「じゃあ、また来週ね」
そう言ってログアウトした。
それだけだった。
特別なことなんて、何もなかった。
いつものように集まって、
いつものように挨拶をして、
少しだけ雑談をしてから、それぞれの夜へ帰っていく。
誰かが遅れてきて、
「ごめん、リアルでちょっとバタバタしてた!」
と笑えば、
「大丈夫大丈夫」
と返す。
誰かがミスをすれば、
「今のは事故!」
なんて笑って。
うまくいけば、
「今日めっちゃ進んだじゃん!」
と、みんなで喜ぶ。
たぶん、あの頃の私たちは、
この時間がなくなるなんて考えたこともなかった。
固定というのは、
一度できてしまえば、ずっとそこにあるものだと思っていた。
来週も。
来月も。
次のパッチが来ても。
その次の零式が始まっても。
また同じ八人で集まって、
「よろしくお願いします」と言う。
そんな未来が、
当たり前みたいに続いていくと思っていた。
でも。
今振り返ると、
あの頃から少しずつ変わっていたことがあった。
誰かのログイン時間が、少しずつ遅くなっていた。
誰かが「最近ちょっと忙しくて」と言うことが増えていた。
誰かが、前より口数が少なくなっていた。
誰かは、もっと早くクリアしたかった。
誰かは、今のペースがちょうどよかった。
誰かには、固定以外にも大切な人たちがいた。
FCの仲間も。
CWLSの友達も。
一緒に遊びたい人も。
リアルの仕事も。
家族も。
恋人も。
それぞれに、それぞれの生活があった。
もちろん、みんな固定も大切だった。
だからこそ、
「どっちを選ぶの?」
なんて簡単な話ではなかった。
大切なものが一つしかなければ、
きっと迷わなかったのかもしれない。
でも、私たちはゲームの中だけで生きているわけじゃない。
誰かの「ちょっとだけ」が、
別の誰かにとっては「ずっと待っていた時間」だったりする。
誰かの「これくらいなら大丈夫」が、
別の誰かには「もう少しだけ我慢している」に見えたりする。
それでも、その時は誰も悪くなかった。
怒っていたわけでもない。
嫌いになったわけでもない。
ただ、
「まあ、これくらいなら」
と、小さな違和感を飲み込んでいた。
一つ。
また一つ。
そうやって積み重なったものが、
いつか大きなズレになるなんて知らないまま。
これは、
そんな八人のお話です。
攻略の話だけではありません。
上手い人も、そうじゃない人も。
固定を続けたい人も、
少し休みたい人も。
言いたいことを言える人も、
言えないまま笑ってしまう人も。
それぞれが、それぞれの事情を抱えながら、
同じ場所に集まっていた八人。
そして、その関係が少しずつ変わっていく一年間。
誰か一人が悪かったわけじゃない。
誰か一人のせいで壊れたわけでもない。
たぶん、
「もっと早く話していれば」
と思う瞬間は、何度もやってくる。
それでも最後には、
八人がそれぞれの場所で前を向けるように。
このお話は、FF14を舞台にした創作です。
実際のゲーム内の特定のプレイヤー・固定活動をモデルにしたものではありません。
ただ、FF14で遊んだことがある人なら、
「こういうこと、あるかも」
と思う瞬間が、
もしかしたら一つくらいあるかもしれません。
固定を組んだことがある人も。
誰かと一緒にゲームを続けてきた人も。
言いたいことを言えなかったことがある人も。
そして、
「楽しかったはずなのに、いつの間にか苦しくなっていた」
そんな経験をした人も。
これは、
そんな人たちに向けた物語です。
では、始めましょう。
八人がまだ、
何も知らなかった頃から。