次の日曜日。
固定の攻略が始まる少し前。
いつものように八人が集まると、先週の休憩時間に出た話が、また自然と出てきた。
「そういえば、紅葉どうする?」
最初に口にしたのはポムだった。
「あー、言ってたね」
「撮影会もしたいって話してたよね」
「温泉もなw」
「観光も!」
次々と声が重なる。
私は少し笑いながら、みんなの話を聞いていた。
先週は、その場の勢いでいろんな案が出ただけだった。
でも、一週間経っても覚えているということは。
みんな、案外こういう遊びも楽しみにしているのかもしれない。
「じゃあさ、どれからやる?」
ポムが聞く。
「紅葉!」
「撮影!」
「温泉!」
「観光!」
ほとんど同時に声が上がった。
「バラバラじゃんw」
「ほんとだw」
みんなで笑う。
「私は撮影したいなー」
ポムが言う。
「せっかくだし、衣装も合わせたい!」
「それならスタジオ探す?」
「いいね!」
「私は紅葉見ながら歩くのもいいな」
オルカが言った。
「景色見ながら、ゆっくりできるの楽しそう」
「じゃあオルカさんは観光派か」
アンディが笑う。
「そうかもw」
「俺は温泉かな」
レオンが言った。
「普段あんまり行かない場所で、ゆっくりするのも楽しそう」
「温泉いいよなー」
クラゲも賛成する。
「じゃあ、カイは?」
「俺?」
突然振られたカイが少し考える。
「……俺は、普通に攻略したいけどw」
「えっ」
ポムが声を上げた。
「撮影会より?」
「うん」
「温泉より?」
「うん」
「紅葉より?」
「……それはちょっと迷うなw」
「迷うんじゃんw」
また笑いが起きる。
カイは笑いながら続けた。
「いや、別に撮影とか嫌いじゃないけどさ。みんなで攻略して、前より先に進めたりするほうが楽しいんだよね」
「あー、カイっぽいw」
「そう?」
「うん。なんとなくw」
カイは少し照れたように笑った。
私は、その会話を聞きながら、なんとなく納得していた。
そういえば、カイは攻略中、いつも楽しそうだった。
新しいギミックが出てくると、すぐに考え始める。
誰かが失敗すると、
「次はこうしたらいけそう」
とすぐに次の方法を探す。
私には少し難しいことでも、カイにとっては、それを考える時間そのものが楽しいのかもしれない。
「アンディは?」
今度はポムが聞いた。
「俺?」
「アンディさんは何したい?」
アンディは少し考えてから答えた。
「俺も攻略かなあ」
「やっぱりw」
「でも、みんなで観光とかも普通に楽しそう」
「じゃあ攻略が一番?」
「うーん……」
少し考えて、
「八人で攻略してる時間が、一番好きかもしれない」
そう言った。
「なるほどー」
ポムが頷く。
「じゃあミナは?」
「私?」
突然自分に話が向いてきて、少しだけ考えた。
先週から、ずっと考えていたことだった。
「私は……」
紅葉。
撮影。
温泉。
観光。
攻略。
どれも楽しそうだと思う。
でも。
「私は、みんなでいるのが一番楽しいのかも」
そう言うと、ポムが笑った。
「ミナらしい!」
「そうかなw」
「だって、なんでも楽しそうにしてるもんw」
「たしかにw」
みんなが笑う。
私は少し恥ずかしくなって笑った。
でも、本当にそうなのだと思う。
何をするかよりも。
誰といるか。
そのほうが、私にとっては大きいのかもしれない。
結局、その日は次の遊びを一つに決めることはしなかった。
「じゃあ、紅葉の時期に合わせて撮影しようよ」
「その前に温泉行ける日も探そう」
「観光もしたい!」
「攻略もちゃんとやろうなw」
そんな話をしながら、いつもの固定攻略が始まった。
そして、攻略が始まると。
カイはいつも以上に楽しそうだった。
「今のいけた!」
「次、もうちょっと早く動けばいける!」
アンディも、
「おお、今のよかった!」
と声を上げる。
その声を聞いていると、私まで嬉しくなった。
攻略を楽しんでいる人がいる。
撮影を楽しみにしている人がいる。
温泉を楽しみにしている人がいる。
観光を楽しみにしている人がいる。
そして私は、みんなで話している時間が楽しい。
同じ八人で遊んでいるのに。
楽しいと思う場所は、少しずつ違う。
そのことが、不思議と嫌ではなかった。
むしろ、
「そうなんだ」
と知ることが、少し面白かった。
攻略が終わったあと。
いつものように、少しだけ雑談をしていた。
「じゃあ、来週どうする?」
「普通に攻略でしょw」
「だよねw」
「紅葉はその次でもいいしね」
「うん」
みんながそんな話をしている中で、私はふと思った。
以前の私は、
「みんなが楽しいと思うこと」
を考えるとき、
みんなが同じものを楽しめることを想像していた気がする。
八人で同じ場所へ行って。
八人で同じことをして。
八人で同じように笑う。
それが「みんなで」なんだと思っていた。
でも、違った。
カイは攻略が好き。
アンディも攻略が好き。
ポムは撮影がしたい。
オルカはゆっくり景色を見たい。
レオンは温泉に行きたい。
それぞれ違う。
それでも、今こうして八人で話している。
誰かの「楽しい」を聞いて、
「それもいいね」
と言える。
自分が一番やりたいことでなくても、誰かが楽しそうに話しているのを聞くのは、私にとっても楽しい。
それなら。
「みんなで」って、同じものを好きになることじゃないのかもしれない。
ログアウトする前。
私は今日の会話を思い返していた。
同じ八人。
同じ固定。
同じように集まっているのに。
それぞれ見ているものは、少しずつ違う。
今は、それでいいと思えた。
むしろ、違うからこそ、
「そんなのも楽しそう」
と新しい遊びを知ることができる。
私が知らなかった楽しさを、誰かが教えてくれる。
誰かが知らなかった楽しさを、私が見つけることもある。
そうやって、それぞれの「楽しい」が少しずつ重なっていけばいい。
そんなふうに思いながら、私はログアウトした。
このときの私は、まだ知らなかった。
同じ場所にいても、同じ時間を過ごしていても。
「楽しい」の大きさや、そこにかける気持ちまで同じとは限らないことを。
そして、その小さな違いが。
いつか、八人の間で少しずつ形を変えていくことを。