その週の木曜日。
VCのチャットに、オルカからメッセージが入った。
『ごめん、今週の日曜なんだけど、親戚が来ることになって、
もしかしたら、少し遅れるかもしれない。
まだ時間は決まってないんだけど、
場合によっては22時に間に合わないかも・・・』
ミナは少し考えてから、
『了解だよ!』
と返した。
少しして。
『ありがとう』
と返ってくる。
それだけだった。
けれど。
ミナはそのあと、みんなで決めたことを思い出した。
一人欠席なら、助っ人を呼ぶ。
そういうルールになった。
今までなら。
「そのとき考えればいいよ」
で済んでいたことだった。
でも。
今は違う。
日曜日。
21時50分。
ミナはログインして、いつものようにVCへ入った。
「こんばんはー」
「お疲れー」
「今日どうかな」
まだオルカはいない。
「親戚の人、まだいるのかな」
ポムが聞いた。
「たぶん・・・」
ミナが答える。
22時。
オルカ以外の七人が集まった。
「じゃあ、どうする?」
アンディが聞いた。
カイは少し考えて、
「助っ人呼ぶ?」
と言った。
前なら、その言葉だけで少し戸惑っていたかもしれない。
でも。
今日は、先週決めたルールがある。
「一人欠席なら、助っ人あり」
カイが言った。
「そうだったね」
レオンが答える。
「誰か呼べそう?」
「一応前もって、一人声かけてある」
カイが言った。
すぐにフレンドへTellを送る。
しばらくして、
「来れるって」
という返事が返ってきた。
「じゃあ、今日はその人にお願いしよう」
アンディが言った。
「うん」
ミナも頷いた。
少しして。
一人のプレイヤーがVCに入ってきた。
「こんばんはー。今日はよろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
「急にごめんね」
「全然大丈夫」
その人は明るく返した。
攻略の説明をする。
「ここはこの順番で」
「了解です」
「このギミックだけ、少し特殊だから」
「動画見てきます!」
「ありがとう」
準備が整う。
そして。
八人になった。
ミナは画面を見ながら、少しだけ不思議な気持ちになった。
ちゃんと八人いる。
人数としては、何も問題ない。
攻略もできる。
でも。
いつもの八人とは、少し違う。
「じゃあ行こうか」
アンディの声で、ミナもコンテンツへ入った。
一回目。
思ったより順調だった。
「おお」
ポムが声を上げる。
「これなら結構いけそう」
カイも言う。
二回目。
さらに先まで進んだ。
「今日、進みそうだね」
リリが嬉しそうに言った。
ミナも笑った。
確かに。
助っ人がいることで、攻略は進んでいる。
みんなで決めたことは、ちゃんと機能していた。
そう思った。
けれど。
三回目の途中。
助っ人の人が、
「あ、ごめんなさい」
と言った。
「どうした?」
「23時半くらいで抜けないといけなくて」
「あ、了解」
アンディが答える。
「今日はそこまでで大丈夫」
「ありがとう」
時計を見る。
まだ少し時間はある。
けれど。
ミナはふと、オルカのことを考えた。
今ごろ、まだ家族と一緒にいるのだろうか。
自分の代わりに誰かが来ていることをどう思うんだろう。
そんなことを考えていると。
オルカからTellが来た。
『ごめん、今終わった』
『お疲れさま!』
『今からなら行けるけど……』
ミナは一瞬、返事に迷った。
そして、
『今日は助っ人さんに来てもらってるよ』
と送った。
少し間が空く。
『そっか』
それだけだった。
ミナは、その短い言葉が少し気になった。
『ごめんね』
と送る。
すぐに、
『ミナが謝らなくていいよw』
と返ってきた。
それでも。
なんとなく、画面を閉じられなかった。
『助っ人さん、すごくいい人だよ』
『うん』
『今日かなり進んでる』
『よかった』
そこから、少しだけ間が空いた。
『……私、いないほうがいいのかなって思っちゃうね』
ミナの手が止まった。
『え?』
『いや、なんでもないw』
『オルカ』
『大丈夫だよ』
『でも』
『本当に大丈夫』
そう返ってきた。
ミナは、それ以上何も言えなかった。
VCでは、カイが次の攻略について話している。
「次、ここだけもう一回確認しよう」
「了解」
「じゃあ行こう」
みんながいつものように動いている。
誰も悪くない。
助っ人を呼ぶことも。
オルカが家族を優先することも。
今日、攻略を進めたいと思うことも。
全部、分かる。
だからこそ。
ミナは少しだけ、胸の奥がざわついた。
その日の固定が終わった。
「今日は結構進んだね」
「うん、よかった」
「助っ人さんありがとう!」
「こちらこそ、楽しかったです」
最後に挨拶をして、助っ人の人が抜けていく。
八人だったVCがまた、七人になった。
少しして。
オルカがVCに入った。
「ごめんねー。今からでも挨拶だけしようと思って」
「お疲れ!」
「お疲れさま」
「今日はかなり進んだよ」
「そっか」
オルカが笑う。
「よかった」
その声は、いつもと変わらなかった。
「じゃあ、また来週ね」
「うん」
「またね」
オルカが抜ける。
ミナもログアウトしようとして。
ふと、手を止めた。
今日。
誰かが休んだ。
代わりに誰かが来た。
攻略は進んだ。
たぶん、固定としては。
うまくいった日だった。
それなのに。
どうしてだろう。
ミナは少しだけ寂しかった。
オルカがいなかったからなのか。
それとも。
「いなくても、進められる」
ということを知ってしまったからなのか。
まだ、分からなかった。
ただ。
固定の八人には、一人分の席がある。
その席は。
誰かが休めば、空く。
そして。
空いた席には、別の誰かが座れる。
当たり前のことだった。
でも。
その当たり前が、
思っていたより少しだけ、寂しいものだということを。
ミナは初めて知った。