固定活動が始まる日。
私は、集合時間の10分前にログインしていた。
別に、張り切っていたわけじゃない。
ただ、新しい固定って、最初だけちょっと緊張する。
どんな人が来るんだろう。
VCって、ちゃんと話せるかな。
変な人だったらどうしよう。
逆に、私が変な人だと思われたらどうしよう。
そんなことを考えながら、キャラクターを動かしていた。
すると、VCに一人目の声が入った。
「こんばんはー!」
固定リーダーのアンディさんだった。
「こ、こんばんは」
「あ、ユリミナさん? 早いね」
「じっとしてられなくてw」
「俺もw」
それだけの会話なのに、少し緊張がほどけた。
そこから、ぽつぽつと人が集まり始めた。
「こんばんはー」
「おつかれさまです」
「聞こえてます?」
「聞こえてるよー」
一人、また一人。
声が増えていく。
フレンドのクラゲ。
リリベルさん。
カイさん。
レオンハルトさん。
ポムポムさん。
そして最後に、オルカさん。
八人。
画面の前では、ただのキャラクターが輪になって並んでいる。
でもVCには、それぞれ違う声があった。
よく喋る人。
必要なことだけ話す人。
笑い声が大きい人。
ちょっと控えめな人。
まだ緊張している人。
初対面なのに妙に馴染んでいる人。
私はその声を聞きながら、
この8人でやるんだ!と、改めて思った。
「じゃあ、一応自己紹介からします?」
アンディさんが言った。
「年齢とかは別にいいよね。キャラ名とジョブくらいで」
「年齢聞いたら急にリアルになるもんねw」
ポムポムさんが笑う。
「じゃあ私から!」
そこから順番に自己紹介が始まった。
「ポムポムです。機工士です。ポムって呼んでね!あと、えーっと……ミスしたらいっぱい謝ります!」
「先に宣言するタイプなんだw」
レオンハルトさんが笑った。
「だって怖いじゃん!」
「大丈夫大丈夫w」
アンディさんが言う。
「次、カイさん」
「カイです。侍です。攻略はちゃんと詰めたい派です」
「私!もっとゆる~い気持ちだったw」
ポムさんが言う。
「いや、普通だよ」
「その『普通』が怖いんだってw」
「なんでw」
VCに笑い声が広がった。
少しずつ、空気が柔らかくなっていく。
クラゲの番になる。
「クラゲです。ナイト。基本眠いです」
「それ自己紹介として大丈夫?w」
リリベルさんが笑う。
「大丈夫。たぶん」
「たぶんなんだw」
「まあ、寝落ちしないようにはします」
「そこは頑張ってw」
また笑い声が起きる。
リリベルさんは、少し考えてから口を開いた。
「リリベルです。リリでいいよ!学者です。人のミスにはたぶん寛容です」
「たぶん?」
「自分もよくミスするのでw」
「それなら安心だw」
アンディさんが言った。
レオンハルトさんは、仕事の話を少しだけして、
「ヴァイパーです。平日は帰宅時間が日によって違うので、遅れる時は早めに連絡します。名前長いから俺もレオンで。」
と話した。
アンディさんが、
「そこはみんな同じだよ。リアル優先でいこう」
と言った。
オルカさんは、
「オルカです。赤魔です。家の都合で遅れることもあると思います。そこだけ先に伝えておきます」
と、落ち着いた声で言った。
「了解です」
「無理しない範囲でいこう」
そんな声が返ってくる。
最後に、自分の番が来た。
「ユリミナです。白魔です。……初めての固定活動で緊張してます。あんまり上手くないですけど、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
ポムポムさんの声が返ってきた。
「ユリミナちゃん、ヒーラー仲間だ!」
リリさんも笑って、
「私も学者なので、困ったら助け合おうね」
と言ってくれた。
「はい!あ、私のことはミナって呼んでください!よろしくお願いします」
私は改めて返した。
なんだか、いい人たちかもしれない。
そんなことを思った。
もちろん、まだ会ったばかりだ。
この時点では、誰がどんな人なのかなんて、本当にはわからない。
でも。
第一印象って、不思議だ。
ほんの数十分一緒に話しただけなのに、
「この人とは仲良くなれそう」
とか、
「この人、面白いな」
とか、
なんとなく感じるものがある。
そして私がこの日感じたのは、
「この8人なら、楽しくできそう」
だった。
最初の攻略は、思っていたより順調だった。
もちろん、すぐにはクリアできない。
ミスもする。
「ごめん!」
「今の私!」
「いや俺も!」
「誰も悪くないってw」
VCに笑い声が広がる。
一回目は全滅。
二回目も全滅。
三回目。
「あ、今ちょっと先まで行った!」
カイさんの声が弾んだ。
「ほんとだ!」
「初見にしてはいいんじゃない?」
アンディさんが言う。
「これ、今日いけるんじゃない?」
ポムさんが言った。
「いや、それはフラグw」
クラゲが返す。
「やめて!」
また笑う。
私はその会話を聞きながら、思った。
こういうの、好きだな。
攻略そのものも楽しい。
でもたぶん私は、
みんなで「あ、今のよかった!」って言える時間が好きなんだ。
一人で練習して、一人で上手くなるのとは違う。
同じところで笑って。
同じところで悔しがって。
少しずつ先に進んでいく。
その時間が楽しかった。
そして、何度目かの挑戦。
「いける!」
誰かが叫んだ。
「あとちょっと!」
「落ち着いて!」
「いけるいける!」
最後のギミックを抜けた。
画面が切り替わる。
「…………」
一瞬、VCが静かになった。
そして。
「やったーーー!!」
ポムさんの声が響いた。
「初回でここまでいけたの、結構すごくない?」
「いいスタートだね」
アンディさんが笑う。
「次、もっと行けそう」
レオンさんも嬉しそうだった。
私は画面を見ながら、
「この人たちと、もっと遊びたいな」
と思った。
まだ一日目。
まだ始まったばかり。
それなのに、もう次の活動日が少し楽しみになっていた。
時計を見る。
思っていたより、ずっと時間が経っていた。
「そろそろ寝るね」
オルカさんが言った。
「お疲れさまー」
「また次回!」
「おやすみー」
一人ずつ、VCから声が消えていく。
最後にアンディさんが言った。
「じゃあ、また次回。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
私もそう返した。
ログアウトする前に、今日集まった場所をもう一度見た。
八人分のキャラクター。
まだ名前と声が一致したくらい。
まだ、お互いのことなんて何も知らない。
それでも。
私は小さく笑った。
「……次も楽しみだな」
その時は、本当にそう思っていた。
この八人で過ごす時間が、
これから何度も続いていくことを、
当たり前みたいに信じていた。