筋肉無双~みんなはいつも俺に笑顔を向ける~ 作:ビスケッチュⅡ世
「……で。これからどうするの?ジョー兄ぃ。一緒に末永くここで暮らしてく?」
ムーンがわざとらしく上目遣いをしながら囁く。
ジョーはそれに気づいてすらいない。
「それなんだけど……あの魔法使いが気になるんだ。」
「あー。俺が雇った魔法使いね。なんで?どっか逃げたんじゃないの?」
「彼とはまだ、きちんと話をしていなかったからな。どこかつらそうに見えた。」
彼は彼で、何かしら解消できていない想いを抱えているようだったのだ。
それを見て、放っておける性質をジョーは持っていなかった。
つらそうに見えた人間をけして放っておかず、その筋肉で壁を破壊しながら突き進む。
優しい誘導ミサイルとでもいうべきか。
「ほんと、お人好しだなジョー兄ぃは。……まあ、そういうとこが――」
「二人とも、お待たせしました。」
両手に料理の皿を持って、パイジィが現れた。
ムーンに厳しい笑顔を向けている。
抜け駆けはゆるさない、とのこと。
「お、コンテスト優勝者さんがいらっしゃったな。」
「お疲れ様、パイジィさん。さすがに全員分の料理は大変そうだったな」
「いえ、ギルさんも手伝ってくれましたから。」
すっと隣に座るパイジィ。
朝からずっと厨房に立ちっぱなしで流石に疲れたのだろう。
ほうっとため息をついた。
「しっかし、よかったよな……パイジィの汚名返上、ミール家は復権……ルギルブルク家はトレーニングジムの管理者に就任とはねえ」
「スカールの独断だったことが証明されましたから。曲がりなりにもその後の食料交易自体は真っ当だったことも減刑の理由になったみたいですね。」
「めでたしめでたし、世はなべてこともなしってことか。」
「ジョーさんも、ムーンも、本当にありがとうございました。」
「やめろよ、そういうの。……うれしいけどさ」
「ダークマターを食べるしかないあの日々を思えばこちらこそ感謝しかない」
結局、そういうことだった。
わかってみれば世間はすぐにパイジィの味方になったのだ。
王家から呼び出されたりなんだりもあったし、両親にちらっと会って泣いたりもしたが、そういうありきたりで幸せな結末だった。
注がれた果汁水をぐっと飲み干し、ジョーの方を見るパイジィ。
「それで、ジョーさんはあの魔法使いが気になるんですね」
「ああ。なんというか……放っておいてはいけないと俺の筋肉が言ってるんだ。」
「でも、手がかりとかって……」
「あーそれな。デイン……俺の仲間が教えてくれたよ。あの魔法使い、どうもアルカリアに向かったらしい」
「確かに、アルカリア魔導学院、とかって言ってたな……」
ムーンの貧民街時代からつるんでいた山賊仲間。
彼らは現在あちこちに散らばり、自分の生活をしながら情報を送ってくれているとのこと。
そのうちの一人が、あの魔法使いが酒場で叫んでいたのを聞いていたらしい。
魔導学院のわからずやに思い知らせてやる、とかなんとか。
「魔法研究が盛んなあの地域では、特殊な食材が多いと聞きます!」
「道中には面倒な場所もあるからな、気を付けねえと」
「……ん?二人とも……ついてくるのか?」
当たり前のように旅支度について話し始める二人に、ジョーは驚く。
もちろん、ついてきてくれること自体はうれしいが、この先の旅路は安全というわけにもいかないだろう。
しかし、その言葉を聞いて、二人はしかめ面になった。
「あのさ、ジョー兄ぃ。それはないだろ」
「そうですよ。人のことだけ助けて、自分はどっか行っちゃうんですか?」
「でも、もう二人とも危険はないだろ?俺についてきたら危ない目に――」
はあ、と息ぴったりのため息。
「ふーん。じゃあ道案内はいらないんだ。」
「へえ。じゃあ道中ずっとダークマターですね。」
「うっ……」
弱いところをつかれるジョー。
もう、断れる状況にはなかった。
「どうやら決定ですね。行きましょうか、ムーン、ジョーさん」
出発前にそろえておきたいものがあります、と立ち上がるパイジィ。
ムーンに手を差し出す。
さんきゅ、と言いながら手を握り、
「ほら、ジョー兄ぃ。パイジィについていこうぜ」
「……ふう。はは、そうだな。じゃあ……行こうか!」
ムーンも立ち上がり、ジョーに手を差し出した。
その手を握ったとき、きゃあ、とわざとらしい声を上げてムーンが倒れ、つられてパイジィも倒れてきて――
――顔を真っ赤にしてあわわ、と言っているパイジィ、楽しそうに目を細めて笑うムーン。
そんな二人をしっかりと抱きとめるジョー。
この三人の旅路は、これからも続いていく――