続き書けたで候。
では、どうぞ∠( ゚д゚)/
休日。
「水瀬君、こっちこっち!」
「見えてるよ」
待ち合わせ場所へ着くと、高坂さんが大きく手を振っていた。
その隣には南さんと園田さんもいる。
「ごめん。待った?」
「ううん。ことりたちも今来たところ」
「私はもう少し早く来るつもりだったのですが……」
園田さんが高坂さんを見る。
「何?」
「穂乃果が家を出る直前になって財布がないと言い出しまして」
「ちゃんと見つかったからいいじゃん!」
「そういう問題ではありません」
「朝から大変だったんだね」
「水瀬君まで!」
相変わらずだ。
今日は四人で秋葉原へ遊びに来ていた。
特別な目的があるわけじゃない。
高坂さんが「四人でどこか遊びに行こう」と言い出したのが始まりだった。
「じゃあ行こ!」
「高坂さん、どこ行くか決めてるの?」
「……」
「決めてないんだ」
「これから決めればいいんだよ!」
「穂乃果らしいですね」
「海未ちゃん、それ褒めてる?」
「どうでしょう」
南さんがくすくす笑う。
「とりあえず歩いてみよっか」
「賛成!」
こうして、行き先もろくに決めないまま四人で歩き始めた。
◇
休日の秋葉原は人が多い。
俺にとっては前世でも馴染みのある街だった。
もちろん、同じ秋葉原でも記憶の中とは少し違う。それでも、人の多さや店先から聞こえる音、あちこちに並ぶ看板を眺めていると、不思議な感覚になる。
「水瀬君?」
「ん?」
「さっきからキョロキョロしてる」
隣を歩いていた南さんに言われた。
「人多いなと思って」
「そう?」
「南さんは慣れてる?」
「穂乃果ちゃんたちと来ることあるから」
「なるほど」
「水瀬君はあんまり来ないの?」
「来ることはあるよ。店の買い物に付き合ったりとか」
嘘ではない。
ただ、俺にとってこの街が初めてではない理由は、それだけじゃない。
「二人ともー!」
前から高坂さんの声が飛んでくる。
「置いてくよ!」
「高坂さんたちが先に行ってるんでしょ」
「早く早く!」
「穂乃果、走らないでください!」
「はーい!」
返事だけはいい。
「行こっか」
「うん」
南さんと少し歩調を速めた。
◇
しばらく歩いたところで、ゲームを扱っている店に入った。
新作や中古のソフトが並ぶ棚を何となく眺めていると、見覚えのあるパッケージが目に入る。
「あ、これか」
「水瀬君、知ってるの?」
近くにいた南さんが覗き込んできた。
「佐藤が面白いって言ってたやつ」
「佐藤君って、前の席の?」
「そう。最近よく勧めてくるんだよ」
「へえ~」
そこへ高坂さんも顔を覗かせる。
「どんなゲーム?」
「何人かで一緒に遊べるみたい」
「みんなで遊べるんだ!」
「うん。佐藤は友達とやってるって」
「楽しそう!」
高坂さんは興味を持ったのか、パッケージの裏側を眺める。
「ことりちゃん、こういうのやる?」
「ことりはあんまりやらないかなぁ」
「私もほとんど経験がありませんね」
園田さんも横から覗き込んだ。
「水瀬君は?」
「俺も今はそんなに。でも佐藤から話聞いてたらちょっと興味出てきた」
「じゃあ買うの?」
「今日は見るだけ。買うならもう少し調べてからかな」
「そっか」
高坂さんはパッケージを棚へ戻すと、今度は隣に並んでいた別のゲームを見て「あっ」と声を上げた。
「これ知ってる!」
「高坂さん、ゲームするの?」
「私はあんまりしないけど、雪穂がやってるの見たことあるよ」
「雪穂?」
「あ、そっか。水瀬君は知らないんだ」
高坂さんがこちらを向く。
「私の妹。高坂雪穂!」
「妹いるんだ」
「うん。二つ下だよ」
――知ってる。
高坂雪穂。
前世の俺なら、名前どころか顔まで知っている。
けれど、今の俺は高坂さん本人から妹の話を聞いたことがない。
「へえ。高坂さんと似てる?」
「んー、どうだろ?」
「似ているところもありますが、雪穂の方がしっかりしているかもしれませんね」
「海未ちゃん!?」
園田さんの一言に、高坂さんが勢いよく振り返った。
「そこは『穂乃果の方がお姉ちゃんらしいです』って言うところじゃない!?」
「嘘を言うわけにはいきません」
「ひどい!」
「でも穂乃果ちゃん、ちゃんとお姉ちゃんしてるときもあるよ?」
「ことりちゃーん!」
「『ときも』と言っていますよ」
「海未ちゃんは黙ってて!」
高坂さんが南さんに抱きつく。
南さんは困ったように笑いながらも、特に嫌がる様子はない。
昔からこうなんだろう。
そんな三人を眺めながら、俺も少しだけ笑った。
「じゃあ、そのゲームも妹さんが?」
「うん。家でやってたのを横から見てただけだけどね」
「なるほど」
「今度、水瀬君も会うかもね」
「そうかもね」
高坂さんの家へ遊びに行くことがあれば、その可能性もある。
俺が知っていることと、今の俺が知っていていいことは同じじゃない。
高坂雪穂という女の子を知っていても、今の俺はまだ彼女に会ったことがない。
その線引きだけは、忘れないようにしないとな。
◇
昼。
「お腹すいたー」
「先ほど何か食べていませんでしたか?」
「あれはおやつ!」
「まだ昼前でしたよね?」
「おやつはおやつだよ」
「意味が分かりません」
結局、近くの店へ入ることになった。
四人掛けの席に座り、メニューを開く。
「どれにしよう……」
高坂さんが真剣な顔で悩んでいる。
「穂乃果、先ほどお腹が空いたと言っていたではありませんか」
「だから悩むんだよ!」
「そういうものなの?」
俺が聞く。
「そういうものだよ!」
「水瀬君」
向かいに座った南さんがメニューをこちらへ向けた。
「これ美味しそうじゃない?」
「どれ?」
「これ」
「ああ、いいね」
「でもこっちも気になるの」
「じゃあ二人で違うの頼んで、少し交換する?」
「いいの?」
「俺もそっち気になるし」
「じゃあそうしよっか」
「ちょっと待って!」
高坂さんが割り込んできた。
「何?」
「ことりちゃんだけずるい!」
「何が?」
「交換するなら穂乃果も!」
「じゃあ高坂さんも違うの頼めば?」
「その手があった!」
「最初からそれでいいでしょう」
園田さんがため息をつく。
結局、四人で別々のものを頼んで、少しずつ味見することになった。
◇
昼食を終えて、また街を歩く。
「あ」
南さんが足を止めた。
視線の先には洋服店がある。
「見たい?」
「……いい?」
「俺に聞かなくても」
「だって今日は四人だもん」
南さんが高坂さんと園田さんを見る。
「いいよ!」
「私は構いません」
「ありがとう」
店へ入る。
そこから先は、自然と俺と南さんが話す時間が増えた。
「水瀬君、これどう思う?」
「形は可愛いけど、生地ちょっと薄いね」
「やっぱり?」
「こっちは?」
「ことりはこっちの方が好き」
「俺もそっちかな」
南さんは服を眺めながら、今度は袖口についている飾りに目を留める。
「あ、このボタン可愛い」
「南さん、ボタン好きだよね」
「だって可愛いもん」
「前にも聞いたな、それ」
「いいでしょ?」
服を一着ずつ眺めるだけじゃない。
縫い目を見たり、使われている生地を見たり、装飾の付け方を見たり。
南さんは前より細かいところを見るようになっていた。
「この袖ってどうやって作ってるのかな」
「たぶんここで切り替えて――」
「あ、そっか」
「でも家でやるなら少し簡単にした方がいいかも」
「できる?」
「似た感じなら」
「今度教えて」
「また難しいの作るつもり?」
「まだ作るって決めてないよ」
「その顔は作りたそうだけど」
「分かる?」
「最近はね」
「ふふっ」
そんな会話をしていると。
「海未ちゃん」
「何ですか?」
「二人とも長くない?」
「長いですね」
少し離れたところで高坂さんと園田さんがこちらを見ていた。
「あ」
「ごめん」
「ことりちゃん、水瀬君とずっと服見てる!」
「えっ?」
「高坂さんたちも見ればいいじゃん」
「だって二人とも難しい話してるんだもん」
「難しくないよ~」
「私には十分難しく聞こえましたが」
園田さんまで言うので、南さんが少し困ったように笑う。
「海未ちゃんは何か見ないの?」
「私は……そうですね」
園田さんが店内を見渡す。
「せっかくですから、少し見てみましょうか」
「じゃあ海未ちゃんに似合いそうなの探そう!」
「穂乃果、なぜあなたが決めるのですか」
「これとか!」
「話を聞いてください!」
今度は高坂さんが園田さんを連れていく。
南さんが俺の横で笑った。
「穂乃果ちゃん、楽しそう」
「園田さんは大変そうだけど」
「海未ちゃんも嫌だったらちゃんと言うから大丈夫だよ」
「なるほど」
そこは幼馴染だから分かることなのだろう。
「私たちも行こっか」
「うん」
俺たちも二人を追いかけた。
◇
店を出てからも、四人で色々なところを回った。
高坂さんが気になった店へ入ったり、園田さんが本屋で足を止めたり。俺がゲームを見ている間に三人が別の棚を見ていることもあった。
ずっと四人で固まっているわけじゃない。
二人になったり、三人になったり。
また四人に戻ったり。
高坂さんと園田さんだけで話していることもあれば、俺と園田さんが高坂さんの行動に揃ってため息をつくこともある。
南さんが高坂さんと二人で何かを見に行って、俺が一人で待つことだってあった。
俺が三人の幼馴染の輪に無理やり入ったわけでも、三人が俺に合わせてくれているだけでもない。
少しずつ。
四人でいること自体が、普通になってきている。
そんな気がした。
◇
「楽しかったー!」
夕方。
駅の近くまで戻ってきたところで、高坂さんが大きく伸びをした。
「歩き疲れました」
「海未ちゃん、体力あるのに?」
「体力の問題ではありません。穂乃果があちこち行きたがるからです」
「だって色々あったんだもん」
「でも楽しかったね」
南さんが言う。
「うん」
俺も頷いた。
誰かと休日に遊びに行く。
今の俺にとっても、そういう当たり前の時間が少しずつ増えている。
「そうだ!」
突然、高坂さんが声を上げた。
「水瀬君、今度うちにも来る?」
「高坂さんの家?」
「うん! ことりちゃんと海未ちゃんは何回も来てるし」
「確かに、水瀬君だけまだ来たことないもんね」
南さんも頷く。
「先ほど雪穂の話もしましたし、ちょうどいいかもしれませんね」
「海未ちゃん、それ関係ある?」
「多少はあるでしょう」
「そうかなぁ?」
高坂さんは首を傾げたあと、すぐに俺を見る。
「それで、どう?」
「いいの?」
「もちろん! うち、お店もやってるから。お饅頭もあるよ!」
「高坂さんが作るの?」
「お母さんたちが!」
「そこは自分じゃないんだ」
「穂乃果もお手伝いしてるよ!」
「つまみ食いの間違いでは?」
「海未ちゃん!」
また始まった。
思わず笑ってしまう。
「じゃあ、お邪魔しようかな」
「決まり!」
高坂さんが嬉しそうに笑う。
「今度みんなでうちに来よう!」
高坂さんの家。
つまり、穂むら。
そして、おそらくそこで雪穂とも会う。
俺にとっては知っている場所で、知っている人。
けれど今の俺にとっては、どちらも初めてだ。
「楽しみにしてるよ」
「うん!」
高坂さんと園田さんが先に歩き出す。
俺も帰ろうとしたところで。
「水瀬君」
「ん?」
南さんがまだ隣にいた。
「今日はありがとう」
「俺、別に何もしてないよ」
「服のお店、一緒に見てくれたから」
「俺も見たかったし」
「うん」
南さんは少し考えるように視線を落とした。
「水瀬君と服見るの、楽しいね」
「俺も楽しいよ。南さんは見るところが細かいから話しやすいし」
「ほんと?」
「うん」
「じゃあ……」
南さんが顔を上げる。
「今度、二人でも見に行かない?」
「二人で?」
「うん。今日のお店みたいなところ。ほかにも見てみたいなって」
――二人で。
その言葉だけが、妙にはっきり耳に残った。
南さんに深い意味がないことくらい分かっている。
服が好きな友達と、服を見に行く。
きっと、それだけだ。
それなのに。
「……いいよ」
「ほんと?」
「俺も行きたい店あるし」
「じゃあ決まり」
「いつ行く?」
「また学校で決めよっか」
「うん」
南さんが嬉しそうに笑った。
「じゃあ、また月曜日」
「また月曜日」
今度こそ別れる。
少し歩いてから、一度だけ振り返った。
南さんはもう高坂さんたちのところまで追いついている。
俺たちは今日、四人で遊びに来た。
次は、高坂さんの家に四人で。
そして、それとは別に。
南さんとは二人で。
「……二人か」
口に出してみると、さっきより少しだけ意識してしまう。
友達と遊びに行くだけ。
今は、それでいい。
そう自分に言い聞かせながら、俺は家への道を歩き始めた。
また出来たら投稿します。
では、また∠( ゚д゚)