隣の席は南ことり   作:Gussan0

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どうもΣ(゚Д゚)

続き書けたで候。

では、どうぞ∠( ゚д゚)/


第五話 部活、どうする?

 中学校に入学してから、しばらく経った。

 

 新しい制服にも、教室にも、授業にも少しずつ慣れ始めたころ。

 

 新入生の間では、ある話題が増えていた。

 

「水瀬君、部活どうする?」

 

「部活?」

 

「うん」

 

 昼休み。

 

 弁当を食べながら南さんに聞かれ、俺は箸を止めた。

 

 今日は高坂さんと園田さんも一緒だ。

 

 最近では、こうして四人で昼飯を食べることも珍しくなくなってきた。

 

「そういえば、そろそろ決めないといけないんだっけ」

 

「絶対に入らないといけないわけじゃないみたいだけどね」

 

「ああ、それなら俺は入らないかな」

 

「もう決めてるの?」

 

「うん。たぶん帰宅部」

 

「えー!」

 

 なぜか高坂さんが反応した。

 

「水瀬君、帰宅部なの!?」

 

「そのつもりだけど」

 

「もったいない!」

 

「何が?」

 

「せっかく中学生になったんだよ? 部活だよ、部活!」

 

 力説されても困る。

 

「高坂さんは決めてるの?」

 

「…………」

 

 高坂さんが止まった。

 

「決めてないんだ」

 

「これから決めるの!」

 

「つまり決めてないんだね」

 

「水瀬君、ことりちゃんに似てきたね」

 

「え?」

 

 俺は隣を見る。

 

 南さんも不思議そうに首を傾げている。

 

「ことりちゃんも時々そういうこと言うよ」

 

「そうかなぁ?」

 

「言うよ!」

 

「高坂さんが突っ込まれるようなことしてるだけじゃない?」

 

「水瀬君!?」

 

「ふふっ」

 

 南さんが笑う。

 

 その向かいで園田さんが小さくため息をついた。

 

「穂乃果はまず、自分の部活を決めたらどうですか?」

 

「海未ちゃんはいいよね。もう決まってるから」

 

「はい」

 

「園田さんは弓道部だっけ?」

 

「ええ。そのつもりです」

 

 迷いのない返事だった。

 

「昔からやってるの?」

 

「はい。弓には以前から触れていましたし、せっかくですから学校でも続けようと思っています」

 

「やっぱり海未ちゃんは真面目だよねぇ」

 

「穂乃果も少しは真面目に考えてください」

 

「考えてるよ!」

 

「では、候補は?」

 

「えーっと……」

 

 高坂さんの視線が泳ぐ。

 

「運動部とか?」

 

「何部ですか?」

 

「……いろいろ!」

 

「考えていないじゃないですか」

 

「考えてる途中なの!」

 

 いつもの二人だ。

 

 最近、このやり取りにも随分慣れてきた気がする。

 

「南さんは?」

 

「ことり?」

 

「うん。何か入りたい部活あるの?」

 

「うーん……」

 

 南さんが箸を置いて考え込む。

 

「まだ迷ってるかなぁ」

 

「手芸部とか?」

 

 何気なく言うと、南さんがこちらを見た。

 

「やっぱりそう思う?」

 

「服とか裁縫好きだし」

 

「ことりちゃん、昔からそういうの好きだもんね」

 

 高坂さんも頷く。

 

「私も合っていると思います」

 

「うーん……」

 

 二人にも言われた南さんだったが、反応は思ったより薄い。

 

「興味ない?」

 

「興味はあるよ?」

 

「じゃあ見学してみたら?」

 

「うん。一回見てみようかな」

 

「それがいいよ!」

 

 なぜか高坂さんが勢いよく頷いた。

 

「そして穂乃果も一緒に!」

 

「高坂さんも手芸部?」

 

「見学!」

 

「入る気ないでしょ」

 

「見たら入りたくなるかもしれないじゃん!」

 

「その可能性は低いと思います」

 

「海未ちゃん!?」

 

 四人で笑う。

 

 こうして話していると、部活を決めるだけでも随分性格が出るものだ。

 

 ◇

 

 その日の放課後。

 

「じゃあ行こう!」

 

 昇降口で高坂さんが拳を上げた。

 

「何で穂乃果が一番張り切っているのですか」

 

「見学だから!」

 

「答えになっていません」

 

 結局、俺たちは四人で手芸部を見学することになった。

 

 正確には南さんと高坂さんが見学。

 

 俺と園田さんは付き添いだ。

 

「水瀬君も見学すればいいのに」

 

「俺はいいよ」

 

「どうして?」

 

「家に帰れば似たようなことやってるし」

 

「あ、そっか」

 

 南さんが納得する。

 

「水瀬君の場合、部活というより家業ですね」

 

「まあ、そんな感じかな」

 

「でももったいないなぁ」

 

 高坂さんが振り返る。

 

「水瀬君、裁縫得意なんでしょ?」

 

「得意っていうか慣れてるだけ」

 

「手芸部入ったら即戦力じゃない?」

 

「中一に即戦力求めないでよ」

 

「じゃあエース!」

 

「もっと重くなってるけど」

 

 隣で南さんがくすくす笑っていた。

 

 ◇

 

「失礼します」

 

 手芸部の部室へ入ると、何人かの先輩が作業をしていた。

 

 編み物をしている人。

 

 刺繍をしている人。

 

 布小物を作っている人。

 

 机の上には色とりどりの糸や布が並んでいる。

 

「わぁ……」

 

 案の定、南さんの目が輝いた。

 

「すごいね、水瀬君」

 

「うん」

 

「あれ、刺繍かな?」

 

「たぶん」

 

「あっちは?」

 

「パッチワークじゃない?」

 

「へぇ~」

 

「……俺に聞かないで先輩に聞いた方がいいと思うよ」

 

「あ」

 

 南さんが少し恥ずかしそうに笑った。

 

「つい」

 

「なんで俺に聞くの?」

 

「水瀬君なら分かるかなって」

 

「全部分かるわけじゃないよ」

 

「でも、今二つとも分かったよ?」

 

「……そうだけど」

 

 なんだか上手く丸め込まれた気がする。

 

 部員の先輩が俺たちに気づき、体験用の道具を用意してくれた。

 

 南さんは迷わず参加。

 

 そして。

 

「うーん……」

 

 高坂さんが針を持ったまま固まっていた。

 

「高坂さん?」

 

「糸が通らない」

 

「貸してみて」

 

「おお、水瀬君!」

 

 針を受け取り、糸を通して返す。

 

「はい」

 

「早っ!」

 

「これくらいなら」

 

「水瀬君、やっぱり手芸部入った方がいいんじゃない?」

 

「入らないって」

 

「もったいないなぁ」

 

「穂乃果。まず自分の作業をしてください」

 

「はーい」

 

 園田さんは完全に見学者だ。

 

 俺も近くの椅子へ座る。

 

 しばらくして南さんの方を見ると、先輩に何か教えてもらいながら楽しそうに作業していた。

 

 やっぱり好きなんだな。

 

 そう思う。

 

 だからてっきり。

 

 南さんはこのまま手芸部に入るんじゃないかと思っていた。

 

 ◇

 

「楽しかったー!」

 

 見学を終えて部室を出るなり、高坂さんが大きく伸びをした。

 

「結局、高坂さんも楽しんでたね」

 

「作り始めたら面白かった!」

 

「では、手芸部に入るのですか?」

 

「それは……」

 

「入らないんだ」

 

「まだ分かんないよ!」

 

 分かりやすい。

 

「南さんは?」

 

「ことり?」

 

「どうだった?」

 

「楽しかったよ」

 

「じゃあ手芸部?」

 

 そう聞くと、南さんは少し考えた。

 

「……ううん」

 

「入らないの?」

 

「たぶん」

 

 意外だった。

 

「気に入ってるように見えたけど」

 

「うん。楽しかったし、先輩たちも優しかったよ」

 

「じゃあ、なんで?」

 

 南さんは少し迷ってから答えた。

 

「部活で何を作るか決めるより、自分が作りたいものをゆっくり作りたいなって」

 

「なるほど」

 

「まだことり、そんなに難しいもの作れないしね。いろんなものを試してみたいの」

 

 それなら分からなくもない。

 

 趣味だからこそ、自分のペースでやりたいということだろう。

 

「それに――」

 

 南さんが俺を見る。

 

「水瀬君のお店でも、いろいろ教えてもらえるし」

 

「……俺?」

 

「うん♪」

 

「俺、先生じゃないよ?」

 

「分かってるよ」

 

「ほんとに?」

 

「ほんとほんと」

 

 笑っている。

 

「でも、この前楽しかったから。また一緒に何か作りたいなって」

 

「ああ、それなら」

 

 俺も楽しかった。

 

 それは本当だ。

 

「いいよ。俺も分かる範囲なら」

 

「やった♪」

 

「ただ母さんにも聞いてね。店の材料、勝手に使えないから」

 

「ちゃんと聞きます」

 

「なら大丈夫」

 

「ふふっ」

 

 南さんが嬉しそうに笑う。

 

 その隣で。

 

「……いいなぁ」

 

 高坂さんが呟いた。

 

「何が?」

 

「ことりちゃんだけ楽しそう」

 

「高坂さんも来る?」

 

「いいの!?」

 

「店なんだから駄目ではないけど」

 

「行く!」

 

「即答だね」

 

「私も行ってみたい!」

 

「穂乃果」

 

 園田さんが呆れたように呼ぶ。

 

「お邪魔になるでしょう」

 

「えー」

 

「別に来るだけなら大丈夫だと思うよ」

 

「ほら!」

 

「水瀬君まで……」

 

「ただ、店が忙しい日は無理だけどね」

 

「分かった!」

 

 高坂さんが嬉しそうに頷く。

 

「海未ちゃんも行こうよ!」

 

「私は……」

 

「園田さんも暇なときなら」

 

「よろしいのですか?」

 

「うん。母さんに聞いてみるけど」

 

「では、お言葉に甘えて」

 

「やった! 四人で行こう!」

 

 ……なんか話が大きくなったな。

 

 でも。

 

 悪くない気もする。

 

 ◇

 

 数日後。

 

 部活動の希望を提出する日。

 

「結局、みんな決めた?」

 

 昼休み。

 

 いつものように四人で弁当を囲みながら高坂さんが聞いてきた。

 

「私は弓道部です」

 

 園田さん。

 

「ことりは入らないことにしたよ」

 

 南さん。

 

「俺も帰宅部」

 

 俺。

 

 三人の視線が、最後の一人へ集まる。

 

「……」

 

「高坂さん?」

 

「……帰宅部で」

 

「結局?」

 

「だって!」

 

 高坂さんが机を叩く。

 

「いっぱい見たけど、これだ! っていうのがなかったんだもん!」

 

「それなら無理に入らなくてもいいんじゃない?」

 

「だよね!?」

 

「水瀬君、穂乃果を甘やかさないでください」

 

「甘やかしてる?」

 

「海未ちゃん厳しい!」

 

「当然です」

 

 高坂さんが頬を膨らませる。

 

「それに穂乃果、家のお手伝いもあるし」

 

 南さんが助け船を出した。

 

「そう! 穂むらのお手伝い!」

 

「毎日きちんと手伝うのですか?」

 

「……できる日は」

 

「穂乃果?」

 

「ちゃんとやります!」

 

 俺は思わず笑った。

 

「高坂さんも家の手伝いしてるんだ」

 

「するよー。うち和菓子屋だから」

 

「知ってる」

 

「……え?」

 

 しまった。

 

 一瞬、空気が止まる。

 

「なんで知ってるの?」

 

「あ」

 

 まずい。

 

 高坂さんの実家が和菓子屋『穂むら』なのは、前世の知識だ。

 

 今の俺は高坂さん本人から聞いていない。

 

「えっと……」

 

 頭を回す。

 

「店の名前、どっかで見たことあった気がして」

 

「ほんと?」

 

「たぶん」

 

「穂むら、有名だからね!」

 

「穂乃果、調子に乗らないでください」

 

「本当だもん!」

 

 助かった。

 

 誤魔化せた……よな?

 

 南さんを見る。

 

「?」

 

 普通に首を傾げている。

 

 大丈夫そうだ。

 

 気をつけないとな。

 

 知っているからといって、それを全部口に出していいわけじゃない。

 

 俺が知っているのは、あくまで前世の記憶なのだから。

 

 ◇

 

 放課後。

 

「では、私は部活がありますので」

 

 昇降口で園田さんが弓道場の方へ向かう。

 

「海未ちゃん頑張ってねー!」

 

「穂乃果も真っ直ぐ帰るんですよ」

 

「分かってるよ!」

 

「本当に?」

 

「海未ちゃん、穂乃果のこと信用してない!?」

 

「日頃の行いです」

 

「ひどい!」

 

 園田さんが去っていく。

 

 残された俺たち三人は顔を見合わせた。

 

「……帰る?」

 

「帰ろっか」

 

「うん」

 

 三人で校門を出る。

 

 しばらくは同じ道だ。

 

「なんか変な感じだね」

 

 高坂さんが言った。

 

「何が?」

 

「海未ちゃんだけ部活」

 

「ああ」

 

「小学校のときは放課後も三人一緒にいること多かったから」

 

「そっか」

 

 長い幼馴染なら、そう感じるのも当然か。

 

「でも、ずっと別々ってわけじゃないよ」

 

 南さんが言う。

 

「海未ちゃんだって部活がない日は一緒に帰れるし」

 

「そうだけどさー」

 

「それに穂乃果ちゃん、お家のお手伝いするんでしょ?」

 

「うっ」

 

「するんだよね?」

 

「ことりちゃんまで海未ちゃんみたいになってる!」

 

「ふふっ」

 

 南さんが笑う。

 

「水瀬君はこれからお店?」

 

「今日はそうだね」

 

「ことりも行っていい?」

 

「今日?」

 

「うん」

 

「別にいいと思うけど……母さんに連絡してみる」

 

「ほんと?」

 

「うん」

 

「じゃあ穂乃果も!」

 

「高坂さんは店の手伝いは?」

 

「……」

 

 高坂さんが固まる。

 

「高坂さん?」

 

「今日は帰ります」

 

「急に素直になったね」

 

「お母さんに怒られる……」

 

 切実らしい。

 

「あ、でも今度絶対行くからね!」

 

「分かったよ」

 

「約束!」

 

「はいはい」

 

「じゃあことりちゃん、また明日!」

 

「うん。また明日ね」

 

「水瀬君も!」

 

「また明日、高坂さん」

 

「ばいばーい!」

 

 高坂さんが走っていく。

 

「……元気だね」

 

「穂乃果ちゃんだから♪」

 

「それで説明できるんだ」

 

「できるよ?」

 

「そっか」

 

 俺と南さんは顔を見合わせて笑った。

 

 ◇

 

 高坂さんと別れたあと。

 

 俺と南さんは水瀬洋装店へ向かって歩いていた。

 

「結局、二人とも帰宅部になったね」

 

「そうだね」

 

「高坂さんもだけど」

 

「三人だね」

 

「園田さんだけ弓道部か」

 

「海未ちゃん、昔から弓道頑張ってたから」

 

「似合いそう」

 

「すっごく格好いいよ♪」

 

「へえ」

 

 一度見てみたい気もする。

 

「水瀬君」

 

「ん?」

 

「部活、入りたかった?」

 

「俺?」

 

 少し考える。

 

「別に。最初から入るつもりなかったし」

 

「お店があるから?」

 

「それもあるかな」

 

 家の手伝いが嫌なわけじゃない。

 

 部活に入って毎日帰りが遅くなるより、今の生活の方が俺には合っていると思う。

 

「それに」

 

「それに?」

 

「店にいれば、服作ったりできるしね」

 

「あ」

 

 南さんが笑った。

 

「やっぱり好きなんだ」

 

「……またそれ?」

 

「だってそう聞こえたから」

 

「まあ、否定はしないけど」

 

「ふふっ」

 

「南さんこそ、ほんとに手芸部入らなくてよかったの?」

 

「うん」

 

 今度は迷わず頷いた。

 

「ことりは、自分の好きなものを作ってみたいから」

 

「そっか」

 

「それに」

 

 南さんが少しだけ歩幅を速めて、俺の隣へ並ぶ。

 

「水瀬君と作るの、楽しかったし」

 

「……」

 

 さらっと言うなぁ。

 

「俺も楽しかったよ」

 

「ほんと?」

 

「うん」

 

「じゃあ、今日は何作ろうか?」

 

「今日やるの?」

 

「だめ?」

 

「駄目じゃないけど……」

 

 俺は少し考える。

 

「この前より、もうちょっと難しいのにする?」

 

「する!」

 

「即答だね」

 

「だって楽しみだったんだもん♪」

 

 南さんの足取りが少し速くなる。

 

「水瀬君、早く行こ」

 

「店は逃げないって」

 

「早く早く♪」

 

「分かったから」

 

 少し先を歩く南さんを追いかける。

 

 結局。

 

 俺も南さんも、部活には入らなかった。

 

 だから放課後は自由だ。

 

 店の手伝いをして。

 

 たまに高坂さんたちと遊んで。

 

 そして時々、南さんと服を作る。

 

 そんな中学生活も悪くない。

 

 このときの俺は、そんなふうに考えていた。

 

 ――もっとも。

 

 その「時々」が、そのうち当たり前になっていくなんて。

 

 まだ、知る由もなかった。




また投稿します。

では、また∠( ゚д゚)
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