「また来週、エオルゼアで。」   作:*いろは*

16 / 21
第15話|固定の日に予定が入った

 

【挿絵表示】

 

次の日曜日。

 

固定が始まる少し前。

 

ミナはログインすると、いつものように固定チャットを開いた。

 

先週、クラゲと話してから、

 

少しだけ意識するようになったことがある。

 

自分から誘ってみること。

 

急に「今日行かない?」と声をかけるのではなく、

 

少し前から予定を合わせておけば、

 

みんなも参加しやすいかもしれない。

 

そんなことを考えていた。

 

「ねえ、みんな」

 

ミナがVCで声をかける。

 

「この前話してた地図なんだけど」

 

「うん?」

 

ポムが返事をする。

 

「来週の固定が終わったあと、みんなで行かない?」

 

少し前もって予定を決めておけば、

 

きっと今度はみんなで遊べる。

 

ミナはそんな気持ちで提案した。

 

「いいね!」

 

ポムがすぐに返す。

 

「私も行きたい」

 

オルカも続いた。

 

「俺も大丈夫」

 

カイが言う。

 

「予定空けとくよ」

 

レオンも答える。

 

リリも、

 

「行きたいー!」

 

と声を上げた。

 

「俺も大丈夫」

 

クラゲが言う。

 

みんなから返事が返ってくる。

 

ミナは嬉しくなって、

 

「じゃあ、来週ね!」

 

と笑った。

 

そのときだった。

 

「……あ」

 

アンディが声を出した。

 

「俺、来週なんだけど」

 

「うん?」

 

ミナが振り向く。

 

「仕事の予定が入っててさ」

 

アンディは少し申し訳なさそうに続けた。

 

「たぶん残業になると思う。固定の時間までに帰れないかもしれない」

 

「えっ」

 

ポムが声を漏らす。

 

「来週お休み?」

 

「そうなると思う」

 

アンディが答える。

 

「ごめんな」

 

「仕事なら仕方ないよー」

 

オルカが言う。

 

「うんうん」

 

リリも返す。

 

みんなはそれぞれに、

 

「大丈夫だよ」

 

「気にしないで」

 

と声をかけている。

 

ミナも、

 

「そっか……」

 

と返した。

 

仕事なら仕方ない。

 

それは分かっている。

 

アンディが悪いわけでもない。

 

でも。

 

せっかく、

 

自分からみんなを誘えたと思ったのに。

 

来週は、

 

アンディがいない。

 

そのことが、

 

ほんの少しだけ心に引っかかった。

 


 

「じゃあ、今日は予定通りいこうか」

 

アンディが言った。

 

「うん!」

 

ミナも返事をする。

 

来週のことは、

 

いったん置いておく。

 

今は今日の攻略だ。

 

8人で集まれる今日を、

 

いつも通り楽しめばいい。

 

「じゃあ、いきまーす」

 

アンディの声とともに、

 

いつもの攻略が始まった。

 


 

何度か挑戦する。

 

失敗して、

 

笑って、

 

またやり直す。

 

「今の惜しかった!」

 

「もう一回!」

 

「次、そこ気をつけよう」

 

いつものやり取り。

 

ミナも笑っていた。

 

やっぱり、

 

この8人で遊ぶ時間は楽しい。

 

だからこそ。

 

ふとした瞬間に、

 

来週のことを思い出してしまう。

 

アンディは来られない。

 

「……」

 

ミナの中に残ったモヤモヤが、頭をよぎるが

 

ミナはすぐさま攻略へ意識を戻した。

 


 

そうして、その日の攻略が終わった。

 

「おつかれさまー!」

 

「また来週!」

 

いつものように声が飛び交う。

 

そのまま解散するのかと思ったとき、

 

ポムが言った。

 

「そういえば、来週の地図は決行でいいの?」

 

ミナは少しだけ黙った。

 

「アンディさん、お休みなんだよね」

 

「うん」

 

アンディが答える。

 

「俺のことは気にしなくていいよw」

 

「わたし攻略がお休みでも、集まれるならみんなで行きたい!」

 

ポムが言う。

 

「そうだね」

 

オルカも答える。

 

「じゃあ、来週は固定がお休みになったとしても、地図だけ行く?」

 

「俺は行けるよ」

 

カイが言う。

 

「私も」

 

「俺も大丈夫」

 

少しずつ声が上がる。

 

ミナも、

 

「……私も行きたい」

 

と答えた。

 

でも。

 

そのあと、

 

なぜかすぐに嬉しい気持ちにはなれなかった。

 

”みんなで行く”

 

自分が最初にそう言った。

 

そのときは、

 

8人で行くことを思い浮かべていた。

 

固定のあと、

 

8人で地図を回して、

 

「楽しかったね」

 

って笑って終わる。

 

そんな時間を想像していた。

 

でも、

 

実際にはアンディがいない。

 

もちろん、

 

一人欠けたら遊んではいけないなんてことはない。

 

アンディ自身も、

 

「みんなで行ってきなよ」

 

と言ってくれている。

 

それでも。

 

ミナは少しだけ考えてしまった。

 

”みんなで”って、

 

いったい何人のことなんだろう。

 

8人全員が揃っていること?

 

それとも、

 

その日に集まれる人たちだけで遊ぶこと?

 

誰かが休んでも、

 

残った人たちで楽しく過ごせること?

 

ミナは自分のキャラクターを眺めながら、

 

その答えをすぐには出せなかった。

 

固定という場所では、

 

8人でいることが当たり前になっていた。

 

だからこそ ”みんな”で、

 

集まった目的である”攻略”ではない時間を過ごそうと思った。

 

「……来週、どうなるんだろう」

 

小さく呟く。

 

楽しみなはずなのに。

 

少しだけ、

 

不安でもあった。

 

その夜、

 

ミナはログアウトするまで、

 

”みんなで” という言葉について考えていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。