隣の席は南ことり   作:Gussan0

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どうもΣ(゚Д゚)

続き書けたで候。

では、どうぞ∠( ゚д゚)/


第九話 四人でお出かけ

 休日。

 

「水瀬君、こっちこっち!」

 

「見えてるよ」

 

 待ち合わせ場所へ着くと、高坂さんが大きく手を振っていた。

 

 その隣には南さんと園田さんもいる。

 

「ごめん。待った?」

 

「ううん。ことりたちも今来たところ」

 

「私はもう少し早く来るつもりだったのですが……」

 

 園田さんが高坂さんを見る。

 

「何?」

 

「穂乃果が家を出る直前になって財布がないと言い出しまして」

 

「ちゃんと見つかったからいいじゃん!」

 

「そういう問題ではありません」

 

「朝から大変だったんだね」

 

「水瀬君まで!」

 

 相変わらずだ。

 

 今日は四人で秋葉原へ遊びに来ていた。

 

 特別な目的があるわけじゃない。

 

 高坂さんが「四人でどこか遊びに行こう」と言い出したのが始まりだった。

 

「じゃあ行こ!」

 

「高坂さん、どこ行くか決めてるの?」

 

「……」

 

「決めてないんだ」

 

「これから決めればいいんだよ!」

 

「穂乃果らしいですね」

 

「海未ちゃん、それ褒めてる?」

 

「どうでしょう」

 

 南さんがくすくす笑う。

 

「とりあえず歩いてみよっか」

 

「賛成!」

 

 こうして、行き先もろくに決めないまま四人で歩き始めた。

 

 ◇

 

 休日の秋葉原は人が多い。

 

 俺にとっては前世でも馴染みのある街だった。

 

 もちろん、同じ秋葉原でも記憶の中とは少し違う。それでも、人の多さや店先から聞こえる音、あちこちに並ぶ看板を眺めていると、不思議な感覚になる。

 

「水瀬君?」

 

「ん?」

 

「さっきからキョロキョロしてる」

 

 隣を歩いていた南さんに言われた。

 

「人多いなと思って」

 

「そう?」

 

「南さんは慣れてる?」

 

「穂乃果ちゃんたちと来ることあるから」

 

「なるほど」

 

「水瀬君はあんまり来ないの?」

 

「来ることはあるよ。店の買い物に付き合ったりとか」

 

 嘘ではない。

 

 ただ、俺にとってこの街が初めてではない理由は、それだけじゃない。

 

「二人ともー!」

 

 前から高坂さんの声が飛んでくる。

 

「置いてくよ!」

 

「高坂さんたちが先に行ってるんでしょ」

 

「早く早く!」

 

「穂乃果、走らないでください!」

 

「はーい!」

 

 返事だけはいい。

 

「行こっか」

 

「うん」

 

 南さんと少し歩調を速めた。

 

 ◇

 

 しばらく歩いたところで、ゲームを扱っている店に入った。

 

 新作や中古のソフトが並ぶ棚を何となく眺めていると、見覚えのあるパッケージが目に入る。

 

「あ、これか」

 

「水瀬君、知ってるの?」

 

 近くにいた南さんが覗き込んできた。

 

「佐藤が面白いって言ってたやつ」

 

「佐藤君って、前の席の?」

 

「そう。最近よく勧めてくるんだよ」

 

「へえ~」

 

 そこへ高坂さんも顔を覗かせる。

 

「どんなゲーム?」

 

「何人かで一緒に遊べるみたい」

 

「みんなで遊べるんだ!」

 

「うん。佐藤は友達とやってるって」

 

「楽しそう!」

 

 高坂さんは興味を持ったのか、パッケージの裏側を眺める。

 

「ことりちゃん、こういうのやる?」

 

「ことりはあんまりやらないかなぁ」

 

「私もほとんど経験がありませんね」

 

 園田さんも横から覗き込んだ。

 

「水瀬君は?」

 

「俺も今はそんなに。でも佐藤から話聞いてたらちょっと興味出てきた」

 

「じゃあ買うの?」

 

「今日は見るだけ。買うならもう少し調べてからかな」

 

「そっか」

 

 高坂さんはパッケージを棚へ戻すと、今度は隣に並んでいた別のゲームを見て「あっ」と声を上げた。

 

「これ知ってる!」

 

「高坂さん、ゲームするの?」

 

「私はあんまりしないけど、雪穂がやってるの見たことあるよ」

 

「雪穂?」

 

「あ、そっか。水瀬君は知らないんだ」

 

 高坂さんがこちらを向く。

 

「私の妹。高坂雪穂!」

 

「妹いるんだ」

 

「うん。二つ下だよ」

 

 ――知ってる。

 

 高坂雪穂。

 

 前世の俺なら、名前どころか顔まで知っている。

 

 けれど、今の俺は高坂さん本人から妹の話を聞いたことがない。

 

「へえ。高坂さんと似てる?」

 

「んー、どうだろ?」

 

「似ているところもありますが、雪穂の方がしっかりしているかもしれませんね」

 

「海未ちゃん!?」

 

 園田さんの一言に、高坂さんが勢いよく振り返った。

 

「そこは『穂乃果の方がお姉ちゃんらしいです』って言うところじゃない!?」

 

「嘘を言うわけにはいきません」

 

「ひどい!」

 

「でも穂乃果ちゃん、ちゃんとお姉ちゃんしてるときもあるよ?」

 

「ことりちゃーん!」

 

「『ときも』と言っていますよ」

 

「海未ちゃんは黙ってて!」

 

 高坂さんが南さんに抱きつく。

 

 南さんは困ったように笑いながらも、特に嫌がる様子はない。

 

 昔からこうなんだろう。

 

 そんな三人を眺めながら、俺も少しだけ笑った。

 

「じゃあ、そのゲームも妹さんが?」

 

「うん。家でやってたのを横から見てただけだけどね」

 

「なるほど」

 

「今度、水瀬君も会うかもね」

 

「そうかもね」

 

 高坂さんの家へ遊びに行くことがあれば、その可能性もある。

 

 俺が知っていることと、今の俺が知っていていいことは同じじゃない。

 

 高坂雪穂という女の子を知っていても、今の俺はまだ彼女に会ったことがない。

 

 その線引きだけは、忘れないようにしないとな。

 

 ◇

 

 昼。

 

「お腹すいたー」

 

「先ほど何か食べていませんでしたか?」

 

「あれはおやつ!」

 

「まだ昼前でしたよね?」

 

「おやつはおやつだよ」

 

「意味が分かりません」

 

 結局、近くの店へ入ることになった。

 

 四人掛けの席に座り、メニューを開く。

 

「どれにしよう……」

 

 高坂さんが真剣な顔で悩んでいる。

 

「穂乃果、先ほどお腹が空いたと言っていたではありませんか」

 

「だから悩むんだよ!」

 

「そういうものなの?」

 

 俺が聞く。

 

「そういうものだよ!」

 

「水瀬君」

 

 向かいに座った南さんがメニューをこちらへ向けた。

 

「これ美味しそうじゃない?」

 

「どれ?」

 

「これ」

 

「ああ、いいね」

 

「でもこっちも気になるの」

 

「じゃあ二人で違うの頼んで、少し交換する?」

 

「いいの?」

 

「俺もそっち気になるし」

 

「じゃあそうしよっか」

 

「ちょっと待って!」

 

 高坂さんが割り込んできた。

 

「何?」

 

「ことりちゃんだけずるい!」

 

「何が?」

 

「交換するなら穂乃果も!」

 

「じゃあ高坂さんも違うの頼めば?」

 

「その手があった!」

 

「最初からそれでいいでしょう」

 

 園田さんがため息をつく。

 

 結局、四人で別々のものを頼んで、少しずつ味見することになった。

 

 ◇

 

 昼食を終えて、また街を歩く。

 

「あ」

 

 南さんが足を止めた。

 

 視線の先には洋服店がある。

 

「見たい?」

 

「……いい?」

 

「俺に聞かなくても」

 

「だって今日は四人だもん」

 

 南さんが高坂さんと園田さんを見る。

 

「いいよ!」

 

「私は構いません」

 

「ありがとう」

 

 店へ入る。

 

 そこから先は、自然と俺と南さんが話す時間が増えた。

 

「水瀬君、これどう思う?」

 

「形は可愛いけど、生地ちょっと薄いね」

 

「やっぱり?」

 

「こっちは?」

 

「ことりはこっちの方が好き」

 

「俺もそっちかな」

 

 南さんは服を眺めながら、今度は袖口についている飾りに目を留める。

 

「あ、このボタン可愛い」

 

「南さん、ボタン好きだよね」

 

「だって可愛いもん」

 

「前にも聞いたな、それ」

 

「いいでしょ?」

 

 服を一着ずつ眺めるだけじゃない。

 

 縫い目を見たり、使われている生地を見たり、装飾の付け方を見たり。

 

 南さんは前より細かいところを見るようになっていた。

 

「この袖ってどうやって作ってるのかな」

 

「たぶんここで切り替えて――」

 

「あ、そっか」

 

「でも家でやるなら少し簡単にした方がいいかも」

 

「できる?」

 

「似た感じなら」

 

「今度教えて」

 

「また難しいの作るつもり?」

 

「まだ作るって決めてないよ」

 

「その顔は作りたそうだけど」

 

「分かる?」

 

「最近はね」

 

「ふふっ」

 

 そんな会話をしていると。

 

「海未ちゃん」

 

「何ですか?」

 

「二人とも長くない?」

 

「長いですね」

 

 少し離れたところで高坂さんと園田さんがこちらを見ていた。

 

「あ」

 

「ごめん」

 

「ことりちゃん、水瀬君とずっと服見てる!」

 

「えっ?」

 

「高坂さんたちも見ればいいじゃん」

 

「だって二人とも難しい話してるんだもん」

 

「難しくないよ~」

 

「私には十分難しく聞こえましたが」

 

 園田さんまで言うので、南さんが少し困ったように笑う。

 

「海未ちゃんは何か見ないの?」

 

「私は……そうですね」

 

 園田さんが店内を見渡す。

 

「せっかくですから、少し見てみましょうか」

 

「じゃあ海未ちゃんに似合いそうなの探そう!」

 

「穂乃果、なぜあなたが決めるのですか」

 

「これとか!」

 

「話を聞いてください!」

 

 今度は高坂さんが園田さんを連れていく。

 

 南さんが俺の横で笑った。

 

「穂乃果ちゃん、楽しそう」

 

「園田さんは大変そうだけど」

 

「海未ちゃんも嫌だったらちゃんと言うから大丈夫だよ」

 

「なるほど」

 

 そこは幼馴染だから分かることなのだろう。

 

「私たちも行こっか」

 

「うん」

 

 俺たちも二人を追いかけた。

 

 ◇

 

 店を出てからも、四人で色々なところを回った。

 

 高坂さんが気になった店へ入ったり、園田さんが本屋で足を止めたり。俺がゲームを見ている間に三人が別の棚を見ていることもあった。

 

 ずっと四人で固まっているわけじゃない。

 

 二人になったり、三人になったり。

 

 また四人に戻ったり。

 

 高坂さんと園田さんだけで話していることもあれば、俺と園田さんが高坂さんの行動に揃ってため息をつくこともある。

 

 南さんが高坂さんと二人で何かを見に行って、俺が一人で待つことだってあった。

 

 俺が三人の幼馴染の輪に無理やり入ったわけでも、三人が俺に合わせてくれているだけでもない。

 

 少しずつ。

 

 四人でいること自体が、普通になってきている。

 

 そんな気がした。

 

 ◇

 

「楽しかったー!」

 

 夕方。

 

 駅の近くまで戻ってきたところで、高坂さんが大きく伸びをした。

 

「歩き疲れました」

 

「海未ちゃん、体力あるのに?」

 

「体力の問題ではありません。穂乃果があちこち行きたがるからです」

 

「だって色々あったんだもん」

 

「でも楽しかったね」

 

 南さんが言う。

 

「うん」

 

 俺も頷いた。

 

 誰かと休日に遊びに行く。

 

 今の俺にとっても、そういう当たり前の時間が少しずつ増えている。

 

「そうだ!」

 

 突然、高坂さんが声を上げた。

 

「水瀬君、今度うちにも来る?」

 

「高坂さんの家?」

 

「うん! ことりちゃんと海未ちゃんは何回も来てるし」

 

「確かに、水瀬君だけまだ来たことないもんね」

 

 南さんも頷く。

 

「先ほど雪穂の話もしましたし、ちょうどいいかもしれませんね」

 

「海未ちゃん、それ関係ある?」

 

「多少はあるでしょう」

 

「そうかなぁ?」

 

 高坂さんは首を傾げたあと、すぐに俺を見る。

 

「それで、どう?」

 

「いいの?」

 

「もちろん! うち、お店もやってるから。お饅頭もあるよ!」

 

「高坂さんが作るの?」

 

「お母さんたちが!」

 

「そこは自分じゃないんだ」

 

「穂乃果もお手伝いしてるよ!」

 

「つまみ食いの間違いでは?」

 

「海未ちゃん!」

 

 また始まった。

 

 思わず笑ってしまう。

 

「じゃあ、お邪魔しようかな」

 

「決まり!」

 

 高坂さんが嬉しそうに笑う。

 

「今度みんなでうちに来よう!」

 

 高坂さんの家。

 

 つまり、穂むら。

 

 そして、おそらくそこで雪穂とも会う。

 

 俺にとっては知っている場所で、知っている人。

 

 けれど今の俺にとっては、どちらも初めてだ。

 

「楽しみにしてるよ」

 

「うん!」

 

 高坂さんと園田さんが先に歩き出す。

 

 俺も帰ろうとしたところで。

 

「水瀬君」

 

「ん?」

 

 南さんがまだ隣にいた。

 

「今日はありがとう」

 

「俺、別に何もしてないよ」

 

「服のお店、一緒に見てくれたから」

 

「俺も見たかったし」

 

「うん」

 

 南さんは少し考えるように視線を落とした。

 

「水瀬君と服見るの、楽しいね」

 

「俺も楽しいよ。南さんは見るところが細かいから話しやすいし」

 

「ほんと?」

 

「うん」

 

「じゃあ……」

 

 南さんが顔を上げる。

 

「今度、二人でも見に行かない?」

 

「二人で?」

 

「うん。今日のお店みたいなところ。ほかにも見てみたいなって」

 

 ――二人で。

 

 その言葉だけが、妙にはっきり耳に残った。

 

 南さんに深い意味がないことくらい分かっている。

 

 服が好きな友達と、服を見に行く。

 

 きっと、それだけだ。

 

 それなのに。

 

「……いいよ」

 

「ほんと?」

 

「俺も行きたい店あるし」

 

「じゃあ決まり」

 

「いつ行く?」

 

「また学校で決めよっか」

 

「うん」

 

 南さんが嬉しそうに笑った。

 

「じゃあ、また月曜日」

 

「また月曜日」

 

 今度こそ別れる。

 

 少し歩いてから、一度だけ振り返った。

 

 南さんはもう高坂さんたちのところまで追いついている。

 

 俺たちは今日、四人で遊びに来た。

 

 次は、高坂さんの家に四人で。

 

 そして、それとは別に。

 

 南さんとは二人で。

 

「……二人か」

 

 口に出してみると、さっきより少しだけ意識してしまう。

 

 友達と遊びに行くだけ。

 

 今は、それでいい。

 

 そう自分に言い聞かせながら、俺は家への道を歩き始めた。




また出来たら投稿します。

では、また∠( ゚д゚)
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