いつもなら、固定攻略が始まる時間。
今日は固定でいく攻略はお休み。
その代わりに、
先週から予定していた地図へ行くことになっている。
ただし。
今日は七人だった。
「アンディさん、残念だねー」
ポムが言う。
「うん」
ミナも返した。
アンディは仕事の残業で、今日は参加できない。
先週の時点で、
『俺は行けないけど、みんなで行ってきてよ』
と言っていた。
「じゃあ今日は、アンディさんの分まで楽しもう!」
ポムが声を上げる。
「そうだね」
オルカが笑う。
「アンディに土産いっぱい持って帰ろうぜw」
カイも続いた。
ミナも、
「うん!」
と返事をする。
「それいいね」
レオンも答える。
ミナは少しだけ嬉しくなった。
アンディはいない。
それは残念だった。
でも、
みんなで遊ぶことを楽しみにしてくれている。
だったら今日は、
思いっきり楽しもう。
「じゃあ、行こっか!」
ミナが声をかけた。
まずは地図を使う。
表示された情報を頼りに、
みんなで宝箱のある場所へ向かう。
「あ、この辺じゃない?」
「もうちょっと奥かな」
「あった!」
宝箱を見つける。
すると、
宝箱を守るモンスターたちが次々に襲いかかってきた。
「きたきた!」
「倒そう!」
七人で一気に攻撃する。
戦いが終わると、
「開けてみてー!」
ポムが言った。
ミナが宝箱を開く。
アイテムやギルが飛び出す。
「おー!」
「いいじゃん!」
「当たりかな?」
みんなで中身を確認すると同時に、
宝箱の上にモヤモヤと大きな入口が現れた。
「……あ!」
「魔紋!」
誰かが叫ぶ。
「やったー!」
宝箱を開けたときに一定の確率で現れる、
特殊フィールドへの入口。
「行こう!」
「行こ行こ!」
七人でその中へ飛び込んだ。
最初にたどり着いた部屋は、
壁も床も石造りの
目立った装飾らしい装飾もほとんどないところだった。
「……ここ?」
ポムが言う。
「思ったより地味だねw」
「これから変わっていくんじゃない?」
ミナが答える。
部屋の中央にある宝箱に触れると
モンスターが次々と現れた。
すぐさま殲滅!
戦いが終わると、
左右二つの扉のうちどちらかを選択する時間だ。
「どっちだ?」
「右かな?」
「左じゃない?」
みんなで悩む。
「じゃあ、ミナさん決めて!」
「ええ!?」
「今日の主催だからw」
「じゃあ……右!」
ミナが選ぶ。
願いを込めて扉に触れる。
「……」
一瞬の間。
「おおお!」
「当たった!」
次の階へ進む。
二階へ進むと、
さっきの部屋より少しだけ雰囲気が変わっていた。
壁に模様が増えている。
床にも装飾が入っている。
「おー、ちょっと豪華になった」
「ほんとだ」
「こういうの、上に行くほど変わっていくんだよね」
モンスターを倒して、
また扉を選ぶ。
「今度は私が決める!」
ポムが手を挙げる。
「じゃあ左!」
「いけー!」
扉が開く。
「やった!」
また次の階へ。
三階。
今度は明らかに違った。
壁には細かな装飾が増え、
柱や床にもきらびやかな意匠が入っている。
「すごくなってきたw」
「さっきまでの部屋と全然違う」
「じゃあ四階にも行きたーーーーい!」
ポムが言う。
「行けるかなー」
「行ける行ける!」
そんなことを言いながら、
みんなで先へ進んでいく。
丁度、最後の扉に阻まれて強制送還された、
まさにその時だった。
「ただいまー!!」
突然、
VCに大きな声が入った。
「え!?」
「アンディ!?」
みんなが一斉に反応する。
「間に合った?!」
アンディだった。
「アンディさん!?」
ミナも思わず声を上げる。
「残業を鬼早で片づけて、猛ダッシュで帰ってきた!!」
「えーーー!おかえりー!」
「お疲れさま!」
「大丈夫? そんな急がなくてもw」
「無理しないでよー!」
みんなから一斉に声が飛ぶ。
「いや、せっかくみんなで遊んでるんだろ?」
アンディが笑う。
「俺も混ざりたいじゃんw」
「もちろん!」
ミナが返す。
「一緒に行こう!」
「よし!」
アンディがPTに合流する。
七人だったPTに、
八人目が加わった。
ミナは画面を見ながら、
少しだけ胸が温かくなった。
八人。
今度は、本当に八人揃っている。
全員が、揃った!
来れないと思ってたアンデが駆けつけてくれた!
それだけで、
なんだか嬉しかった。
「よーし!じゃあ、続きいこー!」
ポムが言う。
「おー!」
みんなが声を合わせる。
さっきまでなかった、アンディの声がある。
ミナも笑った。
アンディが合流してからも、
地図PTは続いた。
宝箱を探して、
モンスターを倒して、
魔紋が開けば、
みんなで特殊フィールドへ飛び込む。
扉の前では、
「右!」
「いや、左!」
「どっちだよw」
と大騒ぎする。
正解すれば、
「よっしゃー!」
と喜んで、
外れれば、
「うわああ!」
と笑う。
進むほど、
部屋はどんどん豪華になっていった。
最初は何もなかった壁に装飾が増え、
柱が飾られ、
床や天井まできらびやかになっていく。
そして、
最後のほうまで進むと、
「うわ、すご!」
誰かが声を上げた。
そこはもう、
最初の質素な部屋とは別世界だった。
壁も柱も床も、
金色を基調にした装飾で埋め尽くされている。
きらきらと光る装飾品。
目が痛くなるくらいの金色。
「キンピカじゃんw」
「ここまで来るとすごいなw」
「豪華すぎるw」
みんなで笑う。
最後の部屋までいけたのは、たった一回だった。
三階、四階あたりで追い出されることが多かったけれど、
今日はそれも含めて楽しかった。
「でも今日はそろそろ時間かな」
「またみんなで行きたいね!」
「行きたい!」
そんな話をしながら、
地図PTの時間が終わりを迎えた。
「そろそろ落ちるねー」
レオンが言った。
「おつかれさま!」
「今日は楽しかったー!」
一人ずつ、
ログアウトの準備を始める。
「ミナ、今日は声かけてくれてありがとう!」
ポムが言った。
「うん!」
「めっちゃ楽しかった!」
「私も楽しかったよ」
オルカも、
「誘ってくれてありがとうね」
と言ってくれた。
「こちらこそ!」
カイも、
「こういうのもいいな」
と笑う。
「また行こうぜ」
レオンも続いた。
「うん、また行こう!」
リリも、
「ミナちゃん、ありがとう!」
と声をかけてくれる。
「楽しかったねー!」
「うん!」
そして、
「俺も途中からだったけど、楽しかった!」
アンディが言った。
「ありがとな、ミナ」
「ううん!」
ミナは笑った。
「来てくれてありがとう!」
「また今度、今度は最初から参加するわw」
「そうしよう!」
「八人でね!」
その言葉に、
みんなが笑った。
「じゃあ、おやすみー!」
「また来週!」
「おつかれさまー!」
少しずつ、
VCから声が減っていく。
最後に残ったミナは、
今日のことを思い返していた。
最初は七人だった。
アンディは来られない。
それでも、
みんなで楽しもうと言ってくれた。
そして、
アンディも仕事を終わらせて、
途中から来てくれた。
結果的に、
八人で遊ぶことができた。
先週、
自分が考えていたこと。
“みんなで”って、
何人なんだろう。
八人で笑って、
八人で騒いで、
八人で地図を回した。
ただ、それだけで嬉しかった。
「……やってよかった」
ミナは小さく呟いた。
自分から声をかけてみてよかった。
みんなで遊びたいと思っていた気持ちを、
ちゃんと言葉にしてよかった。
いまはもう誰もいない。
でも、
今日の楽しかった時間だけは、
ちゃんと残っている気がした。
実はこっそり、SSを撮っていた。
闘っているところ、ヒールしてるところ、
宝箱に群がってるところ、大喜びしてるところ、
左右の扉へ向かって走ってるところ、
サボって動かなくなったところ...…
手元に残った、数枚のSSを眺めながら
ミナは少しだけ笑って、
そのままログアウトした。