日曜日の朝。
いつもなら固定の攻略は、夜の十時頃から始まる。
だから、こんな時間に八人全員が集まっているのは、少し珍しかった。
「おはようございまーす!」
「おはよー!」
「朝から八人いるの、なんか変な感じするなw」
「たしかにw」
VCに、いつもの声が次々と集まってくる。
先週は、みんなで地図に行った。
アンディは途中からの参加だったけれど、それでも最後には八人揃って遊ぶことができた。
今日は、いつもの固定攻略。
同じ八人なのに、先週とは少し違う時間が始まろうとしていた。
攻略が始まると、空気はいつもの固定に戻っていった。
ギミックを確認して、
誰かがミスをして、
「ごめーん!」
「大丈夫大丈夫!」
と笑って、もう一度やり直す。
少しずつ先へ進めるようになっていくと、それだけで嬉しい。
昨日より上手くできた。
前は間に合わなかったところで間に合った。
誰かが苦手だったギミックを、今日は綺麗に越えられた。
そういう小さな「できた」が積み重なっていくのが、固定攻略の楽しさだった。
先週の地図とは、全然違う。
あのときは、宝箱を探して、魔紋に飛び込んで、どっちの扉に行くかで盛り上がって。
攻略というより、みんなで遊びに行ったような時間だった。
今は、ギミックを覚えて、失敗したところを直して、少しずつ先へ進んでいく。
同じ八人でも、遊ぶものが変わるだけで、こんなに時間の雰囲気が変わるんだな。
そんなことを、ふと思った。
途中の休憩時間。
誰かが飲み物を取りに行っている間に、自然と先週の地図の話になった。
「そういえば、地図楽しかったねー!」
「魔紋、めっちゃテンション上がったw」
「最後の部屋、すごかったよなw」
「また行きたい!」
「私も!」
そんな話をしていると、ポムが突然声を上げた。
「ねえねえ! 次は違う遊びもしてみない?」
「違う遊び?」
「うん!」
ポムは少し考えてから、楽しそうに続けた。
「もうすぐ紅葉の季節だし、みんなで紅葉並木とか行ってみたい!」
「いいね!」
「スタジオ借りて、みんなで撮影会とかも楽しそうじゃない?」
「それ絶対楽しいやつw」
「衣装も合わせたら面白そう!」
「八人でテーマ決めるの、いいなw」
一気に話が膨らんでいく。
「エオルゼア観光もしたい!」
「温泉とか行ってみたいな」
「温泉いい!」
「みんなで浴衣着て撮影しようぜw」
「それ、撮影会じゃんw」
「いいじゃん、撮影会でw」
笑い声が重なっていく。
さっきまで攻略の話をしていたのに、いつの間にか次に何をして遊ぶかという話になっていた。
「でも、紅葉ならグリダニア方面かな?」
「温泉だったらどこがいいんだろ」
「景色がいいところも探したいね」
「じゃあ、みんなで候補出そうよ!」
「いいねー!」
一つの案が出るたびに、別の案が重なっていく。
それだけで、なんだか楽しかった。
私は、その会話を聞きながら笑っていた。
紅葉を見に行く。
スタジオで撮影する。
みんなで衣装を合わせる。
エオルゼアを観光する。
温泉に行く。
どれも攻略には関係ない。
でも、なんだかすごく楽しそうだった。
「……こういうのも、いいな」
ぽつりと呟くと、
「でしょー?」
とポムが笑った。
休憩が終わる時間になっても、話はなかなか終わらなかった。
「次の休み、どっか観光するのもありだな」
「でも私は撮影したい!」
「私は温泉!」
「じゃあ全部やればいいじゃんw」
「それ一日で終わらないよw」
「じゃあ何週かに分ければいいじゃん」
「それもう固定じゃんw」
その言葉に、みんなが笑った。
私は、その笑い声を聞きながら、ふと先週のことを思い出した。
あのときも、最初は七人だった。
アンディが来られないと分かって、
それでもみんなで行こうと言って。
私は少しだけ、
「“みんなで”って、何人なんだろう」
と思った。
八人揃っていることが「みんな」なのか。
来られる人だけでも「みんな」なのか。
誰か一人がいなくても、残った人たちで楽しめるなら、それも「みんな」なのか。
あのときは、答えが分からなかった。
でも今、こうして八人で笑いながら話していると、少しだけ違う見え方がしてきた。
「みんなで」というのは、人数のことだけじゃないのかもしれない。
同じものをすることでもない。
誰かは紅葉に行きたくて、
誰かは撮影がしたくて、
誰かは温泉に行きたい。
それぞれ違うことを言っているのに、
「それ楽しそう!」
と笑い合える。
それも、きっと「みんなで」なんだ。
そう思ったら、なんだか胸の奥が少し軽くなった。
その日の攻略が終わったあと。
みんなが少しずつ解散していく中で、クラゲが言った。
「先週、楽しかった?」
「うん、楽しかった!」
ミナは少し考えてから続けた。
「固定も楽しいんだけど……先週みたいに、みんなで遊ぶのも好きみたい」
「うん」
「攻略じゃなくても、八人で集まってるのが楽しかったんだと思う」
クラゲは少しだけ笑った。
「ミナらしいね」
「そうかな?」
「そうだと思うよ」
私はその言葉を聞いて、少しだけ考えた。
地図も楽しかった。
今日の攻略も楽しかった。
そして、その途中で出てきた紅葉や撮影や温泉の話も、すごく楽しかった。
同じ八人で集まっていても、攻略する日と、ただ遊ぶ日は、少し違う。
どちらも楽しい。
でも、それだけじゃない。
八人全員が同じものを好きじゃなくてもいい。
同じ遊びをしなくてもいい。
「これやってみたい」と誰かが言ったときに、
「いいね!」
と一緒に笑える。
そんな時間も、私にとっては「みんなで」なのかもしれない。
固定って、攻略をするためだけに集まるものだと思っていた。
でも、もしかしたら。
一緒に笑ったり、くだらない話をしたり、何をして遊ぶか考えたり。
そういう時間も全部ひっくるめて、
「この八人で遊ぶ」
ということなのかもしれない。
そう思ったら、これからの固定が少しだけ楽しみになった。
その日の夜。
ログアウトする前に、私はふとカレンダーを開いた。
次の固定の日。
その次の予定。
まだ何も決まっていない日もある。
紅葉を見に行くのかもしれない。
スタジオで撮影するのかもしれない。
温泉に行くのかもしれない。
もしかしたら、結局いつものように攻略するだけかもしれない。
それでもいいと思った。
八人で同じことをすることだけが、「みんなで」じゃない。
誰かがやりたいことを話して、
誰かが「それいいね」と言って、
そこからまた別の遊びが生まれていく。
そんなふうに、みんなの「楽しい」が少しずつ重なっていけばいい。
そしてたぶん。
私がまだ知らない「楽しい」も、この先にはたくさんある。
そう思いながら、私はログアウトのボタンを押した。
次に八人で集まったとき。
今度は、誰がどんな「楽しい」を持ってくるんだろう。
そんなことを考えながら、その夜は眠りについた。