続き書けたで候。
では、どうぞ∠( ゚д゚)/
放課後。
帰りのホームルームが終わり、鞄へ教科書を入れていると、南さんが俺の席までやって来た。
「水瀬君、今日お店行ってもいい?」
「いいよ。この前の続き?」
「ううん。今日はちょっと生地を見たいなって」
「また何か作るの?」
「まだ考えてるところ」
そう言いながら、南さんは鞄から例のノートを少しだけ覗かせた。
この前、自分で考えたポーチを完成させてから、どうやら火がついたらしい。休み時間にも、時々ノートへ何か描き込んでいる姿を見かける。
「今度は難しすぎないやつにしてよ」
「まだ何も言ってないよ~」
「先に言っとこうと思って」
「もう」
南さんが頬を膨らませた、そのときだった。
「ことりちゃーん!」
教室の入り口から大きな声が響いた。
「あ、穂乃果ちゃん」
見なくても誰か分かる。
高坂さんがこちらへやって来て、その少し後ろから園田さんも入ってきた。
「穂乃果。他のクラスなのですから、もう少し静かに入ってください」
「もう放課後なんだからいいじゃん」
「そういう問題ではありません」
「海未ちゃんは細かいなぁ」
「穂乃果が大雑把すぎるのです」
相変わらずだ。
「高坂さんと園田さん、今日は部活ないの?」
「私は少し時間があります。穂乃果は――」
「今日は何もないよ!」
「だそうです」
「なんで海未ちゃんが呆れてるの?」
「いつものことでしょう」
「ひどい!」
高坂さんが抗議している横で、南さんが楽しそうに笑っている。
「それでね、ことりちゃん。今日どこか寄ってかない?」
「今日は水瀬君のお店に行こうかなって思ってたの」
「水瀬君のお店?」
高坂さんが俺を見る。
「服屋さんだっけ?」
「洋装店。服も置いてるけど、仕立てとか直しもやってるよ」
「そうなんだ」
「前にも話したと思うけど」
「聞いたけど、見たことないからよく分かんない!」
「まあ、そうなるか」
「ことりちゃんはよく行ってるよね?」
「最近は時々ね。この前もポーチ作ったの」
「ポーチ?」
高坂さんが食いついた。
「見たい!」
「持ってきてるよ」
南さんが鞄から小さなポーチを取り出す。
「これ」
「えっ、これことりちゃんが作ったの!?」
「うん。水瀬君にいっぱい教えてもらったけど」
高坂さんだけでなく、園田さんも興味深そうに覗き込んだ。
「綺麗にできていますね」
「ほんと? ありがとう、海未ちゃん」
「すごいよ、ことりちゃん! 普通にお店で売ってそう!」
「それはさすがに言いすぎじゃない?」
「水瀬君、厳しい!」
「いや、初めてにしては上手だよ。でも売り物と比べるのは違うでしょ」
「水瀬君にはいっぱい直してもらったもんね」
「直したっていうか、教えただけだけど」
「それでも」
南さんはポーチを大事そうに鞄へ戻した。
自分で作ったものを友達に褒めてもらえたのが嬉しいらしい。
「ねえ、水瀬君」
「何?」
「私もお店行っていい?」
「別にいいよ」
「やった!」
「私もよろしいですか?」
園田さんが尋ねる。
「もちろん。時間が大丈夫なら」
「では、お言葉に甘えます。一度見てみたいと思っていました」
「じゃあ今日は四人だね」
南さんが嬉しそうに言う。
「でも店だからね。高坂さん、走り回ったり商品勝手に触ったりしないでよ」
「私を何歳だと思ってるの!?」
「穂乃果なら先に言っておいた方がいいでしょう」
「海未ちゃんまで!?」
思わず笑ってしまった。
◇
「水瀬、今日帰んの?」
帰り支度を終えたところで、同じクラスの男子二人に声をかけられた。
「今日は店」
「また手伝い?」
「それもある」
一人が俺の近くにいる三人を見て、少しだけ眉を上げた。
「今日は人数多いな」
「店を見てみたいんだって」
「ああ、水瀬ん家って服屋だっけ?」
「洋装店」
「その違いがよく分かんねえ」
「さっき高坂さんにも似たような説明したよ」
「じゃあ俺だけじゃないな」
何が安心なのか分からない。
「今度、駅前行こうぜ」
「うん。そのときは付き合うよ」
「じゃあまた明日」
「また明日」
二人が教室を出ていく。
それを見送っていると、高坂さんが俺の方をじっと見ていた。
「何?」
「水瀬君、ちゃんと男の子の友達いるんだね」
「どういう意味?」
「だって、ことりちゃんから水瀬君の話を聞くと、服とかお店の話が多いから」
「穂乃果ちゃん!」
南さんが慌てて高坂さんの袖を引っ張る。
「え? 何?」
「何でもない!」
「俺の話してるの?」
「た、たまにだよ?」
「へえ」
「普通だからね?」
「まだ何も言ってないけど」
「もう……」
南さんが少し恥ずかしそうにする。
園田さんはそんな二人を見て、小さくため息をついていた。
◇
学校を出て、四人で店へ向かう。
「こっちで合ってる?」
「うん。ここを曲がったらそんなに遠くないよ」
俺より先に南さんが答えた。
「ことりちゃん、もう道覚えてるんだ」
「何回か行ってるからね」
「いいなぁ。なんか秘密基地みたい」
「普通の店だって」
「でも奥に作業するところあるよ?」
「南さん」
「本当のことだもん」
「作業場! 見たい!」
「高坂さん、遊ぶ場所じゃないからね」
「分かってるって!」
「どうでしょうね」
「海未ちゃん!」
高坂さんが抗議する。
俺と南さんは顔を見合わせて笑った。
こうして四人で歩くのにも、いつの間にか慣れてきた。
最初、高坂さんと園田さんは「南さんの幼馴染」だった。
でも今は、学校で会えば普通に話すし、一緒に帰ることもある。
まだ南さんほど一緒にいるわけではない。
それでも二人とも、もう俺自身の友達と言っていいと思う。
◇
店の前へ着くと、高坂さんが看板を見上げた。
「ここが水瀬君のお店?」
「そう」
「思ってたより普通だね」
「何を想像してたの?」
「もっとこう……奥で水瀬君が一人で服を作ってる秘密工房みたいなの」
「なんで俺が職人になってるの?」
「違うの?」
「違うよ」
「でも水瀬君、結構できるよ?」
「南さんまで話をややこしくしないで」
扉を開ける。
カラン、とベルが鳴った。
「ただいま」
「お邪魔します」
「お邪魔しまーす!」
「お邪魔いたします」
奥から母さんが顔を出した。
「あら、おかえり。今日は賑やかね」
「友達連れてきた」
「こんにちは」
南さんはもう慣れたもので、自然に頭を下げる。
「ことりちゃん、いらっしゃい」
「はい」
母さんは続いて、高坂さんと園田さんを見る。
「初めまして、よね?」
「はい! 高坂穂乃果です!」
「園田海未です。突然お邪魔して申し訳ありません」
「そんなに畏まらなくて大丈夫よ。拓海のお友達なら歓迎するわ」
「ありがとうございます!」
「拓海が女の子を三人も連れて帰ってくるなんてねぇ」
「母さん」
「何?」
「変な言い方しないで」
「事実でしょう?」
「言い方の問題だって」
母さんが笑う。
横を見ると、南さんまで口元を押さえていた。
「南さんも笑わないでよ」
「ごめんね」
「絶対面白がってるでしょ」
「ちょっとだけ♪」
「ほら」
「ことりちゃん、やっぱりよく来てるんだ」
高坂さんが言う。
「うん。時々ね」
「へえ~」
なぜか俺を見る。
「何?」
「別に?」
なんなんだ。
◇
せっかくなので、三人に店の中を簡単に案内することにした。
既製品の服だけではなく、糸やボタン、生地、補修に使うものも置いてある。
「これ全部ボタン?」
「そう。大きさとか素材で色々あるよ」
「こんなに種類があるんですね」
園田さんが棚を興味深そうに眺める。
「水瀬君は、どこに何があるか全部分かるのですか?」
「大体は。小さいころから店にいるから」
「すごいね」
「慣れてるだけだよ」
「でも水瀬君、こういうの詳しいよ」
南さんが横から言う。
「ことりがポーチ作ったときも、色々教えてくれたもん」
「そうなのですか」
「生地とか型紙とか、ファスナーの付け方とか」
「全部じゃないよ。作ったのは南さんだし」
「それでも教えてもらわなかったら作れなかったよ?」
「まあ、最初だからね」
そんな話をしていると、高坂さんが少し離れた棚の前で声を上げた。
「ねえ、これ可愛い!」
手にしていたのは、小さな飾りボタンだった。
「本当だ。穂乃果ちゃん好きそう」
南さんも横から覗き込む。
「でしょ?」
「それ、何に使うの?」
俺が聞くと、高坂さんの動きが止まった。
「……考えてなかった」
「だと思った」
「でも可愛いからいいの!」
「うん、分かるよ」
南さんがすぐに頷く。
「使い道が決まってなくても、可愛いボタンとか生地を見ると欲しくなるよね」
「だよね、ことりちゃん!」
「うん。見てると、これで何か作れないかなって考えたくなるの」
「ほら、水瀬君!」
「なんで俺が責められてるの?」
「分かってないから!」
「俺だって気持ちは分かるよ。ただ、高坂さんの場合、買って満足しそうだなって」
「そんなことないよ!」
「では穂乃果、そのボタンで何を作るのですか?」
園田さんに尋ねられ、高坂さんが再び固まった。
「……これから考える」
「やはり何も決まっていないではありませんか」
「海未ちゃんまで!」
南さんがくすくす笑う。
「じゃあ穂乃果ちゃん、一緒に何に使うか考えよっか」
「ことりちゃーん!」
高坂さんが嬉しそうに南さんへ抱きつく。
「もう、穂乃果ちゃん」
「高坂さん、商品あるんだから気をつけてよ」
「水瀬君は細かいなぁ」
「店の中では普通だよ」
「それは水瀬君が正しいです」
「海未ちゃんまで水瀬君側!?」
「側も何もないでしょう」
賑やかだ。
でも、嫌じゃない。
◇
「拓海」
「ん?」
しばらくして、母さんが作業場から袋を持って出てきた。
「この端切れ、もう使わないから片付けておいてくれる?」
「分かった」
受け取った袋の中には、仕立てや直しで余った小さな生地がいくつも入っている。
「あ」
真っ先に反応したのは南さんだった。
「これ、練習に使ってもいいですか?」
「ええ。捨てる予定だったものだから、好きに使っていいわよ」
「ありがとうございます」
目が輝いている。
この顔は最近よく見るようになった。
「南さん、今日何か作るつもり?」
「ちょっとだけ……だめ?」
「園田さん、部活あるんじゃなかった?」
「あ」
南さんも思い出したらしい。
園田さんが時計を見る。
「まだ少し余裕はありますが、あまり長居はできませんね」
「じゃあ簡単なの!」
今度は高坂さんが手を挙げた。
「私も何か作ってみたい!」
「急だなぁ」
「だめ?」
「駄目じゃないけど……」
袋の中を見る。
短時間で、初めてでも作れるもの。
「コースターくらいならできるかな」
「コースター?」
「四角い布を合わせて縫うだけ。基本の練習にもなるよ」
「やる!」
「私も挑戦してみたいです」
園田さんまで乗ってきた。
「海未ちゃんも?」
「せっかくですから」
「じゃあ四人でやろう!」
「俺も数に入ってるの?」
「水瀬君が一番上手なんだから当たり前だよ!」
「どういう理屈?」
「ことりも手伝うよ」
「じゃあ水瀬君とことりちゃんが先生ね!」
「だから先生じゃないって」
どうやら決定らしい。
◇
四人で作業台を囲む。
まずは端切れの中から好きなものを選ぶ。
「高坂さん、一人で広げすぎないでよ」
「選んでるだけだよ!」
「穂乃果、使わないものは戻してください」
「海未ちゃんまで……」
「ほら、これなんて?」
「可愛い!」
南さんが高坂さんと一緒に生地を選び始める。
一方、園田さんは落ち着いた色のものを二枚手にしていた。
「水瀬君、この組み合わせはどうでしょう?」
「いいと思う。厚さも同じくらいだから縫いやすいよ」
「では、これにします」
「決めるの早いね」
「いつまでも悩んでいても仕方ありませんから」
南さんを見る。
まだ悩んでいる。
「……聞かれたら怒られそうだから何も言わないでおこう」
「聞こえてるよ、水瀬君」
「小声だったのに」
「近いもん」
結局、南さんは二種類の生地を組み合わせることにした。
「コースターでも凝るんだね」
「せっかくだから可愛くしたいの」
「難しくなるよ?」
「分からなくなったら教えてね」
「最初から俺を当てにしてない?」
「だめ?」
「駄目じゃないけど」
「じゃあ大丈夫♪」
こういうところは強い。
◇
作業を始めると、三人の性格の違いがよく分かった。
「水瀬君、次どうするの?」
「高坂さん、さっき説明したよね?」
「聞いたよ?」
「じゃあ何で聞くの?」
「忘れた!」
「早いって」
高坂さんは勢いがある。
決して不器用ではないけれど、先へ進みたがるせいで少し雑になりやすい。
「ここを合わせてから留めるの。先に縫ったらずれるよ」
「あ、そっか」
「ゆっくりでいいから」
「はーい」
一方で。
「園田さん、そこ大丈夫?」
「はい。ここを折り返してから縫えばよいのですよね?」
「そう。合ってる」
「分かりました」
園田さんは慎重だった。
一度説明すると、確認しながら丁寧に進めていく。
「海未ちゃん、上手!」
「まだ途中ですよ」
「でも綺麗!」
「穂乃果も手を動かしてください」
「はーい……」
そして南さんは。
「……」
「南さん?」
「ここの角、もう少し綺麗にしたい」
「気になる?」
「うん」
「なら一回ほどく?」
「そうする」
「やっぱりそこ直すんだ」
「だって気になるもん」
この前のポーチと同じだ。
細かいところまで自分が納得する形にしたがる。
三人とも全然違う。
見ているだけでも面白かった。
◇
「できたー!」
最初に声を上げたのは高坂さんだった。
完成したコースターを両手で掲げる。
「穂乃果、店の中ですよ」
「だってできたんだよ!」
「見せて」
「はい!」
受け取って確認する。
少し歪んでいる。
でも初めてなら十分だ。
「ちゃんとできてるよ」
「ほんと!?」
「うん。次はもう少しゆっくり縫けばもっと綺麗になると思う」
「次も作っていいの?」
「そこに食いつくんだ」
「だって楽しかった!」
園田さんのものは、予想通り丁寧に仕上がっていた。
「園田さん、初めてにしては上手だね」
「ありがとうございます。思っていたより楽しいものですね」
「でしょ?」
南さんが自分のことのように嬉しそうに言う。
「ことりが最近こちらへ来ている理由が、少し分かった気がします」
「ほんと?」
「はい」
「また来ようよ、海未ちゃん!」
「毎回お邪魔するわけにはいかないでしょう」
「別にいいよ」
俺が答えると、園田さんがこちらを見る。
「よろしいのですか?」
「店の邪魔にならない日ならね。駄目な日は母さんが普通に駄目って言うし」
「そういうこと」
いつの間にか、作業場の入り口に母さんが立っていた。
「また遊びにいらっしゃい」
「いいんですか!?」
「もちろん。ただし、今度はお店のお手伝いをお願いするかもしれないわよ?」
「やります!」
「穂乃果、勝手に返事をしないでください」
「海未ちゃんもやろうよ」
「なぜ私まで決定しているのですか……」
母さんが楽しそうに笑う。
俺もつられて笑った。
◇
夕方。
「今日はありがとう、水瀬君!」
「お邪魔しました」
「うん。また学校で」
高坂さんと園田さんが先に店を出る。
南さんもその後を追いかけるかと思ったが、店先で一度足を止めた。
「南さん?」
「今日は楽しかったね」
「うん。思ったより賑やかだったけど」
「穂乃果ちゃんがいたからね」
「それ本人の前で言ったら怒られるよ」
「ふふっ」
南さんが店の中を振り返る。
「ことりね、ここに来るの好き」
「知ってる」
「もう」
「だって結構来てるじゃん」
「そうだけど……」
少しだけ間を置いてから、南さんは笑った。
「穂乃果ちゃんと海未ちゃんも来られてよかった」
「俺も楽しかったよ」
「うん。でもね」
「?」
「また今度、二人でも何か作ろうね」
特別なことを言っているような様子ではなかった。
たぶん南さんにとっては、この前のポーチ作りの続き。
俺にとっても、それでいい。
「もちろん。次に作るもの決まった?」
「まだ内緒」
「もう考えてるんだ」
「うん♪」
「難しすぎるのは禁止ね」
「分かってるよ~」
「本当に?」
「ほんと」
たぶん怪しい。
「じゃあ、また明日」
「うん。また明日」
南さんが手を振り、先に行った二人を追いかけていった。
◇
水瀬洋装店は、俺にとっては昔からある家の店だ。
珍しい場所でもない。
毎日見てきた、当たり前の場所。
そこへ南さんが来るようになった。
そして今日、高坂さんと園田さんも初めてやって来た。
だからといって、ここが四人だけの特別な場所になるわけじゃない。
高坂さんには高坂さんの家がある。
園田さんにも。
南さんにも。
学校で過ごす時間もあれば、外へ遊びに行くことだってあるだろう。
それでも。
俺にとって当たり前だった場所を、友達が知ってくれた。
時々ここへ集まって、話したり、何か作ったりする。
そんな場所が一つ増えるのは、悪くない。
「みんなの場所……ってほどじゃないか」
思わず呟いてから、自分で少し恥ずかしくなる。
「拓海ー。片付け手伝って」
「今行く!」
母さんに呼ばれ、俺は店の奥へ戻った。
明日になれば、また学校。
今日とは違う場所で。
またいつもの四人や、クラスの連中と過ごす一日が始まる。
また出来たは投稿します。
では、また∠( ゚д゚)