隣の席は南ことり   作:Gussan0

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どうもΣ(゚Д゚)

続き書けたで候。

では、どうぞ∠( ゚д゚)/


第四話 友達の友達

 週が明けて、月曜日。

 

「おはよう、水瀬君」

 

「おはよう、南さん」

 

 教室へ入ってきた南さんと、いつものように挨拶を交わす。

 

 金曜日までなら、これで終わっていた。

 

 けれど今日は、鞄を机へ置いた南さんがそのまま俺の方を向いた。

 

「この前はありがとう」

 

「この前?」

 

「お店」

 

「ああ」

 

 一瞬なんのことかと思った。

 

「こっちこそ。母さんも楽しそうだったよ」

 

「ほんと?」

 

「うん。南さんがあんなに興味持ってくれたから、嬉しかったんじゃない?」

 

「ことりも楽しかったよ♪」

 

 そう言って、南さんが鞄の中を探り始める。

 

「それでね」

 

「うん?」

 

「これ」

 

 取り出したのは、小さな布の袋だった。

 

 見覚えがある。

 

「使ってるんだ」

 

「うん♪」

 

 休日、うちの店で作ったものだ。

 

 余っていた端切れを使って作っただけの簡単なものだけど、南さんは嬉しそうに見せてくる。

 

「何入れてるの?」

 

「まだ何も」

 

「使ってないじゃん」

 

「今日から使うの」

 

「ああ、そういうこと」

 

「何入れようかなぁ」

 

「それは俺に聞かれても」

 

「水瀬君だったら何入れる?」

 

「俺だったら?」

 

 改めて袋を見る。

 

 大きさ的には、文房具を入れるには少し小さい。

 

「……飴とか?」

 

「お菓子?」

 

「それくらいしか思いつかない」

 

「じゃあ飴入れにしようかな♪」

 

「俺の一言で決めていいの?」

 

「いいの」

 

「そっか」

 

 南さんが袋を大事そうに鞄へ戻す。

 

 あれだけ喜んでもらえると、端切れを使っただけとはいえ、なんだかこっちまで嬉しくなる。

 

「それとね」

 

「まだあるの?」

 

「あるよ」

 

 南さんが少し身を乗り出す。

 

「昨日、お家に帰ってからお母さんにも話したの」

 

「うちの店のこと?」

 

「うん。生地がいっぱいあったとか、ミシンがすごかったとか」

 

「そんなに話したんだ」

 

「あと、水瀬君がお洋服のお直ししてたことも」

 

「あれ、ボタン付けただけだよ?」

 

「でも綺麗だったよ」

 

「南さん、褒めすぎじゃない?」

 

「ほんとのことだもん」

 

「……そっか」

 

 やっぱり真正面から言われると困る。

 

 そんな俺を見て、南さんは楽しそうに笑っていた。

 

 ◇

 

 午前中の授業が終わり、昼休みになった。

 

 弁当を取り出そうとしたところで、南さんが席を立つ。

 

「水瀬君」

 

「ん?」

 

「今日、お昼どうする?」

 

「弁当だけど」

 

「そうじゃなくて」

 

 南さんが苦笑する。

 

「穂乃果ちゃんと海未ちゃんと一緒に食べるんだけど、水瀬君も来る?」

 

「俺も?」

 

「うん」

 

 予想していなかった誘いに、思わず聞き返した。

 

「なんで?」

 

「なんでって……」

 

 南さんが少し困った顔をする。

 

「一緒に食べたら駄目?」

 

「いや、駄目じゃないけど」

 

 高坂さんと園田さんとは、入学初日に紹介されて以来、廊下で会えば挨拶をする程度だ。

 

 別に仲が悪いわけではない。

 

 そもそも、まだまともに話したことがほとんどない。

 

「邪魔じゃない?」

 

「大丈夫だよ。二人にも聞いてあるから」

 

「もう聞いたんだ」

 

「うん♪」

 

 準備がいいな。

 

「じゃあ、行こうかな」

 

「うん」

 

 弁当を持って立ち上がる。

 

 南さんについて教室を出ながら、ふと考えた。

 

 前世の俺が今の状況を見たら、どう思うだろう。

 

 南ことりに昼飯へ誘われて、その先には高坂穂乃果と園田海未がいる。

 

 たぶん大騒ぎする。

 

 ……最近こんなことばかり考えてる気がするな。

 

 そろそろ慣れた方がいいのかもしれない。

 

 ◇

 

「ことりちゃん、こっちこっち!」

 

 別の教室へ向かうと、廊下からでも分かる元気な声が聞こえてきた。

 

 高坂さんだ。

 

「穂乃果、そんなに大声を出さなくてもことりには聞こえます」

 

「いいじゃん。ちゃんと来たんだから」

 

「そういう問題ではありません」

 

 その隣には園田さん。

 

 相変わらずだ。

 

「あっ、水瀬君も来た!」

 

「どうも」

 

「こんにちは、水瀬君」

 

「園田さんも」

 

「さあさあ、座ろう!」

 

「穂乃果、少し落ち着いてください」

 

「海未ちゃんは固いなぁ」

 

「誰のせいですか」

 

 高坂さんと園田さんのやり取りを眺めていると、南さんが小さく笑う。

 

 アニメで何度も見たような光景。

 

 でも、実際に目の前でやられると少し違う。

 

 園田さん、本当に大変そうだな。

 

「水瀬君、どうしたの?」

 

「いや。二人っていつもこんな感じなのかなって」

 

「うん。だいたいこんな感じ♪」

 

「ことり!?」

 

「間違ってないよ?」

 

「ほらー」

 

「穂乃果は得意げにならないでください」

 

 ……本当にいつもこうなのか。

 

 四人で机を囲み、それぞれ弁当を広げる。

 

「そういえば水瀬君!」

 

「うん?」

 

「ことりちゃんから聞いたよ!」

 

 高坂さんがいきなり身を乗り出してきた。

 

「何を?」

 

「お家が洋服屋さんなんでしょ?」

 

「ああ、それ」

 

「ことりちゃん、昨日すっごく楽しそうに話してたんだよ」

 

「穂乃果ちゃん」

 

 南さんが少し恥ずかしそうに高坂さんを見る。

 

「いいじゃん、本当なんだから」

 

「でもぉ……」

 

「へえ」

 

 俺は南さんを見る。

 

「そんなに?」

 

「……楽しかったのは本当だよ」

 

「ならよかったけど」

 

 南さんが少しだけ視線を逸らす。

 

 別に恥ずかしがるようなことでもないと思うんだけど。

 

「ことりは昔から服が好きですからね」

 

 園田さんが弁当箱を開きながら言う。

 

「お店を見せてもらっただけではなく、自分でも何か作ったとか」

 

「これだよ♪」

 

 待ってましたとばかりに、南さんが例の袋を取り出した。

 

「おおー!」

 

 高坂さんが目を輝かせる。

 

「ことりちゃんが作ったの?」

 

「うん。水瀬君のお家で」

 

「すごい!」

 

「簡単なやつだよ?」

 

「でも可愛いよ!」

 

「ほんと?」

 

「うん!」

 

 南さんが嬉しそうに笑う。

 

 その横で園田さんも袋を見ていた。

 

「綺麗にできていますね」

 

「水瀬君が色々教えてくれたの」

 

「いや、俺はそんなに教えてないよ。南さん、普通に上手かったし」

 

「そうなの?」

 

「うん。家庭科でも俺と同じくらいだったし」

 

「水瀬君も上手なのですか?」

 

「家でやってるから、それなりには」

 

「へえー」

 

 高坂さんが今度は俺を見る。

 

「じゃあ水瀬君、服も作れるの?」

 

「簡単なのなら」

 

「すごっ!」

 

「そんな大したものじゃないって」

 

「いやいや、中学生で服作れる人なんて、穂乃果の周りにはいないよ!」

 

「南さんがいるじゃん」

 

「ことりちゃんはまだ作れないでしょ?」

 

「これから作れるようになるもん」

 

「おっ、ことりちゃんやる気だ」

 

「うん♪」

 

 南さんが頷く。

 

 その顔を見て、休日にした約束を思い出した。

 

 いつか自分で服を作ってみたい。

 

 そのときは手伝ってほしい。

 

 軽い会話の流れで交わした約束だったけれど、南さんはどうやら本気らしい。

 

「水瀬君」

 

「ん?」

 

「そのときはお願いしますね」

 

 園田さんが妙に真面目な顔で言う。

 

「園田さんまで?」

 

「ことりが楽しみにしていますから」

 

「海未ちゃん?」

 

「違いますか?」

 

「違わないけど……」

 

 南さんが少し困ったように笑う。

 

「まあ、俺で分かることなら」

 

「よかったね、ことりちゃん!」

 

「うん♪」

 

 高坂さんは自分のことでもないのに嬉しそうだ。

 

 そういうところは、本当に高坂穂乃果らしい。

 

 ――と。

 

 そこまで考えて、少しだけ苦笑する。

 

 まただ。

 

 俺は何かあるたびに、前世の記憶と目の前の三人を比べている。

 

 でも最近、その回数は少しずつ減ってきていた。

 

 南さんは特にそうだ。

 

 最初に名前を聞いたときは、南ことりが目の前にいるというだけで頭が真っ白になった。

 

 今はこうして普通に隣で弁当を食べている。

 

「水瀬君?」

 

「ん?」

 

「卵焼き、ずっと箸で持ってるよ?」

 

「……ほんとだ」

 

「何してるの?」

 

「ちょっと考え事」

 

「また?」

 

「またって言わないでよ」

 

「ふふっ」

 

 南さんが笑う。

 

 その様子を見ていた高坂さんが首を傾げた。

 

「二人、仲良くなったね」

 

「え?」

 

 俺と南さんの声が重なった。

 

「だって入学式の日より普通に話してるし」

 

「隣の席だから、話すこと多いんだよ」

 

「ね?」

 

 俺が南さんを見る。

 

「うん。水瀬君、話しやすいし」

 

「……そっか」

 

 さらっと言われた。

 

 こっちはどう返せばいいんだ。

 

「水瀬君?」

 

「いや、なんでもない」

 

「またそれ言ってる」

 

「便利なんだよ、この言葉」

 

「そうなの?」

 

「たぶん」

 

「変なの」

 

 南さんがまた笑う。

 

「なるほど」

 

 園田さんが小さく頷いた。

 

「何が?」

 

「いえ。ことりが水瀬君のお話をよくしていた理由が分かった気がします」

 

「え?」

 

「海未ちゃん!」

 

 今度は南さんが明らかに慌てた。

 

「どういうこと?」

 

「お店のことですよ」

 

 園田さんは何でもないように答える。

 

「先日から、ことりが水瀬君のお家のお店について何度も話していましたから」

 

「ああ、そっち」

 

 びっくりした。

 

「もう、海未ちゃん……」

 

「何かおかしなことを言いましたか?」

 

「言ってないけどぉ……」

 

「?」

 

 園田さんは本当に分かっていないらしい。

 

 高坂さんは卵焼きを食べながら、楽しそうに笑っている。

 

 なんだろう。

 

 この三人と一緒にいると、妙に賑やかだ。

 

 でも。

 

 嫌な感じはしなかった。

 

 ◇

 

 それから何日か。

 

 昼休みになると、時々四人で昼を食べるようになった。

 

 毎日ではない。

 

 俺には俺の友達がいるし、三人にも三人の時間がある。

 

 それでも廊下で会えば話すことが増え、高坂さんから突然声をかけられることも増えた。

 

「水瀬君!」

 

「ん?」

 

「これ分かる?」

 

 ある日の休み時間。

 

 別のクラスからやって来た高坂さんが、いきなりノートを差し出してきた。

 

「……なんで俺?」

 

「ことりちゃんが水瀬君に聞けばいいって」

 

 俺は隣を見る。

 

「南さん?」

 

「だって、この前の数学分かってたでしょ?」

 

「それだけで?」

 

「ことりより得意だから」

 

「比較対象が南さんだけなの?」

 

「水瀬君、お願いします!」

 

 高坂さんが両手を合わせる。

 

「別にいいけど……」

 

「やった!」

 

「ただ俺もそこまで勉強得意じゃないからね」

 

「穂乃果より分かれば大丈夫!」

 

「基準低くない?」

 

「失礼な!」

 

「高坂さんが自分で言ったんじゃん」

 

 隣で南さんが笑っている。

 

 結局、問題を一つ説明したところで園田さんが現れた。

 

「穂乃果!」

 

「げっ」

 

「げっ、ではありません! 探しましたよ!」

 

「海未ちゃん、どうしたの?」

 

「次の授業で使うものを忘れたでしょう!」

 

「あ」

 

「まったく……」

 

 園田さんが大きくため息をつく。

 

「すみません、水瀬君。穂乃果がお邪魔しました」

 

「別に大丈夫だよ」

 

「ほら穂乃果、戻りますよ」

 

「ちょっと待って! あと一問!」

 

「駄目です!」

 

「水瀬君、助けて!」

 

「俺に振られても困るよ」

 

「そんなぁ!」

 

 高坂さんが園田さんに連れていかれる。

 

 その背中を見送りながら、俺は思わず笑った。

 

「高坂さん、面白いね」

 

「でしょ?」

 

「南さんが得意げになるところ?」

 

「幼馴染だから♪」

 

「なるほど」

 

 そういうものなのか。

 

 南さんが高坂さんたちと長い付き合いなのは知っていた。

 

 でも、こうして近くで見ていると、その関係が少し分かる。

 

 高坂さんが走り出して。

 

 園田さんが止めて。

 

 南さんが笑いながら二人を見ている。

 

 そんな三人。

 

 俺はそこへ、ほんの少しだけ混ざるようになった。

 

 ◇

 

 放課後。

 

「じゃあね、ことりちゃん!」

 

「また明日」

 

「うん。また明日ね♪」

 

 昇降口で高坂さんと園田さんに別れを告げる。

 

「水瀬君もまたね!」

 

「また明日、高坂さん。園田さん」

 

「はい。また明日」

 

 二人が歩いていくのを見送る。

 

 俺も帰ろうとしたところで、

 

「あ、水瀬君」

 

「ん?」

 

 南さんがまだ隣にいた。

 

「南さん、帰らないの?」

 

「帰るよ」

 

「じゃあ……」

 

「途中まで一緒に帰らない?」

 

「俺と?」

 

「うん。途中まで同じ方向でしょ?」

 

「そうだけど」

 

 入学してから何度か帰る方向が同じなのは分かっていた。

 

 今まではタイミングが合わなかっただけだ。

 

「いいよ」

 

「ほんと?」

 

「うん。帰ろうか」

 

「うん♪」

 

 二人で校門を出る。

 

 昼間より少し傾いた日差しが、道路へ長い影を作っていた。

 

「今日、穂乃果ちゃんがごめんね」

 

「勉強のこと?」

 

「うん」

 

「別にいいよ。一問教えただけだし」

 

「穂乃果ちゃん、昔からああいうところあるから」

 

「なんとなく分かってきた」

 

「ふふっ」

 

「園田さんも大変そうだね」

 

「海未ちゃんも昔からあんな感じだよ」

 

「しっかりしてるよね」

 

「うん。でも海未ちゃんもね、意外と――」

 

 南さんが幼馴染二人の話をする。

 

 俺はそれを聞きながら、時々相槌を打つ。

 

 知っている話もあった。

 

 知らない話もあった。

 

 でも、わざわざ区別する必要はない気がした。

 

 前世で知っていた三人と。

 

 今、俺が知り始めている三人。

 

 少しずつ後者の方が増えていけば、それでいい。

 

「あ」

 

 しばらく歩いたところで、南さんが立ち止まった。

 

「ことり、こっちだから」

 

「そっか」

 

「水瀬君はまっすぐ?」

 

「うん」

 

「じゃあ、ここまでだね」

 

「そうだね」

 

「……」

 

 南さんが少しだけ間を置く。

 

「水瀬君」

 

「ん?」

 

「また今度、お店行ってもいい?」

 

「いいよ。母さんも喜ぶと思うし」

 

「うん♪」

 

「今度は何か作ってみる?」

 

「いいの?」

 

「簡単なのなら」

 

「作りたい!」

 

「じゃあ考えといてよ。何作りたいか」

 

「分かった」

 

 南さんが嬉しそうに頷く。

 

「じゃあ、また明日ね。水瀬君」

 

「うん。また明日」

 

「ばいばい♪」

 

「またね」

 

 南さんが手を振って、俺とは別の道へ歩いていく。

 

 俺も再び歩き出した。

 

 入学して、まだそれほど経っていない。

 

 最初はただ、隣の席に前世の推しがいた。

 

 それだけだった。

 

 でも今は。

 

 朝になれば挨拶をして。

 

 授業中に少し話して。

 

 一緒に昼飯を食べることがあって。

 

 帰る方向が同じなら、一緒に歩く。

 

 少しずつ。

 

 本当に少しずつ。

 

 南さんが「前世の推し」ではなく、「今の俺の友達」になり始めていた。




また投稿します。

では、また∠( ゚д゚)
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