続き書けたで候。
では、どうぞ∠( ゚д゚)/
中学校に入学してから、しばらく経った。
新しい制服にも、教室にも、授業にも少しずつ慣れ始めたころ。
新入生の間では、ある話題が増えていた。
「水瀬君、部活どうする?」
「部活?」
「うん」
昼休み。
弁当を食べながら南さんに聞かれ、俺は箸を止めた。
今日は高坂さんと園田さんも一緒だ。
最近では、こうして四人で昼飯を食べることも珍しくなくなってきた。
「そういえば、そろそろ決めないといけないんだっけ」
「絶対に入らないといけないわけじゃないみたいだけどね」
「ああ、それなら俺は入らないかな」
「もう決めてるの?」
「うん。たぶん帰宅部」
「えー!」
なぜか高坂さんが反応した。
「水瀬君、帰宅部なの!?」
「そのつもりだけど」
「もったいない!」
「何が?」
「せっかく中学生になったんだよ? 部活だよ、部活!」
力説されても困る。
「高坂さんは決めてるの?」
「…………」
高坂さんが止まった。
「決めてないんだ」
「これから決めるの!」
「つまり決めてないんだね」
「水瀬君、ことりちゃんに似てきたね」
「え?」
俺は隣を見る。
南さんも不思議そうに首を傾げている。
「ことりちゃんも時々そういうこと言うよ」
「そうかなぁ?」
「言うよ!」
「高坂さんが突っ込まれるようなことしてるだけじゃない?」
「水瀬君!?」
「ふふっ」
南さんが笑う。
その向かいで園田さんが小さくため息をついた。
「穂乃果はまず、自分の部活を決めたらどうですか?」
「海未ちゃんはいいよね。もう決まってるから」
「はい」
「園田さんは弓道部だっけ?」
「ええ。そのつもりです」
迷いのない返事だった。
「昔からやってるの?」
「はい。弓には以前から触れていましたし、せっかくですから学校でも続けようと思っています」
「やっぱり海未ちゃんは真面目だよねぇ」
「穂乃果も少しは真面目に考えてください」
「考えてるよ!」
「では、候補は?」
「えーっと……」
高坂さんの視線が泳ぐ。
「運動部とか?」
「何部ですか?」
「……いろいろ!」
「考えていないじゃないですか」
「考えてる途中なの!」
いつもの二人だ。
最近、このやり取りにも随分慣れてきた気がする。
「南さんは?」
「ことり?」
「うん。何か入りたい部活あるの?」
「うーん……」
南さんが箸を置いて考え込む。
「まだ迷ってるかなぁ」
「手芸部とか?」
何気なく言うと、南さんがこちらを見た。
「やっぱりそう思う?」
「服とか裁縫好きだし」
「ことりちゃん、昔からそういうの好きだもんね」
高坂さんも頷く。
「私も合っていると思います」
「うーん……」
二人にも言われた南さんだったが、反応は思ったより薄い。
「興味ない?」
「興味はあるよ?」
「じゃあ見学してみたら?」
「うん。一回見てみようかな」
「それがいいよ!」
なぜか高坂さんが勢いよく頷いた。
「そして穂乃果も一緒に!」
「高坂さんも手芸部?」
「見学!」
「入る気ないでしょ」
「見たら入りたくなるかもしれないじゃん!」
「その可能性は低いと思います」
「海未ちゃん!?」
四人で笑う。
こうして話していると、部活を決めるだけでも随分性格が出るものだ。
◇
その日の放課後。
「じゃあ行こう!」
昇降口で高坂さんが拳を上げた。
「何で穂乃果が一番張り切っているのですか」
「見学だから!」
「答えになっていません」
結局、俺たちは四人で手芸部を見学することになった。
正確には南さんと高坂さんが見学。
俺と園田さんは付き添いだ。
「水瀬君も見学すればいいのに」
「俺はいいよ」
「どうして?」
「家に帰れば似たようなことやってるし」
「あ、そっか」
南さんが納得する。
「水瀬君の場合、部活というより家業ですね」
「まあ、そんな感じかな」
「でももったいないなぁ」
高坂さんが振り返る。
「水瀬君、裁縫得意なんでしょ?」
「得意っていうか慣れてるだけ」
「手芸部入ったら即戦力じゃない?」
「中一に即戦力求めないでよ」
「じゃあエース!」
「もっと重くなってるけど」
隣で南さんがくすくす笑っていた。
◇
「失礼します」
手芸部の部室へ入ると、何人かの先輩が作業をしていた。
編み物をしている人。
刺繍をしている人。
布小物を作っている人。
机の上には色とりどりの糸や布が並んでいる。
「わぁ……」
案の定、南さんの目が輝いた。
「すごいね、水瀬君」
「うん」
「あれ、刺繍かな?」
「たぶん」
「あっちは?」
「パッチワークじゃない?」
「へぇ~」
「……俺に聞かないで先輩に聞いた方がいいと思うよ」
「あ」
南さんが少し恥ずかしそうに笑った。
「つい」
「なんで俺に聞くの?」
「水瀬君なら分かるかなって」
「全部分かるわけじゃないよ」
「でも、今二つとも分かったよ?」
「……そうだけど」
なんだか上手く丸め込まれた気がする。
部員の先輩が俺たちに気づき、体験用の道具を用意してくれた。
南さんは迷わず参加。
そして。
「うーん……」
高坂さんが針を持ったまま固まっていた。
「高坂さん?」
「糸が通らない」
「貸してみて」
「おお、水瀬君!」
針を受け取り、糸を通して返す。
「はい」
「早っ!」
「これくらいなら」
「水瀬君、やっぱり手芸部入った方がいいんじゃない?」
「入らないって」
「もったいないなぁ」
「穂乃果。まず自分の作業をしてください」
「はーい」
園田さんは完全に見学者だ。
俺も近くの椅子へ座る。
しばらくして南さんの方を見ると、先輩に何か教えてもらいながら楽しそうに作業していた。
やっぱり好きなんだな。
そう思う。
だからてっきり。
南さんはこのまま手芸部に入るんじゃないかと思っていた。
◇
「楽しかったー!」
見学を終えて部室を出るなり、高坂さんが大きく伸びをした。
「結局、高坂さんも楽しんでたね」
「作り始めたら面白かった!」
「では、手芸部に入るのですか?」
「それは……」
「入らないんだ」
「まだ分かんないよ!」
分かりやすい。
「南さんは?」
「ことり?」
「どうだった?」
「楽しかったよ」
「じゃあ手芸部?」
そう聞くと、南さんは少し考えた。
「……ううん」
「入らないの?」
「たぶん」
意外だった。
「気に入ってるように見えたけど」
「うん。楽しかったし、先輩たちも優しかったよ」
「じゃあ、なんで?」
南さんは少し迷ってから答えた。
「部活で何を作るか決めるより、自分が作りたいものをゆっくり作りたいなって」
「なるほど」
「まだことり、そんなに難しいもの作れないしね。いろんなものを試してみたいの」
それなら分からなくもない。
趣味だからこそ、自分のペースでやりたいということだろう。
「それに――」
南さんが俺を見る。
「水瀬君のお店でも、いろいろ教えてもらえるし」
「……俺?」
「うん♪」
「俺、先生じゃないよ?」
「分かってるよ」
「ほんとに?」
「ほんとほんと」
笑っている。
「でも、この前楽しかったから。また一緒に何か作りたいなって」
「ああ、それなら」
俺も楽しかった。
それは本当だ。
「いいよ。俺も分かる範囲なら」
「やった♪」
「ただ母さんにも聞いてね。店の材料、勝手に使えないから」
「ちゃんと聞きます」
「なら大丈夫」
「ふふっ」
南さんが嬉しそうに笑う。
その隣で。
「……いいなぁ」
高坂さんが呟いた。
「何が?」
「ことりちゃんだけ楽しそう」
「高坂さんも来る?」
「いいの!?」
「店なんだから駄目ではないけど」
「行く!」
「即答だね」
「私も行ってみたい!」
「穂乃果」
園田さんが呆れたように呼ぶ。
「お邪魔になるでしょう」
「えー」
「別に来るだけなら大丈夫だと思うよ」
「ほら!」
「水瀬君まで……」
「ただ、店が忙しい日は無理だけどね」
「分かった!」
高坂さんが嬉しそうに頷く。
「海未ちゃんも行こうよ!」
「私は……」
「園田さんも暇なときなら」
「よろしいのですか?」
「うん。母さんに聞いてみるけど」
「では、お言葉に甘えて」
「やった! 四人で行こう!」
……なんか話が大きくなったな。
でも。
悪くない気もする。
◇
数日後。
部活動の希望を提出する日。
「結局、みんな決めた?」
昼休み。
いつものように四人で弁当を囲みながら高坂さんが聞いてきた。
「私は弓道部です」
園田さん。
「ことりは入らないことにしたよ」
南さん。
「俺も帰宅部」
俺。
三人の視線が、最後の一人へ集まる。
「……」
「高坂さん?」
「……帰宅部で」
「結局?」
「だって!」
高坂さんが机を叩く。
「いっぱい見たけど、これだ! っていうのがなかったんだもん!」
「それなら無理に入らなくてもいいんじゃない?」
「だよね!?」
「水瀬君、穂乃果を甘やかさないでください」
「甘やかしてる?」
「海未ちゃん厳しい!」
「当然です」
高坂さんが頬を膨らませる。
「それに穂乃果、家のお手伝いもあるし」
南さんが助け船を出した。
「そう! 穂むらのお手伝い!」
「毎日きちんと手伝うのですか?」
「……できる日は」
「穂乃果?」
「ちゃんとやります!」
俺は思わず笑った。
「高坂さんも家の手伝いしてるんだ」
「するよー。うち和菓子屋だから」
「知ってる」
「……え?」
しまった。
一瞬、空気が止まる。
「なんで知ってるの?」
「あ」
まずい。
高坂さんの実家が和菓子屋『穂むら』なのは、前世の知識だ。
今の俺は高坂さん本人から聞いていない。
「えっと……」
頭を回す。
「店の名前、どっかで見たことあった気がして」
「ほんと?」
「たぶん」
「穂むら、有名だからね!」
「穂乃果、調子に乗らないでください」
「本当だもん!」
助かった。
誤魔化せた……よな?
南さんを見る。
「?」
普通に首を傾げている。
大丈夫そうだ。
気をつけないとな。
知っているからといって、それを全部口に出していいわけじゃない。
俺が知っているのは、あくまで前世の記憶なのだから。
◇
放課後。
「では、私は部活がありますので」
昇降口で園田さんが弓道場の方へ向かう。
「海未ちゃん頑張ってねー!」
「穂乃果も真っ直ぐ帰るんですよ」
「分かってるよ!」
「本当に?」
「海未ちゃん、穂乃果のこと信用してない!?」
「日頃の行いです」
「ひどい!」
園田さんが去っていく。
残された俺たち三人は顔を見合わせた。
「……帰る?」
「帰ろっか」
「うん」
三人で校門を出る。
しばらくは同じ道だ。
「なんか変な感じだね」
高坂さんが言った。
「何が?」
「海未ちゃんだけ部活」
「ああ」
「小学校のときは放課後も三人一緒にいること多かったから」
「そっか」
長い幼馴染なら、そう感じるのも当然か。
「でも、ずっと別々ってわけじゃないよ」
南さんが言う。
「海未ちゃんだって部活がない日は一緒に帰れるし」
「そうだけどさー」
「それに穂乃果ちゃん、お家のお手伝いするんでしょ?」
「うっ」
「するんだよね?」
「ことりちゃんまで海未ちゃんみたいになってる!」
「ふふっ」
南さんが笑う。
「水瀬君はこれからお店?」
「今日はそうだね」
「ことりも行っていい?」
「今日?」
「うん」
「別にいいと思うけど……母さんに連絡してみる」
「ほんと?」
「うん」
「じゃあ穂乃果も!」
「高坂さんは店の手伝いは?」
「……」
高坂さんが固まる。
「高坂さん?」
「今日は帰ります」
「急に素直になったね」
「お母さんに怒られる……」
切実らしい。
「あ、でも今度絶対行くからね!」
「分かったよ」
「約束!」
「はいはい」
「じゃあことりちゃん、また明日!」
「うん。また明日ね」
「水瀬君も!」
「また明日、高坂さん」
「ばいばーい!」
高坂さんが走っていく。
「……元気だね」
「穂乃果ちゃんだから♪」
「それで説明できるんだ」
「できるよ?」
「そっか」
俺と南さんは顔を見合わせて笑った。
◇
高坂さんと別れたあと。
俺と南さんは水瀬洋装店へ向かって歩いていた。
「結局、二人とも帰宅部になったね」
「そうだね」
「高坂さんもだけど」
「三人だね」
「園田さんだけ弓道部か」
「海未ちゃん、昔から弓道頑張ってたから」
「似合いそう」
「すっごく格好いいよ♪」
「へえ」
一度見てみたい気もする。
「水瀬君」
「ん?」
「部活、入りたかった?」
「俺?」
少し考える。
「別に。最初から入るつもりなかったし」
「お店があるから?」
「それもあるかな」
家の手伝いが嫌なわけじゃない。
部活に入って毎日帰りが遅くなるより、今の生活の方が俺には合っていると思う。
「それに」
「それに?」
「店にいれば、服作ったりできるしね」
「あ」
南さんが笑った。
「やっぱり好きなんだ」
「……またそれ?」
「だってそう聞こえたから」
「まあ、否定はしないけど」
「ふふっ」
「南さんこそ、ほんとに手芸部入らなくてよかったの?」
「うん」
今度は迷わず頷いた。
「ことりは、自分の好きなものを作ってみたいから」
「そっか」
「それに」
南さんが少しだけ歩幅を速めて、俺の隣へ並ぶ。
「水瀬君と作るの、楽しかったし」
「……」
さらっと言うなぁ。
「俺も楽しかったよ」
「ほんと?」
「うん」
「じゃあ、今日は何作ろうか?」
「今日やるの?」
「だめ?」
「駄目じゃないけど……」
俺は少し考える。
「この前より、もうちょっと難しいのにする?」
「する!」
「即答だね」
「だって楽しみだったんだもん♪」
南さんの足取りが少し速くなる。
「水瀬君、早く行こ」
「店は逃げないって」
「早く早く♪」
「分かったから」
少し先を歩く南さんを追いかける。
結局。
俺も南さんも、部活には入らなかった。
だから放課後は自由だ。
店の手伝いをして。
たまに高坂さんたちと遊んで。
そして時々、南さんと服を作る。
そんな中学生活も悪くない。
このときの俺は、そんなふうに考えていた。
――もっとも。
その「時々」が、そのうち当たり前になっていくなんて。
まだ、知る由もなかった。
また投稿します。
では、また∠( ゚д゚)