筋肉無双~みんなはいつも俺に笑顔を向ける~ 作:ビスケッチュⅡ世
「む……」
朝の光でジョーは目を開ける。
『暮らしの中に修行あり』。
そう言ったのは誰だったか。
眠るときも修行として片足立ちで眠るようにしていた。
周りには肉食系モンスターたちがその牙を折られて絶命している。
夜のうちにジョーを獲物だと思って噛みついてきたのだろうが、あまりの硬度に牙が折れたらしい。
そこに無意識で放たれたカウンターを食らったのだろう。
「ふむ……筋肉へのダメージは全くなし……と。無意識とはいえ、奪った命はきちんといただかなければ……」
合掌。
手早くモンスターたちを解体しながら、拠点づくりについて考える。
自分の肉体が異世界でもかなり強靭だということは既に疑う余地はない。
だが、それは無敵を意味するわけではないのだ。
葬式の時を思い出す。
みんなの泣いた顔……。
「……二度と、あの時のような思いをさせるわけにはいかん」
「俺には何ができて、何ができないのか。」
「……自分を救えない人間には、誰も救えない……」
準備に時間がかかっても、
時には出会ったモンスターと戦い、時には滝に打たれ、時には崖から飛び降り、どこまでいけるか自分の肉体の耐久性をテストしなければならない。
そのためには、ある程度安心できる拠点と、まとまった時間がいる。
「それに……ふうむ……」
相変わらず火にかけると生成されるダークマターを見てため息をつく。
結局、食事では常にダークマターしか作れていない。
先ほど捌いたモンスターの肉も、生ではとても食べられず、さりとて火にかければダークマター……。
「……つらいものがあるな、さすがに……」
あたりを見回す。
近くの木に実がなっているのを見つけた。
高い位置にあるが、関係ない。
「ふっ!」
軽くジャンプして、実をもぐ。
近くで見ると紅く色づいており、地球のリンゴに似ている。
顔を近づけると甘酸っぱい香りで、唾液腺を刺激する。
「いただきます」
一口。食感はリンゴよりナシに近い。
果汁も瑞々しく、そこまでであれば実に好ましい、のだが……
「……うっ……に……苦い……」
香りに反して味は漢方薬のような後を引く苦さで、とても笑顔で食べきれるものではなかった。
「……」
試しに火にかけてみる。
もちろんダークマターがこんにちは。
本日の献立はモンスター肉のダークマター焼き、果実のダークマター添えです。
ジョーはすっかり肩を落とした。
「う……う……はあ……」
なんとかカロリーを補給すると、天を仰ぐ。
正直生まれてきて一番キツいトレーニングである。
もしかすると、ここは異世界ではなく地獄なのかもしれない。
気を取り直し、早速拠点を作り始めたのだった。
~簡単☆マッスルクリエイト~
1:まずは材料集めです!
>木材、石材を可能な限りあつめましょう!
▼ジョー は 木 へ攻撃した!
▼木 は バラバラになった。木材 になった。
▼ジョー は 地面 へ攻撃した!
▼土 を手に入れた拍子に握力で石材 へ変化させた。
2:組み立てましょう!
>あなたのセンスを、爆発させましょう!
▼ジョー は 建築センス がない。
▼ジョー は 四角く 木で柵をつくった。
▼ジョー は 悩んでいる。
▼ジョー は 木を柱に、石材を壁にしようとしている。
▼バランスが 悪く 崩れてしまった。
▼ジョー は 悩んでいる。
▼ジョー は 悩んでいる。
▼ジョー は ひらめいた!
「きんにく せっちゃくざい を つかおう。」
▼ジョー は なんと 接合部 にすさまじい圧力をかけ、一体化させてしまった!
~ジョー は そまつなこや を手に入れた!~
というような経緯で、
森の中に、謎の接着技術で接地、形成されている小屋が出現した。
「ふう……かなりうまくできたな。」
なかなか悪くない、と本人は言っているが、どうみてもホラー映画で出てくるアレである。
とはいえ、これで拠点は確保できた。
「……次は、俺自身のテストだな」
……というわけで、とりあえず目についた崖に登って、ジャンプして落ちてみた。
常軌を逸している。
すさまじい音。そして、崖の下にできた穴から這い上がるジョー。
無傷である。
「おお……しかしこう、毎回破壊していてはキリがないな」
「もう一度やってみよう。次はなるべく優しくおりなければ……」
人間には許されないタイプの再チャレンジ。
今度は、先ほどよりも音が小さく、穴も浅い。
しかし、ジョーは満足していないようで、その後も何度かこれを繰り返していた。
常軌を逸している。
その甲斐あってか、完璧な着地制御を手に入れることができたのだった。
翌日。
朝起きて、モンスターの解体。
ダークマターをかじりながら、スペックの確認。
トレーニングで異世界の身体を制御していく。
そんな、どこかまったりしつつもツッコミ役不在の日々を繰り返していた、ある日の夜。
いつものようにダークマターをかじって、火の後始末を素手でやっていると、その声は聞こえてきた。
「誰か、誰か――」
「――助けてよ――」
その声が届いたとき、既にジョーの姿は消えていた。