「また来週、エオルゼアで。」   作:*いろは*

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第19話|前の固定の人

 

【挿絵表示】

 

その日は、固定の予定がない日だった。

 

いつもの時間にログインする必要もなくて、カイは少し遅めにログインした。

 

マーケットボードを眺めて、必要な素材をいくつか買う。

 

そのまま街の中を歩いていると、見覚えのある名前が目に入った。

 

「……あ」

 

足が止まる。

 

見間違えるはずがなかった。

 

以前、一緒に固定を組んでいたメンバーだった。

 

向こうもカイに気づいた。

 

「あれ、カイじゃん」

 

「……久しぶり」

 

「まだFF14やってたんだなw」

 

「まあな」

 

軽く挨拶を交わす。

 

出来るだけ会わないように気を付けていたのだが、こうなっては仕方ない。

 

「そういえばさ」

 

相手が笑う。

 

「今も固定やってるの?」

 

「ああ」

 

「へえ」

 

その言葉のあとに、妙な間があった。

 

「……よく続いてるなwww」

 

笑いながら言われた。

 

「まだそんな長くないけどな」

 

「お前の顔見てたらさ~、つい昔を思い出してさw」

 

その瞬間、カイの表情が少し固まった。

 


 

昔の固定。

 

その言葉だけで、思い出したくない場面がいくつか浮かんだ。

 

進みが悪かった日。

 

同じミスを繰り返した人。

 

攻略中に言葉が強くなった自分。

 

「なんで今の避けられないの?」

 

「さっき説明したよな?」

 

「ここまで来て、それはないだろ」

 

言った。

 

確かに言った。

 

当時は、本気で攻略したかった。

 

できることを増やしたかった。

 

少しでも早く先へ進みたかった。

 

だから、できていないところがあれば指摘した。

 

何度も同じところで失敗すれば、原因を考えてほしかった。

 

自分の中では、攻略を良くするための話だった。

 

けれど。

 

「カイってさ」

 

昔のメンバーが言う。

 

「結構、きつかったよな」

 

「……そうだったかもな」

 

「いや、そうだったよw」

 

別のメンバーも笑った。

 

「攻略のことになると、ほんと容赦なかった」

 

「まあ、攻略ならちゃんとやりたかったし」

 

「それは今も変わってないんだ?」

 

「変わってない」

 

「だよなぁ」

 

笑い声。

 

そして、その次の言葉が。

 

カイの胸に刺さった。

 

「だから固定、崩壊したんじゃない?」

 

「……」

 

「お前のせいで固定崩壊したの、知ってる?」

 

一瞬、何を言われたのか分からなかった。

 

いや。

 

分かっていた。

 

当時、自分でも ”そうじゃないか” と思う節はあった。

 

だから、

 

言葉に詰まった。

 

「実際さ」

 

相手は肩をすくめる。

 

「カイが詰めすぎて、ついていけない人が出たじゃん」

 

「……」

 

「攻略の進み方も、練習量も、求めるレベルもさ」

 

一つずつ並べられる。

 

否定できない。

 

「みんなが同じ熱量じゃなかったんだよ」

 

「……それは」

 

言いかけて、止まった。

 

違う。

 

そうじゃない と言いたかった。

 

自分だけが悪かったわけじゃない。

 

攻略を続けるかどうかを決めたのは全員だった。

 

もっと練習したいと思ったのも、自分だけじゃない。

 

自分なりに頑張っていた。

 

言いたいことはいくらでもあった。

 

でも、そのどれもが。

 

今は言い訳にしか聞こえなかった。

 

だって。

 

自分が詰めたことは、本当だった。

 

一番よく覚えているのは、あるギミックで何度も全滅した夜だった。

 

同じ場所で、何度やっても誰かが遅れる。

 

一人が少し遅れて、別の人が巻き込まれて。

 

立て直せず、そのまま全滅。

 

「もう一回」

 

カイはすぐに言った。

 

「次、ここだけ意識すればいけるから」

 

「うん……」

 

返事はあった。

 

でも、声に元気がなかった。

 

それでもカイは気づかなかった。

 

もう一度やって、また同じところで崩れた。

 

「今の、さっきと同じだよ」

 

VCが静かになる。

 

「そこ、もうちょっと早く動いて」

 

「……ごめん」

 

「謝らなくていいから、次できるようにしよう」

 

カイは本気でそう思っていた。

 

責めているつもりはなかった。

 

だから、そのまま続けようとした。

 

誰かが「もう少しゆっくりやりたい」と言っていたのに、

 

「でも、ここはできるようになったほうがいい」

 

と返したこともあった。

 

誰かが黙ってしまったときも、

 

「分からないなら聞いて」

 

としか思わなかった。

 

その後、少しずつ人が来なくなった。

 

予定が合わない。

 

仕事が忙しい。

 

今日は休みたい。

 

理由はいろいろあった。

 

でも、カイには分かっていた。

 

あの夜、自分は誰かを怒鳴ったわけじゃない。

 

暴言を吐いたわけでもない。

 

攻略のために必要だと思ったことを、真面目に言っただけだった。

 

だからこそ。

 

余計に気づくのが遅かった。

 

正しいことを言い続けているうちに、誰も一緒に走ってくれなくなっていた。

 

あのときの自分は。

 

本当に、周りが見えていなかった。

 

「カイがもう少し周り見てればな」

 

その言葉が落ちてくる。

 

今度は、すぐに言い返せなかった。

 

腹が立っている。

 

悔しい。

 

違うと言いたい。

 

でも。

 

「……そうかもな」

 

口から出たのは、それだけだった。

 

相手が少し意外そうな顔をした。

 

「え?」

 

「いや」

 

カイは目を逸らした。

 

「……そうだったのかもな」

 

認めたくない。

 

でも、否定もできない。

 

そのことが、一番痛かった。

 

もし完全な言いがかりなら、怒れた。

 

「ふざけんな」と言えた。

 

「あの固定が崩れたのは、お前らにも原因があっただろ」と言えた。

 

でも。

 

自分の中にも、ずっと引っかかっていたものがあった。

 

だから、その一言を完全には否定できなかった。

 

「まあ、今度はうまくやれよ」

 

「……」

 

「また同じことになったら、今度は本当にカイのせいだぞw」

 

笑いながら言われた。

 

カイは笑えなかった。

 

「じゃあ、俺らもう行くわ」

 

「おう」

 

「またな、カイ」

 

「……またな」

 

二人が離れていく。

 

その背中を見送りながら、カイはしばらく動かなかった。

 


 

歩き出しても、頭の中から言葉が消えない。

 

お前のせいで固定崩壊した。

 

何度も、同じ言葉が浮かぶ。

 

カイは足を止めた。

 

「……うるせえな」

 

誰に言ったのか、自分でも分からない。

 

昔のメンバーにか。

 

それとも、自分自身にか。

 

胸の奥が、ずっと重かった。

 

自分は今の固定で、出すぎないようにしている。

 

攻略の話をしたくても、一度みんなの様子を見る。

 

「ここ、もうちょっと詰められそう」

 

そう思っても、すぐには言わないことがある。

 

誰かが疲れていそうなら、一度止める。

 

ミスが続いても、言い方を考える。

 

「もう一回やろう」と思っても、全員が同じ気持ちかを考える。

 

それは、今の8人を大事にしたいからだった。

 

でも。

 

もしかしたら。

 

それだけじゃない。

 

また同じことをするのが怖いからだ。

 

また自分が熱くなって。

 

また自分だけ先に進もうとして。

 

また誰かがついてこられなくなって。

 

そして。

 

また誰かに、

 

「お前のせいだ」

 

と言われるのが怖い。

 

そのことに気づいて、カイは少し嫌な気分になった。

 

今の8人と遊ぶときまで、昔の失敗を引きずっている。

 

それが悔しかった。

 

攻略が好きなのは、悪いことじゃない。

 

上手くなりたい。

 

先へ進みたい。

 

できなかったことができるようになるのが嬉しい。

 

それを捨てるつもりはない。

 

”次、ここもうちょっと詰められそう”

 

そう思うことも沢山あった。

 

けれど、言わなかった。

 

今の仲間と、一緒に。

 

焦らなくても、同じ歩幅でいいじゃないか。

 

もし誰かが困れば、その時声を出せばいい。

 

そして、

 

自分の「もっとやりたい」を、みんなの「もっとやりたい」と同じものだと思わない。

 

それだけは、今度こそ間違えたくなかった。

 


 

その日の夜。

 

カイはいつものようにログインした。

 

固定の日ではない。

 

少しして、ミナからTellが届いた。

 

「カイさーん、今いる?」

 

「いるよ」

 

「ちょっと遊ばない?」

 

「いいよ」

 

それだけのやり取りだった。

 

しばらくして アンディとポムポムがINしてきて

 

「え?ふたりで遊んでんの?ヒマな俺も入れてくれ~w!!」

 

「わたしもーーー!!」

 

当たり前のように、PTに飛び込んできた。

 

ミナが今日あった失敗談を話し始めて

 

ポムポムが笑って

 

アンディが変なことを言う。

 

「何してんだよw」

 

「いいじゃんw」

 

くだらない会話が続いていく。

 

俺も笑った。

 

昼間のことは、まだ胸の奥に残っている。

 

たぶん、消えないだろう。

 

でも。

 

今ここにいる人たちは、あの頃の人たちじゃない。

 

自分も、あの頃のままではない。

 

アンディがまた変なことを言っている。

 

それを聞いて、ミナとポムがケラケラ笑ってる。

 

「いいな…こういうのも、さ」

 

カイは、誰にも聞こえないような小さな声で呟いた。

 

この新しい仲間との時間を楽しもう。

 

カイはそう思った。

 

攻略への熱をなくしたわけじゃない。

 

むしろ、その熱を持ったまま、この8人と遊んでいきたい。

 

前に失ったものを、今度は失いたくない。

 

そのために、少しだけ後ろを歩く。

 

必要なときには前に出る。

 

でも、自分だけが先に行かない。

 

それが今のカイにできる、精一杯の距離だった。

 

「カイ、このあとどうする?」

 

アンディから声が飛んできた。

 

「ん?」

 

カイは少し考えてから答えた。

 

「みんながやりたいほうでいいよ」

 

「珍しw」

 

「なんだよw」

 

「いや、カイなら絶対こっちって言うと思ったw」

 

「今日はいいのw」

 

笑い声が広がる。

 

カイも笑った。

 

少しだけ、胸の奥が軽くなった。

 

昔の自分を消すことはできない。

 

あの固定が崩れた理由から、自分だけ逃げることもできない。

 

でも。

 

だからといって、これからもずっと自分を抑え続ける必要もない。

 

自分の好きなものは、好きなままでいい。

 

ただ。

 

一緒に遊ぶ人たちがいるなら、その人たちの「楽しい」も、ちゃんと見ていたい。

 

カイはVCの笑い声を聞きながら、そう思った。

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