続き書けたで候。
では、どうぞ∠( ゚д゚)/
週が明けて、月曜日。
「おはよう、水瀬君」
「おはよう、南さん」
教室へ入ってきた南さんと、いつものように挨拶を交わす。
金曜日までなら、これで終わっていた。
けれど今日は、鞄を机へ置いた南さんがそのまま俺の方を向いた。
「この前はありがとう」
「この前?」
「お店」
「ああ」
一瞬なんのことかと思った。
「こっちこそ。母さんも楽しそうだったよ」
「ほんと?」
「うん。南さんがあんなに興味持ってくれたから、嬉しかったんじゃない?」
「ことりも楽しかったよ♪」
そう言って、南さんが鞄の中を探り始める。
「それでね」
「うん?」
「これ」
取り出したのは、小さな布の袋だった。
見覚えがある。
「使ってるんだ」
「うん♪」
休日、うちの店で作ったものだ。
余っていた端切れを使って作っただけの簡単なものだけど、南さんは嬉しそうに見せてくる。
「何入れてるの?」
「まだ何も」
「使ってないじゃん」
「今日から使うの」
「ああ、そういうこと」
「何入れようかなぁ」
「それは俺に聞かれても」
「水瀬君だったら何入れる?」
「俺だったら?」
改めて袋を見る。
大きさ的には、文房具を入れるには少し小さい。
「……飴とか?」
「お菓子?」
「それくらいしか思いつかない」
「じゃあ飴入れにしようかな♪」
「俺の一言で決めていいの?」
「いいの」
「そっか」
南さんが袋を大事そうに鞄へ戻す。
あれだけ喜んでもらえると、端切れを使っただけとはいえ、なんだかこっちまで嬉しくなる。
「それとね」
「まだあるの?」
「あるよ」
南さんが少し身を乗り出す。
「昨日、お家に帰ってからお母さんにも話したの」
「うちの店のこと?」
「うん。生地がいっぱいあったとか、ミシンがすごかったとか」
「そんなに話したんだ」
「あと、水瀬君がお洋服のお直ししてたことも」
「あれ、ボタン付けただけだよ?」
「でも綺麗だったよ」
「南さん、褒めすぎじゃない?」
「ほんとのことだもん」
「……そっか」
やっぱり真正面から言われると困る。
そんな俺を見て、南さんは楽しそうに笑っていた。
◇
午前中の授業が終わり、昼休みになった。
弁当を取り出そうとしたところで、南さんが席を立つ。
「水瀬君」
「ん?」
「今日、お昼どうする?」
「弁当だけど」
「そうじゃなくて」
南さんが苦笑する。
「穂乃果ちゃんと海未ちゃんと一緒に食べるんだけど、水瀬君も来る?」
「俺も?」
「うん」
予想していなかった誘いに、思わず聞き返した。
「なんで?」
「なんでって……」
南さんが少し困った顔をする。
「一緒に食べたら駄目?」
「いや、駄目じゃないけど」
高坂さんと園田さんとは、入学初日に紹介されて以来、廊下で会えば挨拶をする程度だ。
別に仲が悪いわけではない。
そもそも、まだまともに話したことがほとんどない。
「邪魔じゃない?」
「大丈夫だよ。二人にも聞いてあるから」
「もう聞いたんだ」
「うん♪」
準備がいいな。
「じゃあ、行こうかな」
「うん」
弁当を持って立ち上がる。
南さんについて教室を出ながら、ふと考えた。
前世の俺が今の状況を見たら、どう思うだろう。
南ことりに昼飯へ誘われて、その先には高坂穂乃果と園田海未がいる。
たぶん大騒ぎする。
……最近こんなことばかり考えてる気がするな。
そろそろ慣れた方がいいのかもしれない。
◇
「ことりちゃん、こっちこっち!」
別の教室へ向かうと、廊下からでも分かる元気な声が聞こえてきた。
高坂さんだ。
「穂乃果、そんなに大声を出さなくてもことりには聞こえます」
「いいじゃん。ちゃんと来たんだから」
「そういう問題ではありません」
その隣には園田さん。
相変わらずだ。
「あっ、水瀬君も来た!」
「どうも」
「こんにちは、水瀬君」
「園田さんも」
「さあさあ、座ろう!」
「穂乃果、少し落ち着いてください」
「海未ちゃんは固いなぁ」
「誰のせいですか」
高坂さんと園田さんのやり取りを眺めていると、南さんが小さく笑う。
アニメで何度も見たような光景。
でも、実際に目の前でやられると少し違う。
園田さん、本当に大変そうだな。
「水瀬君、どうしたの?」
「いや。二人っていつもこんな感じなのかなって」
「うん。だいたいこんな感じ♪」
「ことり!?」
「間違ってないよ?」
「ほらー」
「穂乃果は得意げにならないでください」
……本当にいつもこうなのか。
四人で机を囲み、それぞれ弁当を広げる。
「そういえば水瀬君!」
「うん?」
「ことりちゃんから聞いたよ!」
高坂さんがいきなり身を乗り出してきた。
「何を?」
「お家が洋服屋さんなんでしょ?」
「ああ、それ」
「ことりちゃん、昨日すっごく楽しそうに話してたんだよ」
「穂乃果ちゃん」
南さんが少し恥ずかしそうに高坂さんを見る。
「いいじゃん、本当なんだから」
「でもぉ……」
「へえ」
俺は南さんを見る。
「そんなに?」
「……楽しかったのは本当だよ」
「ならよかったけど」
南さんが少しだけ視線を逸らす。
別に恥ずかしがるようなことでもないと思うんだけど。
「ことりは昔から服が好きですからね」
園田さんが弁当箱を開きながら言う。
「お店を見せてもらっただけではなく、自分でも何か作ったとか」
「これだよ♪」
待ってましたとばかりに、南さんが例の袋を取り出した。
「おおー!」
高坂さんが目を輝かせる。
「ことりちゃんが作ったの?」
「うん。水瀬君のお家で」
「すごい!」
「簡単なやつだよ?」
「でも可愛いよ!」
「ほんと?」
「うん!」
南さんが嬉しそうに笑う。
その横で園田さんも袋を見ていた。
「綺麗にできていますね」
「水瀬君が色々教えてくれたの」
「いや、俺はそんなに教えてないよ。南さん、普通に上手かったし」
「そうなの?」
「うん。家庭科でも俺と同じくらいだったし」
「水瀬君も上手なのですか?」
「家でやってるから、それなりには」
「へえー」
高坂さんが今度は俺を見る。
「じゃあ水瀬君、服も作れるの?」
「簡単なのなら」
「すごっ!」
「そんな大したものじゃないって」
「いやいや、中学生で服作れる人なんて、穂乃果の周りにはいないよ!」
「南さんがいるじゃん」
「ことりちゃんはまだ作れないでしょ?」
「これから作れるようになるもん」
「おっ、ことりちゃんやる気だ」
「うん♪」
南さんが頷く。
その顔を見て、休日にした約束を思い出した。
いつか自分で服を作ってみたい。
そのときは手伝ってほしい。
軽い会話の流れで交わした約束だったけれど、南さんはどうやら本気らしい。
「水瀬君」
「ん?」
「そのときはお願いしますね」
園田さんが妙に真面目な顔で言う。
「園田さんまで?」
「ことりが楽しみにしていますから」
「海未ちゃん?」
「違いますか?」
「違わないけど……」
南さんが少し困ったように笑う。
「まあ、俺で分かることなら」
「よかったね、ことりちゃん!」
「うん♪」
高坂さんは自分のことでもないのに嬉しそうだ。
そういうところは、本当に高坂穂乃果らしい。
――と。
そこまで考えて、少しだけ苦笑する。
まただ。
俺は何かあるたびに、前世の記憶と目の前の三人を比べている。
でも最近、その回数は少しずつ減ってきていた。
南さんは特にそうだ。
最初に名前を聞いたときは、南ことりが目の前にいるというだけで頭が真っ白になった。
今はこうして普通に隣で弁当を食べている。
「水瀬君?」
「ん?」
「卵焼き、ずっと箸で持ってるよ?」
「……ほんとだ」
「何してるの?」
「ちょっと考え事」
「また?」
「またって言わないでよ」
「ふふっ」
南さんが笑う。
その様子を見ていた高坂さんが首を傾げた。
「二人、仲良くなったね」
「え?」
俺と南さんの声が重なった。
「だって入学式の日より普通に話してるし」
「隣の席だから、話すこと多いんだよ」
「ね?」
俺が南さんを見る。
「うん。水瀬君、話しやすいし」
「……そっか」
さらっと言われた。
こっちはどう返せばいいんだ。
「水瀬君?」
「いや、なんでもない」
「またそれ言ってる」
「便利なんだよ、この言葉」
「そうなの?」
「たぶん」
「変なの」
南さんがまた笑う。
「なるほど」
園田さんが小さく頷いた。
「何が?」
「いえ。ことりが水瀬君のお話をよくしていた理由が分かった気がします」
「え?」
「海未ちゃん!」
今度は南さんが明らかに慌てた。
「どういうこと?」
「お店のことですよ」
園田さんは何でもないように答える。
「先日から、ことりが水瀬君のお家のお店について何度も話していましたから」
「ああ、そっち」
びっくりした。
「もう、海未ちゃん……」
「何かおかしなことを言いましたか?」
「言ってないけどぉ……」
「?」
園田さんは本当に分かっていないらしい。
高坂さんは卵焼きを食べながら、楽しそうに笑っている。
なんだろう。
この三人と一緒にいると、妙に賑やかだ。
でも。
嫌な感じはしなかった。
◇
それから何日か。
昼休みになると、時々四人で昼を食べるようになった。
毎日ではない。
俺には俺の友達がいるし、三人にも三人の時間がある。
それでも廊下で会えば話すことが増え、高坂さんから突然声をかけられることも増えた。
「水瀬君!」
「ん?」
「これ分かる?」
ある日の休み時間。
別のクラスからやって来た高坂さんが、いきなりノートを差し出してきた。
「……なんで俺?」
「ことりちゃんが水瀬君に聞けばいいって」
俺は隣を見る。
「南さん?」
「だって、この前の数学分かってたでしょ?」
「それだけで?」
「ことりより得意だから」
「比較対象が南さんだけなの?」
「水瀬君、お願いします!」
高坂さんが両手を合わせる。
「別にいいけど……」
「やった!」
「ただ俺もそこまで勉強得意じゃないからね」
「穂乃果より分かれば大丈夫!」
「基準低くない?」
「失礼な!」
「高坂さんが自分で言ったんじゃん」
隣で南さんが笑っている。
結局、問題を一つ説明したところで園田さんが現れた。
「穂乃果!」
「げっ」
「げっ、ではありません! 探しましたよ!」
「海未ちゃん、どうしたの?」
「次の授業で使うものを忘れたでしょう!」
「あ」
「まったく……」
園田さんが大きくため息をつく。
「すみません、水瀬君。穂乃果がお邪魔しました」
「別に大丈夫だよ」
「ほら穂乃果、戻りますよ」
「ちょっと待って! あと一問!」
「駄目です!」
「水瀬君、助けて!」
「俺に振られても困るよ」
「そんなぁ!」
高坂さんが園田さんに連れていかれる。
その背中を見送りながら、俺は思わず笑った。
「高坂さん、面白いね」
「でしょ?」
「南さんが得意げになるところ?」
「幼馴染だから♪」
「なるほど」
そういうものなのか。
南さんが高坂さんたちと長い付き合いなのは知っていた。
でも、こうして近くで見ていると、その関係が少し分かる。
高坂さんが走り出して。
園田さんが止めて。
南さんが笑いながら二人を見ている。
そんな三人。
俺はそこへ、ほんの少しだけ混ざるようになった。
◇
放課後。
「じゃあね、ことりちゃん!」
「また明日」
「うん。また明日ね♪」
昇降口で高坂さんと園田さんに別れを告げる。
「水瀬君もまたね!」
「また明日、高坂さん。園田さん」
「はい。また明日」
二人が歩いていくのを見送る。
俺も帰ろうとしたところで、
「あ、水瀬君」
「ん?」
南さんがまだ隣にいた。
「南さん、帰らないの?」
「帰るよ」
「じゃあ……」
「途中まで一緒に帰らない?」
「俺と?」
「うん。途中まで同じ方向でしょ?」
「そうだけど」
入学してから何度か帰る方向が同じなのは分かっていた。
今まではタイミングが合わなかっただけだ。
「いいよ」
「ほんと?」
「うん。帰ろうか」
「うん♪」
二人で校門を出る。
昼間より少し傾いた日差しが、道路へ長い影を作っていた。
「今日、穂乃果ちゃんがごめんね」
「勉強のこと?」
「うん」
「別にいいよ。一問教えただけだし」
「穂乃果ちゃん、昔からああいうところあるから」
「なんとなく分かってきた」
「ふふっ」
「園田さんも大変そうだね」
「海未ちゃんも昔からあんな感じだよ」
「しっかりしてるよね」
「うん。でも海未ちゃんもね、意外と――」
南さんが幼馴染二人の話をする。
俺はそれを聞きながら、時々相槌を打つ。
知っている話もあった。
知らない話もあった。
でも、わざわざ区別する必要はない気がした。
前世で知っていた三人と。
今、俺が知り始めている三人。
少しずつ後者の方が増えていけば、それでいい。
「あ」
しばらく歩いたところで、南さんが立ち止まった。
「ことり、こっちだから」
「そっか」
「水瀬君はまっすぐ?」
「うん」
「じゃあ、ここまでだね」
「そうだね」
「……」
南さんが少しだけ間を置く。
「水瀬君」
「ん?」
「また今度、お店行ってもいい?」
「いいよ。母さんも喜ぶと思うし」
「うん♪」
「今度は何か作ってみる?」
「いいの?」
「簡単なのなら」
「作りたい!」
「じゃあ考えといてよ。何作りたいか」
「分かった」
南さんが嬉しそうに頷く。
「じゃあ、また明日ね。水瀬君」
「うん。また明日」
「ばいばい♪」
「またね」
南さんが手を振って、俺とは別の道へ歩いていく。
俺も再び歩き出した。
入学して、まだそれほど経っていない。
最初はただ、隣の席に前世の推しがいた。
それだけだった。
でも今は。
朝になれば挨拶をして。
授業中に少し話して。
一緒に昼飯を食べることがあって。
帰る方向が同じなら、一緒に歩く。
少しずつ。
本当に少しずつ。
南さんが「前世の推し」ではなく、「今の俺の友達」になり始めていた。
また投稿します。
では、また∠( ゚д゚)