「また来週、エオルゼアで。」   作:*いろは*

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第9話|決めていなかったこと

 

【挿絵表示】

 

 

次の日曜日。

 

固定の開始時間まで、あと少し。

 

ミナがログインすると、すでに何人かがゲーム内にいた。

 

FCでは、昨日の地図の話がまだ続いている。

 

『昨日楽しかったー!』

 

『次はミナも最初から来てねw』

 

「ごめんごめんw」

 

そんなやり取りをしていると、カイからVCのメッセージが届いた。

 

『今日、ちょっと話したいことある』

 

「ん?」

 

ミナが返事をする。

 

『固定のルール、決めない?』

 

「ああ……」

 

昨日のことを思い出す。

 

助っ人。

 

誰かが来られなかったとき、どうするのか。

 

確かに。

 

まだ何も決まっていなかった。

 


 

22時。

 

いつものように八人が集まる。

 

「お疲れー」

 

「こんばんは」

 

「今日は早かったね」

 

少し雑談をしたあと。

 

カイが切り出した。

 

「昨日の助っ人の話なんだけど」

 

「ああ」

 

アンディが答える。

 

「俺も、ちょっと考えてた」

 

「やっぱり?」

 

「うん」

 

アンディが続ける。

 

「このまま何も決めないで、その都度相談するのも大変だと思うから」

 

「ルール作るってこと?」

 

リリが聞く。

 

「そう」

 

カイが言った。

 

「例えば、誰か一人が休みなら助っ人を入れる。二人以上なら中止、とか」

 

「なるほど」

 

レオンが頷く。

 

「それなら分かりやすいね」

 

ポムも、

 

「毎回その場で悩むよりいいかも」

 

と言った。

 

ミナも頷いた。

 

確かに。

 

その日の空気で決めるより、先に決まっていたほうが気持ちは楽かもしれない。

 

「じゃあ、一人なら助っ人あり?」

 

アンディが聞いた。

 

「俺はそれでいいと思う」

 

カイが答える。

 

「俺も」

 

レオンも続く。

 

「私は……」

 

オルカが少し考えた。

 

「助っ人を入れること自体は反対じゃないよ」

 

「うん」

 

「ただ、毎回違う人を呼ぶのはちょっと大変そう」

 

「それなら、固定外の助っ人候補を何人か決めておく?」

 

カイが言った。

 

「え」

 

ポムが少し驚いた。

 

「候補?」

 

「うん。何人か声かけておけば、急に休みが出ても頼みやすい」

 

「でも、それって……」

 

リリが言葉を止める。

 

「固定メンバーじゃない人に、固定の予定を合わせてもらうってこと?」

 

「そうなるね」

 

カイが答える。

 

「でも、毎回じゃないし」

 

「うーん……」

 

リリは黙った。

 

ミナも少し考えた。

 

誰かが休んだとき。

 

その人の代わりに誰かを呼ぶ。

 

攻略を進めるためには合理的だ。

 

でも。

 

呼ばれる側にも予定がある。

 

「助っ人の人が来られなかったら?」

 

ミナが聞いた。

 

「そのときは、また別の人を探すとか?」

 

カイが答える。

 

「でも、それだと……」

 

ミナはそこで止まった。

 

自分でも、何が引っかかっているのか分からない。

 

アンディが、

 

「ミナ、何か気になる?」

 

と聞いた。

 

「ううん……」

 

少し考える。

 

「ただ、固定のために集まってるのに、固定の外の人まで固定みたいになったら……なんか不思議だなって」

 

「まあ、そう言われると確かに」

 

クラゲが言った。

 

「でも、助っ人ってそういうものじゃない?」

 

カイが返す。

 

「固定のメンバーじゃないけど、その日だけ一緒にやる人」

 

「うん」

 

「なら、そこまで難しく考えなくてもいいんじゃない?」

 

カイの言葉は穏やかだった。

 

責めているわけでもない。

 

ミナも、それは分かっていた。

 

「そっか」

 

それ以上は言わなかった。

 


 

話はそのまま進み、

 

「一人欠席なら助っ人を呼ぶ」

 

「二人以上なら、その日は中止」

 

という案に落ち着きかけた。

 

そのとき。

 

オルカが言った。

 

「ごめん」

 

「ん?」

 

「私、それだとちょっと困るかもしれない」

 

「どうして?」

 

オルカはすぐには答えなかった。

 

少しだけ考えてから、

 

「……昨日みたいなこと、これからもあると思うんだ」

 

と言った。

 

「家の予定?」

 

「うん」

 

オルカは苦笑した。

 

「前もって分かってるときもあるんだけどね。家族の予定って、急に決まることもあるから」

 

「そっか」

 

アンディが頷く。

 

「だから、助っ人を入れること自体は反対じゃないよ」

 

オルカは続けた。

 

「むしろ、私が抜けてもみんなが遊べるなら、そのほうがいいと思う」

 

そこまでは、迷いのない声だった。

 

けれど。

 

少し間を置いてから、

 

「……ただ」

 

オルカは言葉を探した。

 

「私が休むことを前提に、誰かを呼ぶ仕組みにするのは……ちょっと複雑かも」

 

「複雑?」

 

ポムが聞く。

 

「うん」

 

オルカは笑おうとした。

 

けれど、うまく笑えなかった。

 

「私、固定に入るの初めてだから」

 

その言葉に、みんなが少し黙った。

 

「最初はね」

 

オルカが続ける。

 

「週に一回くらいなら、家の予定とも両立できるかなって思ってたの」

 

「うん」

 

「だから、できるだけ参加したいと思ってる」

 

一度、息をつく。

 

「でも……」

 

オルカは画面の向こうを見ながら、ゆっくり言った。

 

「どうしても、固定より家を優先しなきゃいけない日があると思う」

 

誰も口を挟まなかった。

 

「そのときに、私が休むたびに誰かが呼ばれるようになったら」

 

少しだけ声が小さくなる。

 

「そのうち、『またオルカか』って思われるんじゃないかなって」

 

「そんなこと思わないよ」

 

ポムがすぐに言った。

 

「うん」

 

リリも頷く。

 

「私も思わない」

 

「今はね」

 

オルカが笑った。

 

「分かってる。みんな優しいから」

 

その言い方は、冗談みたいだった。

 

でも。

 

ミナには、少しだけ違って聞こえた。

 

「今は」という言葉の奥に、

 

いつか迷惑だと思われるかもしれない。

 

いつか呆れられるかもしれない。

 

そんな不安があるように聞こえた。

 

「だから……」

 

オルカが続ける。

 

「助っ人を呼ぶことが嫌なんじゃないの」

 

「うん」

 

「むしろ、みんなが私のせいで何もできなくなるなら、呼んでほしい」

 

カイが頷く。

 

「じゃあ……」

 

「でも」

 

オルカが遮った。

 

「そのたびに、『私がいないほうが進むのかな』って思っちゃいそうで」

 

VCが静かになった。

 

誰もすぐには答えなかった。

 

カイも黙っている。

 

ミナは、オルカの言葉を聞きながら胸の奥が少しだけ痛くなった。

 


 

固定に入ったのは、

 

誰かの足を引っ張るためじゃない。

 

でも。

 

生活がある以上、いつでも同じように参加できるわけでもない。

 

そのどちらも、本当だった。

 

「……オルカ」

 

アンディが言った。

 

「俺は、オルカが休むことと、オルカがいらないことは別だと思ってるよ」

 

「……うん」

 

「助っ人を入れるのも、オルカの代わりを作るためじゃない」

 

アンディは少し考えてから、

 

「その日の八人の時間を、どうするかって話だから」

 

と言った。

 

オルカはしばらく黙っていた。

 

「……そっか」

 

それから、小さく笑った。

 

「ありがとう」

 

カイも、

 

「俺も、オルカが邪魔とかそういう意味じゃないからね」

 

と言った。

 

「分かってるよ」

 

オルカは答えた。

 

「カイが時間を無駄にしたくないのも、分かってる」

 

「うん」

 

「だから、助っ人の仕組みがあること自体は、ありがたいと思ってる」

 

そこまで言ってから。

 

オルカは少しだけ迷うように、

 

「ただ……」

 

と続けた。

 

「私が休むことを、私自身が申し訳なく思わなくて済むような形にはしてほしいかな」

 

その言葉に、誰もすぐには答えなかった。

 

けれど。

 

アンディが、

 

「じゃあ、それも含めて決めよう」

 

と言った。

 

「一人欠席なら助っ人あり」

 

「でも、本人が嫌なら呼ばない」

 

「それでどうかな」

 

オルカは少し考えた。

 

そして、

 

「うん」

 

と答えた。

 

「それなら、私も安心できる」

 

話は、それで終わった。

 

誰かが怒ったわけでもない。

 

嫌な言い方をしたわけでもない。

 

むしろ。

 

みんな、オルカのことを考えていた。

 

それでも。

 

オルカの胸の中には、少しだけ残っていた。

 

家のことも大切にしたい。

 

この固定も大切にしたい。

 

どちらかを選ばなければならない日が来たら。

 

自分は、どちらを選ぶんだろう。

 

そして。

 

その選択をしたとき、

 

残った七人はどう思うんだろう。

 

今はまだ、誰も答えを持っていなかった。

 

オルカ自身も。

 

まだ、分からなかった。

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