「また来週、エオルゼアで。」   作:*いろは*

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第12話|「気にしなくていいよ」

 

【挿絵表示】

 

次の日。

 

ミナがログインすると、フレンドリストにオルカの名前があった。

 

昨日のことを思い出して、少しだけ迷う。

 

Tellを送ろうか。

 

でも、何て言えばいいんだろう。

 

「昨日、大丈夫だった?」

 

それも違う気がする。

 

「気にしなくていいよ」

 

たぶん、そう言えばオルカは、

 

「うん!」

 

って笑って返してくれる。

 

でも。

 

本当にそれでいいのかな。

 

ミナがそんなことを考えていると、先にオルカからTellが届いた。

 

「ミナ、おはよー!」

 

「おはよう!」

 

「昨日ありがとね」

 

「え?」

 

「アンディさんから、次は一緒にやろうって言ってもらったから」

 

「ああ……うん!」

 

少しだけ安心する。

 

オルカは、いつも通りだった。

 

少なくとも、そう見えた。

 

「昨日、結構進んだんでしょ?」

 

「うん。ちょっとだけ進んだよ」

 

「そっか!」

 

そこで少し間が空く。

 

「私も次、頑張らないと!」

 

「そんなに気にしなくても大丈夫だよ」

 

そう返してから、ミナは少しだけ引っかかった。

 

気にしなくていい。

 

その言葉は、便利だった。

 

誰かが遅れたとき。

 

誰かが失敗したとき。

 

誰かが謝ったとき。

 

大丈夫。

 

気にしなくていい。

 

そう言えば、相手も少し楽になる。

 

だからミナも、よく使っていた。

 

「ほんと?」

 

「うん。みんな待ってると思うし!」

 

「……そっか」

 

オルカは少しだけ考えてから、

 

「じゃあ、次は絶対一緒にやる!」

 

と返してきた。

 

「うん!」

 

それだけの会話だった。

 

それなのに。

 

ミナは、Tellを閉じたあともしばらく画面を見ていた。

 

本当に。

 

気にしなくていいのかな。

 


 

その日の夜。

 

固定の時間が近づいて、いつものようにVCへ人が集まり始める。

 

「こんばんはー」

 

「おつかれー」

 

「今日ご飯食べた?」

 

いつもの雑談。

 

ミナもVCに入りながら、昨日のことを少し思い出していた。

 

すると、アンディが言った。

 

「そういえば、オルカさん今日来るよな?」

 

「うん。今日は大丈夫って言ってた」

 

ミナが答える。

 

「そっか。よかった」

 

その声は、本当に嬉しそうだった。

 

「昨日は結構進んだし、今日は一緒にできそうだな」

 

カイが言う。

 

「じゃあ昨日の続きから?」

 

「うん。そこからでいいと思う」

 

会話は自然に進んでいく。

 

昨日、オルカがいなかったことを責める人はいない。

 

助っ人を呼んだことを気にする人もいない。

 

それどころか。

 

「昨日のところ、結構いい感じだったよね」

 

「うんうん」

 

「今日オルカさん来たら、そこ見せればいいんじゃない?」

 

そんな話になっていた。

 

ミナは少しだけ安心した。

 

やっぱり。

 

みんな、普通なんだ。

 

昨日のことを引きずっているのは、自分だけなのかもしれない。

 


 

22時。

 

オルカがVCに入ってきた。

 

「こんばんはー!」

 

「お、オルカさん!」

 

「こんばんは!」

 

「今日は早いw」

 

「今日はちゃんと間に合った!」

 

笑い声が起こる。

 

いつもの空気だった。

 

オルカも笑っている。

 

「昨日の分、取り戻さないと!」

 

「いやいやw」

 

アンディが笑う。

 

「取り戻すとかじゃないからw」

 

「でも昨日、みんな進んだんでしょ?」

 

「まあ、ちょっとだけね」

 

「じゃあ私も頑張る!」

 

そのやり取りを聞きながら、ミナは思った。

 

オルカは大丈夫そう。

 

昨日のことも、ちゃんと切り替えられている。

 

だったら。

 

これ以上、気にする必要はない。

 


 

攻略が始まって、何度か挑戦する。

 

昨日進んだところまで来た。

 

「ここ、こうだったよ」

 

アンディが説明する。

 

「なるほど」

 

オルカが聞く。

 

一度目。

 

失敗。

 

「ごめん!」

 

「大丈夫大丈夫」

 

二度目。

 

また失敗。

 

「今の私だ!」

 

「気にしなくていいよ」

 

今度はミナが言った。

 

オルカが、

 

「ありがとう!」

 

と返す。

 

三度目。

 

少しだけ先へ進めた。

 

「おお!」

 

「今のいけた!」

 

「オルカさん、そこ大丈夫!」

 

「やった!」

 

VCに笑い声が広がる。

 

その瞬間。

 

ミナは少しだけ、昨日のことを忘れていた。

 

やっぱり8人で遊ぶのは楽しい。

 

誰かが遅れても。

 

誰かが失敗しても。

 

そのたびに、

 

「大丈夫」

 

と言える。

 

それでいいと思っていた。

 


 

攻略が一区切りついた頃。

 

オルカが言った。

 

「昨日ね、ちょっとだけ不安だったんだ」

 

VCが少し静かになる。

 

「え?」

 

ポムが聞く。

 

「昨日、私がいない間にみんな進んじゃったから」

 

「ああ……」

 

オルカが笑う。

 

「私だけ遅れちゃうかなって思って」

 

「そんなことないって」

 

アンディがすぐに言った。

 

「そうそう」

 

リリも続ける。

 

「まだ全然一緒に進めるよ」

 

オルカは、

 

「そっか」

 

と笑った。

 

「よかった」

 

その声を聞いて、ミナも安心する。

 

アンディが続けた。

 

「休むのは、気にしなくていいよ」

 

「……うん」

 

「家のこととかあるんだし」

 

「ありがと」

 

オルカはそう答えた。

 

それ以上は何も言わなかった。

 

ミナも何も言わなかった。

 

ただ。

 

その「気にしなくていいよ」という言葉が、

 

昨日、自分がオルカに言った言葉と同じだったことだけが、

 

少しだけ気になった。

 

気にしなくていい。

 

本当にそうなのだろうか。

 

休んでもいい。

 

遅れてもいい。

 

失敗してもいい。

 

そう言ってもらえるのは、たしかに嬉しい。

 

でも。

 

その言葉の奥にあるものまで、

 

ちゃんと伝わっているのだろうか。

 

ミナには、まだ分からなかった。

 


 

その日の攻略は、いつもより少しだけ長く続いた。

 

「今日はここまでにしようか」

 

アンディが言う。

 

「おつかれー」

 

「ありがとうございました!」

 

オルカも、

 

「今日は一緒にできてよかった!」

 

と笑っていた。

 

「私も!」

 

ポムが返す。

 

VCに、いつもの明るい声が響く。

 

固定は、今日も終わった。

 

いつも通りだった。

 

でも。

 

ミナは少しだけ考えていた。

 

「気にしなくていいよ」

 

という言葉は、

 

相手を安心させるための言葉なのか。

 

それとも。

 

本当は何も聞かずに終わらせるための言葉なのか。

 

まだ分からない。

 

ただ。

 

昨日より少しだけ。

 

「大丈夫」という言葉が、難しく感じるようになっていた。

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