「また来週、エオルゼアで。」   作:*いろは*

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第2話|このメンバーなら大丈夫

 

【挿絵表示】

 

 

固定が始まって、まだ二週間。

 

たった二週間なのに、少しだけ不思議な感覚があった。

 

フレンド欄に並ぶ、見慣れなかった名前。

 

その名前を見ると、

 

「あ、今日固定の日だ」

 

と思うようになった。

 

まだ、そんなに長い付き合いじゃない。

 

住んでいる場所も知らない。

 

普段どんなふうにFF14を遊んでいるのかも、よく知らない。

 

それなのに。

 

毎週決まった時間に集まる人たち。

 

それだけで、少しずつ特別な存在になっていた。

 

「今日、何時くらいまでできそう?」

 

集合して少し経った頃、アンディが聞いた。

 

「私はいつも通り大丈夫」

 

ミナが答える。

 

「俺も」

 

「私も大丈夫ー」

 

いつものように、それぞれが答えていく。

 

その中で、オルカだけが少し考えてから、

 

「今日は、ちょっとだけ早めに抜けるかもしれない」

 

と言った。

 

「あ、了解」

 

アンディがすぐに返した。

 

それだけだった。

 

理由を聞く人はいなかった。

 

ミナも聞かなかった。

 

でも、ふと考える。

 

どこまで聞いていいんだろう。

 

固定なんだから、予定を共有するのは普通なのかな。

 

それとも、ゲームの中だけの付き合いなんだから、そこまで聞かないほうがいいのかな。

 

まだ、その境界が分からない。

 


 

固定を始める前なら、そんなことは気にしなかった。

 

一緒に遊ぶ約束をしていても、

 

「今日はここまでにしよう」

 

で終わる。

 

相手が早く落ちても、

 

「またね」

 

で終わる。

 

でも、固定になると少し違う。

 

毎週会う。

 

同じメンバーで遊ぶ。

 

来週も会うことが前提になる。

 

だからこそ、少しずつ相手のことが気になってくる。

 

今日、なんで静かなんだろう。

 

いつもより元気がないな。

 

あの人、あんなこと言うんだ。

 

この人って、普段はどんな人なんだろう。

 

知りたい。

 

でも、聞いていいのか分からない。

 

そんな小さな迷いが、ミナの中にあった。

 


 

その日の固定が終わったあと。

 

ミナは一人で街を歩いていた。

 

少しして、フレンドからTellが届く。

 

『今からちょっと遊ばない?』

 

ミナは画面を見つめた。

 

固定は終わった。

 

だから、遊べないわけじゃない。

 

でも今日は少し疲れていた。

 

それでも、断る理由もない。

 

『ちょっとだけなら』

 

そう返した。

 

少しして合流する。

 

いつもの友達と、いつもの遊び方。

 

何も変わらない。

 

「最近、固定どう?」

 

友達に聞かれて、

 

「うん、楽しいよ」

 

と答える。

 

「へえ。どんな人たち?」

 

「えっと……」

 

ミナは少し考えた。

 

八人の顔を思い浮かべる。

 

アンディ。

 

クラゲ。

 

リリ。

 

カイ。

 

レオン。

 

ポム。

 

オルカ。

 

そして自分。

 

まだ、うまく説明できなかった。

 

「なんかね、みんな違うんだけど……いい人たち」

 

そう言ってから、自分で少し笑った。

 

まだ二週間しか経っていないのに。

 

「いい人たち」なんて。

 

ちょっと気が早いかもしれない。

 


 

翌週。

 

集合すると、ポムが開口一番、

 

「聞いて! 昨日めちゃくちゃ恥ずかしいことした!」

 

と言った。

 

「何したの?」

 

リリが笑う。

 

「フレンドと遊んでて、思いっきり寝落ちしたw」

 

「それはいつものことじゃない?」

 

カイが言う。

 

「いつものことじゃないよ!」

 

「前も寝落ちしてた」

 

「……してたけど!」

 

みんなが笑う。

 

その瞬間、ミナは少しだけ安心した。

 

こういう話をしていいんだ。

 

失敗した話をしてもいい。

 

くだらない話をしてもいい。

 

攻略の話じゃなくてもいい。

 

少しずつ、そんなことが分かってくる。

 

けれど。

 

分かってくるほど、別のことも気になった。

 

「この人には、ここまで話していい」

 

「この話はまだ早いかも」

 

「これは聞かないほうがいいかな」

 

距離が近づくと、境界線も見えてくる。

 

そして、その境界線は人によって違う。

 

ミナはそれに気づき始めていた。

 

クラゲは何を聞いてもあまり気にしなさそう。

 

リリは聞かれれば答えるけれど、自分からはあまり話さない。

 

カイはゲームのことならいくらでも話す。

 

レオンは必要なことはきちんと話すけれど、私生活についてはあまり触れない。

 

ポムは何でも話しているようで、実は自分のことになると少しだけ笑ってごまかす。

 

オルカはみんなの話を聞くのが上手い。

 

アンディは、八人全体を見ている。

 

そんなことが、少しずつ分かってきた。

 


 

「ミナってさ」

 

ある日の固定前。

 

クラゲが言った。

 

「ん?」

 

「最近、前より喋るようになったよね」

 

「そう?」

 

「うん」

 

ミナは少し考えた。

 

「……みんなが喋ってくれるからじゃない?」

 

「そうかもね」

 

クラゲは、それ以上何も言わなかった。

 

でも、その一言が少し嬉しかった。

 

自分のことを見てくれている人がいる。

 

そんな気がした。

 

固定が始まってから生まれた感情は、まだ名前をつけられるほど大きくない。

 

楽しい。

 

嬉しい。

 

ちょっと気になる。

 

もっと知りたい。

 

嫌われたくない。

 

迷惑をかけたくない。

 

この人たちと、うまくやっていきたい。

 

そして時々、

 

どこまで近づいていいんだろう。

 

そんなことを考える。

 

固定というのは、不思議な場所だった。

 

友達とも違う。

 

ただのフレンドとも少し違う。

 

毎週会うから、確かに近い。

 

でも、まだお互いのことを全部知っているわけじゃない。

 

その曖昧な距離の中で、八人は少しずつ相手を知っていった。

 


 

その夜。

 

解散する直前に、アンディが言った。

 

「じゃあ、また来週」

 

「うん」

 

「またねー」

 

「お疲れさま」

 

いつもの挨拶。

 

それぞれがVCから抜けていく。

 

ミナもログアウトしようとして、ふとフレンド欄を見た。

 

八人の名前が並んでいる。

 

まだ始まったばかり。

 

これから、もっといろんなことを知っていくんだろう。

 

楽しいことも。

 

嫌なことも。

 

知らなくてもよかったことも。

 

それでも今は。

 

この人たちとなら、もう少し一緒に遊んでみたい。

 

そんな気持ちがあった。

 

「……このメンバーなら、大丈夫かな」

 

誰に聞かせるでもなく、ミナが呟く。

 

その言葉が、いつか自分の中で違う意味を持つことを。

 

このときのミナは、まだ知らなかった。

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