「また来週、エオルゼアで。」   作:*いろは*

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第10話|一人分の空席

 

【挿絵表示】

 

その週の木曜日。

 

VCのチャットに、オルカからメッセージが入った。

 

『ごめん、今週の日曜なんだけど、親戚が来ることになって、

 

もしかしたら、少し遅れるかもしれない。

 

まだ時間は決まってないんだけど、

 

場合によっては22時に間に合わないかも・・・』

 

ミナは少し考えてから、

 

『了解だよ!』

 

と返した。

 

少しして。

 

『ありがとう』

 

と返ってくる。

 

それだけだった。

 

けれど。

 

ミナはそのあと、みんなで決めたことを思い出した。

 

一人欠席なら、助っ人を呼ぶ。

 

そういうルールになった。

 

今までなら。

 

「そのとき考えればいいよ」

 

で済んでいたことだった。

 

でも。

 

今は違う。

 


 

日曜日。

 

21時50分。

 

ミナはログインして、いつものようにVCへ入った。

 

「こんばんはー」

 

「お疲れー」

 

「今日どうかな」

 

まだオルカはいない。

 

「親戚の人、まだいるのかな」

 

ポムが聞いた。

 

「たぶん・・・」

 

ミナが答える。

 

22時。

 

オルカ以外の七人が集まった。

 

「じゃあ、どうする?」

 

アンディが聞いた。

 

カイは少し考えて、

 

「助っ人呼ぶ?」

 

と言った。

 

前なら、その言葉だけで少し戸惑っていたかもしれない。

 

でも。

 

今日は、先週決めたルールがある。

 

「一人欠席なら、助っ人あり」

 

カイが言った。

 

「そうだったね」

 

レオンが答える。

 

「誰か呼べそう?」

 

「一応前もって、一人声かけてある」

 

カイが言った。

 

すぐにフレンドへTellを送る。

 

しばらくして、

 

「来れるって」

 

という返事が返ってきた。

 

「じゃあ、今日はその人にお願いしよう」

 

アンディが言った。

 

「うん」

 

ミナも頷いた。

 


 

少しして。

 

一人のプレイヤーがVCに入ってきた。

 

「こんばんはー。今日はよろしくお願いします」

 

「よろしくお願いします!」

 

「急にごめんね」

 

「全然大丈夫」

 

その人は明るく返した。

 

攻略の説明をする。

 

「ここはこの順番で」

 

「了解です」

 

「このギミックだけ、少し特殊だから」

 

「動画見てきます!」

 

「ありがとう」

 

準備が整う。

 

そして。

 

八人になった。

 

ミナは画面を見ながら、少しだけ不思議な気持ちになった。

 

ちゃんと八人いる。

 

人数としては、何も問題ない。

 

攻略もできる。

 

でも。

 

いつもの八人とは、少し違う。

 

「じゃあ行こうか」

 

アンディの声で、ミナもコンテンツへ入った。

 

一回目。

 

思ったより順調だった。

 

「おお」

 

ポムが声を上げる。

 

「これなら結構いけそう」

 

カイも言う。

 

二回目。

 

さらに先まで進んだ。

 

「今日、進みそうだね」

 

リリが嬉しそうに言った。

 

ミナも笑った。

 

確かに。

 

助っ人がいることで、攻略は進んでいる。

 

みんなで決めたことは、ちゃんと機能していた。

 

そう思った。

 

けれど。

 

三回目の途中。

 

助っ人の人が、

 

「あ、ごめんなさい」

 

と言った。

 

「どうした?」

 

「23時半くらいで抜けないといけなくて」

 

「あ、了解」

 

アンディが答える。

 

「今日はそこまでで大丈夫」

 

「ありがとう」

 

時計を見る。

 

まだ少し時間はある。

 

けれど。

 

ミナはふと、オルカのことを考えた。

 

今ごろ、まだ家族と一緒にいるのだろうか。

 

自分の代わりに誰かが来ていることをどう思うんだろう。

 

そんなことを考えていると。

 

オルカからTellが来た。

 

『ごめん、今終わった』

 

『お疲れさま!』

 

『今からなら行けるけど……』

 

ミナは一瞬、返事に迷った。

 

そして、

 

『今日は助っ人さんに来てもらってるよ』

 

と送った。

 

少し間が空く。

 

『そっか』

 

それだけだった。

 

ミナは、その短い言葉が少し気になった。

 

『ごめんね』

 

と送る。

 

すぐに、

 

『ミナが謝らなくていいよw』

 

と返ってきた。

 

それでも。

 

なんとなく、画面を閉じられなかった。

 

『助っ人さん、すごくいい人だよ』

 

『うん』

 

『今日かなり進んでる』

 

『よかった』

 

そこから、少しだけ間が空いた。

 

『……私、いないほうがいいのかなって思っちゃうね』

 

ミナの手が止まった。

 

『え?』

 

『いや、なんでもないw』

 

『オルカ』

 

『大丈夫だよ』

 

『でも』

 

『本当に大丈夫』

 

そう返ってきた。

 

ミナは、それ以上何も言えなかった。

 

VCでは、カイが次の攻略について話している。

 

「次、ここだけもう一回確認しよう」

 

「了解」

 

「じゃあ行こう」

 

みんながいつものように動いている。

 

誰も悪くない。

 

助っ人を呼ぶことも。

 

オルカが家族を優先することも。

 

今日、攻略を進めたいと思うことも。

 

全部、分かる。

 

だからこそ。

 

ミナは少しだけ、胸の奥がざわついた。

 

その日の固定が終わった。

 

「今日は結構進んだね」

 

「うん、よかった」

 

「助っ人さんありがとう!」

 

「こちらこそ、楽しかったです」

 

最後に挨拶をして、助っ人の人が抜けていく。

 

八人だったVCがまた、七人になった。

 


 

少しして。

 

オルカがVCに入った。

 

「ごめんねー。今からでも挨拶だけしようと思って」

 

「お疲れ!」

 

「お疲れさま」

 

「今日はかなり進んだよ」

 

「そっか」

 

オルカが笑う。

 

「よかった」

 

その声は、いつもと変わらなかった。

 

「じゃあ、また来週ね」

 

「うん」

 

「またね」

 

オルカが抜ける。

 

ミナもログアウトしようとして。

 

ふと、手を止めた。

 

今日。

 

誰かが休んだ。

 

代わりに誰かが来た。

 

攻略は進んだ。

 

たぶん、固定としては。

 

うまくいった日だった。

 

それなのに。

 

どうしてだろう。

 

ミナは少しだけ寂しかった。

 

オルカがいなかったからなのか。

 

それとも。

 

「いなくても、進められる」

 

ということを知ってしまったからなのか。

 

まだ、分からなかった。

 

ただ。

 

固定の八人には、一人分の席がある。

 

その席は。

 

誰かが休めば、空く。

 

そして。

 

空いた席には、別の誰かが座れる。

 

当たり前のことだった。

 

でも。

 

その当たり前が、

 

思っていたより少しだけ、寂しいものだということを。

 

ミナは初めて知った。

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