂さんが嬉しそうに声を上げる。

 

「穂乃果、まだ何もしていませんよ」

 

「だって、外が暑かったんだもん」

 

「それは分かりますが……」

 

 園田さんが小さく息をつく。

 

 俺も荷物を置き、机の前に座った。

 

 窓から入ってくる風は思ったより涼しく、外を歩いていたときの暑さが少し和らいだ。

 

「じゃあ、始めましょうか」

 

 園田さんの言葉に、俺たちは教科書とノートを広げた。

 

 ◇

 

 最初に取りかかったのは数学だった。

 

「うーん……」

 

 俺は問題集を見つめたまま、鉛筆を止める。

 

 計算そのものは分かる。

 

 でも、文章問題になると、どの式を立てればいいのか迷ってしまう。

 

「水瀬君、どうかしましたか?」

 

 隣に座っていた園田さんが声をかけてくれた。

 

「ああ、ここの問題がちょっと分からなくて」

 

「どれですか?」

 

 問題集を見せると、園田さんはしばらく文章を読んだ。

 

「まず、分かっている数字を整理してみましょう」

 

「うん」

 

「この問題では、最初の数量と増えた分が分かっていますよね」

 

「そうだね」

 

「でしたら、求めたいものを文字に置き換えて考えるといいと思います」

 

「ああ、なるほど」

 

 園田さんの説明を聞きながら、ノートに式を書いていく。

 

 さっきまで複雑に見えていた問題が、少しずつ整理されていった。

 

「……できた」

 

「答えは合っていますか?」

 

「うん。合ってる」

 

「よかったです」

 

「ありがとう、園田さん。助かったよ」

 

「いえ。お役に立てたなら何よりです」

 

 園田さんが微笑む。

 

 普段は高坂さんや南さんと一緒にいることが多いから、こうして園田さんと落ち着いて話すのは少し新鮮だった。

 

「海未ちゃーん!」

 

 そのとき、反対側から高坂さんの声が響いた。

 

「今度は何ですか、穂乃果」

 

「ここの問題が分かんない!」

 

「……穂乃果。それはさっき説明したところでしょう」

 

「えっ、そうだっけ?」

 

「そうです!」

 

 園田さんが立ち上がる。

 

 南さんは隣でくすくす笑っていた。

 

「穂乃果ちゃん、さっきは分かったって言ってたのに」

 

「そのときは分かったんだよ!」

 

「じゃあ、もう一回一緒にやってみよっか」

 

「ことりちゃーん!」

 

 高坂さんが南さんに助けを求める。

 

 俺はその様子を眺めながら、思わず笑ってしまった。

 

 ◇

 

 一時間ほど勉強したところで、園田さんが声をかけた。

 

「そろそろ休憩にしましょうか」

 

「やったー!」

 

 高坂さんが勢いよく顔を上げる。

 

「穂乃果、まだ終わりではありませんよ」

 

「分かってるよー」

 

 俺たちは教科書を閉じ、少し休むことにした。

 

 冷たい麦茶を飲みながら休んでいると、廊下から足音が聞こえてきた。

 

「海未、お客さんが来ているそうだね」

 

「あ、お父さん」

 

 部屋の入口に姿を見せたのは、落ち着いた雰囲気の男性だった。

 

「お久しぶりです!」

 

「こんにちは」

 

 高坂さんと南さんが挨拶する。

 

「やあ、穂乃果ちゃん、ことりちゃん。いらっしゃい」

 

 お父さんは二人に笑いかけると、俺へ目を向けた。

 

「こちらは初めて見る子だね」

 

「はい。ことりと同じクラスの水瀬拓海君です」

 

「初めまして。水瀬拓海です」

 

「初めまして。海未の父です。今日は勉強会だそうだね」

 

「はい。園田さんに数学を教えてもらっていました」

 

「そうか。海未、人に教えるのも勉強になる。しっかり頑張りなさい」

 

「はい、お父さん」

 

 園田さんが背筋を伸ばして答える。

 

 その様子に、お父さんは小さく頷いた。

 

「それでは、邪魔をしてはいけないね。皆さん、ゆっくりしていってください」

 

「ありがとうございます」

 

 お父さんはそう言い残し、部屋を出ていった。

 

 俺はその背中を見送りながら、園田さんを見る。

 

「優しそうなお父さんだね」

 

「ええ。礼儀には少し厳しいところもありますが、いつも私のことを気にかけてくれています」

 

「そうなんだ」

 

「ふふっ、海未ちゃんのお父さん、昔から変わらないね」

 

 南さんが笑うと、園田さんも小さく微笑んだ。

 

 ◇

 

 休憩のあとも勉強を続けた。

 

 今度は英語と理科。

 

 英語は比較的順調だったけど、理科では覚えることが多くて少し苦労した。

 

「水瀬君、これ分かる?」

 

 南さんが問題集を見せてくる。

 

「ああ、そこなら分かるよ」

 

「ほんと? 教えてほしいな」

 

「いいよ」

 

 俺はノートに簡単な図を書きながら説明した。

 

「ここがこうなってるから、答えはこっちになるんだと思う」

 

「あっ、そっか!」

 

「分かった?」

 

「うん。ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 さっきは園田さんに教わったし、今度は俺が教える番だ。

 

 こうして分からないところを聞き合えるのは、勉強会のいいところかもしれない。

 

 その横では、高坂さんが英単語を覚えようと必死になっていた。

 

「うぅ……覚えられない……」

 

「穂乃果、声に出して読んでみてはどうですか?」

 

「もう何回も読んだよー」

 

「では、書いて覚えましょう」

 

「書くのもやった!」

 

「それなら、もう少し続けてみましょう」

 

「海未ちゃん、厳しい!」

 

「まだ始めて一時間も経っていませんよ!」

 

 相変わらず賑やかだ。

 

 でも、不思議と勉強の邪魔にはならなかった。

 

 ◇

 

 夕方。

 

「ふぅ……今日は頑張った!」

 

 高坂さんが机に突っ伏す。

 

「穂乃果、最後までよく頑張りましたね」

 

 園田さんが微笑む。

 

「えへへ。海未ちゃんに褒められた!」

 

「ですが、家でも復習してくださいね」

 

「……はーい」

 

 高坂さんの返事が少し小さくなる。

 

 俺もノートを閉じた。

 

 今日だけで、苦手だった数学の問題がいくつか解けるようになった。

 

 これなら、期末テストも少しは安心できそうだ。

 

「園田さん、今日はありがとう」

 

「いえ。こちらこそ、皆さんと勉強できてよかったです」

 

「俺も助かったよ。数学、分かりやすかったし」

 

「それならよかったです」

 

 園田さんが穏やかに笑った。

 

 ◇

 

 帰り際。

 

「今日はお邪魔しました」

 

「ありがとうございました!」

 

「またね、海未ちゃん」

 

 玄関で挨拶すると、園田さんが見送ってくれた。

 

「皆さん、気をつけて帰ってくださいね」

 

「海未ちゃん、また学校で!」

 

「ええ。また月曜日に」

 

 高坂さんと南さんが手を振る。

 

 俺も軽く頭を下げた。

 

「また学校で、園田さん」

 

「はい。水瀬君も」

 

 帰り道。

 

 雨はすっかり上がり、雲の切れ間から夕日が差し込んでいた。

 

 濡れた道路が、橙色の光を反射している。

 

「ねえねえ、テスト終わったら何しようか?」

 

 高坂さんが楽しそうに声を上げた。

 

「もう終わったあとの話?」

 

 俺が聞くと、高坂さんは胸を張る。

 

「だって、夏休みが近いんだよ!」

 

「その前にテストですよ、って海未ちゃんに言われそうだね」

 

 南さんが笑う。

 

「うぅ、言われそう……」

 

「でも、楽しみを考えておくのはいいんじゃない?」

 

「でしょ!?」

 

 高坂さんが嬉しそうに笑った。

 

 夏休み。

 

 その言葉を聞くだけで、少し気持ちが浮き立つ。

 

 まだ期末テストは残っているけれど、それが終われば長い休みが待っている。

 

 水瀬洋装店の手伝いもあるだろうし、佐藤とまたゲームセンターへ行くのもいい。

 

 もちろん、高坂さんたちと遊ぶ機会もあるかもしれない。

 

 そんなことを考えながら、俺たちは夕暮れの道を歩いていった。

 




また投稿しますー。

では、また∠( ゚д゚)
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