次の日。
ミナがログインすると、フレンドリストにオルカの名前があった。
昨日のことを思い出して、少しだけ迷う。
Tellを送ろうか。
でも、何て言えばいいんだろう。
「昨日、大丈夫だった?」
それも違う気がする。
「気にしなくていいよ」
たぶん、そう言えばオルカは、
「うん!」
って笑って返してくれる。
でも。
本当にそれでいいのかな。
ミナがそんなことを考えていると、先にオルカからTellが届いた。
「ミナ、おはよー!」
「おはよう!」
「昨日ありがとね」
「え?」
「アンディさんから、次は一緒にやろうって言ってもらったから」
「ああ……うん!」
少しだけ安心する。
オルカは、いつも通りだった。
少なくとも、そう見えた。
「昨日、結構進んだんでしょ?」
「うん。ちょっとだけ進んだよ」
「そっか!」
そこで少し間が空く。
「私も次、頑張らないと!」
「そんなに気にしなくても大丈夫だよ」
そう返してから、ミナは少しだけ引っかかった。
気にしなくていい。
その言葉は、便利だった。
誰かが遅れたとき。
誰かが失敗したとき。
誰かが謝ったとき。
大丈夫。
気にしなくていい。
そう言えば、相手も少し楽になる。
だからミナも、よく使っていた。
「ほんと?」
「うん。みんな待ってると思うし!」
「……そっか」
オルカは少しだけ考えてから、
「じゃあ、次は絶対一緒にやる!」
と返してきた。
「うん!」
それだけの会話だった。
それなのに。
ミナは、Tellを閉じたあともしばらく画面を見ていた。
本当に。
気にしなくていいのかな。
その日の夜。
固定の時間が近づいて、いつものようにVCへ人が集まり始める。
「こんばんはー」
「おつかれー」
「今日ご飯食べた?」
いつもの雑談。
ミナもVCに入りながら、昨日のことを少し思い出していた。
すると、アンディが言った。
「そういえば、オルカさん今日来るよな?」
「うん。今日は大丈夫って言ってた」
ミナが答える。
「そっか。よかった」
その声は、本当に嬉しそうだった。
「昨日は結構進んだし、今日は一緒にできそうだな」
カイが言う。
「じゃあ昨日の続きから?」
「うん。そこからでいいと思う」
会話は自然に進んでいく。
昨日、オルカがいなかったことを責める人はいない。
助っ人を呼んだことを気にする人もいない。
それどころか。
「昨日のところ、結構いい感じだったよね」
「うんうん」
「今日オルカさん来たら、そこ見せればいいんじゃない?」
そんな話になっていた。
ミナは少しだけ安心した。
やっぱり。
みんな、普通なんだ。
昨日のことを引きずっているのは、自分だけなのかもしれない。
22時。
オルカがVCに入ってきた。
「こんばんはー!」
「お、オルカさん!」
「こんばんは!」
「今日は早いw」
「今日はちゃんと間に合った!」
笑い声が起こる。
いつもの空気だった。
オルカも笑っている。
「昨日の分、取り戻さないと!」
「いやいやw」
アンディが笑う。
「取り戻すとかじゃないからw」
「でも昨日、みんな進んだんでしょ?」
「まあ、ちょっとだけね」
「じゃあ私も頑張る!」
そのやり取りを聞きながら、ミナは思った。
オルカは大丈夫そう。
昨日のことも、ちゃんと切り替えられている。
だったら。
これ以上、気にする必要はない。
攻略が始まって、何度か挑戦する。
昨日進んだところまで来た。
「ここ、こうだったよ」
アンディが説明する。
「なるほど」
オルカが聞く。
一度目。
失敗。
「ごめん!」
「大丈夫大丈夫」
二度目。
また失敗。
「今の私だ!」
「気にしなくていいよ」
今度はミナが言った。
オルカが、
「ありがとう!」
と返す。
三度目。
少しだけ先へ進めた。
「おお!」
「今のいけた!」
「オルカさん、そこ大丈夫!」
「やった!」
VCに笑い声が広がる。
その瞬間。
ミナは少しだけ、昨日のことを忘れていた。
やっぱり8人で遊ぶのは楽しい。
誰かが遅れても。
誰かが失敗しても。
そのたびに、
「大丈夫」
と言える。
それでいいと思っていた。
攻略が一区切りついた頃。
オルカが言った。
「昨日ね、ちょっとだけ不安だったんだ」
VCが少し静かになる。
「え?」
ポムが聞く。
「昨日、私がいない間にみんな進んじゃったから」
「ああ……」
オルカが笑う。
「私だけ遅れちゃうかなって思って」
「そんなことないって」
アンディがすぐに言った。
「そうそう」
リリも続ける。
「まだ全然一緒に進めるよ」
オルカは、
「そっか」
と笑った。
「よかった」
その声を聞いて、ミナも安心する。
アンディが続けた。
「休むのは、気にしなくていいよ」
「……うん」
「家のこととかあるんだし」
「ありがと」
オルカはそう答えた。
それ以上は何も言わなかった。
ミナも何も言わなかった。
ただ。
その「気にしなくていいよ」という言葉が、
昨日、自分がオルカに言った言葉と同じだったことだけが、
少しだけ気になった。
気にしなくていい。
本当にそうなのだろうか。
休んでもいい。
遅れてもいい。
失敗してもいい。
そう言ってもらえるのは、たしかに嬉しい。
でも。
その言葉の奥にあるものまで、
ちゃんと伝わっているのだろうか。
ミナには、まだ分からなかった。
その日の攻略は、いつもより少しだけ長く続いた。
「今日はここまでにしようか」
アンディが言う。
「おつかれー」
「ありがとうございました!」
オルカも、
「今日は一緒にできてよかった!」
と笑っていた。
「私も!」
ポムが返す。
VCに、いつもの明るい声が響く。
固定は、今日も終わった。
いつも通りだった。
でも。
ミナは少しだけ考えていた。
「気にしなくていいよ」
という言葉は、
相手を安心させるための言葉なのか。
それとも。
本当は何も聞かずに終わらせるための言葉なのか。
まだ分からない。
ただ。
昨日より少しだけ。
「大丈夫」という言葉が、難しく感じるようになっていた。